体脂肪計タニタの社員食堂(2013年日本)

異例のベストセラーとなった、健康機器メーカーの大手、
株式会社タニタの社員食堂のレシピ本に想を得て企画されたコメディ映画で、
「もしもタニタの社員が肥満だったら・・・」との仮定を基に製作されたため、実質的にフィクションである。

どうやら、宣伝協力として株式会社タニタのスポンサー協力はあるものの、
製作者として強い意見力を持っていたとか、そういう企業宣伝を軸にした映画ではないようなのですが、
どうしても本編自体が、半ばタニタのブランドと社員食堂そのものをPRしているような感じで、少しツラい(苦笑)。

そもそも、これは映画としてはとても苦しい出来で、
コミカルな描写で押し通せたという点だけに優位性があるだけで、それ以外の部分で大きな付加価値は無い。

決して、大スターに“おんぶに抱っこ”という企画であったり、
ただのアイドル映画に落ちぶれているというわけではないのですが、どうしても映画としての魅力に欠ける。
「もしもタニタの社員が肥満だったら・・・」という仮定一本で撮ったという映画になってしまっているのが勿体ない。

ダイエットは勿論、体質にもよるけれども、とても過酷なものでしょう。
健康を害するようなダイエットも話題になっているし、相当なストレスも蓄積されるでしょうね。
それでなくとも、体重が落ちづらい体質や時期があったりして、ダイエットに“公式”なんて無いのでしょう。
ですから、これまでダイエットそのものが映画の題材に頻繁になっていたというわけではないし、
従来の“食べないダイエット”から、“美味しく食べながら実践するダイエット”に着目した点は良いと思う。

そういう意味で、栄養管理や栄養指導の重要性が
あらためて見直されてきている昨今の栄養学に於いて、タニタの社員食堂で実践された、
健康的な食生活に関するキャンペーンは、かつての栄養学や現代人の社会生活に一石を投じたと言ってもいい。

特に社員食堂や学生食堂って、労働や勉学から解放される一時であって、
ユーザーの要求に応えるばかりに、つい栄養管理が疎かになっている部分であって、
個人の栄養管理という意味では、完全に個人に委ねられてきたところで、コントロールのしようが無いところだろう。

どうやら、タニタの社員食堂は1999年から栄養管理が始まったようで、
タニタの社員の間でも、次第に評判となっていったようで、何よりそのレシピに工夫が感じられる。
映画の中で紹介されたレパートリーの中でも、通常のヘルシー食の中では考えられないメニューもあったりして、
各食材の使い方なんかも、とても工夫されていて、思わず「なるほどね」と唸らせられるものがある。

従来の栄養士だけでなく、職業として管理栄養士の地位も徐々に確立されてきており、
やはりタニタの社員食堂で行われていたキャンペーンは、栄養管理のパイオニアだったということでしょう。
(それでも、どうやらまだ、管理栄養士の職務は薄給で恵まれないらしいのが実情らしいけど・・・)

しかし、このタニタの社員食堂の取り組みは話題となり、レシピ本が発売され、
ベストセラーになっただけでなく、このタニタの社員食堂というパッケージが商品化されたようなもので、
今となっては、日本全国各地に“タニタ食堂”がオープンしていて、大きな話題となっています。

癌、高血圧、心臓病、糖尿病など、
様々な現代病がまるで社会問題であるかのように話題となっている昨今にあって、
ダイエットという最も基本的なキーワードの一つになっていますけど、「美味しくないダイエット食」ではダメで、
同時に「美味しいだけで体に悪い食事」も嫌われつつあります。なかなか両立は難しいのですが、
やはり要求は高まる一方で、今考えうる形態としては、タニタの社員食堂はベストに近いということなのでしょう。

しかし、着想点の良さに依存してしまったところがあるのか、
肝心かなめな映画の中身が充実化させられなかったというか、付加価値が付けられなかったのが残念。

題材が題材なだけに、特に訴求する部分が無いのは仕方がないにしても、
コメディ・パートに爆発力がないのが残念で、笑える部分が少なく、ラストもホロッとさせられるほどでもない。
何だか作り手がどこを狙っていたのかよく分からない中途半端な内容で、観ていても焦点が定まらない。

コミカルさという意味では、おそらく過酷なダイエットが嫌になって、
思わず食堂で無差別的にカロリー摂取をしてしまう現場を発見されて、追い回されるなんてエピソードを
強調したかったのだろうけれども、なんだか“ドリフのコント”の二番煎じみたいで面白くないなぁ。
ホントはこういう映画だからこそできる演出というものを、コメディ映画として目指すべきなんですがねぇ。

そもそも体脂肪率計って、世界で初めてタニタが開発したという時点で凄いのに、
現代はその商品力だけで売れるという時代ではなく、“売り方”も大きな問題だったというお話し。

ホントはこれ、今のメーカーの企業活動としては大きなポイントなんですよね。
そりゃ、勿論、“ある程度”の商品力があることが前提ですけどね。映画で描かれたタニタには、
そんな“売り方”に関するノウハウが足りなかったというわけで、色々と試行錯誤しながら、
答えを出すのに時間はかかったけれども、発想の転換で視点を変えようというのが主旨と言っていい。

僕もタニタの体脂肪率計、実は持っているのですが...
これって、航空会社のマイレージが貯まって、それでもらった代物(笑)。
まぁ・・・正直言って、生活必需品ではないし、自然と買おうとは思わない類いの代物なんですよね。
だからこそ、それを“買わせる”というアプローチが必要なわけで、それがダイエット企画だったということでしょう。

確かに本作に小難しいことは必要ないだろうし、
説教臭い内容になることを避けたい意図はあったのだろうが、僕はこの苦労はもっと描いても良かったと思う。

つまりはダイエットの苦労は描いているけど、ビジネスとしての苦労は言及しない。
あまりやり過ぎると、ただのタニタの宣伝にはなってしまうが、このタニタの社員食堂が大きな話題になった、
その原動力をもっとしっかりと描いた方が、映画として大きな特徴を付けられたと思うのですよね。
申し訳ありませんが、このままの内容・出来では、思わず「テレビドラマで十分だな」と思っちゃいます。
(別にテレビドラマを卑下するわけではありませんが、多くの人々と感動を共有する映画にする意図が問題なんです)

どうでもいいけど・・・
“お客様の声”として、「タニタの社員が太っている!」とクレームがつくって、なんだか凄いな(笑)。

(上映時間100分)

私の採点★★★★☆☆☆☆☆☆〜4点

監督 李 闘士男
製作 安田 猛
    小笠原 高志
    佐藤 靖
    三木 明博
    新浪 剛史
    渡部 一文
    毛塚 善文
    岩本 孝一
    齋藤 雅代
    松田 陽三
    滝沢 平
    近藤 良英
企画 加茂 克也
    前田 直典
原作 田中 大祐
脚本 田中 大祐
撮影 永森 芳伸
美術 安宅 紀史
編集 宮島 竜治
音楽 小松 亮太
出演 優香
    浜野 謙太
    宮崎 吐夢
    小林 きな子
    草野 イニ
    渡会 久美子
    藤本 静
    加藤 満
    田窪 一世
    草刈 正雄
    吉田 羊
    壇 蜜
    酒向 芳