ストーリー・オブ・ラブ(1999年アメリカ)

The Story Of Us

倦怠期を迎えた夫婦が子供たちのサマー・スクールをキッカケに別居生活に踏み切り、
過去を振り返り寂しさに触れながらも、お互い顔を合わせればケンカに至ってしまう、
2人のなかなか素直になれない姿を描いたコミカルなラブ・ロマンス。

これは一見すると、夫婦喧嘩を中立的な視点から描き、
女性的な解釈も加味された作品なのかと思いきや、内容はチョット偏りを感じた。

率直に言うと、この映画の監督はロブ・ライナー、つまり男性が撮った映画なんですよね。
結論を言いますと、この映画はあくまで男性の視点から描いているという印象を僕は受けました。
もっと言ってしまえば、女性の視点からの訴求が弱く、チョット一方的な内容にも見える。

確かにこの映画でブルース・ウィリスが演じた夫ベンもステレオタイプなのですが、
ミシェル・ファイファーが演じる妻ケイティも良く言えば、更年期を迎えつつある難しい時期の女性で、
悪く言えばただのヒステリーで、あまりに彼女の精神的な辛さに触れられていない。

むしろ映画は最初っから、長い夫婦生活から離れ、
久しぶりに一人になってしまったベンの寂しさに対して同情的であり、視点も彼に偏っている。
結局、この傾向は映画の最後の最後まで解消されなかった。案外、男性側から見た内容なんですよね。
確かに“そういう映画”なら納得できるんだけど、この映画は原題から分かる通り、
そもそも夫婦2人の物語なわけで、こういう一方的に偏った内容の映画は、僕にはフェアに思えない。

だから、こういう内容を観ちゃうと、どうしても「どっちが悪い」とか短絡的な議論になってしまうんですよね。

まぁ・・・例え、そういう短絡的な議論にならなかったとしても、
少なくとも偏った視点が、観客の登場人物に対する心象に大きく影響してしまうと思うんですよね。
そういうバランスの悪さって、こういう映画には致命的な難点だとしか僕には思えないのです。

内容はともかく、映画の出来としてはソツが無く、そんなに悪くない。
むしろ丁寧に作られており、予想外に完成度は高い作品と言ってもいいと思う。
かつて夫婦喧嘩を描いた映画は数多くありましたが、その中でも本作はレベルの高さは有していると思う。

けれども、僕はこの映画は過剰に評価することはできない。
前述した視点の偏りを強く感じさせられたおかげで、どうしても好きになれないし、肩入れできないのです。

僕がこの映画で最も、やっちゃいけないのにやってしまったなぁと実感するのは、
ケイティへの愛に目覚めたベンが、ケイティを尋ねたら、ケイティに好意を寄せる男と鉢合わせするシーン。
確かに映画を盛り上げる手段として、こういうシーンを作る意図も理解できるのですが、
できることなら僕は避けて欲しかった、最も安直なストーリー展開だったと思う。

男女の愛憎関係において、浮気って、やっぱり重要なポジションを担っていて、
少なくともこの映画の場合においても、画面として実際に描いてしまうと、一気にケイティへの印象が悪くなる。
何故、ロブ・ライナーはこういうシーンを作ろうとしたのか、僕にはこの選択が全く同意できないのです。

原題が示すとおり、文字通り「2人の物語」であることを強調したいのであれば尚更、
2人が常に対等な関係で、お互いの視点から物事を描くべきで、どちらかに偏った時点でもうアウトですね。
この映画の場合においても「2人の物語」ではなく、「ベンの物語」になってしまう。

映画の冒頭からエリック・クラプトンの主題歌『(I) Get Lost』(アイ・ゲット・ロスト)が切なく流れる。
この曲、それまではリミックスでしか聴いたことがなかったのですが、映画の本編に採用された、
アコースティック・ヴァージョンも凄くいいですね。思わずサントラが欲しくなっちゃいました。

主演2人のコンビネーションは抜群の良さですが、
ミシェル・ファイファーのラスト5分にわたる説得力ある芝居が、映画を引き締めていますね。

相手役のブルース・ウィリスも最近はこういう役柄を好んでチョイスしているようですが、
ミシェル・ファイファーに負けないようにと実に頑張っている。回想シーンの若き日のエピソードはご愛嬌だが、
現在のベンの姿を演じたシーンは総じて良い。この辺の器用さは、もっと評価されてもいいと思う。
さり気ない仕草など、良い意味で中年男性のいやらしさが表現できていたと思う(笑)。

まぁ監督のロブ・ライナーは89年の自身の代表作『恋人たちの予感』の後日談として、
本作を撮ろうと決心したことは明白なのですが、であるがゆえ、余計にフェアに描いて欲しかったですね。

単純に考えると、倦怠期を迎えて、お互いを理解できなくなり夫婦関係が崩壊していくわけですから、
もの凄く後向きな内容感じになって、地味な映画に陥りがちな題材ではありますが、
この映画は頑として明るく描き続けられたというのは、収穫の一つだったと思いますね。
この辺はロブ・ライナーの力量の高さという気がします。こういう仕事はハリウッドの懐の深さですねぇ。

ところで映画の中盤に出てきたベネチアで出会ったアメリカ人新婚夫婦の存在は僕もイヤだなぁ〜(苦笑)。
せっかく異国を楽しむ旅行であることに加え、夫婦再生の旅だというのに、あんなのに付きまとわれたら、
旅行どころじゃなくなってしまいますね。まぁベンとケイティみたく、彼らを振り払うのに団結しそうですが(笑)。

(上映時間96分)

私の採点★★★★★★☆☆☆☆〜6点

監督 ロブ・ライナー
製作 アラン・ズウェイベル
    ジェシー・ネルソン
脚本 アラン・ズウェイベル
    ジェシー・ネルソン
撮影 マイケル・チャップマン
音楽 エリック・クラプトン
    マーク・シェイマン
出演 ブルース・ウィリス
    ミシェル・ファイファー
    ロブ・ライナー
    リタ・ウィルソン
    ティム・マシソン
    ジュリー・ハガティ
    ティム・マシソン
    レッド・バトンズ