007/私を愛したスパイ(1977年イギリス)

The Spy Who Loved Me

すっかりボンドのイメージが板に付いたロジャー・ムーアの3本目。

今回は67年の『007は二度死ぬ』で日本を舞台にした、
ヘンテコな“007シリーズ”の一作に仕上げた過去のある、ルイス・ギルバートでしたが、
映画の基本路線は、たいして変わらなかったようで、今回もある意味で、贅沢なスパイ・コメディのようだ。

が、しかし、僕は本作はかなりマシな出来だと思いましたね。
映画全体のバランスはそんなに悪くないし、ギャグみたいなシーンも映画を壊すような類いではない。

ギャグにご執心な部分もあるが、映画はアトラクション性をキチッと帯びており、
一つ一つのアクション・シーンでしっかり見せ場を作る努力を怠らず、少々、マンネリ化していた、
ここ数作の“007シリーズ”としては、かなりマシな面白さと言っても過言ではないような気がします。
(というか、単純に映画の出来としては、前作『007/黄金銃を持つ男』が酷過ぎたのかも・・・)

但し、言うまでもなく、手放しで喜べる作品とは言い難く、色々と改善点は散見される映画で、
驚くほど雑多な作りを考慮すると、この映画の面白さはたまたまだったのかもしれない(笑)。

映画のハイライトとしては、冒頭にあるボンドがスキーで逃げ回るシーンかもしれない(笑)。
映画の冒頭のアクションが最大の見せ場だったなんて、あまりに情けない気もしますが、
ホントにこの冒頭のスキー・チェイスはなかなかスリリングに撮れていて、ロジャー・ムーアのアップショットが
何故か合成映像丸出しなのを見逃せば(笑)、最後の絶壁からの大ジャンプ(...というか、飛び降り)は
ひょっとしたら“007シリーズ”としても、前例を見ない、あまりに過酷で危険なスタントだったのかもしれません。

今回はカーリーサイモンが甘ったるく歌う、
Nobody Does It Better(私を愛したスパイ)が主題歌で、全米はじめ大ヒットを記録しましたが、
カーリー・サイモンの曲としては、もっと他に良い曲があるんだけれども、007主題歌としては秀逸ですね。

但し、この映画の最大の難点は凶悪な悪役なはずだった、クルト・ユルゲンスだろう。
クルト・ユルゲンスは戦争映画を中心に、数多くの映画で活躍した名バイプレーヤーですが、
初期の“007シリーズ”から比較すると、それは決定的なのですが、あまりに悪役が弱過ぎる!

以前は世界征服を企む巨大犯罪組織“スペクター”を追っていたボンドですが、
確かに今回のクルト・ユルゲンス演じるストロンバーグも核兵器を使って、トンデモないことを企んでいるのですが、
その割りには、チョットとしたことで彼の計画は狂い始めるし、ボンドを撃退するための警戒心が薄過ぎる。
やっぱりこういうのを観ると、『女王陛下の007』でテリー・サバラスが素晴らしかったことを痛感しますね。

この映画のクライマックスにしても、あまりに呆気ないラストだし、
個人的には悪あがきでもいいから(笑)、もっと抵抗して、手強さを演出して欲しかったですね。
これではさすがに、悪役が弱過ぎて、本質的にはボンドの相手になっていない感じですね。

そういう意味では、相変わらずのルイス・ギルバートの調子の映画となっており、
本作の内容を評価されたせいか、彼は次作『007/ムーンレイカー』の監督も任されました。

でも、やっぱり気になっちゃうのですが...
こういう内容の“007シリーズ”になってしまうのは、オールドなファンは憤りを感じているのではないだろうか?

スーツで決め込んで、格闘もクレバーにこなしながらも、
世界征服を企む巨悪を撲滅する潜入任務を任される英国諜報局のスパイで殺しのライセンスを持っている。
そんな凄い任務に就きながらも、任務よりも女性の誘惑に勝てずに片っ端からベッドインしてしまうロクデナシ。
そんなボンドの基本設定に加えて、たまにトボけたギャグみたいなことをやってしまうのが妙味なだけに、
ルイス・ギルバートのように、ギャグありきでボンドを描くのを、快く思っている人って、多くはないような気がします。

ちなみに今回はソ連の女性スパイとボンドが一緒に消えた潜水艦を追うという、
当時の政治情勢を考えても、ある意味では奇想天外なストーリー展開だったわけなのですが、
そのソ連の女性スパイを演じたバーバラ・バックは、後にビートルズ≠フリンゴ・スターの奥さんになる人。
映画全編にわたって登場してくるのですが、クライマックスではかなり大胆なドレスで水浸しになるのが良い(笑)。

オマケとして、それがラストシーンにつながっていくのですが、
これがストロンバーグが用意していた、酒まで用意されたベッドルームがそのままボートになっているのですが、
この発想って、まるでラブホテルみたいで、思わず「なんてオチやねん」とツッコミの一つでも入れたくなる(笑)。

但し、このオチは僕が思うに、シリーズ最高のラストシーンなんですね(笑)。
このボートを回収して、みんなが中の状況を察知してか、バツが悪そうに声をかけるのが印象的で、
まるでボンドたちが見せ物であるかのように描かれるのも、ギャグのようで笑っちゃいましたね。

忘れちゃいけないのは、おそらくストロンバーグより遥かに強かった、
台詞を一つも発さない、不死身の大男“ジョーズ”を演じたリチャード・キールでしょう。
とにかく何をしても死なない大男で、感電させても、断崖から車ごと落下しても、ピンピンしている(笑)。
挙句の果てには、人食いザメのいるプールに落ちても、ボンドの思い通りにはならないと、ある意味で最強(笑)。
マグネットを使った“くだり”には笑わせてもらったけれども、シリーズに残る名キャラクターなのは間違いない。

ただ、正直言って、ロジャー・ムーアが演じるボンドは本作あたりがピークかなぁ。
さすがにショーン・コネリーより年上なだけあって、本作撮影当時も49歳という高齢だったし、
見た目はまだハツラツとしていて若いけれども、50歳を超えてもボンドというのは、いささかキツいかなぁ。

上手くスタントを使って、誤魔化してはいるけれども、
動きの鋭さはショーン・コネリー時代から比べても、確実に悪くなってきているような気がします。

まぁ・・・ここから、“007シリーズ”の迷走は更に深くなっていくのでフクザツな作品ではあるのですがねぇ〜。

(上映時間125分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

監督 ルイス・ギルバート
製作 アルバート・R・ブロッコリ
原作 イアン・フレミング
脚本 クリストファー・ウッド
    リチャード・メイボーム
撮影 クロード・ルノワール
音楽 マービン・ハムリッシュ
出演 ロジャー・ムーア
    バーバラ・バック
    クルト・ユルゲンス
    キャロライン・マンロー
    リチャード・キール
    バーナード・リー
    ロイス・マクスウェル
    デスモンド・リュウェリン
    ウォルター・ゴテル

1977年度アカデミー作曲賞(マービン・ハムリッシュ) ノミネート
1977年度アカデミー歌曲賞(カーリー・サイモン) ノミネート
1977年度アカデミー美術監督・装置賞 ノミネート