シックス・センス(1999年アメリカ)

The Sixth Sense

これは劇場公開されるやいなや、たちまち空前の大ヒットとなった不思議なサイコ・ミステリー。

映画の主人公はフィラデルフィアで市民栄誉賞を受賞するほど高名な精神科医であるマルコム。
彼は開業医として活躍してきたようですが、ある夜に突如として自宅に侵入してきた不審者と遭遇する。
相手は自分のことを主治医として認識していて、実は10年ほど前に診療していた少年が成長した元患者でした。

そこから1年後、「死者が見えるんだ」と話すシングルマザーに育てられる一人の少年と知り合い、
マルコムは私生活で妻との関係がすっかり冷え切ってしまったことを契機に、この少年の診察にのめり込みます。

監督は本作で一気にその名を世界に轟かせたM・ナイト・シャマランで、確かに本作は素晴らしい仕事ぶりだ。
正直、本作以降は似たような調子の映画を連発することになり、食傷気味になってしまったのが残念でしたが、
やっぱり最初に評価された本作の出来は別格である。映画の雰囲気づくりをはじめ、細かな描写も実に優れていて、
人間の第六感を巧みに表現できている。観た後に、ジワジワと何とも言えない感覚が染み渡る不思議な作品だ。

これをホラー映画と言っていいのか、個人的には迷うところではあるのですが・・・
この少年との関わりの中で、それまでの自分の生き方を見つめ直すと同時に、それまでのマルコムであれば
一人の患者にここまで懇切丁寧に関わることがなかったものの、少年の不思議な能力がマルコムをも変えさせる。

死者が見えると主張する少年コールを演じたハーレイ・ジョエル・オスメントは本作で一世を風靡し、
一気にハリウッドでも注目の子役となりましたが、その後も俳優業は継続しましたが、活躍時期は短く、
大人の俳優にスライドしていくことは上手くできませんでした。まぁ、本作は確かに神業的な芝居を見せていますね。

この映画のラストがもたらす不思議な感覚のおかげで、マルコムが置かれる現実は勿論のこと、
コール少年は精神分裂のような症状に悩まされ、マルコムの治療を受けて人生を必死に上向かせたいと
彼の母親とともに頑張っていたところに、皮肉な結果をもたらすという、複雑性をシンプルに表現しているのはスゴい。

この辺はM・ナイト・シャマランの不思議な力だと思いますが、本作では特に瑞々しいものに感じられる。
この映画を観る限りでは、とても能力の高いディレクターだと思うし、数多くのことを映像として表現できる人だと思う。
これはハリウッドでも希少な映像作家と言ってもよく、本作の後も持ち味を生かして、いろんな映画を撮っていけば、
スゴいディレクターになるだろうという期待を抱かずにはいられない、可能性を指し示した作品だったと思うのです。
ところが、これ以降は本作の焼き直しのようなタイプの映画ばかりに固執してしまって、どうにももどかしく見えた。

ひょっとすると、良くも悪くも本作の大ヒットが彼の作家性を惑わしてしまったのかもしれませんね。
まぁ、元からこういうスピリチュアルな世界観が好きなのだろうけど、ここに閉じこもっているように見えたのは残念。

コール少年と出会ってからのマルコムが映るシーンは、その全てが実に巧妙に作られていますね。
こういったあたりはM・ナイト・シャマランの緻密で計算高い部分をよく象徴していると思う。そう簡単な仕事ではない。
マルコムが妻との会話がなく、冷淡にしか見えない態度であり続けるのを、なんとかしたいともがく姿も歯がゆい。
でも、こういった何気ない演出から本作のM・ナイト・シャマランのアプローチは実に的確なものであったと思います。

劇場公開当時はネタバレをさせないようにと大きな話題になっていた作品でしたが、
確かに本作の場合はオチを知って観てしまうと魅力が半減してしまう部分はあるかもしれませんね。
ただ、実際に僕は本作を過去何回か観ていますけど、本作の価値を実感するのは何度観ても楽しめることだろう。
初見時とはチョット違った楽しみ方ができるし、単にストーリーが面白いというだけではないことに気付かされるはず。

まぁ、言ってしまえば2回目は“答え合わせ”として楽しめると思います。これは初見時には気付かなかった、
それぞれのプロットの意味も含めて、緻密に良く出来ていることを実感させられるはずで、本作の醍醐味の一つです。

霊を感じることができる感覚を「第六感」としているのだと思いますが、自分には今のところ霊感が全く無いので、
こういう感覚って、スゴく自分には特殊なものと感じます。雰囲気的に霊が出そうとか、そういうのはありますが...
だからと言って、何か見たことがあるとか感じたことがあるとか、金縛りにあったとかそういうのは無いのでね・・・。

おそらく、M・ナイト・シャマランはこういったことに強い興味があって、固執して描き続けているのでしょうが、
撮影当時、M・ナイト・シャマランもまだ20代だったとは信じ難いほど、実に落ち着いた画面になっていて驚く。
そうなだけに、僕の中ではM・ナイト・シャマランの監督作品って、いつも本作の幻影を追い求めている気がする。
それくらいのインパクトのある成功体験だったのは事実だろうし、彼が最も自由に表現できた作品なのかもしれない。

