ザ・ウォーク(2015年アメリカ)

The Walk

本作のタイトルから、僕はまたてっきり...
ウォーキングを趣味にした人を描いた映画なのかと思っていたら、大道芸人の映画だったのか・・・。

ハリウッドを代表する名匠ロバート・ゼメキスが、
フランス人の大道芸人で、74年に完成したばかりのワールド・トレード・センターのビルディングの
最短距離で約45m離れた北棟と南棟の屋上同士を結んで、綱渡りをしたフィリップ・プティの
自伝的小説を原作として、時にスリリングに、時にユーモラスに描いたヒューマン・ドラマ。

まぁ・・・僕は高所は苦手なので、この主人公のチャレンジ精神は凄いとは思うけど、
何で命の危険を冒してまでも、2棟の超高層ビルの屋上を綱渡りしたいなんて思ったのか、
その理由がサッパリよく理解できなんだけど、それでもこれが偉業で歴史に残るインパクトがあるのは分かる。

おそらく当時の人々は驚いたであろうし、
当時はニューヨークの市街地で数多く人が、フィリップ・プティが綱渡りしているシーンを
LIVEで目撃しているわけですから、それは腰抜かすほどビックリしたでしょうねぇ(笑)。

でもですね、個人的にはこの映画の終盤の展開はノレなかった・・・。

ロバート・ゼメキスお得意の視覚効果技術を駆使して、
ワールド・トレード・センター間の空中散歩を実に美しく、それでいて手に汗握る映像に仕上げている。
僕はもう、観ていられないぐらい(笑)、手に汗握るような臨場感ある映像表現でビックリしました。
劇場公開当時、一部で3D上映されたらしいので、おそらく立体感、奥行き感がもっと生きていたのでしょう。

ただ、主人公が座り込んだり、綱の上で寝てみたり、ファンタジーと割り切ればいいのかもしれませんが、
僕にはどうしても、フィリップ・プティのチャレンジの本質から反れたパフォーマンスに作り手の表現が及んでしまい、。
本来的にはもっと他に描くべきことがあったのではないかと、気になって気になって仕方がありませんでした。

そんなワールド・トレード・センターも、01年の世界同時多発テロで、
飛行機がビルに突っ込み、最終的にビルは双方、崩落してしまい、なんだか懐かしくも見える。
私はフィリップ・プティが綱渡りした事実をリアルタイムで知っているわけではありませんが、
最近ではビルの壁をよじ登る“スパイダーマン”とかが、たまにニュースになりますので、
お騒がせな命知らずのパフォーマンスということのパイオニアが、このフィリップ・プティということなのかもしれません。
(なんと彼の逮捕歴は各国で総計500回を超えているとか!)

実際、この映画を観て、クライマックスのハイライトで
綱渡りの途中で警察が来たから後戻りしたり、座り込んだり、寝てみたりするのは、
劇中、「なんか誇張表現で引くなぁ〜」なんて映画を観ていて思ったけど、それは僕が無知なだけで、
これらはフィリップ・プティが実際にやっていた行動だというから、余計にビックリさせられました。

やはり、そういう意味では、高所恐怖症な自分には理解できないが・・・(笑)
彼の用意周到な準備に対するこだわりの強さと、それを地道に実行できる重層的な努力、
そして、いざ本番となったときの実行力と、一歩踏み出す勇気に大胆な発想力、これらが全てを凌駕するんですねぇ。

本作でもそれはしっかり描けていて、フィリップ・プティを演じるジョセフ・ゴードン=レビットも
フランス語自体は勿論のこと、フランス語訛りの英語も駆使する熱演ぶりで、この役作りは称賛に値する。
これまで正直言って、あまり注目していなかったけど、子役時代から活躍している息の長い役者さんなんですね。

僕はこの映画、かなり勿体ないなぁと感じるのは、映画に起伏が少ないところ。
もう少し抑揚をハッキリさせて、映画にメリハリをつけた方がクライマックスの彼のチャレンジも映えたのに。

その起伏という意味では、ホントはこの映画の見せ場の一つは
フィリップ・プティが用意周到にチャレンジの準備を重ねていくところなはずで、
特にチャレンジの成功は、綱の結び方にある点にキチッと注目して描いているあたりには好感が持てる。
この辺はフィリップ・プティ本人が映画製作に全面的に協力していることも、大きく影響しているでしょうねぇ。

主演のジョセフ・ゴードン=レビットもフィリップ・プティ本人から、
綱渡りの特訓を受けたそうで、それとなく綱渡りのプロに見えるように習熟していったそうだ。
この点でも、作り手にとってはフィリップ・プティ本人の協力を取り付けたことは、とても大きかった。

そもそも71年にノートルダム大聖堂で綱渡りチャレンジに成功するなど、
本作で描かれたワールド・トレード・センターの2棟間綱渡りにチャレンジした時点で、
そこそこの有名人ではあったように思えるのですが、いとも簡単に建設中のビルに忍び込んで、
機材を持ち込んでチャレンジを敢行できるようになったのかが、もう少ししっかり描いて欲しかったのですが、
ロバート・ゼメキスは3D映画にすることも目的の一つであったようなので、あまり興味は無かったのだろう。

でも、仮に3D映画にすることに意義を見い出すなら、
逆にここまでチャレンジするまでの“前談”に時間を割かずに、チャレンジ本番をもっとしっかり描くべきでしょう。

個人的にはクライマックスのワールド・トレード・センターでのチャレンジが
思いのほか、アッサリと描かれ過ぎているような感じで拍子抜けだ。時間配分もハッキリ言って、短い。
思い切って、映画の大半をチャレンジの準備と本番を描くことにフォーカスして、手に汗握る3D映像で
たっぷりと描いた方が、きっとロバート・ゼメキスのやりたいことはピンポイントで表現できたのではないかと思う。

そう思う理由は、フィリップ・プティが師匠というベン・キングズレー演じる
パパ・ルディが言っていた、「綱渡りする人間が命を落とすのは、大抵が最後の3歩だ」という言葉。

これはおそらくフィリップ・プティが多くの綱渡りを経験しながら、
この言葉の本質を実感してきたことなのだろうと思う。だからこそ、ここは映画としてフォーカスすべきだった。
ワールド・トレード・センターのチャレンジ本番では、申し訳なさげ程度にしか、この言葉には触れていない。
でも、この“最後の3歩”の難しさは、僕はもっともっと深い深遠なテーマであるべきものと思う。

だからこそ、“最後の3歩”について映画として肉薄することが無かったのが実に残念。
いっそのこと、3D映画なんて欲目は振らずに、綱渡りの職人肌に触れる映画にすれば良かったのに・・・と思います。

それにしても、メニエール病になって三半規管が弱い自分には考えられないことだけど、
フィリップ・プティのように優れたバランス感覚と、強い精神力が羨ましく思える、そんな一作でした。

(上映時間122分)

私の採点★★★★★★☆☆☆☆〜6点

監督 ロバート・ゼメキス
製作 スティーブ・スターキー
   ロバート・ゼメキス
   ジャック・ラプケ
原作 フィリップ・プティ
脚本 ロバート・ゼメキス
   クリストファー・ブラウン
撮影 ダリウス・ウォルスキー
編集 ジェレマイア・オドリスコル
音楽 アラン・シルベストリ
出演 ジョセフ・ゴードン=レビット
   ベン・キングズレー
   シャルロット・ル・ボン
   ジェームズ・バッジ・デール
   ベン・シュワルツ
   クレマン・シボニー
   スティーブ・バレンタイン