シャイニング(1980年イギリス)

The Shining

コロラドの山奥にある築70年になる高級ホテルの冬季管理人となった、
作家のジャックは妻と子を連れて、雪で閉ざされるホテルに5ヶ月滞在することになる。
過去に起こった凄惨な殺人事件もあり、3人だけが残ったホテルからは異様な雰囲気が漂う。
やがてジャックが何かに取りつかれたように妻と子に襲い掛かる姿を描いたホラー映画。

人気小説家スティーブン・キングの原作を巨匠スタンリー・キューブリックが映画化しました。

しかしながら今回はスティーブン・キングの原作からやや逸脱した内容になっており、
スタンリー・キューブリックは独自な解釈で新たなストーリーを作ったと言っても過言ではありません。
おそらくこの辺が原作のファンの間では、多くの議論を呼ぶところでしょうね。

一方で、スタンリー・キューブリックの映画ということで、少々身構えして観たのですが、
思いのほか、フツーのホラー映画といった具合でチョット拍子抜けかもしれません。
勿論、映画の質は高いと思うし、彼なりの独自性が加わった演出の力も大きく、個性的な映画ではある。
ただ僕が言いたいのは、例えば彼にしか描けない映画的なマジックは生じていないということ。

おそらく彼の手腕をもってすれば、もっと凄い映画になっていたと思えるだけに伸び代はまだある作品だと思う。

この映画を観ていて、最も気になるのは...
本作はあくまでスタンリー・キューブリックの映画ではなく、ジャック・ニコルソンの映画だという点だ。
あの『博士の異常な愛情』でさえ、ピーター・セラーズの一人三役は強烈な異彩を放っていましたが、
最終的にはスタンリー・キューブリックの映画ではなく、ピーター・セラーズの映画だったとまでは言えず、
キューブリックがメガホンを取ったからこそ為せる、映画的なマジックって確実にあったと思うのです。

ところが本作はそんなマジックが生じる余地を許さないぐらい、
最初っから最後までジャック・ニコルソンの映画なのである。特に斧で扉をブチ壊すシーンはその象徴だろう。

おそらくスタンリー・キューブリックの映画に出演しておいて、
ほぼ完全に映画の最初から最後まで支配してしまったのは、ジャック・ニコルソンぐらいだろう。
そう思わせるぐらい、本作での彼の存在感は圧倒的ですらありましたね。

それと、映画のキー・マンであるはずの息子ダニーの描き方が決定的に上手くない。
やっぱりキューブリックは子供を描くことが、得手だったとは言えないと僕は思いますね。

雪で閉ざされた閉塞感を上手く利用した映画なのですが、
恐怖心を煽るような不穏な音楽を使ったり、エレベーターから血の洪水が溢れ出てくるイメージを多用させたり、
とにかく特撮を使わずに、如何に効果的に観客の恐怖を盛り上げるかに、大きく力を注いでいますね。
繰り返しこれらの恐怖演出を入れることによって、サブリミナル効果を狙っていたというのはあるでしょうね。

とは言え、キューブリックは当時、流行りものの一つであったステディカムと呼ばれる、
最新鋭のカメラを使って、移動撮影を更に進歩させています。
特にダニーがホテル内を乗り物に乗ってグルグル回ったり、迷路内でのシーンに大きく役立っていますね。

ちなみにDVDに収録されたスタンリー・キューブリックの娘であるビビアンが撮った、
貴重なメイキング・フィルムがなかなか面白い。撮影時のジャック・ニコルソンらも映っており、
完璧主義者のスタンリー・キューブリックが苛立ち、撮影現場がギスギスした空気になっているのも、
実に克明にフィルムに収められていますね。これだけでも十分に価値のあるフィルムと言えます。

ジャック・ニコルソンに好き放題やらせ過ぎましたねぇ。
勿論、それがキューブリックの狙いであったことも否定はできませんが、
キューブリックの監督作ということを考えると、何かもう一工夫欲しかったところですね。
一応、あれやこれやと指示は出していたようですが、妻役を演じたシェリー・デュバルには随分と細かいところを
修正させていますが、ジャック・ニコルソンはほとんど彼の能力に任せたという感じですね。
これが結果的にキューブリックの演出が勝てなかったという印象はどうしても拭えないですね。

それと、ホテルに潜在する魔力的な力をもうチョット強調して欲しかったですね。
次第に妻と子に襲い掛かる恐怖が直接的なものになっていきますが、
ホテルそのものが2人に襲い掛かっているかのような圧迫感が、もっと強くても良かったかもしれません。

さりとて、予想外なほどに真っ当で正攻法なホラー映画だったとは言え、
これだけの力を持った映画を平然と撮れるというのは、並大抵のディレクターでは困難なこと。

ちなみに映画のクライマックスにあった息子のダニーが“レッドラム”と連呼するシーンで、
鏡を通して映った文字では「MURDER」となっているのは、なかなか上手い仕掛けでした。
ここでダニーの超能力が初めて映画の中で効力を発揮するのですが、
こういうトリッキーな仕掛けも、キューブリックらしいと言えば、キューブリックらしいですね。

なんか...そろそろハリウッドでもリメークが企画されそうな気がするんだけど、
もし実現したら、今度はどこまでスティーブン・キングの原作に忠実に映画化するのでしょうかねぇ?

(上映時間143分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 スタンリー・キューブリック
製作 スタンリー・キューブリック
原作 スティーブン・キング
脚本 スタンリー・キューブリック
    ダイアン・ジョンソン
撮影 ジョン・オルコット
編集 レイ・ラブジョイ
音楽 ベラ・バートック
    ウェンディ・カーロス
出演 ジャック・ニコルソン
    シェリー・デュバル
    ダニー・ロイド
    スキャットマン・クローザス
    バリー・ネルソン
    フィリップ・ストーン
    ジョー・ターケル
    アン・ジャクソン

1980年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト主演女優賞(シェリー・デュバル) ノミネート
1980年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト監督賞(スタンリー・キューブリック) ノミネート