テイラー・オブ・パナマ(2001年アメリカ・アイルランド合作)

The Tailor Of Panama

人気小説家ジョン・ル・カレ原作の『パナマの仕立人』の映画化。

イギリスの諜報部員アンディが懲罰的にパナマへ送られ、遊びながら諜報活動をしていたところ、
現地で紳士服の仕立て業を営むハリーに興味を抱き、借金に困っているハリーに金儲け話しを吹っかけ、
ひょんなことからハリーがついてしまったウソを利用して、アンディがアメリカから大金をせしめて、
残りはトンヅラして引退してしまおうとする姿を描いたブラック・ユーモアを交えたサスペンス映画。

監督はイギリス出身の個性派監督ジョン・ブアマンで、本作は久しぶりのメジャー映画だ。

僕はこの映画を映画館で観ていますが、かなり怠惰な空気を察知していたので(笑)、
おそらくほとんどの人がこの映画を楽しめなかったのでしょう。確かに一般ウケはしないタイプの作品だ。

敢えて恥ずかしげもなく主張しますが(笑)、
僕はこの映画、スッゴク面白かったですね。久々にジョン・ブアマンが楽しそうに映画を撮っているし。
主人公のアンディを5代目ジェームズ・ボンドのピアース・ブロスナンが演じているのですが、
本作のアンディはボンドとはまるで対照的なアンチ・ヒーローで、言ってしまえば、ただの詐欺師。

共通しているのは、女好きで、“仕事”は鮮やかであるという点のみ。

それでも、いろんな意味でスマートに仕事を進めていく彼の姿には、
まだボンドとは違った意味で、スパイとしての魅力を感じますね。
詳しくは分かりませんが、ピアース・ブロスナンを主役にキャスティングすることは、それなりのリスクだったと思う。
それを承知でキャスティングし、見事に新たな境地を開いた彼の技量もなかなかのものですね。

この映画は、要するにウソが爆発的に大きく膨張していき、
やがては世界をも揺るがすトンデモない出来事にまで発展してしまう様子をブラックに描いています。
そもそもがこんなストーリーを映画化しようという発想が、いかにもジョン・ブアマンっぽい(笑)。

99年にアメリカの管理下からパナマへと移管されたパナマ運河。
このパナマ運河は北米と南米の架け橋となる、アメリカの交易にとっては重要な拠点である。
それゆえ、アメリカとはじめ世界各国がパナマ運河の動向に注目していたわけで、
ましてや管理するパナマの政情は不安定で、運河の設備は至るところが老朽化しており、多額の投資が必要。

すると、必要になってくるのはパナマへの他国からの援助。
アメリカが一番恐れていたのは、中国やロシアなどの他国がパナマ運河を管理下に置くこと。

そこでアンディが利用できると踏んだのは、ハリーがとっさについたウソ。
待ち合わせたモーテルで放送されていたポルノ・ビデオに中国人が出演しているのを観たハリーは、
「パナマ政府はパナマ運河の他国への売却を計画していて、中国が興味を持っている」とウソをつく。

どんな真意があって、ハリーがこんなウソをついたのかよく分かりませんが、
少なくともアンディはハリーに虚言癖があることを知っていて、このウソを利用しようと目論みます。
こうしてハリーのウソはドンドン肥大化していき、戦争寸前までの危機を導いてしまうのです。

正直言って、たいしたアクション・シーンがあるわけでもないのに、
話しが段々、大きくなっていって、不思議と映画のスケールもデカくなっていくのが面白い。
しまいには米軍の攻撃許可が下りて、パナマ運河が大変なコトになったりと、
とにかく罰当たり的なハリーのウソが、トンデモない影響力を帯びてしまいます。

しかし、あたかもハリーがいけないかのように感じられますが、やっぱり一番の悪党はアンディ。
ハリーが“静かなる抵抗”の存在の話しを始めた時点で、彼のウソは明白であり、
おそらくアンディはハリーのウソに気づいていたとは思うのですが、彼は敢えて利用します。
このウソによって、ハリーが破滅してしまう恐れがあるにも関わらず、それでも敢えて利用するわけですから、
アンディはひじょうに冷酷非情なスパイであったということですね。オマケに善悪の区別もありません。

それでもハリーのウソはまるで風船のように面白いように大きくなっていきます。
この辺の皮肉を理解してもらえるかどうかが、この映画の生命線ですねぇ。
一人の男のウソのおかげで、大勢の要人がアタフタし出す様子がとっても面白いのですがねぇ。

それにしてもジョン・ブアマンがまだこのようなタイプの映画を撮れるとは...
まだまだハリウッドの異端児として、第一線で頑張れる勢いはありますね。
冗談抜きで、本作は久しぶりにジョン・ブアマンらしい個性の感じられる映画になっていますね。

過去、何本かでっち上げを主題にした作品はありましたけど、
その中でも本作は優秀な作品だと思いますね。スパイ映画としても悪くないと思います。

まぁ脚本にジョン・ル・カレが加わったのも大きかったかもしれませんね。
そこにジョン・ブアマンの個性的な作風が加味されるわけですから、不思議なテイストになります。
そういう意味では、今までありそうで無かったタイプの映画だと思うんですよね。
特にアンディが諜報部員でありながらも、私利私欲に取りつかれ、オマケに軽薄な男という設定が良い。

まぁあまり一般ウケしない内容であることは百も承知ですが、
ブラック・ユーモアが好きな人には是非ともオススメしたい、迷走型(?)スパイ映画の秀作です。

(上映時間109分)

私の採点★★★★★★★★★☆〜9点

監督 ジョン・ブアマン
製作 ジョン・ブアマン
原作 ジョン・ル・カレ
脚本 アンドリュー・デイビス
    ジョン・ブアマン
    ジョン・ル・カレ
撮影 フィリップ・ルースロ
美術 デレク・ウォラス
衣装 メーブ・パターソン
編集 ロン・デイビス
音楽 ショーン・デイヴィ
出演 ピアース・ブロスナン
    ジェフリー・ラッシュ
    ジェイミー・リー・カーチス
    レオノラ・バレラ
    ブレンダン・グリーソン
    キャサリン・マコーマック
    ハロルド・ピンター
    ダニエル・ラドクリフ
    ローラ・ブアマン
    デビッド・ヘイマン