ザ・ロック(1996年アメリカ)

The Rock

まぁ、これは何度観ても面白い映画ですよね。チョット長いけど。

ジェリー・ブラッカイマーも、盟友ドン・シンプソンとの最後の仕事になりましたけど、
これは2人の集大成とも言える作品になりましたね。良い意味で見せ場を凝縮した見応えのあるエンターテイメントだ。

映画の焦点となるのは、殉職した米兵への扱いの悪さに憤慨したハメル准将が、
若い連中を引き連れて、閉鎖されていたアルカトラズ刑務所に観光で訪れていた民間人を
人質に取って、合衆国政府を脅迫することなのですが、映画の前半の約1時間はかつてアルカトラズ刑務所から
脱獄に成功した凄腕のメイソンを説得して、事件の解決に協力させようとするものの、協力するフリをして
脱走したメイソンを、サンフランシスコの市街地で追い回すシーンに時間を費やしていて、なかなか島に行かない。

ニコラス・ケイジ演じる化学物質のスペシャリストであるグッドスピード捜査官と
メイソンがお互いに協力して、アルカトラズ島に乗り込むのは、映画の中盤になってからの話しになります。
実はこのサンフランシスコの市街地でメイソンを追い回すシーンが、激しいカー・チェイスもあって、なかなか面白い。

サンフランシスコ特有の坂道を下るレトロな路面電車を巻き込んでの大クラッシュとか、
現実世界で起こったら、大変な騒動になりそうな激しさですが、映画はメイソンを捕まえたら、
さっさと次の島の奪還作戦に話しを映すという、かつてのハリウッドが批判されていた“ご都合主義”。
(でも僕、これはある程度は仕方ないと思うんですがね・・・)

マイケル・ベイもこの頃は、CGに頼らないアクション・シーンに余念が無く、
妙なプロパガンダも無く、お金をたくさん使って娯楽映画を撮影することに注力している感じで、僕は好感が持てる。

ショーン・コネリー演じるメイソンも、かつてはイギリス諜報部員であったという設定も、
ある意味では“007シリーズ”で初代ボンドを演じたことのパロディであり、作り手の遊び心もうかがえる。
前述したように、少々長い映画ではありますけど、それでも尺の長さを感じさせずに見せ切る力がある作品です。

島を占拠し、民間人を人質にとったのが米軍の准将であるという設定が、なんとも興味深い。
しかもエド・ハリス演じるハメル准将はベトナム戦争の英雄とされており、数多くの受勲歴がある。
そんな軍人でも、命を落とした仲間を粗末に扱われては、忠誠を誓ったアメリカ合衆国に対して反旗を立てるわけで、
彼は彼なりの信念がやったことになります。故に、映画の中盤で直接ハメル准将と対面したメイソンは、
「アイツは真の軍人だ」と同じ香りのする人間であるかのように語っており、殺人鬼ではないことが前提になっている。

でも、ハメル准将もやり方がマズかった。やはり、これではただのテロリストなのですよね。
その辺は映画の序盤に少し描かれてはいますが、ハメル准将の動機というのは、もっと丁寧に描いて欲しかった。
それから、映画のラストまで、しっかりメイン・ストーリーに絡んでくる役であって欲しかった。どこか物足りない。

あくまで個人的な意見ではありますが、アクション・シーンとしては映画の前半のカー・チェイスの方が
後半のアルカトラズ島での攻防よりも盛り上がったかな。メイソンの協力を得ることに時間を割きまくってるので、
このような印象になること自体は仕方ないと思うんですよね。ハメル准将のエピソードが弱くなってしまいます。

そのせいか、映画の終盤にピークを持ってこれなかったというのは、あると思います。
映画としては十分に面白いので、ケチのつけようはないのですが、前半のカー・チェイスの方が印象に残ります。

映画の冒頭から、グッドスピードが爆弾の起爆装置の解除に躍起になりながら、
同時に人形から噴射される神経ガス(VXガス)の脅威について描かれております。VXガスという名称を聞くと、
90年代の日本を揺るがした大事件を思い出す人も多いと思いますけど、これは化学兵器として古くから存在するもの。
揮発しにくく無味無臭、化学的にも安定な物質であり、触れただけでも猛毒な物質なので、とても厄介なものだ。

オウム真理教の事件では、ごく少量(1.0 mL強)で成人男性を殺害するに至っており、
人々の群衆で解き放たれたりすれば、一気に広域に猛毒の毒性を呈し、多くの命が奪われるでしょう。

