ショーシャンクの空に(1994年アメリカ)
The Shawshank Redemption
スティーブン・キング原作の『刑務所のリタ・ヘイワース』の映画化で、
未だに根強い人気のある作品で、『グリーンマイル』などで知られるフランク・ダラポンの監督デビュー作でもあります。
まぁ、日本人の心に触れる部分も多い作品なのかもしれないけど、個人的にはそこまで好きな映画というわけでも、
感銘を受けた作品というわけでもない。劇場公開当時はそこまで高評価ではなかったものの、ビデオ化されてから
口コミで評価を上げていったそうで、その後は半ば神格化されたように根強い人気を誇る作品になっていきました。
なんせ、94年度アカデミー賞で作品賞含む、主要7部門でノミネートされながらも、
1つも獲得できなかったというくらいですから、当時としてはその年のNo.1とは言えないと評されたようなものだ。
映画は妻と、その浮気相手である男を殺害した罪で裁判により終身刑を宣告された、
銀行員のアンディがメーン州の刑務所に送られ、そこで公然と強姦を行う囚人らに狙われながらも、
次第にその能力の高さから囚人仲間たちの信頼を集め、看守の税対策などを手伝うことで自分の居場所を作る。
その中で“調達屋”を自認する黒人の囚人レッドらと仲良くなり、長年に渡って交流をするものの、
やがて敬虔ぶって聖書を薦めながらも、実は残虐な思想の持主である刑務所長らによって支配され、
とあることがキッカケで自分の無実を証明するキッカケを潰されたことで、自らを奮い立たせる姿を描きます。
言ってしまえば、“刑務所もの”というわけでイーストウッド主演の『アルカトラズからの脱出』などを思い出す。
とは言え、本作の場合は脱獄がメインの映画かと言われると、そうとも言い切れず、どちらかと言えばドラマである。
アンディが如何にして、自分の居場所を作って、周囲の信頼を勝ち得るかにスポットライトを当てています。
このアプローチは確かに映画として魅力的なもので、元々のストーリーの良さもあって、まずまず面白いとは思います。
ただ、あくまで個人的な感想なんだけど・・・(笑)、思ったほど訴求力のある映画ではなかった...かと。
これだけ絶賛されている作品ですし、フランク・ダラポンの監督デビュー作ですから期待していたんですが、
その自分の勝手な期待が高過ぎたのか、正直言って、もっと強く心揺さぶられるものがあるラストなのかと思ってた。
ところが、本作のラストはそんな感じではなく、どちらかと言えば、奇跡的な出来事を描くことに主眼があったようだ。
本作で描かれていることで注目したいのは、長年、刑務所暮らしに慣れ切ってしまった囚人が
突如として出所して、一般社会で生活することの苦悩が描かれていることだ。刑務所なので不自由なのは当然ですが、
黙っていても生活できる環境に長年身を置いていると、いきなり一般社会に放り出されても、強烈な孤独感に苛まれる。
それはそうだ。刑務所生活が長くなれば、いろいろな出来事がありながらも仲間がいるし、
憎たらしい看守とは言え、見慣れた人間に囲まれた生活だ。あまりに過酷な刑務所の生活環境を目の当たりにし、
「こんなところ、早く出たい!」と懇願するものだが、長くその生活が当たり前になると、いつの間にか依存し始める。
だからこそ、いざ出所になると喜びを感じつつも、一方で急激に孤独に苛まれる。長く刑務所にいれば尚更のことだ。
社会復帰の訓練をしていたとしても、周囲の目は厳しいだろうし、そう簡単に復帰できるものでもない。
だからこそ、せっかく出所しても刑務所にアッサリと戻ってしまったり、自ら命を絶つという選択をする人もいる。
まぁ、そもそも刑務所に収監されるようなことをするなよ、と言いたくなる気持ちも分からなくはないし、
過ちを犯して真の意味で反省しているのであれば、出所はゴールではなく償い続けるものであるからこそ、
社会復帰して社会の一員にならなければならない。そのために、多少のツラいことというのは受け入れなければ。
ただ、中には刑務所生活が長くなり過ぎて、精神的にタフさを失ってしまう人もいるのだろう。
もはや誰かに依存しなければ生活することができなくなって、刑務所の中で生きがいに近いものを見つけていれば、
居場所は刑務所の中にしかないということになる。そうなってしまうと、社会復帰は余計に難しいだろうなぁと思う。
モーガン・フリーマン演じるレッドでさえ、長くなり過ぎた刑務所生活を経て、強烈な孤独に苛まれる。
彼だって、何度も「もう更生した」と言って、仮釈放の審査を受け続けていたくらい、外の世界に出たかったはず。
それでも、思ったように上手くはいかない現実をしっかりと描いているあたりには、僕は好感を持ちましたね。
レッドも“調達屋”として刑務所仲間から信頼を集めているが、彼の出自や収監理由はあまり深く語られていない。
この辺もレッドに悪い印象を持たないように巧妙に描かれていますが、ここは賛否が分かれるところかもしれません。
主人公アンディに関しては、やや不透明な感じで映画を進めていくのですが、
裁判で何を主張しても通らなかった主人公の光明が差すように、一人の囚人が重要な証言をします。
ところが、刑務所長はそれを握り潰すように指示し、一瞬にしてアンディは生きる希望を失ってしまうことになります。
