アンタッチャブル(1987年アメリカ)

The Untouchables

1930年代の禁酒法下のアメリカで、
「暗黒街の顔役」と言われ、裏社会で治外法権な存在として暗躍したアル・カポネをなんとかして検挙し、
社会から排除しようと立ち上がった財務省捜査官エリオット・ネス率いるチームの活躍を描いたアクション映画。

当時はそこそこヒットし、ケビン・コスナーの出世作となった作品なのですが、
当時ベテラン俳優して再評価されつつあったショーン・コネリーの円熟味溢れる好演、
そして頭髪を剃り、顔だけを太らせてアル・カポネ役にチャレンジしたデ・ニーロの脅威の芝居が
大きな話題となり、ケビン・コスナーやアンディ・ガルシアにとっては幸運に恵まれた作品となりました。

一方でキャスティングに随分と予算をとられたデ・パルマが、
ホントにこの映画で彼が描きたかったこと全て、演出的アプローチが満足にできたかは疑問で、
熱心なデ・パルマのファンにとっては、どこか物足りない仕上がりになっていることは否めない。

そのせいか、今となっては映画の評価が決して良いとは言えないようで、
どこか存在感の薄い映画になってしまっているのですが、個人的にはこれは嫌いになれない作品だ。

かの有名な映画の終盤にある、シカゴの駅の階段でのガン・アクションにいたっては、
映画の製作費が多くキャスティングにとられてしまったせいか、ホントは列車を使った大規模なアクションを
予定していたらしいのですが、予算が底をつきて「オデッサの階段」を再現するかのように、
階段で乳母車を使ったガン・アクションへの変更を余儀なくされたという経緯があるらしい。

しかし、本作を観ると、83年の『スカーフェイス』なんかもそうなのですが、
デ・パルマはどこか見せかけの贅沢を好むようで、大邸宅やホテルのリッチな空間を
階下から見上げるようにカメラで捉えるのが好きなようで、そこで血みどろのアクションで汚しまくるという、
ある意味で下品な発想が、如何にもデ・パルマらしい発想で個人的にはニヤリとさせられるシーン演出なんだなぁ。

そして、極めつけはエンニオ・モリコーネの緊張感溢れるミュージック・スコア。
これは日本でも報道番組とかでも、たまに使われているだけあって、インパクトのある有名な曲ですが、
何度本作を観ても、映画の冒頭でこの音楽がかかると、一気に画面が引き締まるだけの力がある。

ただ、全体としてデ・パルマも豪華キャスト、エンニオ・モリコーネの傑作な音楽、
禁酒法下の暗黒街の美的感覚など、“見せかけのリッチさ”に依存してしまった感がある。これが批判される原因だろう。

良い意味でもデ・パルマらしさはあると思うし、悪い意味でデ・パルマらしい癖もあって、
やはり映画が一見すると品格を重視したかのような作りでいながら、なかなか一流の風格を定着させることができず、
相変わらずデ・パルマの狙いがどこにあったのか、よく分からない映画の仕上がりに翻弄されるというイメージ。

まぁ、チャールズ・マーチン・スミス演じるエリオットのチームで帳簿を中心に調べる捜査官が
エレベーターでトンデモないことになってしまうシーンにしても、カポネが裏切り者を会食の席で
大勢のギャングを目の前にして、野球のバットで撲殺するショッキングさにしても、良くも悪くもデ・パルマらしい。
どこか直接的な表現を過剰に描くことによって、デ・パルマらしい映像になるのだけれども、同時に映画が安っぽくなる。

たぶん、デ・パルマ本人に言わせれば、「映画が安っぽくなって、何が悪い!」と憤慨するだろうが(笑)、
同時に“見せかけのリッチさ”を視覚的に表現しながら、やたらと血みどろの闘いを描いていながら、
デ・パルマは「こういうの最高!」とニヤニヤしながら演出しているような気がしてならないんですね(笑)。

