ザ・ロイヤル・テネンバウムズ(2001年アメリカ)

The Royal Tenenbaums

うーーーーーん...これはノレなかったなぁ。。。

98年に『天才マックスの世界』で評価されたウェス・アンダーソンが撮った、
ロクデナシの父親以外は優秀なテネンバウムズ一家の葛藤を描いたヒューマン・コメディ。

本作でウェス・アンダーソンが撮りたいビジョンってのは、痛いほどよく分かるのですが、
さすがにオフビート感覚のコメディ映画という路線を狙い過ぎた感があり、
どうしても僕にはあざとい手法という偏見的な先入観が抜けず、最後の最後まで感心できなかった。
まぁ映画自体はよく出来ているんだけれども、どうしても本作のスタンスを僕は好きになれない。

『天才マックスの世界』は日本では劇場未公開作扱いとなってしまいましたから、
本作がウェス・アンダーソンの監督作としては、初めて日本の映画館で上映されたのですが、
個人的には『天才マックスの世界』の方がずっと好感の持てる作品でしたね。

映画の本筋としては、天才肌の子供たちに破天荒なことばかりして、
子供たちからは反目され、妻エセルからも愛想をつかれ、20年以上にもわたって家庭を放棄した
主人公ロイヤルが年老いて初めて、家族との時間を大切にしようと思う姿をユーモラスに描いています。
ここで一つ描かれているのは、バラバラになった家族が如何にして結集するかという点と、
究極にダメ男をロイヤルに反映させて、ダメ男の再生そのものなわけです。

ここに絡むのは、バラエティに富んだテネンバウムズ家の兄弟なのですが、
グウィネス・パルトロウ演じるマーゴに関しては、チョットした汚れ役と言ってもいいと思います。

彼女に関して言えば、テネンバウムズ家に養女としてやって来た過去があって、
彼女の思春期にも強く影響を与えたわけなのですが、テネンバウムズ家の次男に愛情を感じているがゆえ、
ひじょうに微妙なポジションに立っています。次男リッチーを演じたルーク・ウィルソンも好演なのですが、
個人的には彼が自殺未遂するシーンは観たくなかった。これは僕は大反対、せめて示唆的に収めて欲しい。
自殺未遂という行為を、ここまで直接的に表現する必要があったのか、僕には甚だ疑問なんですよね。

ただ、ウェス・アンダーソンが映画の中で描き続けているものって、
基本的に本作においても『天才マックスの世界』と変わらなくって、非凡なアメリカの人々なんですよね。

問題は何が平凡なのかということ。
人それぞれ個性があるわけであって、ウェス・アンダーソンは個性を大切にして生きる人々の姿を、
敢えてステレオタイプに表現することによって、「非凡なことが平凡である」とばかりに描き切ってしまう。

確かに音楽の使い方なんかも上手いから、かなりロックなアティテュードを持った映画のように思えるけど、
基本的には人間賛歌と言える内容であり、僕はそんな姿に『天才マックスの世界』では共鳴できたのです。

確かにこの基本路線は変わっていないのですが、
『天才マックスの世界』と何が大きく変わってしまったかと問われれば、それは欲張ったことだろう。
幾人もの登場人物を紹介して、多くの非凡なキャラクターを登場させ、互いに調和し合えない姿の中から、
最終的に「非凡なことが平凡である」と帰結しようとしたもんだから、狙いは露骨になってくる。
すると、自然とアプローチや各エピソードの狙いも露骨になり、映像作家としての純粋さが失われてしまっている。

おそらく好きな人は、とことん気に入る映画だろうけど、
僕はこういう“裏”を感じちゃう分だけ、どうしても賛同できない(←勘ぐりし過ぎなのかもしれないが...)。

とは言え、ラストシーンのロイヤルの姿にはホロッとさせられる。
もう一つ言えば、ワガママ、自分勝手、子育て放棄とやりたい放題だったロイヤルが、
何とかして家族に近づこうとしたり、プライドを捨ててホテルのエレベーター・ボーイの職に就くエピソードなんかは、
なかなか悪くないと思う。演じた名優ジーン・ハックマンも、久しぶりにアクティヴな感じで好感が持てる。

おそらくジーン・ハックマンは本作で一区切りを付けたのかもしれませんね。
04年に俳優引退宣言をしてからは、ホントに映画にも舞台にもテレビにも出演していないそうです。
(せめて80歳ぐらいまでは頑張って欲しかったが...)

映画の構成なんかを観る限り、ウェス・アンダーソンは決して下手な映像作家ではないのだから、
もうチョット、純粋に映画を撮って欲しいなぁ。こういったスタイルが染み付いてしまうと、
余計に抜け出すのが難しくなり、落ち着いた映画が撮れなくなってしまいますからねぇ。

ベン・スティラーとオーウェン・ウィルソンのドタバタはイマイチ面白味に欠けるように感じたが、
ダニー・グローバーとアンジェリカ・ヒューストンの恋愛を取り扱ったのは、ある意味では画期的と言える。
中年期も終わりを迎えつつある2人の男女の恋愛を、真正面から描くというのは、従来の映画界では稀少だ。
ひょっとするとこれからは、こういった男女の恋愛を描く映画というのも増えていくのかもしれませんね。

そうなだけに遺跡発掘所で2人が会話しながら歩くシーンで、
ダニー・クローバーが穴に転落するギャグを入れているのですが、これが僕にはまるで理解できない。
どうしてこんな回り道をするのだろうか。映画の雰囲気をほぼ完全にブチ壊しているじゃないか。。。

(上映時間109分)

私の採点★★★★★★☆☆☆☆〜6点

監督 ウェス・アンダーソン
製作 ウェス・アンダーソン
    バリー・メンデル
    スコット・ルーディン
脚本 ウェス・アンダーソン
    オーウェン・ウィルソン
撮影 ロバート・D・イェーマン
音楽 マーク・マザースボウ
    エリック・サティ
出演 ジーン・ハックマン
    ベン・スティラー
    グウィネス・パルトロウ
    ルーク・ウィルソン
    アンジェリカ・ヒューストン
    ダニー・グローバー
    ビル・マーレー
    オーウェン・ウィルソン
    シーモア・カッセル

2001年度アカデミーオリジナル脚本賞(ウェス・アンダーソン、オーウェン・ウィルソン) ノミネート
2001年度全米映画批評家協会賞主演男優賞(ジーン・ハックマン) 受賞
2001年度アメリカ映画協会賞助演男優賞(ジーン・ハックマン) 受賞
2001年度ゴールデン・グローブ賞<ミュージカル・コメディ部門>主演男優賞(ジーン・ハックマン) 受賞