ザ・タウン(2010年アメリカ)

The Town

チャック・ホーガンの『強盗こそ、われらが宿命』を、
ハリウッドの人気俳優ベン・アフレックが自ら監督を兼務して製作したクライム・サスペンス。

確かに不完全な部分がある映画ではあるが、これは見事に健闘したと思う。

おそらく、これはマイケル・マンが95年に撮った『ヒート』を参考にしていて、
ロサンゼルスを舞台にした『ヒート』とは対照的に、本作ではボストンを舞台にしたのでしょうが、
内容的には本作の方がシンプルでいながら、市街戦を交えた幾つかの銃撃戦もポイントを絞っており、
ある意味では『ヒート』で冗長に感じられた部分を、コンパクトにした内容と言えます。

ベン・アフレックも『ゴーン・ベイビー・ゴーン』から監督業に興味を持って取り組んでいるようですが、
俳優が片手間で兼業したような、中途半端な気概ではなく、本気度が伝わってきます。
少なくともこの映画を観る限り、ベン・アフレックには映像作家としての才覚があると言っていいと思う。

特に『ヒート』の模倣と言われても仕方ない部分はあるとは言え、
ボストンの市街地での銃撃戦では、独特な“間”が素晴らしく活きていて、思わず感心してしまった。
クライマックスのボストン・レッドソックスが本拠地とする、世界的に有名なボールパークである、
フェンウェイ・パークをターゲットにした強盗計画も、見事な盛り上げで、実に機能的な映画になっている。

中盤、とある現金輸送車を襲撃する場面でも、
警察に追われて、少し遠くまで逃げてきて、車を乗り換えるシーンで、
何気なく車を止めて、別な車に乗り換えようとしていた、変装した強盗団がフッと横を見ると、
パトロール中の警察官がいて、思わずお互いに見合って、少しの沈黙の“間”がある。
これらの全てが実に上手く機能しており、これらを計算づくでやったベン・アフレックは凄いと思う。

欲を言えば、本作ではベン・アフレックは監督業に専念した方が良かったかも(笑)。
と言うのも、今一つ主人公ダグの行動に説得力が無いんですよね。全体的に冷徹に描いたとは思いますが、
特にクライマックスのクレアとの携帯電話での会話など、過剰に演出し過ぎな傾向が鼻につくかも(笑)。

まだ、こういうのって、彼自身がダグを演じていなければ、見え方は変わっていたと思うんですよね。

ボストンのチャールズ・タウンは現実に、強盗犯罪多発地区らしいのですが、
本作で描かれたような“ザ・タウン”に生まれ育った者が、半ば宿命的に裏社会に引き込まれ、
犯罪者として生きていかなければならないといった、悪習があるのかはよく分かりませんが、
ピート・ポスルスウェイト演じる花屋の存在が印象的で、なかなか断ち切れない負の連鎖を象徴していますね。
(ちなみに演じたピート・ポスルスウェイトは、残念ながら本作が遺作となってしまいました・・・)

何度も銀行を襲撃しているせいか、警察やFBIにも有名な存在で、
証拠がないから逮捕されていないというのも凄いが、ある意味で花屋は幼い頃から手懐けて、
大人になって犯罪者として活動させ、更に脅しをきかせながら、絶対に自分では犯罪に手をつけない。
それでいながら実行犯は全てお任せという“元締め”なわけで、その存在を上手く描けていると思います。

確かに完璧な出来の映画とは言えないが、
こういった上手さの断片の一つ一つが、ベン・アフレックの映像作家としての将来性を感じさせるんですね。

思えず、彼は『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』から、製作業に興味を持っていたようですが、
ジェニファー・ロペスとの結婚騒動から、いつしかゴシップのネタとして登場することの方が多くなり、
全米ではギャグのネタにされる存在として有名になったせいか、日本でも扱いが悪くなっていました。
全米では評価が高かった、彼の監督デビュー作『ゴーン・ベイビー・ゴーン』も日本では劇場未公開作扱いとなり、
本作も日本で公開されるのか、微妙なところだったようですが、劇場公開されてホントに良かったですね。

主人公は子供の頃、アイスホッケーの選手として活躍していたわけで、
ある意味で充実した青春時代を過ごしたわけなんだけど、結局、“ザ・タウン”の悪習に飲み込まれ、
強盗団に加わってしまったものの、全てに納得しながらやっているわけではないというのが妙だが、
映画の終盤ではベン・アフレックも自分で演出しながら、少しロマンに溺れてしまったようにも見える(笑)。

原作ではどのようになっているのか分かりませんが、
少しずつ主人公の描き方に甘さがあるあたりは、ベン・アフレックの俳優としての欲目かな(笑)。
個人的には彼が出演することはOKだと思うんだけど、もう少し“引いた”ポジションにいた方が良かったと思う。

アクション・シーンに関して言えば、個人的にはもう少しカット割りは抑えて使った方がいいとは思う。
せっかく臨場感ある銃撃戦を演出できているのですから、もっとジックリ見せてくれる編集でもいいかなぁ。
あまりにカット割りが続くと、ただの忙しない映画になってしまって、映画の価値を損ねている気がするんですよね。
勿論、こういう撮り方が昨今の主流であるので、アクション映画では流行りのスタイルなんでしょうけれどもね。

繰り返しにはなりますが、本作は決して完璧な出来の映画ではありません。
しかし、本作でベン・アフレックがやろうとしたこと、映像作家としての瞬間的な鋭さから言って、
そう遠からじと、もっと更にステップアップした映画を発表できるものと思います。
(実際に本作の後、2012年に撮った『アルゴ』はとても高い評価を受けました)

そういう意味で、本作は彼にとって一つのポイントとなる作品になるかもしれませんね。

ちなみに主人公の父親というチョイ役で出演したのはクリス・クーパー。
とても贅沢な起用法のような気がしてしまいますが、そこそこ強いインパクトを残しています。

同じくキャスティング面で言えば、主人公の元恋人クリスタを演じたブレイク・ライブリー、
それからジェムを演じたジェレミー・レナーと皆好演で、ひじょうに安定感がある映画になっている。
おそらく撮影現場も上手く回っていたのでしょう。それぞれの人物像を実に巧みに描けていると思います。
アクションだけに傾倒せず、主人公以外のキャラクターの描写もサボらなかったのは良いですね。
(前述した、主人公を過剰に演出してしまった点だけは、少し違和感を感じたけど・・・)

ピカレスク・ロマンに成りきれなかった映画という感じもするけど、
望まずも犯罪集団に巻き込まれてしまうジレンマを、真正面から描いた作品として評価に値すると思う。

いずれベン・アフレックはハリウッドでも、スゴい映画監督になるかもしれない。

(上映時間124分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

日本公開時[PG−12]

監督 ベン・アフレック
製作 グレアム・キング
   ベイジル・イヴァニク
原作 チャック・ホーガン
脚本 ベン・アフレック
   ピーター・クレイグ
   アーロンストッカード
撮影 ロバート・エルスウィット
編集 ディラン・ティチェナー
音楽 デビッド・バックリー
   ハリー・グレッグソン=ウィリアムズ
出演 ベン・アフレック
   ジョン・ハム
   レベッカ・ホール
   ブレイク・ライブリー
   ジェレミー・レナー
   タイタス・ウェリヴァー
   ピート・ポスルスウェイト
   クリス・クーパー
   スレイン
   オーウェン・バーク

2010年度アカデミー助演男優賞(ジェレミー・レナー) ノミネート