でも、僕はこれでこそデ・パルマの映画だと思う。ナンダカンダで、みんなこういうのを期待してるはず(笑)。

前述したように、本作でブレイクしたケビン・コスナーは一気にトップスターへと駆け上がっていきます。
本作とほぼ同時期に出演していた『追いつめられて』と、続く彼の大好きな野球を題材にした『さよならゲーム』で
甘いマスクを活かした魅力がウケ、日本でも大人気となりました。今となっては、信じられない人気ぶりです。
91年の『ダンス・ウィズ・ウルブズ』でオスカーを総なめにしたことで、ハリウッドでも頂点を極める形となりますが、
日本でもこの時期の人気を頂点として、90年代後半には逆に一気に下降線を辿ってしまった印象がありますね。

スターダムを駆け上がるキッカケを作ったのが本作であっただけに、
僅か5年あまりの年月で一気にハリウッドで頂点へと上り詰めたというのは、
如何に当時のケビン・コスナーの勢いが凄まじいものであったかを物語る証拠ですね。

デ・パルマもそこまでの可能性を見出していたのかまでは甚だ疑問ではありますが、
ケビン・コスナーの視点から言うと、本作への出演がなければ、この後の快進撃は無かったでしょうね。
そういう意味でも、本作は大きな意味合いを持つ、彼にとってのターニング・ポイントであったのでしょう。
そう思って観ると、本作の価値というのは実は大きなものではないかと思える要素があるんですよね。

それと似たような観点でもありますが、本作でオスカーを獲得したショーン・コネリーにしても同様です。

彼もまた、かつてのジェームズ・ボンドのイメージが先行して、俳優としての新たな境地を探していたはずです。
“007”の残像が残り、ベテラン俳優としての活躍の場が奪われていたのは否めず、本作で一歩引いた場所から、
主演のケビン・コスナーを文字通り“助演”したことが高く評価され、一気に円熟味ある俳優としての道が開けました。

やっぱり、デ・パルマの本作で築いた境地というのは、とても影響力が大きかったのでしょうねぇ。
これはなかなかできる仕事ではないはずです。そういう観点からは、もっと評価されてもいいような気がします。

ちなみにアル・カポネの側近で冷酷な殺し屋フランク・ニッティは映画のクライマックスで
エリオットと直接対決することになりますが、ここは完全なフィクションで実際は当時、脱税容疑で逮捕され、
1年間服役しており、退所後はカポネが服役していたためカポネ一味を指揮していたようですが、
なかなか上手くいかず、複数のイザコザに巻き込まれた挙句、1943年に自殺してしまったようです。

ニッティがあまりに都合良く“仕事”している点はご都合主義という感じがしますが、
確かに本作でのビリー・ドラゴを観ていると、トントン拍子で片づけられそうな気がしてしまうから不思議だ(笑)。
それくらいに本作のビリー・ドラゴの芝居には大きなインパクトがあり、彼の代表作と言えるでしょう。

熱心なデ・パルマのファンであれば、妙にエンターテイメント性高く、
どこかイージーに撮った映画であるようにも見えるため、そこまで高くは評価されないのだろうけど、
個人的にはこういうミーハーな部分も含めてデ・パルマらしさと思っているせいか、すんなり受け入れられました。

どうでもいい話しですが...ケビン・コスナーとアンディ・ガルシア、
実は1歳しか実年齢が違わないのですが、本作を観ると、役柄のせいもありますがもっと離れているように見える・・・。

(上映時間119分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 ブライアン・デ・パルマ
製作 アート・リンソン
原作 オスカー・フレイリー
脚本 デビッド・マメット
撮影 スティーブン・H・ブラム
編集 ジェリー・グリーンバーグ
音楽 エンニオ・モリコーネ
出演 ケビン・コスナー
   ショーン・コネリー
   ロバート・デ・ニーロ
   アンディ・ガルシア
   チャールズ・マーチン・スミス
   ビリー・ドラゴ
   リチャード・ブラッドフォード
   パトリシア・クラークソン

1987年度アカデミー助演男優賞(ショーン・コネリー) 受賞
1987年度アカデミー作曲賞(エンニオ・モリコーネ) ノミネート
1987年度アカデミー美術賞 ノミネート
1987年度アカデミー衣装デザイン賞 ノミネート