ザ・センチネル/陰謀の星条旗(2006年アメリカ)

The Sentinel

ホワイトハウスを中心に合衆国大統領の身辺警護に勤めるベテランSPが、
自身のスキャンダルをネタに脅されたことをキッカケに、大統領暗殺計画があることを知り、
仲間のSPの中に内通者がいるとの密告情報をつかみながらも、自らに疑惑の目が向けられる姿を描くサスペンス。

俳優業もやっている『S.W.A.T.』のクラーク・ジョンソンで、
彼自身、本作でも序盤に主人公ギャリソンの親友である体格の良い黒人SP役で出演しています。

が、この映画、面白い設定ではあったのですが、映画の出来は今一つ。
せっかく大統領に物理的な距離が一番近いSPに内通者がいるという設定の面白さがあるのですが、
映画が大きく動き始めるまでが遅い。確かに主人公に疑惑の目が向けられて種々、攻防があるのも良いけど、
できることであれば、内通者探しというテーマと、内通者の工作活動にスポットライトを当てて欲しかった。

別に謎解きに傾注する必要はないけれども、老体に鞭打って、
プロのSPや警察からの追跡から逃げ回る、ベテランSPのマイケル・ダグラスというのが、
ヴィジュアル的にも観ていて苦しく、さすがにこれだけで映画を引っ張り続けるのも、無理があったと思う。

そんな老体に鞭打って逃げ回るマイケル・ダグラスを追うのが、
“かつての親友”として登場する同僚の調査官ブレキンリッジで、当時、世界中で大ヒットしていた、
人気TVシリーズ『24 −TWENTY FOUR−』シリーズで再ブレイクしていたキーファー・サザーランド。
キーファー・サザーランドにいたっては、さすがにまんまジャック・バウアーにしか見えない(笑)。

こうなってしまうと、映画としてはとてもツラいものがありますね。

キャスティングもそうですが、こうなってしまうと映画が磨かれないということは、
事前に監督であるクラーク・ジョンソン自身が認識して、実際の撮影に臨まなければなりませんね。
僕にはどうしても、この映画にはそういう認識というか、TVシリーズの幻影を追わない覚悟が感じられませんでした。

ようやっとクライマックスに緊迫したアクション・シーンがあるのですが、
問題はそこに至るまでの構成にもあって、ギャリソンが逃げ回るシーンを長々と描き過ぎましたね。
もし、これをもっと前面に押し出して映画を進めるならば、こんな中途半端なところで止めるのではなく、
映画自体をギャリソンが潔白を証明するために、最後の最後まで奮闘する姿で引っ張り続ければ良かったのに。

確かにこの映画で描かれた通り、アメリカ合衆国だけによらず、
シークレット・サービスなどの警護担当者に造反者が出て、犯罪組織と内通していたら、
警護対象者に危害が加わることは防ぎようがないと思う。それゆえに、実は警戒すべき存在だ。

そこはお互いの信頼関係が必須なのだろうが、うがった見方をすれば、
信頼関係ということほど、曖昧なものはない。見えない抽象的かつ、すぐに無くなるものだからだ。

「敵は内部にあり」とよく言ったものですが、身近な存在なだけに疑いをかけにくく、
実は悪の親玉だったというオチはよくあるタイプの話しで、この映画もその“よくあるタイプの話し”である。
そういう意味では、“よくあるタイプ”から脱することができなかったことが、この映画にとっては痛かったですね。

ちなみにファースト・レディとして出演しているのがキム・ベイシンガー。
さすがの美貌を保っているのは流石ですが、最近は第一線から少し引いたところで活躍している印象なだけに、
マイケル・ダグラスとの逢瀬に触れていて、これが80年代に製作されていれば、もっと話題性があったのですがねぇ。
(個人的にはキム・ベイシンガーは、もっとベテラン女優として活動の場があると思うのですがねぇ・・・)

そんな豪華キャストなのに、この映画は今一つ盛り上がらない。
確かに“旬”は過ぎたキャスティングかもしれないけど、この出来映えはあまりに寂しいなぁと感じてしまう。

それから、合衆国大統領暗殺を企てる悪党があまりに存在感が薄過ぎる。
せっかく映画の設定としては、なかなか手強いなぁと思える設定なのに、肝心かなめの悪党があまり出てこない。
一応、家族を殺すと脅迫したりはするのですが、まったく観客にとってストレスに感じる悪党ではない。
これはギャリソンの精神状態とクロスオーヴァーさせることで、実は真相は違うところにあるかもと
思わせる効果を狙ったのではないかと感じたのですが、僕はこういう欲目にかられたのが本作の失敗だったと思う。

この映画は変に小細工せずに、ストレートに描いた方がずっと面白かったのではないかと思う。
そういう意味で、前述したように映画のエンジンがかかるのが遅過ぎるのです。これでは盛り上がらない。
キャスティングなどの土台は良かったのに、本作が評価されなかった理由は、こういったところにあると感じます。

そう思って観ると、映画の中盤にあるキャンプ・デービッドから飛び立つ、
大統領専用ヘリが撃墜されるシーンにしても、どこかチープに見えるから実に勿体ない。

ブレキンリッジ演じるキーファー・サザーランドが、どうしてもジャック・バウアーにしか見えませんが、
彼も彼で厳しい態度でギャリソンに対応して、彼に疑いをかけて、指名手配して一方的に追い詰めたのに、
初老のギャリソンを取り逃がすし、どこか爪が甘く、追跡者たちの力量が乏しく見えてしまう。

同僚には「今までで一番強い指名手配犯だ。甘く考えるな!」と叱咤しますが、
結局、ブレキンリッジ自身が通常の指名手配犯と同じように追跡していると言われても仕方がない片手落ち感。
終いには、指名手配されているギャリソンに堂々とオフィスへ侵入され、遺留品鑑定をされる始末。
そしてコピー機を使うギャリソンは、ブレキンリッジに見つかっても逃げる素振りもなく、鑑定結果を説明する。
ブレキンリッジもブレキンリッジでギャリソンの説明を聞くという、それまでの展開を無にするかのような展開で、
一連の流れを違和感なく観ろという方が、話しに無理があって、作り手が自然に展開できていないのが残念だ。

クラーク・ジョンソンは03年の『S.W.A.T.』で長編映画の監督デビューを果たすまでは、
演出家としてはTV界を中心に活動してきたようで、『S.W.A.T.』はそこそこ評価されただけに、
本作の不評がこたえたのか、本作以降はまたTVドラマの演出中心に戻ってしまったようです。

確かに演出の方向性としてはそちらの方が合っているような感じがあって、
誤解を恐れずに言うなら、本作もTVドラマであれば、そこそこ楽しんで観てもらえた可能性があります。
それこそ、ジャック・バウアーのスピンオフ企画としてであれば、尚更、注目を集めたでしょうし。

そういう意味では、映画実業家としての経験も豊富なマイケル・ダグラスも
プロデューサーとして名を連ねているので、どれくらいアドバイスしていたのかも気になりますね。

(上映時間108分)

私の採点★★★★★☆☆☆☆☆〜5点

監督 クラーク・ジョンソン
製作 マイケル・ダグラス
   マーシー・ドロギン
   アーノン・ミルチャン
原作 ジェラルド・ペティビッチ
脚本 ガブリエル・ベリスタイン
編集 シンディ・モロ
音楽 クリストフ・ベック
出演 マイケル・ダグラス
   キーファー・サザーランド
   キム・ベイシンガー
   エヴァ・ロンゴリア
   マーチン・ドノバン
   ブレア・ブラウン
   リッチー・コスター
   クリスティン・レーマン