トーマス・クラウン・アフェアー(1999年アメリカ)

The Thomas Crown Affair

68年にスティーブ・マックイーンとフェイ・ダナウェー共演で話題となった『華麗な賭け』のリメーク。

うーーーん...つまらないわけではないけど、本音を言えば、もっと面白くできたでしょ?って感じ。
監督はアクション映画では定評のあるジョン・マクティアナンですが、彼の監督作の中では比較的、地味な作りかも。
本作製作当時は“007”こと5代目ジェームズ・ボンドとして活躍していたピアース・ブロスナンが主演ですが、
本作は女性保険調査員のバニングを演じたレネ・ルッソの頑張りぶりの方が、際立ってインパクトを残している。

何故か、フェイ・ダナウェーも主人公トーマスの精神分析医として登場するのですが、
映画は実質的にピアース・ブロスナンとレネ・ルッソが、ひたすら大人の男女の駆け引きで引っ張り続ける。

どうしてもピアース・ブロスナンがジェームズ・ボンドにしか見えないってところもツラいんだけど、
僕はそこまでオリジナルの『華麗な賭け』にも思い入れがないせいか、もう少しリメークなりのオリジナリティが
あっても良かったと思っていて、それはレネ・ルッソがヌードになったりするとかじゃなくて、ジョン・マクティアナンが
監督したのだから、もっと硬派なアクション・シーンを大胆に採り入れるとか、アレンジがあった方が良かったと思う。

さすがに『華麗な賭け』のグルグル回るキスシーンは再現していなかったけれども(笑)、
なんかジョン・マクティアナンもオリジナルへのリスペクトなのか、かなり遠慮気味に撮っているように見えた。
もっとエキサイティングで息をもつかせぬ展開の中に、大人のロマンスが漂うみたいなのを期待してたんだけどね・・・。

映画は実業家で、企業のM&Aを積極的に展開して成功したトーマスを主人公に描きます。
彼は美術品好きで、とりわけ絵画を美術館から盗むことでスリルを楽しんでいて、彼が常連として通い詰める
メトロポリタン美術館に東欧の窃盗団が押し入り、盗む直前に逮捕したものの、更にモネの絵が盗まれます。

警察の捜査に協力的な姿勢を見せるトーマスのことを、保険会社から雇われた女性調査員バニングが
いち早く「怪しい」と睨んでおり、警察の警告を無視してまでも、バニング自らトーマスに接触していきます。

そんな中で、バニングは内偵を進めながらも、トーマスの色気に惹かれてしまい、
やがては危険な道を歩んで行ってしまいます。映画はクライマックスまで、バニングの視点を中心に描いて、
トーマスの主張を信じて良いのか、ダメなのか、白黒がハッキリしないまま進んでいくのが上手かったですね。
ジョン・マクティアナンにしては珍しく、本作では随分と器用なことをやろうとしている感じで、少々意外でした。

ただ、バニングがいつしかトーマスの危険な香りに惹かれているという展開なのですが、
これは分かりにくい。どういったことを契機に惹かれるようになったのか、トーマスの描写を見ても、
「あぁ、これはどんな人でも惚れてまうわ」とまでは思えないし、言ってしまえば、甘いマスクの中年男性ですね。

何か特別に気が回るとか、もう強い魅力をプンプン漂わせているという感じもしないし、
金持ちの道楽を極めている遊び人だということは分かりますが、もっとトーマスの魅力をしっかり描いて欲しい。

じゃなければ、バニングのただの火遊びという感じに見えちゃうし、すぐにバニングの色仕掛け作戦、
というわけではないということが明白になってしまうので、何故に職業柄、警戒心が強い性格をしているのに
アッサリとトーマスを本気で愛し始めてしまうのか、ということが本作の大きなキー・ポイントだったはずなんですがね。

本作で描かれるバニングは随分とグイグイ、トーマスに近づていく感じで情熱的な女性として描かれる。
てっきり男性経験も豊かな百戦錬磨な女性かと思っていたところで、実は本気で恋していくという展開で
バニングとしてはトーマスのことをどこまで信用していいのか、不安に感じていたはず。それが終盤になって、
活きてくるのですが、そもそもバニングのような女性がこういう恋愛にのめり込む理由が、納得性に欠ける気がする。

そういう意味では、やっぱりジョン・マクティアナンには細かな描写は期待できないな、
と思えてしまったのが本音でして、そうすると彼の持ち味である緊迫感溢れる豪快なアクションに期待となるけど、
それもイマイチとなってしまっては、どこか物足りなさが残ります。もっと大人の恋愛を描ける人でないとキツいなぁ。

それから、細かいところへのツッコミになってしまうのかもしれませんが、
モネの絵を強奪するシーンでも、美術館から持ち出す際にアタッシュ・ケースの中に入れていくのですが、
よく見ると絵を折ってケースの中に収納しているように見えるのですが、これはいくらなんでもありえないだろう。
何か特殊な技術なのかもしれませんが、普通に考えたら、あんなことしたら絵の価値が無くなると思うのですがねぇ。

