ツリー・オブ・ライフ(2011年アメリカ)

The Tree Of Life

おそらくハリウッド一の寡作な映画監督であるのがテレンス・マリック。

彼はなんせ、73年の『地獄の逃避行』(日本劇場未公開作)というアメリカン・ニューシネマの異端のような
作品を撮ってチョットした話題となり、78年にリチャード・ギア主演で『天国の日々』で圧倒的なまでの
映像美が絶賛され、一気にハリウッドでも売れっ子映像作家となる・・・はずでした(苦笑)。

そんなテレンス・マリックが『天国の日々』の次に映画を撮る気になったのは、
なんと20年後の98年。周囲も諦めかけていたところで、突如としてカムバックしてきたのです。

それでもやはり順調に映画を撮るわけでもなく、次の『ニュー・ワールド』を発表するのにも6年かかった。
そして、次は本作。テレンス・マリックは初監督作品から約40年かけて、やっと5本目の監督作品になりました。

で、本作はと言うと、ショーン・ペンにブラッド・ピットの共演との話題性もあって、
カンヌ国際映画祭でグランプリ(パルム・ドール)を獲得するなど、評論家筋にも高い評価を受けました。
しかし、いざ劇場公開されると、かなり宗教的な内容かつ難解な内容で、一般客の評価は芳しくありませんでした。

往々にして、僕はヒネくれ者だから(笑)、そういう映画にこそ「面白かった!」なんて、
絶賛しちゃう嫌な奴だと自認していたのですが、正直に白状すると、そんな僕でも本作はキツかった・・・(笑)。

いやはや、これはいくらなんでも難解過ぎるよ。もっとシンプルに撮って欲しい。
CGをふんだんに使った映像にしたって、今更、こんな程度で驚かされるレヴェルではないし、
一つ一つの使い方にしても、そこまで効果的なCGの使い方とは思えず、どう観ても楽しめる代物ではなかった。

いや...そこまで酷評してしまうと、本作が気に入った人に申し訳ないし、
まぁ映画の中盤なんかは、主人公の幼少期のドラマはそこそこ見どころがあって、魅力はある映画なんです。
前述したショーン・ペンとブラッド・ピットの共演には、同一シーンでの共演は一切ないので期待しない方がいいが、
意固地になって理不尽に息子たちに接する父親を演じたブラッド・ピットの一貫性には感心させられた。

ただ、少なくとも...本作の中ではテレンス・マリックの映像マジックは発揮されていない。
どこかありきたりなCGの使い方、恐竜のような生物が川辺を走るシーンなんかを観ていて思ったのですが、
どことなく遠近感が合わないというか、不自然な感じが残ってしまい、どうも個人的な印象は良くない。
この程度ならば、もっと出来の良いCGを施した映画は、他にもたくさんあるだろうし、驚く出来とは言えない。

だからこそ、映画の最初と最後の構成として、
ここまでCG映像処理に執拗にこだわったというのは、作り手として大きなミステイクだったと思うのです。
もっと違ったアプローチを考えて欲しかったし、もっと大事に映画を撮って欲しかったという気がします。

そもそも映画の土台が異なるので、あまり単純比較もできませんけれども、
テレンス・マリックの20年ぶりの監督作品となった98年の『シン・レッド・ライン』を観た時は、
いたく感動したもので、さすがに映像マジシャンだなぁ〜と、分かったような気になっていた記憶があります。

でも、本作にはそんな感動もなく、2時間を超える上映時間もかなりしんどく感じたなぁ・・・。
絶賛されたエマニュエル・ルベッキのカメラは流石なんですが、このカメラもおそらく賛否が分かれると思う。
と言うのも、主人公の幼少期の映像は、敢えて違和感を残すようなカメラでどことなく通常と異なっています。
敢えて登場人物と距離感を意識させるカメラで、あまり一体感を感じさせないように意図されていると思います。