ただ、自分には霊感が無いと言った手前、あまり強いことは言えないのですが・・・
例えば霊視とかって、どれくらいハッキリと見えるのだろうか?と疑問には思う。例えば自分の場合、寝ているときに
夢を見ることはありますけど、夢の中で「これは夢なんだ」と自覚することって、まずない。覚えている夢を振り返ると、
冷静に考えて、不思議・不可解・非現実・支離滅裂な状況なこともあるけど、それでも夢の中で自覚することはない。
この、夢の中で「これは夢なんだ」と自覚したことがあるという人の話しも聞いたことはあるので、あり得るのだろうが、
霊視の場合もハッキリと見えている場合と、ボヤボヤっと見えている場合など、きっと様々なのではないかと思う。

本作で描かれるコール少年はハッキリと死者が見えているタイプのようで、
学校の中でも首吊り死体が見えたりと、なかなかヘヴィな情景が目に入ってしまうというのは、とても難しい状況だ。

以前、夢の中で「これは夢なんだ」と自覚してしまうのは、あまり良いことではないと聞いたことがあります。
この根拠は全くよく分かりませんが、ひょっとしたら本作もそのようなことを描いているのかもしれませんね。
マルコムが全てのカラクリが分かった時点で、強いショックを受けて、とても切ない気持ちにさせられるわけです。
これは何を意味しているかは観客の受け止め方次第ですが、突き付けられる現実があまりに酷なものだ。

映画の序盤でコールの母親が「早く食事しなさい」と促して僅かな時間の間キッチンから離れ、
戻ってきたときは、食卓テーブルで佇むコールの後ろにあるキッチンの戸棚が片っ端から空いているという
まんまホラーなシーンが印象的だ。映画で描かれている限りは、音一つ立てずにこうなっているのだからホラー(笑)。

でも、こういうシーンを何気なくサラッと描けてしまうことに、当時のM・ナイト・シャマランの凄みを感じます。
映画のラストの不思議な感覚も合わせて、やっぱり本作はM・ナイト・シャマランにしか撮れない作品だったのだろう。
そう断言してもいいほど唯一無二の映画であり、M・ナイト・シャマランの作家性が確立された作品なのでしょう。

医師のマルコムを演じたブルース・ウィリスは、この頃は日本でもすっかりアクション・スターのイメージが
強くなってしまっていて、本作のような静かなインテリっぽい医師を演じるということ自体、少々意外なものでしたが、
これはとても上手い仕事ぶりだなぁと感心しました。キャスティングも抜群に良かったのは特筆に値すると思う。
(先日、ブルース・ウィリスが痴呆症を発症していると報道されましたが、是非、平穏に過ごして欲しい・・・)

それから、もう一つ特筆すべきはコール少年が母親に亡くなった祖母からのメッセージを伝えるシーンで
コール少年が死んだ人とコミュニケーションできるという能力を使ったわけですし、とても重要なシーンだったと思う。
コールの母親を演じたトニ・コレットが、コールの祖母からのメッセージに涙を流すシーンはハイライトだ。
なんとなく過ぎ去ってしまう日々の中で、学校生活に不安を抱える息子のコールとの生活に強い不安を感じながら、

トニ・コレットの表情一つ一つからは、何とも言えない疲れと不安がにじみ出ていて忘れられない。
M・ナイト・シャマランの登場人物の一人ひとりについて、できるだけ丁寧に描こうとする作り手の意図が嬉しい。

99年度の空前の大ヒット作で、当時の映画館は満員御礼だったわけで、その内容も大きく話題になりました。
今どきの映画界であんなことは起きないだろうなと嘆いてしまう。一映画ファンとしては、とても寂しいことです。
M・ナイト・シャマランのあまりにスゴ過ぎた監督デビュー作ということで、是非多くの方々には観て欲しい作品だ。

ただ、一つだけどうしても気になる点がある。それはフラッシュ・バックの使い方だ。
マルコムが銃で撃たれたシーンをもう一回挟んでいるのは蛇足のように感じられた。これは無くてもいい。
その方が観る者の想像を惹起するような構成になって、本作の場合はそれくらいの塩梅が丁度良いと感じる。
そうでなくとも、映画全体がクドい部分もあるので、ラスト・シークエンスはもっとシンプルに構成して欲しかった。

ここだけがどうしても気になって...大傑作です!と自信持って言えないところが、またなんとも・・・(苦笑)。

(上映時間106分)

私の採点★★★★★★★★★☆〜9点

監督 M・ナイト・シャマラン
製作 フランク・マーシャル
   キャスリン・ケネディ
   バリー・メンデル
脚本 M・ナイト・シャマラン
撮影 タク・フジモト
音楽 ジェームズ・ニュートン・ハワード
出演 ブルース・ウィリス
   ハーレイ・ジョエル・オスメント
   トニ・コレット
   オリビア・ウィリアムズ
   トレバー・モーガン
   ドニー・ウォールバーグ
   グレン・フィッツジェラルド
   ミーシャ・バートン
   M・ナイト・シャマラン

1999年度アカデミー作品賞 ノミネート
1999年度アカデミー助演男優賞(ハーレイ・ジョエル・オスメント) ノミネート
1999年度アカデミー助演女優賞(トニ・コレット) ノミネート
1999年度アカデミー監督賞(M・ナイト・シャマラン) ノミネート
1999年度アカデミーオリジナル脚本賞(M・ナイト・シャマラン) ノミネート
1999年度アカデミー編集賞 ノミネート