この映画で描かれたような、鮮やかな緑の球体に収めることが可能なのか、
実際の物質の色は見たことはありませんが、いずれにしてもハメル准将はトンデモないものを手にし、
合衆国大統領を脅すという非情な手段にでたわけで、本質的には同情される部分はないと思いますが、
命をかけて自分の部隊で異国の地で戦い、命を落とした部下たちを思う気持ちは、確かに思うところはありますね。
でもね、個人的にはこの設定なのであれば、ハメル准将は徹底した悪党で良かったと思うんですよね。
その方が倒しがいがあるし、映画の終盤までメイソンとグッドスピードと死闘を繰り広げた方が、盛り上がったと思う。

この辺の甘さというか、両成敗的な描き方をするのはマイケル・ベイのクセなのかな。
勧善懲悪が良いとは言いませんが、もっと強い悪党の方が、この映画にとっては良かったと思うんだけどなぁ。

しかし、ショーン・コネリーのラストショットはなかなか良い。
これは実に印象的なラストシーンだ。この撮り方はセンス良かったと思うんですけどね。
ショーン・コネリーが亡くなったということもあってか、こうしてショーン・コネリーが元気な姿がなんだか懐かしい。

グッドスピード捜査官を演じたニコラス・ケイジも本作の世界的大ヒットのおかげで、
本格的にアクション映画のスターとして、スターダムを駆け上がっていくことになります。
95年の『リービング・ラスベガス』でアカデミー賞を受賞したり、演技派俳優として評価されつつあるところだったので、
本作で一気にアクション映画の路線を中心に活動の場を移していくとは、正直、当時は思っていませんでした。
(何故か2000年代後半からは、B級映画路線まっしぐらなのも気になるけど・・・)

地味に豪華キャストで固めた映画ではありますが、アルカトラズ島に占拠するテロリストの面々でも、
ハメル准将に仕えるバクスター少佐を演じたデビッド・モースも、すっかりこういった役では有名な存在だ。

特にハメル准将がミサイルを巡って、苦渋の決断をするエピソードで、
テロリストたちの士気を気にして、ハメル准将を崇拝するような姿勢であったバクスター少佐も、
やはり苦渋の決断を下すシーンは、確かに胸に迫るものがある。確かにハメル准将が冷酷になり切れない部分を
描かなければ、このシーンも無かったわけですが、これはこれで良いとは思った。でも、やっぱりハメル准将と
バクスター少佐が最後まで悪あがきするように、メイソンとグッドスピードと対決した方が良かったとは思うけどね。。。

あまり根拠はありませんが...今だったら、この映画は当時ほどヒットしない気がします。
それくらい映画のスタンダードが変わってしまったというか、今のハリウッドにこういうエンターテイメントを
製作する気概もあまり無いように見えます。ジェリー・ブラッカイマーも売れっ子プロデューサーという立場なことは
今も変わりはありませんが、すっかり20年前と比べると、彼の名前が表に出てこなくなった気がします。

それはマイケル・ベイも同様ですが、2000年代に入った頃は、
あれだけ日本でもジェリー・ブラッカイマーについては映画ファンの間でも賛否あったのが、信じられないですね。
今は一人のプロデューサーが関わる映画に、そこまでヒートアップする時代でもないですからねぇ。

まぁ、でもね・・・本作は面白い映画ですよ。
だってこんなハチャメチャな映画は滅多にないですよ。FBIの作戦への協力を得るために、
一人の脱走犯を追って、市街地をこれだけ破壊して、「さぁ、協力するんだ」と言ってる映画なんて。

確かに、ああすれば良い、こうすれば面白いということはありますけど、
あまり深く考えずに、こういう映画を楽しむ気持ちも大切だと思います。

(上映時間136分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

日本公開時[PG−12]

監督 マイケル・ベイ
製作 ドン・シンプソン
   ジェリー・ブラッカイマー
脚本 デビッド・ワイズバーグ
   ダグラス・S・クック
   マーク・ロスナー
撮影 ジョン・シュワルツマン
音楽 ニック・グレニー=スミス
   ハンス・ジマー
出演 ニコラス・ケイジ
   ショーン・コネリー
   エド・ハリス
   ウィリアム・フォーサイス
   デビッド・モース
   マイケル・ビーン
   ジョン・スペンサー
   ジョン・C・マッギンレー
   ヴァネッサ・マーシル
   クレア・フォーラニ
   トニー・トッド
   ジム・カビーゼル
   フィリップ・ベイカー・ホール

1996年度アカデミー音響賞 ノミネート