スクール・オブ・ロック(2003年アメリカ)

The School Of Rock

これはハチャメチャな映画ではあるけど、確かに勢いがある映画で面白い。

95年に『恋人までの距離 ≪ディスタンス≫』で高く評価させたリチャード・リンクレーターが、
音楽大好き俳優ジャック・ブラックを主演に、バンドマンとしての成功を夢見てコンテストに出場するも、
実力がなかなか評価されずに経済的に困窮していた主人公が、報酬目当てで友人に成り済まし、
地元の進学校の教員として期限付き採用され、テキトーな仕事でやり過ごそうと思っていたところ、
実は担当するクラスの子どもたちに音楽の才能が溢れていることに気付き、授業と称してバンド練習させて、
コンテストに出場してバンド・デビューしようと目論む姿をミュージカル調に描いた、学園コメディの大ヒット作ですね。

映画は実に楽しい。ロックに詳しくなくても、これなら十分に楽しめるのではないかと思います。
余計なエピソードに時間や労力を割くことなく、とてもピンポイントにまとまっていながらも、相応の見応えはある。

まぁ、主演にジャック・ブラックをキャスティングできたからこそ、成立した映画という気もしますけど、
実際にミュージシャンとして活動していたという子どもたちの姿も眩しく、実に魅力的な作品に仕上がっていますね。
そこそこヒットしましたし、これはこれでリチャード・リンクレーターの代表作の一つと言っても過言ではないでしょう。

こういう映画が登場してきたということは、ロックが反体制の象徴という時代はとっくに終わっていて、
メイン・ストリームどころか、老若男女みんなで楽しめるスタンダードのような扱いになったのかもしれないとは感じた。
個人的にはそれはそれで良いとは思うんだけど、原理的なことを言えば、これはロックの本質ではないのかもしれない。

でも、リチャード・リンクレーターも主張したかったことは、
そんな原理的なことではなくって、堅苦しいことを言わずに、みんなで楽しもうぜ!ということだと思うし、
それは年齢や性別、人種を問わずに楽しめるはず・・・ということなのだろう。ある意味で、ボーダーレスなのかな。

そのせいか、AC/DC≠竍ディープ・パープル=Aブラック・サバス≠ニいった、
ハードロックを主人公のデューイは志向していたのですが、スティービー・ニックス、アレサ・フランクリンといった、
別ジャンルのミュージシャンの音楽も使われており、プログレやビートルズ世代へのリスペクトを匂わせる描写がある。
このデューイは音楽オタクっぽい感じなので、逆にあまり強いこだわりは無いだけに、彼のロックを通した教育方針は
それなりの柔軟性が含まれていて、いろんな要素をミックスしてアプローチしてボーダーレスな感じになりますね。

ほとんどジャック・ブラックの独壇場みたいな内容の映画ではありますが、
それでも彼が勤務する学校の校長で、保護者対応に神経をすり減らし、学校長としての威厳を保ちながらも、
実は周囲から堅物と見られることに苦悩し、酔っ払ったらスティービー・ニックスのモノマネをすると噂される、
学校長のロザリーを演じたジョアン・キューザックはなかなか良い。単純な敵対構造にしないあたりが賢いと思った。

この物語は、やたらと現実問題を取り上げてしまったり、シビアな社会問題を描いてしまうと、
正直言って、成り立たなかったと思うし、明るく前向きに寛容的に観ることはできなかったのではないかと思う。
賛否はあるでしょうが、こういう映画にある程度のご都合主義的な要素は必要で、そうじゃないと魅力が出ないです。

なので、ロザリーがデューイのことを本格的に監視して、親と一緒になってデューイの取り組みを否定して、
コンテンスト出場にあたっても対決構造になってしまえば、そっちに力点を置かざるをえなくなってしまいますからね。

そうなってしまうと、僕は本作も映画として苦しくなったと思うのです。
底抜けにパワフルで明るく突っ走る!というスタンスではなく、ありがちな管理体制への抵抗というテーマに
“逃げ込んで”しまうようになり、本作の良さが失われてしまった可能性が高いと思います。ここは賢明な判断でした。

もっとも、この管理体制(親側)への抵抗というニュアンスは、
デューイの「世の中は“The Man”に支配されてる。それに抵抗するのがロックなんだ!」という台詞に集約されており、
敢えてそれを重層的に描く必要はなかったという判断もあったのか、親たちとの軋轢はほぼ描かれていません。

まぁ、実際問題としてデューイみたいな人が教壇に立って、自分勝手にバンドの練習を始めれば、
それは大問題だろうしコンテストの結果に関わらず、理解を得ることができずに追放されてしまうでしょう。
頭でっかちなことを言えば、やることやってればまだいいんです。でもデューイはバンド練習しかさせてないですしね。

