サブウェイ・パニック(1974年アメリカ)

The Taking Of Pelham One Two Three

100万ドルをニューヨーク市長に要求するギャングくずれの4人組の男たち。
彼らがターゲットに選んだのは、ニューヨーク市内を縦横無尽に張りめぐらす地下鉄だった。

本作は『フレンチ・コネクション』で少しだけ描かれていた地下鉄ハイジャックを大々的にクローズアップし、
用意周到に計画を遂行していく犯人グループと、人質解放へ向けた交渉にあたる公安局員の苦悩、
そして理不尽にも地下鉄ハイジャック事件の人質とされてしまった乗客の恐怖を描いたサスペンス映画。

実際に撮影は、ニューヨークの地下鉄を借り切ってロケ撮影を敢行したとのことですが、
模倣犯の出現を恐れた運行会社はなかなか承諾せず、結果として多額の費用と保険金を要求されたという。

確かに地下鉄という日常的に利用する乗り物は、テロ攻撃の対象となり易い懸念はある。
それも一概にハイジャックとは限らず、日本の歴史にも残る95年の地下鉄サリン事件など、
飛行機のような手荷物チェックがないため、様々な手口のテロ攻撃が考えられることと、
誰でも容易に利用できることから、テロ攻撃を行い易いことが今尚、危機管理上の大きな課題と言えるだろう。

今から30年以上前の映画ということを考えると、
本作はそうとうに画期的な映画である。それに加えて、コンパクトにまとまった出来の良い作品だ。
如何にも70年代の映画らしい空気を持ち、デビッド・シャイアの音楽も異様にカッコいい。

映画も出だしからスムーズで、映画の冒頭からホントに事件が動き出している。
話しの前置きなど一切なく、観客に対しても容赦なしにストーリーを進めていく強引さだ。

鉄道の技術は常に進化し続けているので、細かい事情を理解して観るともっと面白い映画なのですが、
あくまで厳しい見方をすると、傑作とは呼べない。ロバート・ショー演じる“ミスター・ブルー”をはじめとする、
4人組の犯人グループの描写は秀逸ですが、一方でウォルター・マッソー演じるガーバーをはじめとする、
犯人グループとの交渉にあたる公安局側の描写がお世辞にも上手いとは言えず、チョット残念な感じです。

交渉術の詳しいところは分かりませんが、
ガーバーはじめ、“ミスター・ブルー”と交渉する地下鉄運行管理職員は、僕には交渉が下手としか思えない。
さすがにあれでは犯人グループをすぐに怒らせて、アッという間に人質を殺害されてしまうのがオチだろう。

危機管理のプロであるはずの彼らが、まるで交渉に対する戦略がないという時点で、
映画で描かれる交渉シーンの多くが説得力を失ってしまう。それで犯人グループも怒らずにバーガーに
付き合うのだから、彼らが冷酷非情なハイジャック犯であるというコンセプトにおける一貫性にも疑問が生じます。
それでいながら“ミスター・ブルー”は銃撃を受けた報復行為として、何の罪もない車掌を処刑したり、
言うことをきかない“ミスター・グレイ”を情け容赦なく銃殺し、彼の持っていた金を奪うなど非情な側面がある。

これらの緩かったり、厳しかったりコロコロ変わるあたりが、映画をより不安定なものにしてしまっている。

しかし、それでもこの映画は腐っていない。
それはアイデアの良さにも助けられているが、あくまでサスペンス劇であることを強調し続け、
人質となった乗客からの視点も忘れずに映し続けたことが要因でしょう。

それと、何と言っても犯人捜しに明け暮れるガーバーが映画の最後に見せた表情、これに尽きるでしょう。
それまであまり強い印象を残せていなかったウォルター・マッソーも、この表情のために出演したと言ってもいい。
(まぁそんなベストカットが、地下鉄とは一切関係ないシーンだったというのも悲しいが...)

本作でも暴走した地下鉄内の混乱を描くため、オーウェン・ロイズマンのカメラが絶好調。
特に全てが青信号となり、運転手不在のまま人質を乗せて暴走を始めた車両が、
延々暴走を続けた挙句、ようやっと赤信号となったポイントで急ブレーキが作動し、
パニックに陥っていた乗客がもの凄い衝撃のため、車両内で飛ばされるシーンが秀逸だ。
これは録音の力も大きいが、できる限りのテクニックを尽くし、最大限の衝撃を見事に演出していますね。

ちなみにオーウェン・ロイズマンは似たようなシーンを『フレンチ・コネクション』でも撮影しており、
本作同様、最高のテンションで地下鉄vs自動車のチェイス・シーンを映画のハイライトにしていました。

それから無線でのやり取りを主体として、犯人グループとの交渉や連絡を取り合う姿があるのも良いですね。
これを現代に置き換えると、携帯電話の使用が不可避なのですが、あくまでアナログな駆け引きで不便なのが
逆に事件の解決や交渉の進行を遅らせるもどかしさがあり、これが逆に映画の緊張感を盛り上げる効果がある。

それにしても今なら如何に人質救出を優先するか考えると思うのですが、
本作の原作が書かれた時代性なのでしょうか、身代金の要求に対して市が金を用意するかどうか協議して、
決断が遅くなってしまうというストーリー展開が、現代の感覚で言えば大きなギャップを感じますね。
(勿論、現代でも協議はするだろうが、身代金の用意はかなり早い段階から始まるはず)

ちなみに本作は何度かリメイクされておりますが、
少なくとも公安局側の描写をもっとキッチリ描ければ、映画は本作を凌ぐ出来にすることも可能でしょうね。

唯一、どうしても及ばないのは...第1回目の映画化という先見性だけですかね(←実はこれが大きい...)。

(上映時間104分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 ジョセフ・サージェント
製作 ガブリエル・カツカ
    エドガー・J・シュリック
原作 ジョン・ゴーティ
脚本 ピーター・ストーン
撮影 オーウェン・ロイズマン
    エンリケ・ブラボ
編集 ジェラルド・B・グリーンバーグ
音楽 デビッド・シャイア
出演 ウォルター・マッソー
    ロバート・ショー
    マーチン・バルサム
    ヘクター・エリゾンド
    アール・ヒンドマン
    ディック・オニール
    ジェリー・スティラー
    トニー・ロバーツ
    ジェームズ・ブロデリック