アンタッチャブル(1987年アメリカ)

The Untouchables

1930年代の禁酒法下で君臨した伝説のギャング、アル・カポネがやりたい放題やっていることを
一斉検挙しようとエリオット・ネスをリーダーとして結成された特別捜査チームの活躍を描いたアクション映画。

興行的にはそこそこ成功した作品で、ケビン・コスナーがスターダムを駆け上がるキッカケとなり、
根強い人気がある作品ではありますけど、デ・パルマのファンからするとどことなく不評な作品かと思います。

まぁ、僕はそこそこ面白かったですけどね。どことなくクラシック・スタイルな演出でデ・パルマっぽさはないけど、
敢えてオーソドックスに撮ることでオールスター・キャストのアンサンブルを邪念なく、楽しめる作りになっていると思う。
若き野心溢れるエリオットに協力するベテラン警察官を演じたショーン・コネリーも新たな境地を開く好演になりましたし、
ヘマをしたギャング仲間を突如として、躊躇なく野球の木製バットで撲殺するカポネの狂気をデ・ニーロが見事に表現。
(ちなみにアンディ・ガルシアが若造のように描かれますが、実はケビン・コスナーより1歳若いだけ・・・)

エンニオ・モリコーネの音楽もソリッドでカッコ良く、本作の大きな“武器”にはなっていると思います。

まぁ、これだけの豪華キャストに凄腕スタッフを集めた企画だったわけですから、
結果的にデ・パルマのこれ見よがしな個性はいらなかったのでしょう。この辺は賛否が分かれるところになるだろう。
とは言え、映画の終盤にあったような法廷に短銃を持ち込んでいたカポネの部下を目撃したエリオットが連れ出し、
警備を銃撃して逃亡したこの部下を屋上に追い詰めていくシーンなどは、どことなくデ・パルマっぽさが垣間見れた。

このカポネの部下は実在の殺し屋フランク・ニッティであり、演じたビリー・ドラゴがインパクト絶大ですね。
裁判所の屋上でエリオットと対決することになりますが、実際のニッティはカポネと同様に脱税容疑で逮捕され、
1年間の服役を余儀なくされ、出所後はカポネが服役中だったため組織を率いることになったらしいのですが、
複数のトラブルを抱えることになり組織の運営は上手くいかず、1943年に自殺するに至ってしまったらしいのです。

技巧に走らないデ・パルマは当時としては珍しく、こういうエンターテイメント路線に走り始めたことから、
90年代のデ・パルマの迷走が始まってしまったようにも思うけど、本作くらいの塩梅ならば僕はOKかなと思います。

本作のハイライトでもある、映画の後半にある“オデッサの階段”をモチーフにしたような、
カポネの手配で高飛びさせようとさせられていた、カポネの帳簿係の身柄を拘束するためにと駅で待ち伏せしたものの、
たまたま通りかかったベビーカーを引っ張る母親をエリオットが手助けしようとするシーンも、やや冗長ではありますが、
アンディ・ガルシア演じる若い捜査官も加わって、銃撃戦になる様子をスローモーションで濃厚に表現しようとします。

そもそも、わざわざ長い階段を無理矢理、女性一人の手で引っ張り上げようとする発想自体がスゴいのですが、
あのシーンを描きたいがための行動って感じがして、いくら1930年代という時代設定だとは言え、なんだか笑える。

この階段でのシーンはやり過ぎな感じではありましたけど、敢えてコッテリと見せたいデ・パルマらしい演出。
これまでのデ・パルマの監督作品にはよくあった、後ろ髪引かれるような未練たっぷりな後味はほぼ無くって、
本作はデビッド・マメットの脚本のせいもあってか、いわゆる勧善懲悪。カポネがやられるという帰結を見せている。

まぁ、警察内部までをも収賄で牛耳る人脈と財力のあったカポネですから、
ホントにこの程度でへこたれていたのかは分かりませんが、腐敗した組織と悪は退場を命じられるという典型で、
何か個性を残したがる傾向のあるデ・パルマですが、本作はそういった彼のカラーを抑えているのが印象的ですね。

映画の冒頭にカポネが専属の理容師に髭を剃ってもらうシーンがあって、
記者たちが疑惑深まるカポネを取材しているのですが、マスコミ対応にも秀でていたカポネが髭剃りながらも、
顔を動かすものだから、理容師もやりづらそうにしていて、カミソリで切ってしまうのですが、この緊張感が素晴らしい。
暴力的な顔剃りシーンと言えば、88年の『ミシシッピー・バーニング』が思い出されますが本作もなかなか忘れ難い。

デ・パルマと言えば、若干、映画が安っぽくなるような部分があるのですが、
本作はどちらかと言えば、ゴージャスでオールドスタイルでどちらかと言えば、格調高い仕上がりの作品でした。

まぁ、そういったデ・パルマの持ち味が無かったがためにファンからすれば物足りなさがあるのは分かりますけど、
製作費のほとんどがキャストのギャラに行ってしまったようで、当初、予定していた銃撃戦が撮れなかったらしい。
そのせいで“オデッサの階段”をモチーフにした銃撃戦が描かれたようですが、結果的にはこれで正解だったのだろう。

