ザ・センチネル/陰謀の星条旗(2006年アメリカ)
The Sentinel
長年、大統領とファースト・レディの身辺警護を担当していたベテランSPが、
裏切り者の濡れ衣を着せられ、大統領暗殺計画を画策している犯人として逮捕されそうになりながらも、
逃走して自らの濡れ衣を晴らし、真犯人を探し出すために孤軍奮闘する姿を描いたサスペンス・アクション。
主演のマイケル・ダグラスが自らプロデュースした作品でもあり、映画の緊迫感からすると、
まるで大人気TVシリーズ『24 ‐TWENTY FOUR‐』のキャラクターをそのまま地で行ったような役柄で
キーファー・サザーランドと共演、大統領のファースト・レディ役でキム・ベイシンガーととにかく豪華なキャストだ。
監督は俳優出身で03年の『S.W.A.T.』で監督デビューを果たしたクラーク・ジョンソンで
本作でも緊迫感あるシーンを連続させたかった意図はあったのでしょうが、はあまり上手くいっていない印象だ。
実はクラーク・ジョンソン自身、映画の冒頭に狙撃されてしまう黒人SP役で出演しているのですが、
もう少し監督として頑張りたかったところ。と言うのも、本作はもっと良くなる“土台”があった企画だったと思うんです。
それぞれの登場人物に色々な事情を抱えているのは分かりますが、映画の前半はなかなか焦点が定まらない。
そして、やっと映画が動き始めた後半では、誰が何処から狙っているのか分からない緊張感で引っ張りたかったのに
どこか緩慢な感じで映画が進んでしまう。それがマイケル・ダグラスっぽいということなのかもしれませんけどね・・・
そもそもが大統領の身辺警護をするSPが、実はファースト・レディと不倫関係にあるなんて時点で、相当ヤバい(笑)。
それでいて、かつては親友関係だったのに、妻を寝取られたと怒りをかい、
恨み続けるキーファー・サザーランドが個人的な恨みを晴らすかの如く、内通者の捜査に乗り出してくることも
チョット公私混同に見えちゃうし、どうしても映画が安っぽく見えてしまう要素があり過ぎて、盛り上がってこない。
冷静に考えれば、合衆国大統領を暗殺するためにシークレット・サービスの中に内通者がいて、
暗殺計画を画策する一人になっているということがあれば、それは大変なことで事件を防ぐことが難しそうですね。
それから、もう一つ気になったのは主人公のベテランSPは学校で教官としての任務に就いていて、
推薦した教え子がSPの一人として加わっているという設定だったのですが、これがあまり生かされない気がしたこと。
この辺はもっと映画を盛り上げるための伏線として使って欲しかったし、彼女にフォーカスされる展開にすべきでした。
監督のクラーク・ジョンソンも色々と工夫しながら撮ったのだろうけど、雰囲気づくりがあまり上手くないですね。
そのせいか、映画の中盤にある逃走する主人公が、ショッピングモールで銃撃戦になるシーンなどは
そんなに悪くない撮り方をしているにも関わらず、それでもあまりテンションが高くないシーンになってしまっていて、
これを除けば、クライマックスぐらいしかアクション・シーンがないので、僕はこのシーンはもっと盛り上げて欲しかった。
淡々と逃げていく犯人に対して、人が大勢いて逃走ルートの多いショッピングモールという舞台で
銃撃戦になるという設定自体は面白かったので、ここが良い盛り上げどころになるように作り込んで欲しかったなぁ。
一方のクライマックスで大統領を暗殺計画の実行犯から守るためのシークエンスはなかなか良かったです。
ここは、どこかゲーム感覚を持って描かれているような感じで、半ばシューティング・ゲームをやってるみたい。
クラーク・ジョンソンがどこまで意図していたかは分かりませんが、それなりに臨場感のある真に迫った演出でした。
このラストの駆け引きがそれなりにスリリングだっただけに、それまでの雰囲気づくりのマズさがあまりに勿体ない。
さすがにマイケル・ダグラスとキーファー・サザーランドがそれぞれ真犯人を探る様子を
同時進行で描いていくこと自体に、本作の場合は少々無理があったように思えた部分があって、もっと早くに2人を
合流させて真相究明にあたる方が良かったかもしれないですね。この手の映画は単純明快な方が映えるのでね。
無理が祟ったのか、所々でプロットのつなぎが粗っぽく感じられることもあって、
脚本自体に問題もあったのでしょうけど、編集も含めて、全体にもっと工夫の余地があったのではないかと思います。
それは、肝心かなめの大統領の存在感も薄いことに象徴されていて、作りが粗いというか表層的な感じに見える。
クライマックスにしても、万事解決であるかのように見えるけど、これで良いのかも疑問ですよね(苦笑)。
さすがにSPとファースト・レディが警護の網をかいくぐって、不倫していたなんて、にわかに信じ難いところですけど、
仮にこれが事実だったとしたら、さすがに主人公が何一つお咎め無しだったというのが、なんとも違和感いっぱい(笑)。
