スペシャリスト(1994年アメリカ)

The Specialist

まだスタローンがアクション・スターとしてハリウッドで君臨していた頃の作品だ。

興行収入的には成功したけれども、世評は芳しくない作品で、良くも悪くもスタローンの映画ですが、
僕はこの頃のスタローンの出演作品としては、嫌いではないですよ。どことなくチープで、観ていて面白い。
いや、それは作り手が狙っていた路線ではないのだろうけど、色々とツッコミたくなる面白さもあるし。

こういう皮肉っぽい言い方をすると、この映画がホントに好きな人からは怒られそうだけど、
スタローンがただただストイックに闘うだけの映画とかなら、あんまり僕は楽しめないのだけれども、
本作は同じストイックでも、常にシャロン・ストーン演じるメイという女性との濃厚でアダルトな恋の行方があって、
観る前に僕が勝手に予想していた内容よりは、遥かにアクションが少なくって、予想外な映画でもありました。

そのシャロン・ストーンですが、さすがにこの頃は“魔性の女優”として、
堂々ハリウッドでも君臨していたので、本作でも惜しみないくらいセクシーでセレブのオーラ出まくり。
ゴージャスな魅力というのはこういうことを言うのかと納得してしまいましたが、ノリにノッている感じだ。
日本で劇場公開された時に話題となっていたスタローンとのラブシーンは、確かに異様に時間が長いですが、
スタローンの筋肉ばかりが目立つので、下世話な方向で話題となるほどではないと思いましたねけどね。

この頃のスタローンは肉体派アクション・スターとして注目を集めるばかりに、
もの凄い鍛え方をしていたのか、血管浮きでまくりの尋常ではない肉体なので、彼の筋肉に圧倒される。
対抗するシャロン・ストーンもスタローンとシャワーを浴びるなど見せ場を作りますが、本作はスタローンに軍配かな。
別にボディ・ビルディングが好きなわけではありませんが、どうしてもスタローンの筋肉の方が“押し”が強い。
そんな2人が絡み合っても、なんだか前衛的な美術作品を観賞しているようで、映画に不釣り合いな印象を受ける。

主人公レイと敵対する、かつてのCIAの上官だったネッドを演じたジェームズ・ウッズは、
この手の悪役をお得意としているせいか(?)、良い具合のキレっぷりで実に良かったと思いますよ(笑)。

まぁ、あれだけレイと心が通じ合ってお互いに攻防を繰り広げていたのですから、
あの程度のトラップでネッドが引っかかるのかな?と疑問に思える部分はありましたが、
結果的にはこのネッド役でジェームズ・ウッズをキャスティングできたことは、本作にとって大きかったでしょう。
映画の後半にある、公衆電話からレイがかけてきた電話を盗み聞きしながら、次第に近くにネッドがいることを
レイが見破って、お互いに口論になるなんてシーンも、ジェームズ・ウッズの熱演があったから引き締まったようなもの。

途中退場になってしまうのですが、悪役の一人であるエリック・ロバーツはなんだか情けないキャラクター。
彼の父親を演じたロッド・スタイガーは、なんだか本作撮影当時も体調が悪そうだが、圧巻の存在感だ。

監督のルイス・ロッサは、どちらかと言えば97年の『アナコンダ』の方が日本ではインパクトあったかもしれませんが、
本作でもしつこいぐらい、スタローンとシャロン・ストーンのネットリしたロマンスの雰囲気を映画の基調として、
随所に描かれる、レイが仕掛ける爆弾が爆発するシーンでは、良くも悪くもハリウッドの豪快さを象徴した演出だ。
破壊を楽しむかのようなハリウッドの姿勢は好きではないのだけれども、ここまで何度も何度も爆発が連続すると、
観ていてスカッとするかのような爽快感があることも否定はできない。なかなかの迫力で、本作の“売り”でしょうね。

ただ、映画の後半にあるレイとメイが宿泊していたホテルの最上階部分だけが
部屋を爆破されたことで、隣の海に落下するシーンなんて、当時の映像技術を考慮しても
もっと上手く出来ただろうと思えるチープさで、こういうトンチンカンなところが所々あって、なんだか笑える。

これは、そもそもレイとメイが惹かれ合うというエピソードにしても同様で、
いくらメイのセクシーボイスが受話器から流れてきたからと言って、冷静なレイがあそこまでメイにゾッコンになって、
四六時中彼女を追い回すという設定自体、なんだか説得力が無い描写で、なんだかレイがだらしない男に見えてくる。

散々、映画の中で悪役であるジェームズ・ウッズ演じるネッドがレイのことを褒めていて、
爆破を請け負う、爆弾に精通した天才をストイックに演じているのだから、もっとレイをスマートに描いて欲しい。