ショーン・コネリー演じるパトロール警官に転じていたマローンの存在はシブくてカッコ良いですね。
エリオットという正義感の強い捜査官がいることを知り、一人エリオットに協力を申し出て、彼のチームに加わります。
もともと警察組織の腐敗を知っていたのか、強引な方法でエリオットを導いていきますが、警察署長との関係もアツい。
おそらく古い仲間ということもありますが、カポネに近づきつつあるマローンを咎めますが、マローンは強く反発する。

結局は警察のトップが、部下たちにカポネの息をかけて、警察署内にカポネの手下が出入りするのを黙認する。
これだからカポネは「暗黒街の顔役」として君臨するわけで、一向に不正が浄化されることは現実に起こり得ません。

この実態を長年マローンは見てきたからこそ、根深い問題であることを認識していたのだろうし、
警察内部の腐敗があるからこそ、エリオットのように熱い想いで取り組める仲間がいないと難しいと思っていたのだろう。
しかし、もう彼自身が自覚しているようにマローンは年老いていた。そこまで我慢して、ようやっと結成できたチームで
誇らしげに決起集会を行って、新聞記者にその様子を写真に撮らせるシーンは印象に残る、なかなか良いシーンだ。

半ば名誉賞的な意味合いもあったのかもしれないけど、本作でショーン・コネリーがオスカー獲得したのは理解できる。

ただ、それが良いって言われるのかもしれないけど...中盤の酒の取引を摘発しに遠征するシーンが、
妙に西部劇っぽい演出をしてきていて、これが違和感いっぱいでウザったい。デ・パルマが何を狙っていたのか、
僕にはよく分からなかったのだけれども、もっと普通に描いて欲しかった。全員がライフル持っているというのも変。

弾丸で樽に穴が空いたおかげで、醸造酒が樽から漏れているのをチャールズ・マーチン・スミスが
銃撃戦の後で誇らしげな表情で佇んでいる中、コッソリと酒を口に含むというのは良いけど、それ以外は今一つ。
馬に乗って、全員で出撃するショットなんか、悪い意味で“浮いて”いるようにしか見えず、もっと考えて欲しかったなぁ。

後々、カポネを登場させた映画も何本か製作されたので詳しくはそちらで観ればいいのかもしれないけど、
もう一つ欲を言うなら...せっかくのデ・ニーロがカポネの狂気的側面を表現しているだけに、もっと姑息な悪党として
入念に描いていた方が、クライマックスの法廷でのエリオットの決めゼリフも、もっとキマったのだろうと思えてならない。
映画の中でも少しずつ描かれてはいますが、カポネは警察内部にまで自分の息のかかった状態にしていたわけで、
相当に細かく工作活動を展開していたのだろうから、もっとカポネの悪事を描いていたらラストの痛快さは増しただろう。
(本作では映画の冒頭から、カポネが巨悪の大ボスであることを前提としているのでね・・・)

とは言え、本作はデ・パルマの職人気質な部分とサービス精神を発揮したエンターテイメント路線が
良い意味で融合した作品として評価されて然るべき作品だと思う。従来のデ・パルマの魅力を求められるとツラいけど。

それぞれのエピソードも程よい塩梅で配分されており、上映時間も丁度良いですしね。
但し、抜群に良いという感じでもなく普通に面白い映画というレヴェルかと。この突き抜けるものがないというのが、
古くからのデ・パルマの熱心なファンからすれば物足りないところだろう。そういう意見も分かるような気がしますね。

そういう意味では、ヒッチコックのマニアであるかのような微妙な立場の映画監督だったデ・パルマが、
転換期を迎えていたと自覚してたのではないかと思えますし、実際にデ・パルマの演出スタイルも変わっていきます。

前述したように、カポネが撲殺するシーンなど所々に残酷なシーンがあって、
映画の冒頭もギャングの抗争に子供が巻き込まれるというショッキングな始まりではあるのですが、
一方でエリオットの家族をニッティらが襲撃しに来るようなニュアンスはあるものの、ここは中途半端に終わっている。
そりゃ、平穏なストーリー展開でいけないわけではないし、実際に脅迫だけで手出しはなかったのかもしれないけど、
ここはエリオットにとっても身の回りに危険が迫る緊張感はもっとあっても良かったと思うし、どこか弱かったかなぁ。

この辺はデ・パルマも多少なりとも脚色をしてでも、もっとスリラーに徹しても良かったのではないかと思った。
マローンがニッティらに狙われるシーンで表現しようとしたのかもしれないけど、もっと真に迫った恐怖が欲しかった。
この辺がもっとしっかりと表現できていれば、僕の中で本作はもっと良い印象で終われたのかもしれない・・・。

(上映時間119分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 ブライアン・デ・パルマ
製作 アート・リンソン
原作 オスカー・フレイリー
脚本 デビッド・マメット
撮影 スティーブン・H・ブラム
編集 ジェリー・グリーンバーグ
音楽 エンニオ・モリコーネ
出演 ケビン・コスナー
   ショーン・コネリー
   ロバート・デ・ニーロ
   アンディ・ガルシア
   チャールズ・マーチン・スミス
   ビリー・ドラゴ
   リチャード・ブラッドフォード
   パトリシア・クラークソン

1987年度アカデミー助演男優賞(ショーン・コネリー) 受賞
1987年度アカデミー作曲賞(エンニオ・モリコーネ) ノミネート
1987年度アカデミー美術賞 ノミネート
1987年度アカデミー衣装デザイン賞 ノミネート