赤い月(2003年日本)

第二次世界大戦直前、新たな生活を求めて、家族で小樽から満州へ渡ってきた女性が
夫の事業で豊かな生活を送りながらも戦況が悪化し、戦禍を逃れるようにハルビンへ移動。
そこでも奔放な生き様を貫くものの、終戦を知り、日本に引き上げるまでを描いた大河ロマン。

まぁ観る前の予想よりはしっかりした内容でまずまずの手応えがあったのですが、
観終わってから感じるのですが、やっぱり映画として弱いですね。イマイチ訴求しません。

物語の主人公となるのは森田 波子という、30代と思われる女性。
この映画、この役に常盤 貴子をキャスティングした時点で、微妙に狂いが生じてしまっている。
映画の冒頭で波子には10代後半の成人を目前にした息子がいることが語られているのですが、
スクリーンに映る彼女の姿をパッと見て、そんな風格は全く感じられないのです。

そして、別に彼女の生き様の全てを否定するわけではありませんが、
突如として目の前に現れた商社マンの氷室に惹かれ、彼との情事を何としてでも成立させようと、
やけに積極的にアタックしていくのですが、これらの行動には共感し難い隔たりを感じさせます。

この映画で作り手たちは観客の共感を求めているとは思いませんが、
彼女の信念の一つでも理解できる点が無ければ、この映画の良さを理解することは難しいでしょうね。

せっかく珍しく中国政府の協力を得て、大規模なロケ撮影を敢行して完成したというのに、
肝心かなめの中身がこれだけというのは、極めて寂しい結果であると断罪せざるをえませんね。
確かに日本にはない空気を表現できた時点で、これは凄いことだと思うし、
日本映画界も総力を挙げて本作の製作に尽力したかのような意気込みで、たいへん嬉しい。

けど・・・それがこの出来というのは、チョット寂しいなぁ。。。

まぁ、あと少しでも変わっていれば、映画の印象は大きく変わっていたのでしょうけれども、
まぁヒロインの掘り下げが甘かっただけに、映画自体の訴求力が弱まってしまいましたね。
この辺は脚本の問題もあるでしょうが、キャスティングの時点で再考すべき部分はあると思うし、
第一、演出が表層的でヒロインの性格をあまりにストレートに描き過ぎたと思います。
ですから、ヒロインの人生観が一義的なものにしか捉えられないのです。
それでは、さすがに苦しいですね。もっと多様なニュアンスを映画に吹き込んで欲しかったと思います。

かつて常盤 貴子が“連ドラの女王”として君臨していた頃、
何クールも連続して主役級の役を演じていたことが今となっては懐かしいですが、
00年頃を境にTVドラマへの出演が減って、映画や舞台の仕事にシフトしていきましたね。
本作への意欲も並々ならぬものがあり、かなり過酷な撮影だったそうですが、見事に乗り切りましたね。

伊勢谷 友介演じる氷室との関係性については、もっとじっくり描くべきでしたね。
おそらく原作ではもう少し緻密に描かれていたのではないかと思われるのですが、
あまりにストーリー展開も速すぎて、2人の心情的な揺れ動きや、感情の起伏などを表現できていませんね。

この辺はいち早く、アヘン中毒との闘いのエピソードに移りたいとする、
作り手の意向が強く働いたかのようで、映画全体を急ぎ足にしてしまった感が強いですね。
少なくとも、映画の前半の調子から言えば、3時間近くになる大作のペースでしたからね。
それが戦禍でのエピソードが突如として、急ぎ足になり、ヒロインが氷室を看病するまでの過程も省略し、
アッという間にアヘン中毒との闘いのエピソードに移ってしまいます。

厳しい言い方をすれば、描くべきものを放棄してしまったことが致命的ですらあります。

ただ、ナンダカンダ言ってメディアへの露出が多くて気になる(笑)木村 大作のカメラは悪くないですね。
おそらく彼の仕事としては、そこまで評価されないだろうとは思いますが、
当たり障りのない無難な演出と比べれば、このカメラは遥かに良い仕事をしている。

カメラのポジションは総じて悪くないし、ヒロインが氷室とロシア人女性の濡れ場を目撃してしまうシーンなど、
カメラがシーン演出自体に慎みを持たせている好例であると思う。これで映画が安っぽくならずに済んでいる。

効果的にアップカットが用いられており、映像表現上でのメリハリも効いていると思う。
申し訳ない言い方ではありますが、このカメラが木村 大作でなければ、映画は活きなかったかもしれません。
そう思わせられるぐらい、派手さはないものの、このカメラは映画に大きく貢献していると思いますね。

ただ相反することを言うようですが、
布袋 寅泰演じる軍人の人間離れした形相を映したカットには感心できない。
どうしてこんなシーンを撮ったのだろうか。まぁ撮ったにしても、映画の均衡を崩している。
これはカメラマンというよりも、ディレクターの問題だとは思うけど、このシーンには感心できませんでしたね。

まぁヒロインと氷室が肉体的に結ばれるまでの過程と、
ヒロインが氷室のアヘン中毒を看病することになるまでをもっと丁寧に描けていれば、
映画は変わっていたでしょうね。ここまで乱暴に描いてしまうと、映画は良くなりません。

ヒロインの生き様が観客の多くに理解されなかったり、
戦禍の中で生き抜くという深遠なテーマを訴求できなかったのは至極当然の結果と言えます。

(上映時間109分)

私の採点★★★★★★☆☆☆☆〜6点

日本公開時[PG−12]

監督 降旗 康男
製作 富山 省吾
原作 なかにし 礼
脚本 井上 由美子
    降旗 康男
撮影 木村 大作
美術 福澤 勝広
編集 川島 章正
音楽 朝川 朋之
出演 常盤 貴子
    伊勢谷 友介
    香川 照之
    布袋 寅泰
    山本 太郎
    大杉 漣