いちご白書(1970年アメリカ)

The Strawberry Statement

これは60年代後半から続いていた、激しい学生運動を描いたアメリカン・ニューシネマの代表作の一つ。

ニール・ヤング、ジョニ・ミッチェル、クロスビー・スティルス・ナッシュ&ヤング≠ネど、
アサイラム・レコードに所属するフォーク・ロックを中心に彩られる音楽が魅力的で、一風変わった映像表現も特長だ。

68年に実際に起きたコロンビア大学の学生闘争をモデルにした、ジェームズ・クーネンの実体験を原作に、
特に表立った信念があったわけでもないのに、雰囲気に流されて学生運動に参加し、周囲のラディカルな勢いに
乗って、いつしか学生運動の先頭に立って活動し始める青年の、激動の日々と活動家の女の子との恋愛を描きます。

とにかく、本作はこの時代の熱気を感じさせる。今の大学には全く無い雰囲気で、
当時は少なからずとも日本の大学生たちも影響され、“プラハの春”に触発されて世界各国で学生運動が起こりました。

その激しさたるや、本作を観れば明らかですが、今では考えられないことが起きていました。
暴徒化する学生たちを止めるために、大学側は強固な対応をとり警察も出動して、大変な騒ぎとなるし、
負傷者も発生することはしばしばでした。これは時代性もあると思うのですが、当時は何かと闘うという気運が
スゴく高かったのでしょうし、今とは桁違いに学生たちのラディカルな態度が尖りまくっていたのだろうと思います。

政治や世界平和に関する感心も高かったのでしょうし、今ほど個人主義な世の中でもなかったのかもしれない。
勿論、個性を尊重する時代ではあったのだろうけど、何かをアピールするために団結する力というのは、
本作を観る限り、現代とは桁違いだと思う。最近ではストライキとかもなかなか聞かない時代になりましたが、
会社でも組合みたいな組織を組んで、待遇改善を望むとか、そういう時代でもないって感じですからねぇ・・・。

60年代後半からのアメリカは、ベトナム戦争の泥沼化、米ソ冷戦、人種差別、ヒッピー・ムーブメント、
ドラッグ・カルチャー、管理思想への抵抗など、様々な社会問題を抱えながら新しい時代に入ろうとしていて、
現代のアメリカも移民問題などで激しく揺れてはいますが、それでも今以上に多くの問題を闘い続けていました。
「若者を戦場に送るな!」とか、「黒人差別の撲滅!」などが叫ばれ続け、社会が二極化しつつあったはずです。

まぁ、こういう二極化の傾向は現代も同じと言えば、同じですね。なんでも対立構図を作りたがるのですね。

僕はこういう風に、その時代の熱気を伝える映画というのは、とても貴重なものだと思っていて、
本作も描いていることは、そこまで大したことは描いてないけれども、正しく時代が動く瞬間を捉えていて、
その空気感を実に的確に画面に吹き込めていると思う。それだけでも本作に価値があると言っても過言ではない。

そんな本作を撮ったのは、撮影当時、28歳だったという若手監督のスチュアート・ハグマン。
この前衛的な内容の映画を撮れたのは、若手監督だったからこそだったのかもしれませんが、
これだけニューシネマ期を代表する一作を撮っておきながら、本作以降は大成することがなかったのは残念ですね。

特にこれといった信念なく、“シラけ世代”を代表するように、何の目的もなく大学に入学し、
色々と触発されて、いつの間にか学生運動に身を投じ、イデオロギーに傾倒していく姿を見ると、これも真実だと思う。

だって、みんながみんなそうだとは言わないけれども、18歳で将来が決まると言わずとも、
進路を決めて大方の方向性が決まっていくわけで、自分も漠然とやりたいことはあったけど、
そこまで強い覚悟があったわけでもなく、ただ漫然と大学に行っていたというのが最初の3年間くらいだったので、
大学で学ぶことや、研究することの価値を入学して間もない頃は理解することは、とても難しいことのように思います。

でも、過ごしていくと、なんとなく・・・雰囲気的に(?)、自分の更なる進路が見えてくるもので、
言ってしまえば本作で描かれた“シラけ世代”のような主人公の空気感って、現実もそんなもののように思う。
まぁ・・・今の時代は、また違うのだろうし、みんながみんなそうだとは言いませんが、入学から卒業まで信念を持って、
それを貫き通す学生の方が希少のような気がするので、この主人公の空気感というのはありふれたものだと思う。

ちなみに本作、何故か日本ではずっとDVD化されておらず、一時期、オンデマンドDVDで購入できましたが、
今となってはそのサービスも終了してしまったので、容易に鑑賞できない作品の一つとなってしまっていましたが、
NHK−BSでちょいちょい放送があって、2024年になってようやっと観ることができました。この機会に感謝です。