そこから生まれる奇跡の物語という感じですけど、自分の中ではラストの展開にそこまで魅力を感じなかったなぁ。
どうせなら、もっと強く心揺さぶるような力強さが欲しいところ。まぁ・・・押しつけがましさが無いのが良さでもあるけど。
でも、ラストシーンのロケーションなんかは抜群なんだけど、やっぱり自分の中で何かが足りない感じなんだよなぁ。
スティーブン・キングの原作がどう描かれていたのかは分かりませんが、
特に映画の終盤に決定打となるシーンが欲しかった。雨が降りしきる夜に川で喜ぶシーンでは、まだ足りない。
沸き立つような興奮を感じさせるシーン演出が欲しかったし、僕は敢えて本作にはそんな仕掛けが必要だったと思う。
まぁ、刑務所の中の物語をこうして寓話的に描くこと自体に抵抗感を持つ人もいるかもしれない。
基本的に罪を犯した人が入る場所という前提が、そういう気持ちにさせる面はあると思うけど、僕はあまり気にならない。
むしろ刑務所の中では、過酷な現実があって厳しい仕打ちにあうことがある、ということを描いた点では良かったと思う。
ただ、フランク・ダラポンのスタンスもあってか、少々、人道的なニュアンスが強い描き方だったのは気になったけど・・・。
そういった政治的なメッセージは一旦、置いておくとして、寓話的に描くのはいいとしても、
やっぱりアンディが置かれた環境、そして予測される未来が絶望的な状況で、それをどう打破するかを
緊張感や困難を描かずして、アッサリと克服する姿を描いてしまったあたりは、僕には物足りなさしか感じられない。
どうして、映画を魅力的に磨く作業をしないのだろうか・・・と疑問を持たずにはいられない。だって、勿体ないじゃない。
その押しつけがましさがないのが良さなのかもしれないが、本作は静かに感動させるというのとも違う気がする。
単純に物語をなぞるだけなら面白いかもしれないが、これはあくまで映画なのだから、その意義を表現して欲しい。
もう一つ言えば、刑務所でのエピソードがメインの映画であるとは言え、
アンディが収監されるまでの過程はもっと丁寧に描いて欲しかったなぁ。特に裁判のシーンはあまりに雑だと思う。
理不尽にも状況証拠だけで固められ、まともな弁護を受けることもなく、不利な状況に追い込まれて、
裁判では終身刑に追い込まれるというわけですから、もっと丁寧に描いて、絶望してしまう心理を表現して欲しい。
何か、刑務所のエピソードに早く移りたかったのか、ダラダラ裁判を描く必要はないけど、
重要なはずの前段階をほとんど省きました、という感じになってしまっていて、あまりに雑な展開に見えてしまった。
キャストとしては破綻なく実力ある役者陣で固めているのは賢明な判断でした。
レッド役のモーガン・フリーマンはやや役得な感じもしたけど、やっぱり本作の中では一際目立つ存在感だ。
結果として、彼をストーリーテラーとして映画を進めていったのは正解でした。やはり良い意味で、引き締めている。
ちなみにアンディの収監生活が長くなったことを表現するように、
彼の独房の中に貼られているポスターが、リタ・ヘイワースからマリリン・モンロー、ラクエル・ウェルチへと
女優が変遷していくのが面白くって、当初貼っていたリタ・ヘイワースからラクエル・ウェルチへの変化はスゴい(笑)。
(ずっと刑務所の中にいたアンディからすれば、ラクエル・ウェルチのポスターは衝撃的だったように思うけど・・・)
原題は「ショーシャンクの救済」を意味しますが、アンディを救世主として描きたかったのだろう。
確かに彼を敢えて神々しく描いたり、屋上でビールを飲む彼の姿などを観ると、他の囚人とは一線を画すように映る。
彼を救世主として描くというのはフランク・ダラポンやスティーブン・キングの宗教観もあるのだろう。
ただそうであるなら、これは死生観の問題なのかもしれないけど...年老いた囚人が釈放されて自ら命を絶ったり、
いくら悪いことをしていた刑務所長とは言え、追い詰められた挙句、自死を選んだりと簡単にそういったシーンを
描くのはどうしても気になった。特にこの映画の場合は、もっと違った形で表現して欲しかったというのが本音でした。
(上映時間142分)
私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点
監督 フランク・ダラポン
製作 ニキ・マービン
原作 スティーブン・キング
脚本 フランク・ダラポン
撮影 ロジャー・ディーキンス
美術 テレンス・マーシュ
音楽 トーマス・ニューマン
出演 ティム・ロビンス
モーガン・フリーマン
ウィリアム・サドラー
クランシー・ブラウン
ボブ・ガントン
ジェームズ・ホイットモア
ギル・ベローズ
マーク・ロルストン
ポール・マクレーン
1994年度アカデミー作品賞 ノミネート
1994年度アカデミー主演男優賞(モーガン・フリーマン) ノミネート
1994年度アカデミー脚色賞(フランク・ダラポン) ノミネート
1994年度アカデミー撮影賞(ロジャー・ディーキンス) ノミネート
1994年度アカデミー作曲賞(トーマス・ニューマン) ノミネート
1994年度アカデミー音響賞 ノミネート
1994年度アカデミー編集賞 ノミネート