こういった静かなドラマで、こういった撮り方をするのは珍しい気がしますが、
テレンス・マリックもエマニュエル・ルベッキも分かっていて、使い分けをしているように感じますねぇ。
と言うのも、映画の終盤にあるような宗教的なシーンでは、そういったカメラではなくなっていますから。

まぁテレンス・マリックの映画ですから、観客に対する配慮なんて一切ないことは明白。
冒頭から意味ありげに、フラッシュ・バックっぽく、自分勝手に映画を始めるあたりも彼らしい(笑)。

でも、結局、それらの意味ありげなところも、ハッタリに近いと言ったら怒られるかな、
あまり仰々しいテーマを抱えているというほどでもなく、どうもテレンス・マリックって、
大袈裟にストーリーを語ることに執着しているような気がします。それは『シン・レッド・ライン』もそうだけど。
但し、これはこれで一つのテクニックだと思うんですよね。事実、『シン・レッド・ライン』ではすっかり魅せられましたし。

この映画の場合、大きなハンデとなってしまったのは、
そんな大袈裟にストーリーを語ろうとした題材に、いろいろな社会性もあったことで、
この映画、主人公の反抗期な心が映画の後半から目立ってきて、映画の様相が変わりそうになりました。

これが全てテレンス・マリックの狙いだったのか僕にはよく分かりませんが、
勿論、主人公の反抗期だったマインドが、チョットしたことがキッカケで和解へと向かっていき、
それまでがウソのように分別ができるようになっていくという展開はよく理解できるのだけれども、
一瞬、画面に映る反抗期時代の主人公の邪悪な表情に、映画が暴走するのではないかと心配になりました(笑)。

まぁテレンス・マリックも、「子供って残酷だよねぇ〜」なんて思いながら、
そういった幼少期の反抗期を描いていたのかもしれませんが、少し過剰になり過ぎた傾向があると思う。

この辺はアプローチと映画のカラーがあまり合っていないというか、
テレンス・マリック自身にも、力技で乗り切れるだけの勢いが無かったように思いますねぇ。
おそらく『シン・レッド・ライン』の場合は、彼のアプローチと映画のカラーが合っていたのでしょう。
この不一致さを押し切れるだけの力は、既にテレンス・マリックには無いような気がしますねぇ。
だからこそ違和感いっぱいの映画という印象が、どうしても先行してしまうのだと思う。

賛否両論な作品ではありますが、テレンス・マリックの映画のファンは勿論のこと、
宗教的であったり哲学的なメッセージ性を内包した映画が好きな人には、まずまずオススメできる一作。

そりゃ、僕もテレンス・マリックにもっと気の利いた映画を撮ってもらいたいとは思うけど、
それはさすがに無理な願いなのだろう...ということが、本作を観て、よく分かりました(笑)。

(上映時間138分)

私の採点★★★★☆☆☆☆☆☆〜4点

監督 テレンス・マリック
製作 サラ・グリーン
    ビル・ポーラッド
    ブラッド・ピット
    デデ・ガードナー
    グラント・ヒル
脚本 テレンス・マリック
撮影 エアニュエル・ルベッキ
編集 マーク・ヨシカワ
音楽 アレクサンドル・デスプラ
出演 ブラッド・ピット
    ショーン・ペン
    ジェシカ・チャスティン
    フィオナ・ショウ
    ハンター・マクラケン
    ララミー・エップラー
    タイ・シェリダン

