華麗なる賭け(1968年アメリカ)

The Thomas Crown Affair

スティーブ・マックイーンとフェイ・ダナウェーのグルグル回るキスシーンが有名な映画で、
銀行強盗と保険会社の女性調査員の恋の駆け引きを描いた、当時としては新感覚のラブ・サスペンス。

おそらく本作が公開された当時の映画界のスタンンダードを考えれば、
かなり斬新な内容と言ってもいいと思うのですが、でも、僕は映画の出来はそんなに良くないと思う。

映画の前半から、これ見よがしに画面分割が登場してきたり、
色々と映像表現上で工夫した痕跡もあるのですが、映画全体の構成を考えると全体的にはイマイチかな。
当時の映画には無かった様々なアプローチをやってみようとする意気込みは伝わってくるのですが、
それらのほとんどが機能的に絡み合うことなく、全てが単発的に終わってしまうのが残念でなりません。

監督のノーマン・ジュイソンは当時、『夜の大捜査線』を撮った後で、
アメリカン・ニューシネマの中心にいた映像作家の一人であり、間違いなく気鋭の存在だったのですが、
本作は前述した画面分割などトリッキーな映像表現を、ただ単に「使っただけ」で終わってしまいましたね。

ですから、例のグルグル回すキスシーン自体も、
ヒッチコックばりにグルグル回ることよりも、その前のキスに至るまでの伏線となる、
フェイ・ダナウェーの口元と、マックイーンの翻弄される表情を映した連続的なカットの方がずっと良い。
こういう感情の高ぶりの表現こそが、映画だからできる表現の最たるものだと思うんですよね。
まぁそういう意味ではストリングスのオーケストレーションが鳴り響く中で、カメラをグルグル回して、
キスする2人をまるで舐め回すように撮るというアプローチが活きているのかもしれないけど・・・。

それにしても、この映画はフェイ・ダナウェーの存在が実に面白い。
彼女は彼女で、ニューシネマ期を象徴するような“強い女性像”を体現した名女優の一人ですが、
“オンナの感”をフルに活かして、主人公に疑義を深めるなど、思慮深い一面を見せながらも、
主人公をセクシーに誘惑して、次第に恋に落ちていく過程を、実に巧みに演じています。

主人公のトーマスも実にしたたかな男で、当時、カリスマ的存在だったマックイーンだからこそ
説得力を持って演じられた強さがありますね。誘惑に乗って、保険会社の女性調査員と関係するも、
常に自分を見失わない冷静さ、クールさを持ったダンディズムを見事に体現しています。

スマートな男女の恋の駆け引きと言っておきながらも、
その恋にハマって抜けられなくなった方が負けという、言ってしまえばコンゲーム(騙し合い)。

チョット冗長になってしまうのが残念ではありますが、
マックイーンがバギーをスピンさせながら砂浜で遊ぶシーンなど散々、道楽に浸る姿を映すことは、
この騙し合いにオチを付けるための伏線だったと解釈すれば、ある程度の納得性はあります。

どうでもいい話しですが...
映画の中盤でマックイーンが操縦するセスナ(?)みたいな飛行機が草原に着陸するシーンがあるのですが、
これがもの凄い角度で降下してきて、原則不十分なまま着陸を強行するなど、凄く怖いのが印象的です。
言ってしまえば、これもまたオチのための“種蒔き”の一つで、伏線的に利いているのですがねぇ。

ちなみにエンターテイメント性を強調したリメークが99年に『トーマス・クラウン・アフェアー』というタイトルで
製作されていますが、こちらでは主人公が絵画泥棒という設定に変わっており、展開も大きく変わっています。
(どちらが面白く感じられるかは、かなり意見が大きく分かれるかもしれません...)

この映画の物足りないところは、強盗シーンそのものの緊張感かな。
勿論、強盗をメインテーマにして描きたかった映画ではないことは理解しますが、
それにしてももう少し、緊張感を持って描いて欲しかったし、今一つ臨場感にも欠けますね。
公衆電話を使うという発想も、当時としては斬新だったはずなのですが、半ばアイデア倒れですね。

まぁあくまで個人の嗜好ではありますが...
僕はリメークの『トーマス・クラウン・アフェアー』の方が楽しめたかなぁ。
なんとなくではありますが、リメークはオリジナルで物足りなかった部分を全て補完したイメージがありますね。

映画の冒頭の敢えて強烈な逆光にして、
真正面にいる人物の顔が映らないようにする手法も、当時としては画期的な表現だろう。

何度か流れるミシェル・ルグラン作曲の『Windmills Of Your Mind』(風のささやき)は、
如何にもフレンチ・ポップス的なニュアンスのある当時のヒット曲でマスターピースの一つとして有名ですが、
正直、この映画の中では何度も流し過ぎていて、ステレオタイプ過ぎるように感じられましたね。

まぁ何故、ミシェル・ルグランに作曲を依頼したのか、その真意は不明なのですが...
ひょっとしたら、本作の作り手はフランス映画のようなテイストを出したかったのかもしれませんね。
そう思ってみれば、本作のラストもエスプリの利いたカフェのような苦味があるような気がするから不思議。
そういう意味でリメークは如何にもハリウッド的なラストに帰結したのですが、本作はセオリー通りの
クライマックスには帰結しなかった、やや斜に構えたようなスタンスに感じられるかもしれません。

この辺のアウトロー精神って、やっぱマックイーンは似合うんだなぁ。

(上映時間102分)

私の採点★★★★★★☆☆☆☆〜6点

監督 ノーマン・ジュイソン
製作 ノーマン・ジュイソン
脚本 アラン・R・トラストマン
撮影 ハスケル・ウェクスラー
編集 ハル・アシュビー
    バイロン・バズ・ブラント
    ラルフ・E・ウィンタース
音楽 ミシェル・ルグラン
出演 スティーブ・マックイーン
    フェイ・ダナウェー
    ポール・バーク
    ジャック・ウェストン
    ビフ・マクガイア
    アディソン・パウエル
    ヤフェット・コットー

1968年度アカデミー作曲賞(ミシェル・ルグラン) ノミネート
1968年度アカデミー歌曲賞(ノエル・ハリソン) 受賞
1968年度ゴールデン・グローブ賞歌曲賞(ノエル・ハリソン) 受賞