摩天楼(ニューヨーク)はバラ色に(1986年アメリカ)

The Secret Of My Success

85年に『バック・トゥ・ザ・フューチャー』で世界的な大ブレイクを果たした、
マイケル・J・フォックスが当時、如何にノリにのりまくっていたか象徴するコメディ映画。

ヒロイン役のヘレン・スレーターの、どこかアイスな雰囲気溢れるキャリアウーマン像が
妙に懐かしく、80年代半ばのバブルな空気感が充満した、この時代ならではの作品だと思う。

やはりこの手の映画は、多くが「そんな上手くいくはずがないだろ!」とツッコミが入る内容のところを
如何に自然に見せるかがポイントで、単純であるがゆえに作り手の実力がモノを言う分野だと思う。
そこにマイケル・J・フォックスという当時、ノリノリだったスターをキャストできた強みを生かして、
テンポの良い映画に仕上げようという方向性は見える映画だったのですが、どこか噛み合っていない。

名匠ハーバート・ロスの監督作品ですが、個人的にはもう少し面白い映画にはできたと思います。
(それでも及第点レヴェルの映画とは思うので、それはそれで凄いことではあるのですが・・・)

映画はニューヨークに憧れて、カンザスの田舎町から
大学を出たばかりの青年が、意気揚々と大都会ニューヨークで成り上がることを夢見るも、
就職そのものが上手くいかず、困っていたところ、遠い親戚が大企業の社長であることを思い出し、
メールボーイとして雇ってもらったところ、リストラされた重役の後釜とメールボーイの二足のわらじを履いて、
口八丁手八丁を駆使して、自らの才覚を発揮しようと孤軍奮闘する姿を描いています。

集配していたメールや、自由に見れる帳簿、そして社内の噂話をもとに、
主人公は会社の問題点を分析し、自らその問題点の解消を実践すべく、二役を演じることを決意します。

社内で一目惚れした敏腕キャリアウーマンには、新任の重役のフリをして近づくものの、
実は彼女は主人公を雇った、会社の社長の愛人だったりして、映画は良い具合に混乱してきます。

特にインパクトが強いのは、マーガレット・ホイットン演じる社長夫人の存在で、
主人公に性欲発散を求める中年女性なのですが、劇中、名シリーズ『JAWS/ジョーズ』さながらに、
プールの中で主人公の水着を狙い続ける姿は、異様とも言えるほどの怪演で、本作のアクセントになっている。

普段のハーバート・ロスはもう少しハート・ウォーミング寄りな映画を撮っている印象が強かったけれども、
本作は予想外なほどに単純なコメディ映画みたいにシフトしていて、妙な小細工はありません。

この頃、テレビ・シリーズ『ファミリー・タイズ』が大ヒットしている最中であり、
マイケル・J・フォックスが多忙を極めていた頃の作品であり、彼持ち前の魅力がいかんなく発揮されています。
こういうドタバタしたサクセス・ストーリーこそ、彼の魅力を生かすジャンルの映画というように見えます。

80年代の日本はバブル経済の真っ只中、アメリカ経済もまだ元気だった頃で、
日米は貿易摩擦なんて懐かしい言葉で、日米関係は悪化の一途を辿っていました。
しかし、この映画で描かれているのは今の世にもありふれた話しで、買収を画策されたので、
一生懸命、経費削減して利益を伸ばし、株価を上げて株式の大量保有を防ぐということ。

よく、TOBが話題になって、特に敵対的TOBに発展すると、
一時的に株価が暴騰したりしますが、経営者が恐れている展開は意に沿わないTOBを仕掛けられ、
自社株買いを試みるも、結果的に買収されてしまい、買収後は社員たちが路頭に迷うことでしょう。

本作ではそこまでシリアスに描かれているものではありませんが、
この映画が最も上手かったのはクライマックスの描き方で、かなり破天荒なラストにしているのだけれども、
その語り口は痛快そのもので、サクッとサクセス・ストーリーならではの気持ち良さを演出できるあたりが、
さすがは名匠ハーバート・ロスと唸らせる映画の出来で、これは実に素晴らしい仕事ぶりと言えますね。

やはり映画のラストはとっても重要で、ラスト次第でどうとでも変わってしまいます。

そういう意味で、及第点レヴェルな映画とは言え、
しっかりと基本を押さえ、映画の大事なツボを押さえた仕上がりになっただけに、
映画の価値を損なわず、確実に“仕事”をしてきたプロフェッショナルな作品と言えると思います。

デビッド・フォスターがプロデュースした音楽にしても、ナイト・レンジャー≠ネどの
80年代ならではの選曲になっていて、この時代が好きな人にはたまらない懐かしさが全開です。

でも、僕もこういう懐かしさって、凄く大切にすべきものだと思うんですよね。
それぞれの時代に特徴って必ずあるもので、映画はその時代の空気を残せる数少ないメディアの一つです。
多少、ヒット狙いの香りが漂う作風なのが玉に瑕(きず)ですが、それでも及第点レヴェルは堅持してます。

本作はハーバート・ロスなりに、そういった部分を実に上手く映画の“武器”に変えてしまったようで、
僕はキャスティングだけではなく、この時代だったからこそ、成し得た作品だったのだろうと思います。

金を稼ぐという感覚が、今とは比べものにならないくらい勢いのあった時代です。
だからこそ現代の感覚とは異なる部分もあるにはあるのですが、それでも技術は発達しておらず、
今と比較すると不便な社会であったからこそ、ホワイトカラーの人々も手を動かして生産性を
上げようと必死になっていた時代だったことが描かれており、技術が発達した昨今では、
まるで違う考え方、働き方、職場の在り方であるように描かれています。これは今となっては新鮮に映りますね。

但し、主人公がとったような“二足のわらじ”を履いた仕事ぶりには、
思わず「現実的に不可能では?」とツッコミの一つでも入れたくなる矛盾は正直言って感じます。

但し、そんな違和感をも吹き飛ばすくらいフレッシュな魅力に溢れた俳優としての勢いが、
当時のマイケル・J・フォックスにはあって、持ち前のフットワーク軽く動き回る芝居を武器にしており、
それがハーバート・ロスの軽妙なコメディ演出と相まって、実に見事な調和をとっていることは確かだと思う。

否定したり肯定したりと、どっちつかずの感想になってしまったけど(笑)、
映画の出来自体がそれを象徴していて、手堅いところはキチッと押さえているものの、
もっと良くなる余地を敢えて残して終わってしまったかのようで、どこか勿体ない映画だと思える。

ちなみにヒロインのヘレン・スレーターもこの時代がピークで、
90年代に入ると、映画女優としての仕事が急激に少なくなっていってしまいましたね・・・。

(上映時間110分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

監督 ハーバート・ロス
製作 デビッド・チャンスマン
脚本 ジム・キャッシュ
   ジャック・エップスJr
   A・J・カロザース
撮影 カルロ・ディ・パルマ
音楽 デビッド・フォスター
出演 マイケル・J・フォックス
   ヘレン・スレーター
   リチャード・ジョーダン
   マーガレット・ホイットン
   ジョン・パンコウ
   フレッド・グウィン
   エリザベス・フランツ
   マーセデス・ルール