シックス・センス(1999年アメリカ)

The Sixth Sense

フィラデルフィアで市民栄誉賞を受賞した有能な小児心理分析医マルコムが
自宅に乗り込んできた元患者の凶弾に倒れながらも復職し、複雑な精神症状を抱えた
少年コールを診断することになり、次第にお互いに心の交流を重ねていく姿を描いたサスペンス・ドラマ。

個人的にはM・ナイト・シャマランのトリックありきの映画は好きになれないのですが、
本作の登場は衝撃的でした。本作劇場公開当時、僕は高校生でしたが、当時は空前の大ヒット。
全米だけに拠らず、日本でも鳴り物入りで劇場公開されるいなや、超特大ヒット作となりました。

確かにM・ナイト・シャマランが後年に撮った作品よりは、ずっと出来が良いです。
ストーリーの謎解きが話題になったのですが、それ以上に映画の撮り方が凄く良いです。

当時、この映画が大ヒットしたおかげで、映画のラストに大ドンデン返しを作ることが流行りましたが、
どれも本作の後発的な発想に終始してしまい、映画の本質を見失っているような作品が多くありました。
おそらく当時のハリウッドでも、本作でのM・ナイト・シャマランのアプローチというのは、衝撃的だったのでしょうね。
言っても、M・ナイト・シャマランはハリウッドではマイノリティ的な存在であり、実績は無いに等しかったはずだ。
それでも、多くの人々が上手くハマったクライマックスの妙味に酔いしれたというのは、大きな時代の変化と言えよう。

個人的には「意外性があればいいってもんじゃない!」と思っているのですが、
やはり映画というメディアですから、ミステリー小説では味わえない映画ならではの醍醐味を感じさせて欲しい。
そういう意味で本作は、台詞に頼らない心理描写や表情の変化など、その一つ一つを丁寧に描いており、
M・ナイト・シャマランが撮影当時、まだ20代であったという事実に驚かされてしまいますね。

ちなみに、そのM・ナイト・シャマランは映画俳優としても活動していて、
予算を削るためなのか、積極的に出演したかったのか、児童虐待を疑う青年医師の役で
チョイ役ではありますが出演しており、こうして自身の監督作品に出演することがお約束になっていきます。

当時はハリウッドを代表するアクション・スターだったブルース・ウィリスが、
このようなシリアスな映画というイメージはなかったのですが、本作に上手くフィットしていて、
やはりTVドラマなどで下積み期間があっただけあって、意外に器用な側面を見せてくれてますね。

振り返ると、ドラマ系の作品にも多く出演してはいるのですが、
どこかアクション・スターとしてのイメージが強かったせいもあって、インパクトが弱くなってしまいましたが、
本作ではブルース・ウィリスの寡黙な芝居が上手く映画の世界観にフィットして、なかなか良い仕事をしている。

一方、精神疾患を抱える少年コールを演じたハーレイ・ジョエル・オスメントは、
本作の全世界的なメガヒットに押される形で、彼の存在感も大きなセンセーションを巻き起こし、
『ホーム・アローン』シリーズで知られる、マコーレー・カルキン以来の天才子役としてもてはやされました。
本作でも11歳という若さで、アカデミー助演男優賞にノミネートされるという快挙を成し遂げました。

しかし...やはり子役というのは難しいですねぇ。
彼もまた、2000年代に入ると子役からの脱却という大きな課題に苦しみ、
18歳の頃に飲酒運転で逮捕、オマケにマリファナ所持が発覚と、次々にスキャンダルに見舞われました。

案の定、ハリウッドでもメジャー級の映画のオファーは来なくなり、
2010年代には多くの映画ファンからも、忘れられたような存在となってしまったことが、残念でなりません。

