トータル・フィアーズ(2002年アメリカ)

The Sum Of All Fears

トム・クランシー原作の“ジャック・ライアン・シリーズ”の一つである『恐怖の総和』の映画化。

しかし、よくよく考えてみれば“9・11”の直後に、よくこういう映画が劇場公開できたなぁ。
(いや、“9・11”の直後だったからこそ、劇場公開できたのか?)

かつて『レッド・オクトーバーを追え!』、『パトリオット・ゲーム』、『今そこにある危機』と
“ジャック・ライアン・シリーズ”の映画化作品は立て続けにヒット作となっておりましたが、
結論から申し上げますと、本作は過去の映画化作品と比較すると、どうしても見劣りしますね。
時代性の影響もありますが、もっとクレバーなCIAとして描かなければ、映画は盛り上がらないでしょう。

劇場公開当時から、よく揶揄されておりましたが、
ボルチモアのアメフト・スタジアムに核爆弾が落とされて、凄まじい衝撃で多くの死者を出したのに、
何とか助かった大統領は、不確かな情報しか入手できていないにも関わらず、報復攻撃に躍起になるし、
爆風で吹っ飛ばされた搭乗していたヘリごと墜落したジャック・ライアンは何故か助かるのも、あまりに非現実的。

別に映画の中で非現実的な事象が描かれることは否定しませんが、
本作の場合、こういった場面で突如として非現実的な描写を受け入れろと言われても、話しに無理がある。

「今回の爆撃はヒロシマと比べれば、規模が小さかった」
「今日の風向きでは、放射能の影響は大丈夫」という言葉が、まるで免罪符のように扱われ、
ジャック・ライアンは爆心地へ向けて車を走らせるという、自殺行為に走るのも理解できないし、
それでホントに被曝しないのだから、あまりに都合の良過ぎる映画と後指を差されても仕方ないだろう。

監督は92年の『スニーカーズ』以来の監督作だった、フィル・アルデン・ロビンソン。
89年の『フィールド・オブ・ドリームス』は神格化された野球映画になりましたが、その後はパッとしません。

本作にしても、アメリカとロシアの戦争を誘発させる環境を作って、
実際に緊張関係を高まってしまい、如何にジャック・ライアンが事実を伝えて、
攻撃発動の権限を持っている大統領らに、正しい判断をさせるかという、まるで会社組織の縮図を
象徴する構図を描こうとする発想は良かったと思うのですが、映画の中身がどうにも付いてきません。

それはやはり、つまらないところでミスをしていることに尽きると思いますね。
やはり、先ほど言ったような、細かな部分での雑な展開が映画を壊してしまっている気がします。
こういう部分を疎かにしてしまうと、どうも映画が正当に評価されないだけに、損していると思うんですよね。

ショーン・コネリー、ハリソン・フォードに続いてジャック・ライアンを演じることになった、
ベン・アフレックが奮闘していますが、どうにも役の重たさが感じられないかな。
(そりゃ・・・本作では、まだ新米CIAという設定だから仕方ない気もするが...)

但し、新米CIAであったとしても、周囲から一目置かれる存在であることを示唆する、
何かしらのオーラのようなもの、或いは周囲を驚かせるような頭脳的な鋭さが欲しかったなぁ。
前述したように、「今日の風向きなら大丈夫!」と爆心地へ向けて、車を走らせる無謀さだし、
お世辞にも知性を感じさせる、素晴らしいレポートを書き上げる、有能なアナリストという印象を受けないですね。
いや、これでは“ジャック・ライアン・シリーズ”としてはダメなんです。これは作り手の責任もデカいですね。

モーガン・フリーマンがアッサリ退場してしまうあたりも意外だったのですが、
いずれにしても、この映画の場合は作り手が、この類いの映画のツボを押さえきれなかった印象が強いですね。

本作で規模の大きな映画のヒロインの座を射止めたブリジット・モイナハンにしても、
チョット扱いが小さな役で終わってしまった感があって、凄く勿体ない。

確かに過去の“ジャック・ライアン・シリーズ”で女性キャラクターが目立った例って無いに等しいけれども、
映画のクライマックスで、ジャックの恋愛に関する言及が行われているだけに、よく理解できないですね。
ブリジット・モイナハンはTVドラマの世界で女優業を積んできていただけでなく、モデルとして活躍しており、
おそらく戦略的には本作で本格的にハリウッド女優としてブレイクすることを狙っていたのでしょうが、
本作でこんなに中途半端な扱いを受けてしまったがために、この後のキャリアが微妙な感じになってしまいました。

本作の後は、03年に『リクルート』、04年に『アイ,ロボット』と続けて
主役級の役をゲットしましたが、結局、長く活躍することはできず、なんだか勿体ない感じですね。
(ちなみに彼女は07年に元恋人との子供を出産する決意をし、仕事をセーブしたみたいです)

でも、やっぱり...ちゃんと分かっているディレクターであれば、
本作のような映画で、彼女をこんな中途半端なヒロインとしては描かなかったと思いますね。
そういう意味では、激しい爆撃を受けたであろうボルチモアの病院で働く彼女の危機を描くべきでしたし、
決して容易いことではなかったであろう、混乱の病院で救命にあたる姿を描くべきだったと思います。

勿論、過剰に描くと、こういうお約束の展開は嫌われるのですが、
少なくとも本作を観る限りでは、一体、何のために彼女が抜擢されたのか、よく分からなかったんですよね。
それだけでなく、ジャックがプロポーズする相手として扱うには、あまりに唐突過ぎて戸惑いを覚えます。

できることなら、こういう類いの映画で経験があるディレクターを起用して欲しかったかなぁ。

本作自体は世界的にも、まずまずヒットしたのですが、
やはり本作の出来自体にトム・クランシーも納得できなかったのでしょうか、
結局、2013年にトム・クランシーが他界するまで、一本も続編が製作されることはありませんでした。
(08年にサム・ライミが映画化を検討するというニュースが流れましたが、実現せず・・・)

そんな中、2014年を目安に12年ぶりの“ジャック・ライアン・シリーズ”が劇場公開されるとのことで、
ケネス・ブラナーが監督として撮影が完了したらしいのですが、早くもなんだか不安な企画だなぁ・・・(苦笑)。

(上映時間123分)

私の採点★★★★☆☆☆☆☆☆〜4点

監督 フィル・アルデン・ロビンソン
製作 メイス・ニューフェルド
原作 トム・クランシー
脚本 ポール・アタナシオ
    ダニエル・パイン
撮影 ジョン・リンドレー
音楽 ジェリー・ゴールドスミス
出演 ベン・アフレック
    モーガン・フリーマン
    ジェームズ・クロムウェル
    リーブ・シュライバー
    ブリジット・モイナハン
    マイケル・バーン
    ロン・リフキン
    フィリップ・ベイカー・ホール
    ブルース・マッギル
    アラン・ベイツ
    ジェイミー・ハロルド
    ジョセフ・ソマー
    ジョン・ビーズリー