リプリー(1999年アメリカ)

The Talented Mr.Ripley

パトリシア・ハイスミス原作の犯罪小説を映画化した、
60年製作のフランス映画の古典『太陽がいっぱい』のハリウッド版リメーク。

今回の監督は96年に『イングリッシュ・ペイシェント』で国際的な高い評価を得た、
アンソニー・ミンゲラで大胆なアレンジを加えた、ひじょうに挑戦的な企画でした。

そもそもが『太陽がいっぱい』と本作にはコンセプトに大きな差があって、
一人の野心の強い青年の完全犯罪を達成する欲望を描いた『太陽がいっぱい』に対し、
本作はかなり主人公のホモセクシャルに大胆に言及しており、これはかなり思い切った内容だ。

一応、原題は主人公トム・リプリーの才能を示す意となっていますが、
これは『太陽がいっぱい』の時代では言及できなかった同性愛のニュアンスを強め、
リメーク版と言っても、コピーではなく、『太陽がいっぱい』との差別化を図ったような感じですね。

但し、アンソニー・ミンゲラのアレンジメントの全てが成功だったとは言い難いと思うんですよね。

確かにこの映画は統一された雰囲気で、ひじょうに丁寧に撮られた作品であることは間違いないし、
豪華なキャスティングも決して無駄にすることなく、上手く機能的に絡み合ってるし、悪くないんだけど、
基本的にもっとトムの野心的な側面にはクローズアップするべきだったと思うんですよね。

そもそもが『太陽がいっぱい』の良さって、
常人では考えられない主人公の凄まじい企みを具現化させたことで、
それまでのサスペンス映画には無かった“他人の人生を乗っ取る”という野望に加え、
完全犯罪を成立させるスリルを重ね合わせることにより、スケールの大きな映画になったんですよね。
この辺の良さを、本作のスタッフは踏襲する気がサラサラ無かったようで、少し残念でしたね。

やはり僕はコンセプトとしては、主人公の動機を野望として描くべきだったと思います。
ホモセクシャルのニュアンスは、あくまで彼の性癖として扱えばいいわけで、
無理をしてメインテーマにしてしまっただけに、映画が完全に別物になってしまった感がありますね。

そう思ってみれば、少し物足りないところもあるけど、駄作ではないかな。
かなり気持ち悪い側面があるのは否めないけど、如何にトムがグリーンリーフに愛情を傾けていくかが
よく分かる内容になっているし、次第に不満を募らせていく過程もキチッと描けている。

決してアンソニー・ミンゲラは投げやりに、この映画を撮ったわけではないと思うんですね。
確かな演出手腕がなければ、さすがにここまでの映画は撮れないように感じますねぇ。

但し、これができるなら、やっぱりトムがグリーンリーフを殺害する動機は、
愛情ではなく、“コイツの人生を乗っ取りたい!”とする嫉妬心からくる野望にした方がいいんだよなぁ・・・。

と言うのも、やっぱり映画を観ていて思うのは...
衝動的にトムがグリーンリーフに襲い掛かるとは言え、やれグリーンリーフがマージとのセックスを
トムに見せ付けただの、やれグリーンリーフの浮気を何度も見せ付けられただのと、
トムの感情はひじょうに小さく、下世話なことが発端になってしまい、原作のコンセプトと合っていない気がする。

やっぱり、それよりはトムがグリーンリーフと行動を共にするうちに、
グリーンリーフの人生そのものに憧れを抱き、“コイツの人生を謳歌してやる!”と思うようになり、
用意周到に準備をして、計画を着々と遂行していくというスタンスで描いた方がクレバーでしたね。

そうでないがために、トムが色々と手を打って、警察の捜査をかわす映画の後半の展開では、
彼の行動の全てが打算的、刹那的に見えてしまい、あまりトムの賢さが垣間見れませんね。
そうなってしまうと、彼の企みの恐ろしさというものが、まるで伝わってこないのが残念でなりません。

おそらくアンソニー・ミンゲラは本作はサスペンスに重きを置くわけではなく、
ミステリーに執着したかったのでしょうが、結果的には余計に難しくしてしまいましたね。

豪華なキャスティングとしては、実力派俳優が揃っただけに充実している。
特に98年に『恋におちたシェイクスピア』でオスカーを受賞したグウィネス・パルトロウがマージを演じ、
一時的に恋敵のような存在になる、メレディスを『エリザベス』のケイト・ブランシェットが演じたのに注目。
当然、2人は98年度のアカデミー主演女優賞をお互いに歴史劇の芝居で競ったわけなのですが、
トムの策略で、2人がローマ市街地のカフェで鉢合わせするシーンの空気は特筆に値する。

結局、ケイト・ブランシェットの方が息の長い女優さんになった感がありますが、
本作の頃はまだ火花散る芝居合戦って感じで、お互いにひじょうに良い芝居をしていますね。

が、全てはトムを演じたマット・デイモンの奮闘には敵わないかな。
やはりこれだけ不気味にトムのイメージを作り上げるなんて、そうそう簡単なことではありません。
これでトムが用意周到に淡々と行動するキャラだった、更に傑出した存在になったでしょうね。
やはり一つ一つ、目の前にピンチが押し寄せるたびに、「あわわ、どうしよう?」みたいに慌ててるようじゃ、
トンデモない事件の真犯人としては、かなり手落ちな部分の多い、あまりにお粗末な正体になってしまいます。

この辺をどうにかクリアして、上手く処理できていれば、
もっと評価は高まってであろうし、『太陽がいっぱい』にも肉薄できたと思う。
別物な映画にして単純比較されることを回避したかったのかもしれませんが、
アンソニー・ミンゲラの手腕からして、真っ向勝負して欲しかった企画なだけに残念でなりませんね。

ちなみに痛々しい描写が苦手な人は注意した方がいい作品です。
僕は映画の中盤にある、ジュード・ロウが殴られるシーンが妙に脳裏に焼きついて離れません(苦笑)。

(上映時間138分)

私の採点★★★★★★☆☆☆☆〜6点

監督 アンソニー・ミンゲラ
製作 ウィリアム・ホーバーグ
    トム・スターンバーグ
原作 パトリシア・ハイスミス
脚本 アンソニー・ミンゲラ
撮影 ジョン・シール
音楽 ガブリエル・ヤーレ
出演 マット・デイモン
    グウィネス・パルトロウ
    ジュード・ロウ
    ケイト・ブランシェット
    フィリップ・シーモア・ホフマン
    ジャック・ダヴェンポート
    ジェームズ・レブホーン
    フィリップ・ベイカー・ホール
    セルジオ・ルビーニ
    セリア・ウェストン
    リサ・アイクホーン

1999年度アカデミー助演男優賞(ジュード・ロウ) ノミネート
1999年度アカデミー脚色賞(アンソニー・ミンゲラ) ノミネート
1999年度アカデミー音楽賞<オリジナル・ミュージカル/コメディ部門>(ガブリエル・ヤーレ) ノミネート
1999年度アカデミー美術賞 ノミネート
1999年度アカデミー衣装デザイン賞 ノミネート
1999年度イギリス・アカデミー賞助演男優賞(ジュード・ロウ) 受賞