当時はあれだけ注目されてましたからねぇ。相当なプレッシャーもあったでしょう。
結局、01年のスピルバーグの『A.I.』への出演をピークに、ハリウッドでも目立たぬ存在になってしまいました。
まだ俳優活動を続けているようですが、子役がそのまま大人の俳優になっていくというのは難しいですねぇ。
(つくづく、子役から大人の女優へと活動を続けたジョディ・フォスターはスゴいと、感心させられます)

映画のオチは、今になって思えば、そこまでビックリするほどのオチではありませんが、
本作はそのオチに至るまでの描写をしっかりと行い、プロセスがしっかりした映画に仕上がったからこそ、
このオチが映えるという典型的な作品であり、トリッキーな映像表現に固執することなく、
しっかり映画を作り込んだことが、本作が多くの映画ファンに認められた要因であったと思いますね。

タイトルは日本語で言う、「第六感」のことを意味してますが、
本作で描かれたのは「第六感」というより、死者が見えるという特殊能力そのものである。

本作が凄いのは、どこかドキュメンタリー・タッチを意識して描いているところで、
映画の視点が「第六感」を持っている本人ではなく、彼を診断する医師に持たせているというところ。
だからこそ、映画のラストはインパクトを与えられるのですが、あまり無いタイプの映画になっています。

結局、M・ナイト・シャマランはこの「第六感」に囚われ過ぎたのだと思います。
本作を観る限り、M・ナイト・シャマランの演出力は凄く高いですし、器用なディレクターだと思います。
それが本作のような静かで淡々とした、「第六感」や超常現象をテーマにした映画に固執し過ぎて、
せっかくの映画監督としてのキャリアの成長を止めてしまったように、僕には思えちゃうんですよね。
個人的には、もっといろんなタイプの映画を撮って欲しかったし、チャレンジして欲しかったなぁ。

やはり映画というのは、ラストでビックリさせるということに目的を置いてはダメで、
そこに至るまでの過程をしっかり作り込んでこそ、そのラストに価値が生まれるというものだと思う。
そういう意味では、本作での大成功が彼のキャリアを狂わせてしまったと言っても過言ではないかもしれません。

まぁ・・・何本かは出来の良い映画はあるんのですけどね。
それでも、全て本作と同じタイプの映画ですので、常に本作と比較されてしまうのが不運に思えますね。

驚愕のラストと言われながらも、これだけ感動的なクライマックスというのは、
なかなかできないことで奇跡的な映画でもありますから、こういう作品を製作した後が大変だったのでしょう。
M・ナイト・シャマランはずっと本作の幻影を意識しながら、創作活動していたのでしょうね。

しかし、死後の世界というものがあるのか無いのか分かりませんが...
亡くなった親族が自分を見ていたら・・・と思うと、なんだか泣けてきますねぇ。
本作で描かれたトニ・コレット演じるコールの母親の涙は、この映画の隠れたハイライトと言っていいぐらいだ。

(上映時間106分)

私の採点★★★★★★★★★☆〜9点

監督 M・ナイト・シャマラン
製作 フランク・マーシャル
   キャスリン・ケネディ
   バリー・メンデル
脚本 M・ナイト・シャマラン
撮影 タク・フジモト
音楽 ジェームズ・ニュートン・ハワード
出演 ブルース・ウィリス
   ハーレイ・ジョエル・オスメント
   トニ・コレット
   オリビア・ウィリアムズ
   トレバー・モーガン
   ドニー・ウォールバーグ
   グレン・フィッツジェラルド
   ミーシャ・バートン
   M・ナイト・シャマラン

1999年度アカデミー作品賞 ノミネート
1999年度アカデミー助演男優賞(ハーレイ・ジョエル・オスメント) ノミネート
1999年度アカデミー助演女優賞(トニ・コレット) ノミネート
1999年度アカデミー監督賞(M・ナイト・シャマラン) ノミネート
1999年度アカデミーオリジナル脚本賞(M・ナイト・シャマラン) ノミネート
1999年度アカデミー編集賞 ノミネート