ステップフォード・ワイフ(2004年アメリカ)

The Stepford Wives

アイラ・レヴィン原作をコメディ色豊かに映画化したサスペンス・コメディ。
本作は75年にも映画化されており、本作は第2回目の映画化ということになります。

まぁ全米で散々な興行収入成績だっただけに、それなりの内容と言われればそれまでだが、
あながち僕はこういうチープな映画は嫌いじゃないですから、この映画を否定できないですね。

監督がフランク・オズですから、端からコメディっぽい映画になりそうなことは明白なのですが、
あまり気を張らずに観る分には、この映画、そんなに悪くないですよ。むしろよく頑張っています。
噂によると、第1回映画化作品は原作通り、かなりホラーな仕上がりらしいのですが、
本作はほとんどコメディ映画のようになっていますから、見比べてみると面白いかもしれませんね。

映画の舞台は、コネチカット州の閑静な住宅街“ステップフォード”。
テレビ業界を追われ、家族と共にこの“ステップフォード”に流れ込んできたジョアンナ。
彼女は“ステップフォード”に暮らす女性たちが、あまりに不自然に振る舞っているため不信感を抱きます。

男にとって理想的な妻しかいない“ステップフォード”の暮らしに、
ジョアンナの夫ウォルターはすっかり魅了され、“ステップフォード男同盟”の活動に熱中。

何とか“ステップフォード”の暮らしに順応しようと努力するジョアンナですが、
やがて“ステップフォード”のリーダー的存在、マイクが街のカラクリを明かし始める。

まぁ言ってしまえば、クリストファー・ウォーケンとグレン・クローズが開き直った映画なのですが、
この2人だけでなく、主演のニコール・キッドマンを含め、出演陣は上手く機能し合っている感じです。
久しぶりにメジャー映画で主役級の役を張ったマシュー・ブロデリックが何故か懐かしいのですが、
それなりに持ち場が与えられているようで、ニコール・キッドマンに負けない存在感で安心しました。

映画の大きなテーマは、男たちの劣等感だ。
才女と結婚した男たちが自らに社会的な劣等感を抱き、何とかして妻をコントロールしようと願います。
ところが仕事ができて収入があり、家に帰ってきては妻から命令口調で指示されストレスをためます。
そこで彼らの前に登場したのは“ステップフォード”という理想郷です。

但し、この映画がスリラーな要素を有しているのはここからで、
男たちが自分の妻を理想の女性にするためにと、妻を“改造”しようと発想するところだ。

これは生活を変化させるためにと、
自らが変わろうとするのではなく、他者を変えてしまおうと発想する人間の弱さを象徴していますね。
「文句を言っているだけでは、何も変わらない」とはよく言ったもので、変化を受け入れる場合も、
主張するだけでは何も変容が伴わないわけで、自らが意識を変え、行動しなければ何も始まりません。

それと、これは世の常ですが、当然、変えてはならないものがあります。
本質的に変えてはならないものを変えてしまうと、それは大変な結果を呼んでしまいます。
ですから、この「変えていいもの」と「変えてはならないもの」を分別する作業がとても重要なんですよね。

本作で言えば、妻を“改造”するという発想は、倫理的に「変えてはならないもの」になるでしょう。
そんなタブーを侵すものですから、甘い考えを抱いた男たちはしっぺ返しを喰らいます。

ある意味では、男たちの理想を風刺した内容ではありますが、
一方で今回の映画化では、ジョアンナがプロデュースした番組が、如何に行き過ぎた内容であったかを描き、
少しだけフェアに見せようとした部分があり、男性側、女性側、いずれかの視点に偏らないようになっている。

何故か“ステップフォード”に暮らす主婦サラとして、歌手のフェイス・ヒルが出演しています。
あまりに自然に同化しているもんだから(笑)、気づきにくいかもしれませんが、何気に好演ですね。

ただ、この映画にも支離滅裂なところがあって、
“ステップフォード男同盟”の中で、一人の男が妻を呼び出して、まるでATMであるかのように、
カードを口にくわえて認証し、お金を口から出すというシーンで、これは映画の最後まで観ると分かりますが、
まるで映画の設定の根本に疑問を呈するような、支離滅裂なシーンで残念なシーンですね。
(まぁ結果的には、そこそこ面白かったから、映画をブチ壊すような破綻とまでは言えないけど・・・)

まぁ一見すると、ニコール・キッドマンの映画であるかのように錯覚させられますが、
これは実はグレン・クローズの映画ですね(笑)。無理な笑顔で踊る彼女からは、
妙な新興宗教の教祖であるかのような、妙なオーラが感じられ、微妙にホラーでした(笑)。

どことなく最後まで残ってしまうダル〜い空気さえ、何とか解消できれば、
おそらく映画はもっとメリハリが付いて、良い出来になっていたのではないでしょうか。
そういう意味では、よく頑張ってはいるけど、フランク・オズは少し勿体ないことをしたと思います。

どうせなら、もっと開き直って完全なコメディ映画にしてしまえば良かったのに・・・。

(上映時間92分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 フランク・オズ
製作 ドナルド・デ・ライン
    ガブリエル・グルンフェルド
    スコット・ルーディン
    エドガー・J・シェリック
原作 アイラ・レヴィン
脚本 ポール・ラドニック
撮影 ロブ・ハーン
衣装 アン・ロス
編集 ジェイ・ラビソウィッツ
音楽 デビッド・アーノルド
出演 ニコール・キッドマン
    マシュー・ブロデリック
    ベット・ミドラー
    グレン・クローズ
    クリストファー・ウォーケン
    フェイス・ヒル
    ロジャー・バート