LIFE!/ライフ(2013年アメリカ)

The Secret Life Of Walter Mitty

アメリカの長く伝統ある人気雑誌LIFEが休刊となろことになり、
これまで愛社精神旺盛に活動を続けてきたスタッフが相次いで解雇されることになり、
最終号の表紙の写真の担当を言い渡された冴えない社員が、命からがら失われた表紙の写真を追い求めて、
それまでの奥手な性格からは想像もつかない経験を積み重ねる様子を描いた、ヒューマン・コメディ。

人気俳優ベン・スティラーの久しぶりの監督作品であり、
本作は世界的なヒット作となり、如何にも彼らしい笑いに満ち溢れた良質な作品と言ってもいいと思います。

まぁ・・・少々、妄想が過ぎる映画という感じがするのですが(笑)、
これはこれで、それまで常に一歩下がった性格だった人間が、一歩前へ出る勇気を発揮するという、
チョットした変化を実に巧みに描いており、個人的には映画の出来は極めて良いのではないかと思う。

確かにこれは観ていて、観客にも「一歩前へ踏み出す勇気を与える」ことができる映画と言っても、過言ではない。

いつもそう思うのですが、ベン・スティラーはディレクターとしての側面もあるにはあるのですが、
いつもは激しいコメディ映画に出演しているにも関わらず、いざメガホンを取ると生真面目なんでしょうね。
勢いに身を任せて想いのつくまま、行き当たりばったりで撮ったという感じではないことは良いですね。

本作ももっと面白可笑しく作ろうと思えばできたと思うのですが、
ベン・スティラー特有のギャグの応酬といった内容にはせず、何気に落ち着いた仕上がりになっている。

この傾向は00年に彼が撮った『僕たちのアナ・バナナ』のときも同じようなことを感じていて、
もっとコメディ映画らしくしようと思えば、いくらでもできたであろう題材を意外に真面目に作ってくる。
ひょっとしたら、これは演出家ベン・スティラーとしての狙いの一つなのかもしれませんが、
微妙なバランスをとりながら構成しているようで、印象以上に計算した映画を撮っているような気がします。

正直、94年の『リアリティ・バイツ』で話題になった頃は、
ここまで俳優になるとは思ってもいなかったけれども、映画監督としても手腕を上げているようです。

映画の序盤にある、主人公が妄想にふけるシーンはチョットやり過ぎなぐらいで、
過剰に見えちゃうけれども、えてして妄想ってあんなもん(笑)。チョット子供っぽい妄想なのは玉に瑕(きず)だけど、
その子供っぽさこそがベン・スティラーらしい感覚であって、本作の大きな特徴であることは間違いありません。

実際のライフ誌は2000年に経営状況悪化のため、実質的に休刊となりましたが、
2004年には一時的に無料雑誌として復活を果たしますが、2007年には再び経営状況悪化に伴い、
再び休刊となってしまい、以来、復活していないところをみると、廃刊となったと理解する向きが強いようです。

ライフ誌は「グラフ雑誌」と呼ばれ、実質的に写真記事を中心に構成されており、
文章ではなく写真が持つプレゼンスの方が、圧倒的に大きな雑誌であったという点に特徴があります。

だからこそ本作で描かれたように、スクープ写真をはじめとして、
雑誌の表紙を飾るような写真を多く扱い、それらが時代を切り取った瞬間として注目されることが多かったせいか、
記事の管理は勿論のこと、カメラマンが持ち寄る写真の管理もかなり厳重に行っていたようである。
いわゆるフォト・ジャーナリズムの先駆的存在であり、ライフ誌はこの世界のパイオニアである。

だからこそ、本作の主人公のように同僚の女性に気になって妄想にふけるという、
しょうもない男なんだけど、写真の編集や管理といった職務には、誇りを持っているという設定は理解できるかも。

ただ、日本人的な感覚とチョット異なるのは、日本には「奉職」という言葉がある通り、
自らの能力を職務(≒会社)に帰属させ、自らを捧げるという概念がありますが、やはり欧米はドライだ(笑)。
会社ではなく、主人公はあくまで写真を扱うとういう職務に信念を持っているんですよね。
言ってしまえば、会社はリストラを敢行し、嫌味な経営再建担当者がいたりして、それはそれで嫌な環境だ。

しかし、主人公は自ら辞めずに、あくまで最後の職務を全うしようとする。
この姿に、どこか個人主義の風潮が強まった昨今の日本の会社員人生にも通じる感覚なのかもしれません。

1947年にダニー・ケイ主演で製作された『虹を掴む男』を現代版に焼き直したリメークなのですが、
当時、銀幕デビューしたばかりだったダニー・ケイの魅力が炸裂した絶好調のオリジナルでしたが、
本作ではベン・スティラーのキャラの濃さはほどほどにして、絶妙なぐらいにマイルドな仕上がりになっている。
どこまで計算し尽くされた仕上がりなのかは分かりませんけど、この映画の後味もとっても良いですね。

主人公の母親を演じたのが、久しぶりにスクリーンで観たシャーリー・マクレーン!
まもなく80歳という年齢ですけど、まだまだ元気そうで映画ファンの一人として、安心しましたね。

なんでもチャレンジする心が大切であるということを基本にしているのですが、
映画の中でデビッド・ボウイの Space Oditty(スペース・オディティ)が効果的に使われているのが印象的だ。
おりしも2016年、デビッド・ボウイは突然、世界中の音楽ファンとお別れを告げ、癌のために他界してしまいましたが、
常にカリスマ性を意識しながら活動していたデビッド・ボウイのスピリットと見事にシンクロしている気がします。

そういう意味で、映画の冒頭である出会い系サイトにアクセスすること自体、
主人公にとっては冒険であったことは事実なのですが、その主目的が特定の女性と近づくためというのがスゴい。
元から行動力はあったのでしょうが、映画の中で描かれる主人公は彼が引いていた境界線を次々と越えていき、
チャレンジし続けることで目的に自力で近づいていくという姿が、本作の感動のポイントとなっています。

映画の出来としては、凄い傑作というほどではありませんが、
ベン・スティラーの熱意に満ちた作品であり、この点については十分に評価に値する内容だと思います。

ベン・スティラーにしては前向きな姿勢というか、
やはり一歩前へ踏み出す勇気を持つことの大切さをメッセージに込めているように思うんですね。
そういう意味では、多くの方々に薦めたい一作ではあります。まぁ・・・万人ウケはしないだろうけど・・・(苦笑)。

(上映時間114分)

私の採点★★★★★★★★★☆〜9点

監督 ベン・スティラー
製作 サミュエル・ゴールドウィンJr
   ジョン・ゴールドウィン
   スチュワート・コーンフェルド
   ベン・スティラー
原作 ジェームズ・サーバー
脚本 スティーブ・コンラッド
撮影 スチュアート・ドライバーグ
編集 グレッグ・ヘイデン
音楽 セオドア・シャピロ
   ジョージ・ドレイコリアス
出演 ベン・スティラー
   クリステン・ウィグ
   アダム・スコット
   キャスリン・ハーン
   シャーリー・マクレーン
   ショーン・ペン
   パットン・オズワルト
   アドリアン・マルティネス
   ポール・フィッツジェラルド
   オラフル・ダッリ・オラフソン