オールド・ルーキー(2002年アメリカ)

The Rookie

まぁ良い映画ではあると思う。

幼い頃から野球が大好きだったものの、軍人である父親の相次ぐ転勤により、
所属するリトル・リーグでの活動がままならず、19歳にやっとの想いで念願のドラフト1位指名を勝ち取り、
ミルウォーキー・ブルワーズに入団するも、肩の故障でメジャーに昇格することなく解雇されてしまった、
実在のプロ野球選手ジム・モリスが35歳になってから、再びプロテストを受ける姿を描いたヒューマン・ドラマ。

実在のジム・モリスはブルワーズを解雇されてから、
故郷の高校で理科教師をしながら、放課後は野球チームのコーチをしていたのですが、
家計のことを考え、フォートワースの野球チームのコーチへ転職しようかと悩んでいました。

ところが、かつてプロ野球選手だった頃と比べても、球速がアップし、
未だに凄い真っ直ぐを投げられることに気づいた故郷の野球チームの選手たちが、
自分たちが地区大会で優勝したら、ジムにプロ野球の入団テストを受けるよう約束し、
それまで弱小だったチームは見事に優勝。ジムは妻に内緒で、子連れで入団テストを受けに行きます。

まだプロ野球選手として通用する可能性を認められたジムは、
タンパベイ・デビルレイズに35歳にして入団し、苦しく過酷なマイナー・リーグ時代を経て、
故郷に近いアーカンソーでのテキサス・レンジャース戦で初のメジャー・デビューを果たします。

まぁ30歳を超えてからメジャー・デビューするなんてことは、別に珍しいことではないのですが、
ジムの場合は10年以上前に一度、引退し、別な職業に就いていた人が再びテスト入団して、
大きなブランクを跳ね除けてメジャー・デビューするということは、極めて珍しく、注目を集めたそうです。

残念ながら2年間、タンパベイ・デビルレイズに所属しましたが、
メジャー・リーグで合計21試合に登板して、00年オフに解雇されてしまったのですが、
当時のマスコミには美談として、大きな注目を集めたそうで、すぐに映画化が決定したそうです。

個人的には35歳のジム・モリスを演じるのは、
撮影当時のデニス・クエイドは年をとり過ぎているような気がするのですが、
体格の良いデニス・クエイドが妥当な人選だったのかもしれませんね。全体のシルエットとしては、
そんなに大きな違和感は無く、映画に致命傷を与えるようなミスキャストではないものと思われます。

不屈の精神というほど強くはないけれども、
良い意味で諦めが悪く、夢を諦め切れない姿を見事に表現できているし、
何よりジム・モリスが半ば自分勝手に夢を追い続けているわけではなく、家庭人としての責任を果たしながらも、
息子に自分の背中を見せることにより、息子の憧れであり、手本であり続けたいする姿は感動的ですらある。

まぁ今風の解釈をした映画ではなく、21世紀に入ってから製作された映画としては、
極めて古臭い部分を持った作品ではあるのですが、映画の出来自体はしっかりしているため、
あまり斜に構えて観るようなことがなければ、そこそこ安心して楽しめるヒューマン・ドラマと言えよう。

この辺はジョン・リー・ハンコックが上手くコントロールできていたから為し得た部分なのでしょうが、
但し、欲を言えば、もうチョットだけ、ジム・モリスが再びテスト入団して、メジャー昇格を目指して、
家族と長いこと会えずに遠征に参加して、苦しみながらもチャンスをつかんでいく姿や、
メジャー昇格してからの活躍やリリーフ失敗して、メジャーの厚い壁に阻まれた姿を描いて欲しかったですね。

確かに僕もジム・モリスって、凄い野球人でリスペクトに値する存在だとは思いますが、
99年にメジャー昇格を果たしながらも、あまり良い結果を出せず、翌00年のオフには解雇になったことから、
おそらく彼の思い描いて通りの活躍はできなかったのでしょう。そこで彼がどんな想いで球団の解雇通告を聞き、
そのときどう思い、家族にどう伝えたのか、フィクションでもいいから、しっかりと描いて欲しかったなぁと思います。

そう、この映画の大きなキーワードは、「父親」ということだと思うんですよね。

印象的なのは、感情の伝え方が決して上手くはなく、
ジムは成長し祖父という立場になりながらも、まだ息子ジムとは和解し切れずに、
上手く意思疎通や素直に接することができない、不器用な親子関係をジムの父親で表現したことですね。

家族への責任を果たすことを優先し、自分の夢を追うことを諦めると同時に、
息子の夢をも支援することができなかったジムの父親ですが、決して息子への愛が無かったわけではありません。

そんな父の難しい立場を理解することができず、
中年を迎え、アドバイスを求めても素直に接することができない父親を見て、
苛立ちを覚えるジムの姿に共感しながらも、やはりそれぞれの立場で苦しい部分があることに悩みますね。
僕もこういった状況は身に覚えがないわけでもないだけに、ひじょうに難しい状況だと思います。

まぁ自分の父親を見ていて、一種の反面教師と捉えて、
「絶対に自分の子供には同じようにしない!」と心に決めていても、どことなく似てしまうんですよね。
それだけ、親子の証(あかし)って強いものだろうと思うし、経験的要素って強いものなはずなんですよね。

ちなみに監督のジョン・リー・ハンコックは93年の『パーフェクト ワールド』で
映画界での活動を始めた脚本家出身の映像作家なのですが、力量は決して低くはないと思いますね。

もう少し挑戦性のある内容でも良かったような気はしますが、
ディズニー資本で撮った映画のようですので、大きな冒険はできなかったのでしょう。
そう考えれば、描写に制約が強いられたであろうと想像できる中で、ジョン・リー・ハンコックはよく頑張ったと思う。

ちなみに本作が気に入った人は、84年にハリー・レビンソンが撮った、
ロバート・レッドフォード主演の『ナチュラル』という野球映画を観て欲しいと思いますね。

(上映時間128分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 ジョン・リー・ハンコック
製作 マーク・シアーディ
    ゴードン・グレイ
    マーク・ジョンソン
脚本 マイク・リッチ
撮影 ジョン・シュワルツマン
音楽 カーター・バーウェル
出演 デニス・クエイド
    レイチェル・グリフィス
    ジェイ・ヘルナンデス
    ブライアン・コックス
    ベス・グラント
    アンガス・T・ジョーンズ
    リック・ゴンザレス