タワーリング・インフェルノ(1974年アメリカ)

The Towering Inferno

20世紀フォックスとワーナー・ブラザーズという、ハリウッドを代表する2大映画会社が
共同出資という形でタッグを組んで、ある意味でハリウッドの威信をかけて製作したパニック巨編。

しかも、ポール・ニューマンにスティーブ・マックイーンという当時の2大スターの共演に加えて、
ウィリアム・ホールデン、フェイ・ダナウェー、フレッド・アステア、ジェニファー・ジョーンズとオールスター・キャスト。
製作費1,400万ドルという巨額を投じて、70年代のパニック映画ブームの中心的存在であります。

いやはや、これは何度観ても面白い映画だ。僕が好きなアメリカン・ニューシネマの潮流とは
対極に位置するような映画ではありますが、これだけ見応えがあって手に汗握るパニック映画を撮ることは
容易いことではありません。72年の『ポセイドン・アドベンチャー』で評価されたアーウィン・アレンが製作に回り、
監督は後に『キング・コング』を撮ることになるジョン・ギラーミンで、このスケールの大きさは圧巻だ。

実際はスタジオでのセット撮影がメインであり、問題となる超高層ビルの撮影のために、
30mのミニチュア模型を作製して、内部にガス管を配管して火が噴き出しているように見える仕掛けにした。
この辺のノウハウは『ポセイドン・アドベンチャー』で培ったものもあったようで、迫真の臨場感を見せている。

上映時間が3時間近くあるという長さなだけに、観るには体力が必要な映画ですが、
映画の中盤に差し掛かると次から次へとピンチが連続する展開になるので、あまり映画がダレてはいないですね。

映画を観ていると、もっと良い救助方法があるような気がしなくもないのですが、
超高層ビルの最上階でパーティーに出席していた人を救出するという、結構な無理難題にトライするので、
映画のラストにスティーブ・マックイーン演じるオハラハンが「犠牲者は、思ったより少なかった」という台詞が
ありますけど、こういう災害で命を落とした家族の方々にはショックでしょうが、でも、消防士の本音でしょうね。

それくらい延焼が進んだ超高層ビルでの救助活動は困難ということだと思います。
ダクトを介して炎が伝わっていくので、高層階に向けて延焼するスピードは思いのほか速いでしょう。
だからこそ、現代では防火壁などの延焼を防ぐ防火構造が必須になっているのですが、
本作では建築基準法には違反していないが、使っている部材の仕様を変えるなど、粗悪品を使っていたという設定だ。

実際、それらがどれくらい影響するのかは分かりませんが、当時のアメリカの建築基準は
防災に関しては甘かったのか、非常口はセメントで固められて開かないわ、スプリンクラーは作動しないわ、
とにかく杜撰な防災体制で竣工していたことに驚きを禁じ得ません。これでは消防士たちも、やり切れない思いだろう。

資材調達費用をピンハネするために、勝手に設計屋が指定した部材と違うものを発注し、
工事させたというのもスゴい話しですが、竣工後の立ち入り調査も実施されていないのかと、
こんなエンターテイメント超大作を観ていながらにして、そういう不毛なツッコミを入れたくなるほど、このビルは杜撰だ。

それをウィリアム・ホールデン演じるビルの施工主である社長も、
「このビルは最新鋭の科学を寄せ集めたんだ。絶対に火事にはならん!」と主張するという、
昔気質なKKD(経験・勘・度胸)にも及ばないほどの、謎の無根拠な自信で招待客の退避が遅れるという人災。
イージーな言い方ですが、これは人間の思い上がりに他ならず、何度も後戻りできるタイミングを逸し続けた結果だ。

この辺は少々説教クサいところもありますが、やはり慢心と過信はいけないということですね。
根拠に基づけなんて簡単に言っちゃいますが、この根拠というのは、ホントは凄く難しいところだと思う。
根拠になり得るか、なり得ないかを判断できる能力がなければならず、正しいデータ解釈ができなければならない。
正直言って、根拠だと言い切っていることでも、根拠になり得ていないのではないかと疑問に思うことが、多々ある。

主演のポール・ニューマン演じる設計屋のダグも、この辺の吟味が足りていなかったのでしょう。
ダグ本人もそれを反省しての行動だと思いますが、ビルに取り残された人々を救うために能動的に行動します。

そこから始まる悲劇の数々は、無慈悲に描かれているように見えますが、
炎に包まれ服に燃え移って、苦しみながら倒れていく人というショッキングな描写はスタント技術の賜物でしょう。
さすがにエレベーターから出てくる人が、いきなり燃えていて、目の前で倒れる演出はどうかと思ったけど、
ガラス張りのビルの窓に移る、燃え移りながらも必死に逃げようとする描写は、当時の技術力を思うとスゴいなと思った。

ヘリがビルと接触して墜落したり、隣のビルの屋上と簡易ゴンドラでつないだり、
展望エレベーターが宙づりになったりと、次から次へと手に汗握るスリル溢れる演出が連続します。
豪快なジョン・ギラーミンがメガホンを取ったがために、あまり細かいことを期待できる映画ではないけれども、
それぞれのスリルに至るまでに、ビル内に取り残された人々のドラマ描写は、それなりに頑張っていると思いますね。