まぁ・・・一時期スキャンダラスな下半身事情で話題をさらったマイケル・ダグラスには、お似合いな役でしたけどね。
これだけの騒ぎになっていて、主人公がSPの教官として戻っていくというのもなんとも受け入れ難い(笑)。
そして、ファースト・レディ役を静かに演じたキム・ベイシンガーもあまり目立った見せ場が与えられず残念ですね。
そもそもマイケル・ダグラスとキム・ベイシンガーの組み合わせというのも、意外にも初顔合わせなんですねぇ。
これが80年代から90年代前半なら、この2人の共演というだけで話題性があっただろうと思えるのですが・・・。
キーファー・サザーランドをキャストしたことも、たぶんに『24 ‐TWENTY FOUR‐』の路線を意識したはずですけど、
結局は遠く及ばない出来だったためか、映画もそこまでヒットすることはなく、評価も上がらずに終わってしまいました。
本作のキーファー・サザーランドを観ていると、もうジャック・バウアーにしか見えなかったですよね(苦笑)。
それゆえか、監督のクラーク・ジョンソンにも『24 ‐TWENTY FOUR‐』のイメージを利用する意図はあったと思います。
でも、それじゃあダメだと思うんですよね。映画をどう盛り上げるかという観点では、作り手に工夫の余地はあります。
もっとタイムリミット感を出すなりして、逼迫した空気感を出して欲しかったかな。
そもそも大統領がいつ狙われるかも分からない状況で、大統領にSPを付けて粛々と公務を続けさせるというのは、
あり得ない状況のようにも思いますけど、この展開なのであればもっと時間を観客に意識させれば面白くなったと思う。
この映画、それなりに予算が用意された企画だったのではないかと思えるのですが、
そのほとんどをキャスティングに使ってしまったのか、それぞれのシーン演出にはチープさが残るのも気になる。
前述した銃撃戦のシーンもそこまで金がかかった感じはしないし、大統領用のヘリが墜落するシーンも安っぽい。
これではB級アクション映画と見間違えてしまうような感じで、お金の遣い方を間違えたのかと思えてしまう。
プロデューサーとしてのマイケル・ダグラスは若い時から優秀だったことでハリウッドでは知られていて、
俳優として活躍してからも何本かプロデュースしていて、本作も期待してたけど...これは正直言ってハズレでした。
映画の前提条件として、KGBの連中が合衆国大統領の暗殺を計画しているということでしたが、
僕は、なんか半ばヤッツケのように「とりあえずロシアを犯人に仕立てればいいや」みたいな安直さを感じてしまった。
映画の途中であまりに唐突にKGBの関与を匂わせるようになるので、この辺ももう少し丁寧に描いた方がいい。
このように本作は全体的に必要な前提を、しっかり説明しなかったことで、前後のつながりを悪くしているように思える。
結果的にそれぞれのエピソードの前後のつながりの悪さと、序盤からの雰囲気づくりの失敗。
これで全体的に弛緩してしまった、緊迫感の無い画面になってしまったことで、メリハリの無い作品になってしまった。
これは作り手自身も回避しなければならないところで、予め修正できただろうし編集段階でも気付ていて欲しかった。
しかし、シークレット・サービスに裏切り者がいないという歴史があるのは分かるけど、
今の時代からすると、さすがに性善説であり過ぎる気がします。内部を知れば知るほど、巧妙にやることもできるし。
100年以上の歴史の中で、未だに裏切り者がいないというのもスゴい気がしますけど、ずっとそれで済むわけはない。
勿論、今も対策を講じているのだろうけど、守るべき者が実は裏切りものだったという構図は、とても恐ろしいものだ。
考えれば考えるほど恐ろしいことをテーマに掲げた映画なのに、ここまで盛り上がらなかったのは勿体ない。
劇場公開当時であれば、そこそこ話題性のあった作品だと思うのですが、ほぼヒットしなかったというのは必然かと。
やっぱりサスペンス描写に関しては、もっと頑張って欲しかったなぁ。ここはかなり物足りなかった。
「敵は外ではなく内にいる!」なんて、冗談めかして会社でも喋ることがありますが(笑)、本作のテーマはまさにそれ。
敵は内側にいると思ったら、油断も隙もあったもんじゃないですからね。本作はその感覚をもっと利用すべきでした。
残念ながらクラーク・ジョンソンは本作の不評が堪えたのか、本作以降はTV界をメインに活動しているようです。
(上映時間108分)
私の採点★★★★★☆☆☆☆☆〜5点
監督 クラーク・ジョンソン
製作 マイケル・ダグラス
マーシー・ドロギン
アーノン・ミルチャン
原作 ジェラルド・ペティビッチ
脚本 ガブリエル・ベリスタイン
編集 シンディ・モロ
音楽 クリストフ・ベック
出演 マイケル・ダグラス
キーファー・サザーランド
キム・ベイシンガー
エヴァ・ロンゴリア
マーチン・ドノバン
ブレア・ブラウン
リッチー・コスター
クリスティン・レーマン