評決(1982年アメリカ)

The Verdict

かつて巻き添い的に法律事務所をクビになり、
何とか除名処分を免れたアルコール依存症の初老弁護士が担当した、
とある医療ミスによる事故の裁判を巡り、自身の誇りを取り戻すために働く姿を描いた法廷サスペンス。

かつて、この映画はポール・ニューマンにアカデミー賞を獲らせるために
企画された映画だのと、揶揄的に後指を指されていた傾向もありましたが、
70年代に復調した社会派監督シドニー・ルメットの堅実な演出もあってか、映画の出来は悪くないです。

しかしながら、敢えて最初に苦言を呈しておきたい。

この映画の主人公である、アル中の弁護士ギャルビンはどこまで行っても、ロクデナシだ。
申し訳ないが、彼が如何に頑張っても、“マグレ”を期待するしかない状況なために、
現実にこんな弁護士がいるのであれば、それは仕事を依頼しない方がずっと賢明だ。

彼の過去については、あまり深く言及されておりませんが、
幾つかの不運が重なり、アルコール依存症になったことは多少の同情の余地はあるかもしれませんが、
お世辞にも仕事ができる弁護士とは言えず、そういう意味では映画の結末にイマイチ、説得力はない。

が、そこはシドニー・ルメットも考えて撮ったせいか、
さすがに映画がメチャクチャになることはなく、上手い具合に映画の醍醐味は出せていると思う。

このギャルビンという男はトンデモない弁護士だ。
まるでスケジュール管理はできていないし、朝まで飲んだくれたおかげで、依頼人との約束には遅刻。
その後のアフターケアも行き届かず、依頼人とは最初に話したっきりで、一切の連絡もしていない。
オマケに依頼人の意向も聞かず、勝手に被告側の示談要請を断るなんて、逆に告訴されかねない暴挙だ。

ですから、あくまで法曹界に詳しい人にはオススメできません。

ただ、この映画の賢かったところは、必要最小限の演出に留め、
ギャルビンのありのままの姿をさらけ出すように描けたという点ですね。
従って、映画にただの法廷サスペンスの枠組みを超えた魅力というのを、出すことに成功したと思います。

また、定番とも言えますが、アテにしていた証人が行方をくらますという、
ギャルビンの大失態があって、裁判の形勢が一気に不利になってしまう流れも悪くない。

今回のシドニー・ルメットは例えば、76年の『ネットワーク』のように故意的に
過剰に映画を装飾して、意図的に大袈裟に見せることによって不条理さを演出するわけではなく、
あくまで堅実に、そして慎重に描くアプローチに徹しており、僕はひじょうに誠実な映画作りだと思いますね。
この時期のシドニー・ルメットとしては、極めて珍しいほどに落ち着いた映画に仕上がっています。

映画賞レースには華々しく参加したみたいですが、
いずれもノミネート止まりで受賞には至らず、ほとんど『ガンジー』に力負けしてしまいました。

まぁ確かに...本作でのポール・ニューマンは驚くほどの芝居というほどではないかな。
悪くはないけど、彼ぐらいの名優であれば、簡単にやってのけそうなレヴェルと言っては厳し過ぎるだろうか?
(まさかこの後、『ハスラー2』でアカデミー賞を受賞するとは彼自身も思ってもいなかっただろうけど・・・)

おそらく彼よりも、一際、存在感があったのは謎の女性を演じたシャーロット・ランプリングだろう。
まぁこの時期の彼女は、どんな内容の映画に出演していても目立った存在になっているのですが(笑)、
本作でもポジションが不明瞭、そしてどこかに“陰”を感じさせるシルエットを作り上げ、
ときに鋭い眼光で強い存在感をアピールするなど、映画の大きなアクセントとなりうる存在でしたね。

医療ミスというのは、21世紀に入って久しい今尚、絶えない類いの事故ではありますが、
少なくともギャルビンのようなチェックの甘い弁証では、勝ち抜けるほど甘くはないだろう(笑)。
さすがに「カルテぐらい、キチッとチェックして、ある程度、理解できるようになっとけよ!」とは思うのだが、
今では医療ミスを専門に扱う弁護士事務所もあるぐらいですから、かつては存在しなかった、
医療事故について専門的に研究するという領域も、ニーズに応じて発生し、今尚、発展しております。
そういう意味では、一見、古臭く見える法曹界も、未だ進化し続けているんですよね。

まぁこの映画の強さと言えば、前述したように主人公のありのままの姿を克明に描けたことだろう。
仕事はずさん、朝までピンボール、朝飯は卵入りのビール、当然、酔っ払ったままの出廷は当たり前。

しかし、そんな彼でも印象的なシーンが一つあって...
植物状態にされた被害者の写真を撮っていたところ、次第に正義を悟り、
気づけば放心状態になってしまうシーンがあるのですが、これは結構なインパクトがありましたね。

やっぱりこういうシーンを作り出せたことに、この映画は価値があったと思う。

シドニー・ルメットは80年代以降、パッとした作品を発表できておりませんが、
本作はそこそこ完成度の高い作品と言ってもいいのではないかと思います。
これで、ラストの結末にもっと説得力があれば、映画は傑作と言えたかもしれないのになぁ〜。

(上映時間128分)

私の採点★★★★★★★★★☆〜9点

監督 シドニー・ルメット
製作 リチャード・D・ザナック
    デビッド・ブラウン
原作 バリー・リード
脚本 デビッド・マメット
撮影 アンジェイ・バートコウィアク
音楽 ジョニー・マンデル
出演 ポール・ニューマン
    シャーロット・ランプリング
    ジェームズ・メーソン
    ジャック・ウォーデン
    ミロ・オーシャ
    エド・ビンズ
    リンゼー・クローズ
    ロクサーヌ・ハート

1982年度アカデミー作品賞 ノミネート
1982年度アカデミー主演男優賞(ポール・ニューマン) ノミネート
1982年度アカデミー助演男優賞(ジャック・ウォーデン) ノミネート
1982年度アカデミー監督賞(シドニー・ルメット) ノミネート
1982年度アカデミー脚色賞(デビッド・マメット) ノミネート