サブウェイ123 激突(2009年アメリカ)

The Taking Of Pelham 123

2012年に残念ながら自殺したトニー・スコットの監督作品で、
74年に製作された根強い人気を誇るサスペンス映画『サブウェイ・パニック』の現代版リメークだ。

正直言って、さすがにトニー・スコットの監督作品なのでスタイリッシュな映像感覚で
スピード感溢れるように編集処理されているので、『サブウェイ・パニック』のような地味でシリアスな路線とは
かなり大きく変わっていて、娯楽色豊かに映画の時間軸と上映時間が同期するように進行するので、別物の映画だ。

なんか、犯人の目的はテロ事件を起こすことで金融商品の高騰を狙ったみたいで、その差益を取ろうとするのですが、
別にニューヨークの地下鉄をジャックしなくともできそうな内容で、このリスクの大きさに対して割りに合わない(苦笑)。

でも、まぁ・・・いいや(笑)。それよりもトニー・スコットのデンゼル・ワシントンに対する絶大な信頼が伝わってくるし。
そこそこ楽しませてくれる映画ではあるけど、トニー・スコットの力量からすれば、もっと面白く出来たのではと思える。

確かに映画の前半に犯人グループが用意周到に計画していたのか、計画通りに多くの乗客が乗る
地下鉄をスムーズにジャックするというシークエンスは実に見事な流れで、編集も含めて、しっかり見せてくれる。
この辺はトニー・スコットらしくって面白いのだけれども、肝心かなめの映画のクライマックスに近づくにつれて、
なんだか映画のテンションをMAXに持って行くという感じではなく、むしろ前半の方がテンションが高いように見える。

でも、これは『サブウェイ・パニック』の時も似たような感じで公安がオフィスを飛び出して、
本格的に犯人を捜索し始めた途端に、映画が緩やかにトーンダウンしていった印象は強かったですからねぇ。

さすがにトニー・スコットの映画となると、こういう交渉だけがメインになってしまうと動きが止まりますね。
個人的にはもっと手に汗に握るような駆け引きが観たかったんで、映画はそんな感じになっていないのが残念。
確かに目的のためには手段を選ばない犯人だったので、デンゼル・ワシントン演じる指令役のガーバーが強制的に
交代させられることによって激怒した犯人が、トンデモない行動に出るというところは良かったけど、それ以外は今一つ。

だから忘れた頃に・・・というわけではないのでしょうが、トニー・スコットは身代金を市長が用意して、
警察に指定時間までに届けるためにと、ニューヨークの市街地を所狭しとパトカーが走り回わる様子の中に、
激しいカー・クラッシュを交えて描くという決断をしています。これは如何にもトニー・スコットらしい発想でして、
確かにそれなりに費用をかけて臨場感溢れる演出を見せてくれるけど、僕は本作は地下鉄が主題の作品なので
あくまで地下鉄を使ったアクションにこだわって欲しかったんですよね。それが本作には欠けているように思う。

映画の終盤に制動状態で固定された地下鉄車両が人質を乗せて暴走するというシーンがありますが、
これが予想以上に緊張感に欠けるシーンで、「どうなっちゃうの!?」とハラハラさせられる雰囲気ではないのが残念。
この辺は明らかに『サブウェイ・パニック』に分があって、あの時代の方が制約があったのに創意工夫で頑張っていた。

この物足りなさをトニー・スコットは2010年の『アンストッパブル』で晴らしたのかもしれませんが、
むしろ本作で地下鉄を止めなければいけないという緊張感を盛り上げて、ハラハラ・ドキドキさせて欲しかったなぁ。

それから、劇場公開当時も言われていたと記憶していますが、
僕も主犯格の元証券マンという役柄にジョン・トラボルタは正直言って、ミスキャストだったと思う。
と言うか、別に元証券マンで市長との因縁があるという経歴は必要なくって、普通に金に強欲な凶悪犯で十分。

ネット取引もしているようで、知能犯であることを強調したかったのかもしれませんが、あんまりそうは見えない(笑)。

似たようなこともデンゼル・ワシントン演じるガーバーにも同じことが言えて、
明らかに彼は巻き込まれた立場なんだけど、人質交渉に長けたわけでもないガーバーが何故指名されたのか、
ただ単に収賄の嫌疑がかかっているから指名されたのか、それともガーバーの人間性に触れて指名されたのか、
あまりハッキリしないまま映画を進めてしまったがために、何故彼が巻き込まれてしまったのかが釈然としない。

とまぁ・・・散々ネガティヴなことを並べてしまいましたが、及第点レヴェルのエンターテイメントではあると思う。

この強引とも解釈できるほどグイグイ引っ張っていく力強さと、猛烈なまでのスピード感は
一時期はダメになりかけていたように見えていたトニー・スコットが復調してきたようにさえ感じられました。
そうなだけに、もっと多くの監督作品を観たかったのですが、これはトニー・スコットにしかできない唯一無二な仕事だ。