とは言え、デューイのやったことは間違っていないと思うのです。それは、クラスの一人ひとりに役割を与え、
演奏したり歌うことが全てではなく、バンドのマネジメントや照明や映像など、それぞれが才能を発揮できるように
ステージを作り上げるために必要なポジションとして、全員に丁寧に説明して全員参加を促したことですね。

ただ、号令のように「みんなでやるんだぞ!」と言って、細かいところは各自に任せる、
みたいな雑なやり方をしてしまいがちなのですが、リーダーの責任としてデューイは一人ひとりに役割と、
その意義、機能をしっかりと丁寧に自ら説明して、各自が納得して参加するように労力を割いたことは素晴らしい。

こういうところを、丸投げするかしないかで、生み出す結果は大きく変わってくると思うのですよね。

まぁ・・・細かいことを考えてしまうと、デューイの人間性がどうなんだって話しになってしまうけど、
個人的には子どもたちが上達して、まとまっていく過程を底抜けに明るく描くスタンスに共感したので、
教師としてのモラルとか、デューイの人間性とかモラル的なことは寛容的に観た方が、本作を楽しめると思います。
(結局、このデューイの人間性をどれだけ許容して映画を観ることができるかが、ポイントなわけですが・・・)

リチャード・リンクレーターの良かったところは、こうした一貫したスタイルを押し通したことですね。
横道に逸れることなく、一貫してデューイがバンドの結束力を高める姿を描くことに注力したことが良かったのです。

個人的には、タイトルにあるような“ロックの学校”というからには、
てっきりロックの歴史からサブカルチャー、名盤の数々に欧米社会の変遷についてジックリと教えるのかと思いきや、
デューイが持っている名盤を生徒に貸して、「これを聴いてこい」と言うだけだったんで、物足りなかったのですが、
このタイトルの意味は、映画のラストシーンでしっかりと生かしてくるので、思わずニヤリとさせられましたね。

どうでもいいけど、デューイは小学生くらいの子にイエス≠フ Fragile(こわれもの)とかを
貸していましたが、確かに名盤なんだけど...Fragile(こわれもの)の良さを分かってもらえるのかは疑問ですね(笑)。

良いものは世代を超えて理解してもらえる、ということなのだろうけど、結構独特なアルバムですからね。
ラストトラックの Heart Of Sunrise(燃える朝やけ)は、ゾクゾクさせられるギターに興奮してもらえるかもしれませんが、
この曲に至るまでがチョット問題ですよね。冒頭の Roundabout(ラウンドアバウト)も、人気ある曲ではありますけどね。

どうやら、デューイが成り済ました友人のシュニーブリーを演じたマイク・ホワイトが
自ら脚本を書いており、友人だった俳優であり、ミュージシャンでもあるジャック・ブラックを主演に据えたらしい。
おそらくジャック・ブラックは『ハイ・フィデリティ』で演じた音楽ヲタクぶりが好評で、本作はその延長線上の役だろう。
マイク・ホワイト自身は何本も、脚本と出演を兼任した作品があるので、マイナーな存在であれど結構な才人ですね。

本作は劇場公開当時も評判が良く、そこそこヒットしていた記憶があります。未だに人気作でもあり、
後にミュージカル化もされました。テレビドラマも製作され、音楽をテーマにした映画の定番となっていますが、
ジャック・ブラックにとっても本作は彼の代表作になりましたから、とても意味のある作品になったことでしょうね。

全米では人気俳優の一人で、出演作がヒットする確率も高いのですが、何故か日本では知名度が今一つ。
こういうキャラクターの役者さんが、日本にフィットしにくいということはあるのかもしれませんけどね・・・。

さすがにステージでヴォルテージが上がったからといって、ジャック・ブラックが客席にダイブしてきたら、
日本ならオーディエンスが“引いちゃう”かもしれない(笑)。映画の冒頭でそんなシーンがありますけど、
現実にオーディエンスが“引いちゃって”、みんな避けて床に激突したら、それこそ命に関わる大怪我をするでしょう。

ちなみに本作でフレディというドラマーに抜擢される男の子を演じたケビン・クラークという子役ですが、
撮影当時は12〜3歳くらいだったようで、既に音楽活動を行っていたらしく、本作が唯一の映画出演でした。
2021年に自転車に乗っていて車と衝突。32歳という若さで事故死してしまったらしい。なんとも残念なニュースだ。

(上映時間109分)

私の採点★★★★★★★★★☆〜9点

監督 リチャード・リンクレーター
製作 スコット・ルーディン
脚本 マイク・ホワイト
撮影 ロジェ・サトファーズ
音楽 クレイグ・ウェドレン
出演 ジャック・ブラック
   ジョアン・キューザック
   マイク・ホワイト
   サラ・シルバーマン
   ジョーイ・ゲイドスJr
   ミランダ・コスグローブ
   ケビン・クラーク
   レベッカ・ブラウン
   ロバート・ツァイ
   マリアム・ハッサン
   ケイトリン・ヘイル
   アレイシャ・アレン