そう思って観ると、何が意味があるのか分からないが、映画の冒頭にレイが捨て猫を拾うシーンがあって、
時間通りに動けるからとレイが愛用する、市街地の路線バスに野良猫を抱きかかえたまま乗り込むなんて、
現実世界ではありえないシーンですけど、アメリカでは普通の光景なのかと、ツッコミを入れたくなってしまいました。

日本では犬猫などペット同伴で公共交通機関を利用する場合は、盲導犬を除いて、
ケースに入れないと利用できない規約になっているはずですからね。まぁ、あくまで映画だからいいのですが。

そのバスの中でも、お年寄りに席を譲る心優しきスタローンというのは定番だが、
そこで譲った席を強引に奪い取った不良の若者たちを見て、サングラスを「持っててくれ」とお年寄りに渡して、
次々とバスの車内で若者をのしていくスタローンの屈強な腕前は圧巻ですが、いくらなんでもやり過ぎでしょう(笑)。

それでも逮捕されないスタローンはさすがの貫禄ですが、結局、この辺はいつものスタローンの映画って感じ。

特にシャロン・ストーン演じるメイの本音がよく見えない映画ですので、
彼女をどこまで信用していいのか、観客にも判断がつかない危うさがあるのは、良かったと思います。
ただ、そうであるがゆえに映画のクライマックスまで持っていくのは難しかったと思うのですが、
今一つラストの2人の関係に至るところまで説得力が弱い。メイのやりたいことは一つであるのは分かりますが、
そうであるなら、メイにとってレイの存在は利用することでしかないはずですが、それ以上の感情を描くのは難しい。

だって、レイにしても散々、「直接会うことはない」と電話していたにも関わらず、
下心を抑え切れずにメイの前に現れて、翌朝にはベッドでメイに説教クサいことを言うオッサンですよ(笑)。
メイの立場からしたら、ウザくてたまらないと考えるのが自然でしょう。だからやっぱり、メイに裏があるように見える。

それも含めての映画なのでしょうけど、欲を言えば、もっとスタローンのアクションは観たかったかな。
ムキムキ筋肉隆々のスタローンに、セクシーなフェロモンをムンムン発散するシャロン・ストーンの共演なのに、
この2人が絡むアクション・シーンって、ほとんどが爆破シーンに頼った構成なので、凄く少ないんですよね。

さすがにシャロン・ストーンも本作あたりで、セクシーな役柄ばかりということから脱却して、
翌年からシリアスで表現力を求められる作品に数多く出演するようになりました。そうとう気にしていたようですね。
特に95年、マーチン・スコセッシに『カジノ』に起用されてからは、彼女の実力も評価されるようになりましたね。

実際、この路線には限界あるでしょうし、“添え物”のように扱われることも少なくないので、
女優さんとしては納得いかない部分も大きいでしょうし、映画女優としての自尊心にも関わるところでしょうね。

アクション映画としては物足りないが、爆破シーンが好きな人っているようですので、
そういう人にはオススメできるし、何よりスタローンの肉体を拝みたい人には自信を持ってオススメできます(笑)。
また、90年代の映画って、独特な雰囲気があるなぁと今になって思うのですが、本作はその代表例だと思います。
そんな90年代の雰囲気丸出しの映画が好きな人は、見逃せない一作ですね。00年代以降には無い空気感です。

レイの描写を観る限り、ハードボイルドな映画を志向したように思えるのですが、
ルイス・ロッサはそこまで器用なディレクターだとは思えないですし、それも中途半端な感じですね。
ハードボイルドに描きたいなら、そもそも主演はスタローンじゃないような気もしますが、もっと渋くないとね。

だって爆破請負人なわけですから、あんなにムキムキに鍛え上げる必要はないでしょう。
もっとベテランの渋い役者が主演の方が、このレイという男のキャラクターに合っているような気がします。

(上映時間110分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

監督 ルイス・ロッサ
製作 ジェリー・ワイントロープ
   スティーブ・バロン
   チャック・ビンダー
   ジェフ・モスト
脚本 アレクサンドラ・セロス
撮影 ジェフリー・L・キンボール
音楽 ジョン・バリー
出演 シルベスター・スタローン
   シャロン・ストーン
   ジェームズ・ウッズ
   エリック・ロバーツ
   ロッド・スタイガー
   マリオ・エルネスト・サンチェス 

1994年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト作品賞 ノミネート
1994年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト主演男優賞(シルベスター・スタローン) ノミネート
1994年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト主演女優賞(シャロン・ストーン) ノミネート
1994年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト助演男優賞(ロッド・スタイガー) ノミネート
1994年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト・スクリーン・カップル賞(シルベスター・スタローン、シャロン・ストーン) ノミネート