2011年度アカデミー作品賞 ノミネート
2011年度アカデミー監督賞(テレンス・マリック) ノミネート
2011年度アカデミー撮影賞(エマニュエル・ルベッキ) ノミネート
2011年度全米撮影監督組合賞撮影賞(エマニュエル・ルベッキ) 受賞
2011年度全米映画批評家協会賞主演男優賞(ブラッド・ピット) 受賞
2011年度全米映画批評家協会賞助演女優賞(ジェシカ・チャスティン) 受賞
2011年度全米映画批評家協会賞監督賞(テレンス・マリック) 受賞
2011年度全米映画批評家協会賞撮影賞(エマニュエル・ルベッキ) 受賞
2011年度ニューヨーク映画批評家協会賞助演女優賞(ジェシカ・チャスティン) 受賞
2011年度ニューヨーク映画批評家協会賞撮影賞(エマニュエル・ルベッキ) 受賞
2011年度ロサンゼルス映画批評家協会賞助演女優賞(ジェシカ・チャスティン) 受賞
2011年度ロサンゼルス映画批評家協会賞監督賞(テレンス・マリック) 受賞
2011年度ロサンゼルス映画批評家協会賞撮影賞(エマニュエル・ルベッキ) 受賞
2011年度ボストン映画批評家協会賞撮影賞(エマニュエル・ルベッキ) 受賞
2011年度ラスベガス映画批評家協会賞撮影賞(エマニュエル・ルベッキ) 受賞
2011年度シカゴ映画批評家協会賞作品賞 受賞
2011年度シカゴ映画批評家協会賞助演女優賞(ジェシカ・チャスティン) 受賞
2011年度シカゴ映画批評家協会賞監督賞(テレンス・マリック) 受賞
2011年度シカゴ映画批評家協会賞撮影賞(エマニュエル・ルベッキ) 受賞
2011年度ワシントンDC映画批評家協会賞撮影賞(エマニュエル・ルベッキ) 受賞
2011年度サンフランシスコ映画批評家協会賞作品賞 受賞
2011年度サンフランシスコ映画批評家協会賞監督賞(テレンス・マリック) 受賞
2011年度サンフランシスコ映画批評家協会賞撮影賞(エマニュエル・ルベッキ) 受賞
2011年度インディアナ映画批評家協会賞オリジナル・ヴィジョン賞(エマニュエル・ルベッキ) 受賞
2011年度ヒューストン映画批評家協会賞撮影賞(エマニュエル・ルベッキ) 受賞
2011年度サンディエゴ映画批評家協会賞撮影賞(エマニュエル・ルベッキ) 受賞
2011年度ダラス・フォートワース映画批評家協会賞撮影賞(エマニュエル・ルベッキ) 受賞
2011年度セントルイス映画批評家協会賞撮影賞(エマニュエル・ルベッキ) 受賞
2011年度サウス・イースタン映画批評家協会賞撮影賞(エマニュエル・ルベッキ) 受賞
2011年度フロリダ映画批評家協会賞撮影賞(エマニュエル・ルベッキ) 受賞
2011年度フェニックス映画批評家協会賞撮影賞(エマニュエル・ルベッキ) 受賞
2011年度オースティン映画批評家協会賞撮影賞(エマニュエル・ルベッキ) 受賞
2011年度セントラル・オハイオ映画批評家協会賞(エマニュエル・ルベッキ) 受賞
2011年度カンザス・シティ映画批評家協会賞監督賞(テレンス・マリック) 受賞
2011年度カンザス・シティ映画批評家協会賞助演女優賞(ジェシカ・チャスティン) 受賞
2011年度デンバー映画批評家協会賞作品賞 受賞
2011年度デンバー映画批評家協会賞監督賞(テレンス・マリック) 受賞
2011年度ジョージア映画批評家協会賞作品賞 受賞
2011年度ジョージア映画批評家協会賞監督賞(テレンス・マリック) 受賞
2011年度ジョージア映画批評家協会賞助演女優賞(ジェシカ・チャスティン) 受賞
2011年度ジョージア映画批評家協会賞撮影賞(エマニュエル・ルベッキ) 受賞
2011年度ジョージア映画批評家協会賞美術賞 受賞
2011年度トロント映画批評家協会賞作品賞 受賞
2011年度トロント映画批評家協会賞監督賞(テレンス・マリック) 受賞
2011年度ヴァンクーバー映画批評家協会賞監督賞(テレンス・マリック) 受賞
2011年度ヴァンクーバー映画批評家協会賞助演女優賞(ジェシカ・チャスティン) 受賞
2011年度カンヌ国際映画祭パルム・ドール 受賞