そして、クライマックスにトーマスが“作戦”を決行するのが本作のハイライトですけど、
このクライマックスの警察との攻防も、途中から何をやっているのかが分かりにくい。もっと、ちゃんと描いて欲しい。
あまり重箱の隅を突いても仕方がないけれども、トーマスのスマートさを示すために大事なシーンだったと思う。
オリジナルよりも、トーマスをスマートな人物として描くことに力点を置いていたはずなのに、これでは中途半端だなぁ。

トーマスが絵を盗む手口も、案外、単純というか「賢いなぁ〜!」という感じではないのがツラい。
古典的な手口というか...少なくとも、天才的な鮮やかさとも言えず、なんとも中途半端で微妙な感じかな。

敢えて『華麗な賭け』と比較すると、そもそもラストが決定的に違う。
しかし、映画のカラーとしてはどうしてもオリジナルの雰囲気を意識した部分があって、主演のピアース・ブロスナンも
やっぱりスティーブ・マックイーンを意識した部分はあると感じた。そうなだけに本作のオリジナリティというのは弱い。

本作のピアース・ブロスナンって、前述したように「賢いなぁ〜!」という感じでもなかったせいか、
あんまり有能な経営者というようにも見えなかったなぁ。この辺はマックイーンの方が適役だったかも。
ピアース・ブロスナンはかなりマックイーンを意識していたように感じたのですが、チョット遊び人色が強過ぎかな(笑)。

まぁ、結局は『華麗な賭け』との比較になってしまうと、本作はかなりキツい。
前述したように、僕は『華麗な賭け』もそこまでの映画だとは思っていませんが、それでも本作はまともに比較されると
キツいところがあって、だからこそオリジナリティを出して欲しかった。そもそもキャストの時点で、トーマスとバニングの
カップルがどう見ても、スティーブ・マックイーンとフェイ・ダナウェーとまともに比べられると、さすがに見劣りしちゃう。
(やっぱり、あのグルグル回るキスシーンのインパクトには、なかなか勝てないですよね!)

絵画というのは、価値がなかなか落ちないものという印象があるので、
歴史的にも絵画コレクターというのは金に糸目をつけないがゆえ、犯罪の温床になることがあるのは事実だろう。

現実世界にバンクシーのようなアーティストも登場しているので、今後も世間をアッと言わせるトリッキーな絵を
発表してくれるのだろうけど、この発想を応用させて、トーマスが実は絵画の達人で素養があり、贋作づくりに励み、
贋作とすり替えてしまうというような、他の泥棒が真似できない手口を使うという展開も、面白かったかもしれません。
97年の『迷宮のレンブラント』はそんな映画でしたが、あれはあくまで贋作師と鑑定士のサスペンス映画でした。

本作のトーマスはあくまで泥棒稼業なので、それを変える必要はありませんが、
彼自身が贋作を描く能力があって、それとすり替えるという、誰にも真似できない手口という方が魅力的に映ったなぁ。
本作はピカレスク・ロマンとは言い難いけど、ヒーローではないので、太刀打ちできない技術があった方が良い。

特にスマートに見える部分はないし、これといった技術も無さそうともなれば、
本作で描かれるトーマスはどこが魅力的なんだ、という話しになってしまって、残されるものはダンディズムくらい。
それにはピアース・ブロスナンは少々弱い気がするし、もっと“危険な香り”漂う役者の方がフィットしたと思います。

そういう意味で、少しずつボタンのかけ違いがあるような映画で、なんだか勿体ないですね。
全米でも日本でも、劇場公開当時はそこそこヒットしていた記憶があるのですが、僕はそこまで楽しめなかったなぁ。

まぁ・・・それでもジョン・マクティアナンなりに工夫はしたと思うんだけど、
結果としては違うディレクターが撮った方が、良い仕上がりだったかもしれない・・・と思えてしまう。
つまらないリメーク作というわけではないのですが、泥棒を描いた作品なだけに、もっとスリルがあって、
ドキドキ・ワクワクさせられる緊張感ある作品かと思っていただけに何もかもが中途半端な感じがして、残念ですね。

(上映時間113分)

私の採点★★★★★★☆☆☆☆〜6点

監督 ジョン・マクティアナン
製作 ピアース・ブロスナン
   ボー・セント・クレア
脚本 レスリー・ディクソン
   カート・ウィマー
撮影 トム・プレーストリー
音楽 ビル・コンティ
出演 ピアース・ブロスナン
   レネ・ルッソ
   デニス・レアリー
   フェイ・ダナウェー
   ベン・ギャザラ
   エスター・カニャーダス
   フランキー・フェイソン