ターミネーター(1984年アメリカ)

The Terminator

ジェームズ・キャメロンが打ち立てた低予算SFの金字塔。

92年に『ターミネーター2』が全世界的に大ヒットしたこともあり、
“2”を観た後に本作を観たという人も多いようで、本作の低予算感バリバリの映像感覚に驚かれるかも。

当時のジェームズ・キャメロンはハリウッドでも、実績のある映像作家ではなかったこともあり、
多額の予算がつく企画を任されることは難しかったと思うのですが、本作で高く評価されたことがキッカケで
86年の『エイリアン2』や89年の『アビス』のような規模の大きな企画を任されることになるので、
言わば本作はジェームズ・キャメロンのキャリアの中では、出世作と言えると思いますね。

言わずとしれた、ボディビルダーとして活躍していたシュワちゃんをキャスティングできたこと自体が
凄く本作の成功に於いては、大きかったと思うのですが、それでもヒロインのサラ・コナー役に
リンダ・ハミルトンを配役できたことも大きかったですね。クライマックスでの有名なラブシーンは確かに印象的だ。

映画の冒頭から西暦2029年の核戦争の時代の描写は、
やたらと低予算感丸出しのセット撮影で、異様にチープなデザインであることが気になりますが、
やはり何度観ても十分に魅力的な映画であることは間違いなく、実にスリリングで素晴らしい緊張感に満ちている。

不死身とも見える、シュワちゃんの執拗な追跡がホラー映画そのもので、
映画のクライマックスまで息つく間がないくらいにスリルが連続し、上映時間いっぱいを使って楽しませてくれる。

特にサラをタンクローリーのような大型車両を運転して追いつめていき、
通り過ぎざまに爆弾をしのばせて、見事に爆発して木っ端微塵になったように見えたところ、
火の上がるガレキの山から、サイボーグの“骨格”だけが再び追い始めるという展開は、凄く怖い(笑)。

後年の他作品で数多くアイデアを盗まれているような気もするのですが、
やはり当時のジェームズ・キャメロンって、凄いアイデアマンであったのでしょうね。
何度観ても、本作には新鮮な発見があるし、映画が全く古びていないという点で凄みを感じさせられます。
前述したように、多額の予算がついた企画というわけではないですから、大きな制約がある中で、
如何に最大限の映画の醍醐味を吹き込むかという点で、工夫に工夫を凝らした“結晶”のような映画です。

本作以降のジェームズ・キャメロンは大型映画ばかりを手掛ける、
どちらかと言えば、浪費家な映像作家というイメージが強いのですが、本作ではパイオニア精神を感じさせる演出です。

どうやら撮影現場でのジェームズ・キャメロンは超完璧主義だったようで、
シュワちゃんも撮影自体が精神的にも肉体的にもツラかったようですが、彼のこういった徹底したこだわりが
本作を支えているのは間違いなく、特に警察署に襲撃しに来るシーンなど、シーン演出に緻密さを感じさせますね。

正直なところ、ホントに本作撮影当初からジェームズ・キャメロンの頭の中に
シリーズ化させることがあったのかは疑問ではありますが、“未来”から1984年当時に時制を敢えて移して、
タイムスリップしてきたサイボーグと生き残りの人間の闘いにした理由は、本作自体にそこまでの予算が
つかなかったことが大きかったらしく、やはり“未来”を映像化することは多額の資金を要すという判断だったようだ。

その分だけ、“未来”からやって来たサイボーグが目立った理由もなく、
心当たりがまったく無い、“未来”で起こる知り得ないことが理由で自分のことを殺害しに来るという恐怖と共に、
まるで不死身なゾンビであるかのように、冷徹にヒロインを追い回す恐怖を描くことに注力したのでしょうね。

これはやはり、劇場公開当時の映画ファンから見ても、大きな衝撃だっただろうと思う。
発想としては、72年にスピルバーグが手掛けたTVムービー『激突!』とある意味で似ているけど、
作り手の一方的な演出を観客に押し込むものの、それに圧倒されっ放しの2時間弱というのが凄い。
そういった強引な演出でも1本の映画を成立させるだけの説得力が、当時のジェームズ・キャメロンにあったということ。

僕はこの映画、生まれたばかりに公開された映画だから、リアルタイムに観ていたわけではないけど、
後追いで観た世代とは言え、やはり最初に本作を観た時はそのスリリングな内容に圧倒されてしまいましたね。

少し大袈裟な言い方かもしれませんが、本作は低予算SF映画のお手本だと思います。
かつて製作された低予算SF映画の中には、資金調達ができないので作り手が開き直って、
映画全編を敢えてチープに作ることによって、“それ向け”のファン層の支持を取りにいく露骨さを出している場合もあり、
個人的にはそれはそれで有りだとは思う反面、どこか低予算という制約を跳ね除けようとする気概が欲しいと
思う面もあって、本作でのジェームズ・キャメロンのように安っぽさを微塵にも感じさせないことに価値を感じます。

70年代に入ってからは、一時期SF映画ブームがあったせいか、
やたらと低予算感丸出しのSF映画が乱発されるようになり、今でもカルトな支持層は確かにいます。

でも、本作はそういったカルトな支持層を持っているわけではなく、メインストリームを歩む作品なのです。
僕はそこが凄いと思うし、映画製作の要素として資金力が重要な要素であることは否定しないけど、
本作でジェームズ・キャメロンが実証したように、撮影現場の工夫が持つ力も大きいことに変わりはないと思う。

そこにシュワちゃんの見事なまでの肉体美もカメラに収められたがゆえに、
本作が失敗するわけがありません(笑)。他作品の追従を許さない、実に風格漂う秀作に仕上がっている。

しかし、そんな本作に敢えて一つ注文をつけることがあるとすれば、
それはマイケル・ビーン演じる未来の戦士カイルの“退場”をもっと我慢して欲しかったことかな。
残る結果としては同じだろうが、カイルに関してはどこか中途半端な感じで終わってしまうのが勿体ない。
本来的にはもっと英雄的な“退場”になるように扱って欲しかったですね。少しアッサリし過ぎと感じます。

その分だけリンダ・ハミルトン演じるヒロインを尊重する描き方になっているのですが、
カイルを英雄的に描くことにより、カイルとサラのロマンスはより悲恋として昇華され、
もっとクライマックスでの訴求力は上がったはずで、個人的には勿体ないなぁと感じられてしまいますね。

ただ、それ以外はほぼ大きな難点は無いと言っていいレヴェルだと思う。
ジェームズ・キャメロンもこの頃のスピリットを忘れていなければ、もっとユニークな映像作家になったのに・・・。

(上映時間107分)

私の採点★★★★★★★★★☆〜9点

監督 ジェームズ・キャメロン
製作 ゲイル・アン・ハード
脚本 ジェームズ・キャメロン
   ゲイル・アン・ハード
撮影 アダム・グリーンバーグ
特撮 スタン・ウィンストン
美術 ジョージ・コステロ
編集 マーク・ゴールドブラット
音楽 ブラッド・フィーデル
出演 アーノルド・シュワルツェネッガー
   マイケル・ビーン
   リンダ・ハミルトン
   ポール・ウィンフィールド
   ランス・ヘンリクセン
   アール・ポーエン
   ベス・モッタ
   リック・ロソビッチ
   ディック・ミラー
   ビル・パクストン

1985年度アボリアッツ・ファンタスティック国際映画祭グランプリ 受賞