ただ、実際の火災で大敵なのは、実は煙であると聞きます。
この映画で描かれたほど、おそらく実際の煙に満ちた火災現場で自由自在に動き回れないと思います。
この映画の作り手は、まるで“炎のイリュージョン”かの如く、火に包まれる恐怖を見せたかったみたいなので、
その点、煙に巻かれる恐怖、そして意識を失いかねない恐怖との闘いなどについては、もっと描いて欲しかったなぁ。

それに近いところではあるのですが、ロバート・ワグナー演じるパーティーをサボって、
愛人である秘書との逢瀬を楽しんでいる間に、オフィスが火に囲まれて絶望的な状況になるシーンが印象的だ。

あのシーンは、ほぼほぼ死を覚悟する状況だ。もう自分で助けを呼びに行くしか、
助かる道はないと覚悟を決めて、燃え盛る炎の部屋に飛び込まざるをえないという、絶望的な状況だ。
こういう状況で人間は何をどう思い、覚悟を決めるのだろうかと、僕はこのシーンを観て悟ったのが実のところだ。

欲を言えば...というところですが、
映画のクライマックスにある、ビルの一斉鎮火を狙う作戦を決行するシーンは、少々物足りなかった。
僕はもっと大迫力の“圧力”やパニックがある中での、鎮火を目論むんでいることを期待していたのですが、
映画の前半から続く、炎に囲まれるパニックに継ぐパニックの連続と比べると、見劣りするなぁというのが本音でした。

特にポール・ニューマンはそういったシーンで耐えしのぐのが似合いそうなので(笑)、
もっとド派手にやってくれても良かったように思うのですが、さすがに予算との闘いだったのかもしれません。

撮影現場は、それはそれは絢爛豪華で主演のポール・ニューマンとスティーブ・マックイーンも
元々交友があったためか、お互いに競い合うようにふざけ合っていて、実に楽しい撮影現場であったようです。
確かに本作のBlu-rayに収録されていたメイキング映像の一部でも、マックイーンが凄く楽しそうにしてますものね。
それくらい、当時としても異例なオールスター・キャスト作品であって、しかもそれが半端ない豪華さだったということ。

70年代パニック映画ブームの中でも、かなり人気のある作品ですが、
この手作り感が演出する臨場感と、圧倒的なまでのセット撮影のスケールから、これを越える映画を作ることは
並大抵のことではないと思います。アーウィン・アレンもホントにやりたいことが出来た、快心の出来ではないだろうか。

日本でもかの有名なホテル・ニュージャパンの火災で、多くの犠牲者が発生したことで
防火基準などの見直しも行われましたが、実はホテル・ニュージャパンの火災でもスプリンクラーが作動しなかった。
これが延焼をすぐに止められず被害を増やした原因ともされており、火災報知器も鳴り響くことはなかったようです。

これらは実は本作でも描かれており、日本人に対しての警鐘にならなかったことが悔まれますね。
あらためて、こういうのを観ると、「歴史は繰り返すもの」だなと思わせられます。いつの世もベストコストですからね。
そのベストコストのためにと、安全が蔑ろにされるというのは、残念ながら現代社会でも無くならない風潮です。

但し一方で、安全というのはタダで作られるものではないのですから、
私たち消費者も安全対策を求めるということは、事業者のコストに反映されるものであって、
必ずどこかで消費者や利用者に振り替えられる可能性があるものだと、認識をしなければならないことと思います。

ですので、過剰な安全神話みたいなものを助長する社会も、健全ではないと同時に思います。

(上映時間164分)

私の採点★★★★★★★★★☆〜9点

監督 ジョン・ギラーミン
製作 アーウィン・アレン
原作 トーマス・N・スコーシア
   フランク・M・ロビンソン
   リチャード・マーチン・スターン
脚本 スターリング・シリファント
撮影 フレッド・コーネカンプ
   ジョセフ・バイロック
特撮 L・B・アボット
音楽 ジョン・ウィリアムズ
出演 スティーブ・マックイーン
   ポール・ニューマン
   ウィリアム・ホールデン
   フェイ・ダナウェー
   フレッド・アステア
   リチャード・チェンバレン
   O・J・シンプソン
   スーザン・ブレークリー
   ロバート・ボーン
   ジェニファー・ジョーンズ
   ロバート・ワグナー
   スーザン・フラナリー

1974年度アカデミー作品賞 ノミネート
1974年度アカデミー助演男優賞(フレッド・アステア) ノミネート
1974年度アカデミー撮影賞(フレッド・コーネカンプ、ジョセフ・バイロック) 受賞
1974年度アカデミー作曲賞(ジョン・ウィリアムズ) ノミネート
1974年度アカデミー歌曲賞 受賞
1974年度アカデミー美術監督・装置賞 ノミネート
1974年度アカデミー音響賞 ノミネート
1974年度アカデミー編集賞 受賞
1975年度イギリス・アカデミー賞助演男優賞(フレッド・アステア) 受賞
1975年度イギリス・アカデミー賞作曲賞(ジョン・ウィリアムズ) 受賞
1974年度ゴールデン・グローブ賞助演男優賞(フレッド・アステア) 受賞
1974年度ゴールデン・グローブ賞有望若手女優賞(スーザン・フラナリー) 受賞