結構、有名な作品だと思うのですが、ほぼお蔵入りみたいな状態であるのは
映画の最初のテロップにもありましたが、撮影前にロケを申し入れした都市から断わられ続けたように、
内容が内容なだけに、扇動的な内容の映画と見られがちで、好ましくない映画の扱いを受けているのかもしれません。

やっぱり本作で圧巻なのは、大学施設内に立てこもった学生たちを退去させるために、
包囲した警官隊が警告した後、それでも Give Peace A Chance(平和を我等に)を学生たちが歌って突っ伏し、
そこへ警官隊がなだれ込んで、煙か催涙ガスのようなものを散布して、力づくで学生たちを排除するという、
約10分間にわたる強制執行を描いたシーンで、これは映画史に残る迫真のラストと言っても過言ではありません。
無抵抗であっても、女性でも情け容赦なく警官隊も対処している感じで、理不尽な暴力にすら見えてしまう。

こういうラストをもってくるあたりが、やっぱりアメリカン・ニューシネマ期の作品という感じですね。

まぁ、正直言って、僕には彼らの学生闘争がどれくらい大義があったものなのかは分からない。
映画はどちらかと言えば、反体制的な学生側の視点のみを描いているため、あまり強いことは言えません。
学生たちが逮捕されることが“箔が付く”と言わんばかりに喜んでいる姿を見ると、「若いなぁ・・・」と思えてしまう。

それから、前述したようにラストは圧巻の出来ではあるけど、それまでが少々散漫になってしまう。
こういうアプローチが本作の特長ではあるのですが、話しがあっち行ったりこっち行ったりするのは賛否両論だろう。

映画としてのインパクトという点では、ラスト10分の強制執行シーンは圧巻の迫力ではあるけど、
ラストシーンのストップモーションは、そこまで訴求するものではないかな。もっと尖ったラストを期待したんだけど。
アメリカン・ニューシネマの系譜も、当時、ナンダカンダ言われながら、作品自体は評価されたものですが、
実は本作はアメリカでもそこまで評価が高いわけではなく、映画賞レースにも絡むことはありませんでした。

それは他の同時期の作品と比較すると、どうしても訴求力という点で劣ると判断されてしまったのではないかと思う。
(本作のキャストにニューシネマ期を飾るスター俳優がいなかったというのもありますけどね・・・)

映画の冒頭では、「訳の分からないオンナをオレのベッドに連れ込むな!」と友人に言う主人公でしたが、
結局は女の子にモテたいがために、学生運動に参加し目立つために調子に乗って、学長を模した人形を蹴ったりする。
オマケに気の合う女の子を見つけては積極的にアプローチするも、相手の女の子は彼氏がいる熱心な活動家。
それでも一緒にいる時間を重ねて、2人が強く惹かれ合い、主人公の学生運動意欲は一気に上がっていきます。

と聞けば、結局は女の子かい!とツッコミの一つでも入りそうなものですが、所詮はそんなものですね(笑)。

映画の後半にある、丘の公園でオンナの子とイチャついていた主人公が5人組の男たちに囲まれるシーンで
異様な雰囲気を感じさせるシーンなのですが、これが「トラブルがあったのよ」で片付けられるのは、まったくの謎。
何かを企む怪しい男たちだったのですが、主人公が持っていた8mmフィルムを壊されただけ、というのは不思議。
ひょっとしたら、主人公が体制側と対立する活動で目立った存在であることを悟ったからだったのだろうか・・・?

とまぁ、主人公にも色々なことがあって、心揺れ動きます。瞬間的にでも、活動をやめたくなったのでしょう。
それでも身を投じた活動は後戻りしがたいところまで行ってしまっていて、最後は鎮圧される勢力に飲み込まれる。
現代ならSNSを使ったりするのでしょうが、この時代はお互いにつながる手段が少なかったので、団結しかない。

そういう意味では、こうして団結するパワーは今となっては貴重なものなのかもしれない。
しかし、何にしても盲目的になってしまうのは得策ではない。後戻りできないところまで来てしまうと、
最悪の場合は破滅に向かってしまう。そうして自滅してしまったことは、歴史を振り替えると数多くあったはずです。

往々にして、独裁政治もそんなものです。支持者がいるからこそ、独裁政治も永らえるわけですが、
盲目的であるがゆえに、支持者も熱狂的になるが周りが見えなくなると客観性を失い、自滅することがあります。
相手に攻撃的になったり、自分たちの矛盾を認めなくなったり...そうなると、明るい未来は築けないですよね。。。

(上映時間101分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

監督 スチュアート・ハグマン
製作 アーウィン・ウィンクラー
   ロバート・チャートフ
原作 ジェームズ・クーネン
脚本 イスラエル・ホロヴィッツ
撮影 ラルフ・ウールジー
音楽 イアン・フリーベアーン=スミス
出演 ブルース・デービソン
   キム・ダービー
   ボブ・バラバン
   ジェームズ・クーネン
   バッド・コート
   ジーニー・バーリン
   ダニー・ゴールドマン
   マーレイ・マクレオド
   マイケル・マーゴッタ