また、この解釈には賛否があるかもしれませんが、ガーバーにかかる収賄の嫌疑について、
それをネタに主犯がガーバーを攻め立てて、人質を殺すから正直に話せ!としつこく迫るのですが、
ガーバーはまるで観念したかのように“告白”しますが、映画的にはこの“告白”をグレーなものとして扱うのが良かった。

そう、あくまでこの“告白”の真偽については映画の本質から言って、どうでもいいことなのだと開き直る。
僕はこういう作り手の割り切りは、映画に自然にフィットしているのであれば、あっていいことではないかと思う。
別にここで、几帳面にモラル的にならなくとも映画は十分に成立するし、多様な解釈を促す効果もあって良いものだ。

それから、これもトニー・スコットお得意の手口でもありますが...
映画の時間軸と上映時間をほぼ同期させることで、常にタイムリミットを観客に意識させる仕掛けも良い。

だからこそ、もっとハラハラ・ドキドキさせて欲しかったのですが、実際に犯人グループが狂暴で
目的を達成するためであれば、何でも有りの連中で何をしでかすか分からないからこそ、より緊張感が増す。
しかし、何をするにしても残り時間が足りなさ過ぎるから、交渉役が一生懸命時間を引き延ばす交渉を続ける。
その駆け引きこそが本作の魅力なはず。市長役のジェームズ・ガンドルフィーニがウザ過ぎない程度にしか絡まず、
交渉の足枷になることは無いというのが、現代的な解釈で物語を組んでいるとも思え、脚本でも考慮されたのでしょう。

この交渉という点では、主犯がとにかくお喋り好きだったという設定がポイントなのかもしれない。
ホントに地下鉄ジャックを成功させる目的があったのか、その犯行の行き当たりばったり感が強く微妙なのですが、
『サブウェイ・パニック』の冷酷なロバート・ショーとお喋りな本作のジョン・トラボルタの比較は、なんとなく面白かった。
(まぁ・・・犯人側から見ると、お喋るなジョン・トラボルタは交渉にならなくなってしまうからダメな気がするけど・・・)

個人的には『サブウェイ・パニック』もそこまでの傑作だとは思っていないので、
何故に本作がテレビドラマも含めて、アメリカで何度もリメークされているのか不思議ではあるのだけれども、
この交渉をしっかりと描けるなら価値はあると思います。ただ、残念ながら本作も交渉に関してはイマイチなんだ・・・。

おそらく、トニー・スコットも『サブウェイ・パニック』は若干のユーモアが込められたラストが
インパクト絶大な映画だったので、本作の撮影にあたってもラストシーンへのつながりは難しかったと思う。
その点、全くオリジナルなラストへのシークエンスではあるのですが、ここは実に考えられた良い流れだったと思う。
事件を解決させ、「(いつものように)地下鉄で帰ります」と言うガーバー。しっかりと妻からの“指令”を守って帰宅。

仕事では各地下鉄車両に指示を出す立場で、その通りにやってもらってナンボの立場ですが、
いざ家庭に戻ると、彼は指示を出される立場。でも、映画は家庭人としてのガーバーをしつこく描こうとはしない。
これは敢えて、トニー・スコットは描かなかったのだろう。でも、さり気なく家庭人としての顔を“匂わせる”のが良い。

少々、トニー・スコットらしくない柔和なラストとも解釈できなくはないけれども、
これはこれで『サブウェイ・パニック』とどう差別化するかについて、トニー・スコットなりに悩んだ結果だと思う。
勿論、元々の脚本がどうだったのかは分かりませんが、追加で描こうと思えば描けたのに、敢えてそうはしなかった。

こういうスマートで合理的な判断ができていたトニー・スコットなわけですから、
もう一時期の低迷期は抜けていたと思うんですよね。デンゼル・ワシントンとの名コンビぶりは相変わらずですし。

まぁ、あまり期待を膨らませて観てしまうと物足りないだろうし、
『サブウェイ・パニック』とまともに比較してもダメな作品だと思う。少なくとも現代版としての解釈じゃないと。
そう思って観れば楽しめる部分はあるだろうし、エンターテイメントとして最低限の役割は果たしている作品とは思う。

電車という乗り物は、僕もかつて運転士に憧れていましたが、走らせる乗り物ではなく止める乗り物です。
担う仕事のウェイトとしても、定位置に止めることが大半を占めていると言ってもいいほどで、難易度も高いはずです。
そのことにトニー・スコットも本作を通して気付いたのか、翌年に『アンストッパブル』を撮ったのが、なんとなく面白い。

(上映時間109分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

監督 トニー・スコット
製作 トッド・ブラック
   トニー・スコット
   ジェイソン・ブルメンタル
   スティーブ・テイッシュ
原作 ジョン・ゴーディ
脚本 ブライアン・ヘルゲランド
撮影 トビアス・シュリッスラー
編集 クリス・レベンソン
音楽 ハリー・グレッグソン=ウィリアムズ
出演 デンゼル・ワシントン
   ジョン・トラボルタ
   ジョン・タトゥーロ
   ルイス・ガスマン
   マイケル・リスポリ
   ジェームズ・ガンドルフィーニ
   ベンガ・アキナベ