リクル−ト(2003年アメリカ)

The Recruit

CIAにスカウトされたMIT(マサチューセッツ工科大学)の学生が、
過酷なスパイ養成プログラムを強いられ、やがては“NOC”と呼ばれる特別なスパイに仕立て上げられる
姿を何重にも仕組まれた教育プログラムの中で描き出したサスペンス・アクション。

監督は87年に『追いつめられて』で評価されたオーストラリア出身のロジャー・ドナルドソン。

まぁ本作に関して言えば、ロジャー・ドナルドソンの平坦な演出のおかげで凡作扱いって感じですが、
映画の狙いやコンセプトとしては、そんなに悪いものではなく、見せ方自体も間違ってはいないようです。

ロジャー・ドナルドソンって、かつてはもっと上手いディレクターだったと思うんですがねぇ。
本作なんかはかなり無理して作ったって感じなんだけれども、かえってそれが逆効果。

僕が個人的にあまり感心できないのは、映像上でゴチャゴチャさせて意図的に観客を混乱させ、
ストーリーそのものを理解させにくく、最終的には映画の全容をもつかみにくくさせてしまう、
作り手の姿勢に感心できません。これだけゴチャゴチャした内容だと、単に整理できていないだけだと思う。

撮影当時、ハリウッドでも注目の若手俳優と期待されていたコリン・ファレルと、
ベテラン俳優アル・パチーノとの共演だったのですが、さすがにアル・パチーノの個性にノックアウトされることを
作り手たちも懸念していたのでしょうか(笑)。アル・パチーノに関しては意図的に登場場面を減らし、
動きの少ないシーンのみに終始して、コリン・ファレルを活かす手段に出ましたね。これは正解かもしれません。
(まぁ・・・アル・パチーノのファンとしては、これは大いに不満なんだけれども。。。)

というわけで、本作はアル・パチーノ度が低いので、あまり彼のファンは期待しない方が無難...かな(笑)。

CIAで同じプログラムを受ける女性レイラを演じたブリジット・モイナハンが良いですね。
彼女、2000年代前半は数本、メジャー映画のヒロインなんかを演じていたのですが、
最近、また観なくなってきたなぁ〜。残念。スクリーン映えする、インパクトある女優さんの一人なんですがねぇ。

CIAって、僕はよく分からないんだけれども、CIA職員になるのって、どれぐらいの難関なのだろうか?
そりゃ情報戦を闘い抜くためにMITの学生のようなタイプも採用したいって意図は分かるけれども、
彼らを諜報活動や内偵活動をやらせようとする動きって、実在するのでしょうかねぇ〜。

この映画で描かれた教育プログラムの中では、様々なメニューが披露されていますが、
尋問されたりする訓練って、イヤだなぁ〜。いろんな意味で、人間不信に陥りそう(笑)。
映画の中盤でクレイトンがレイラを尋問するシーンがあるのですが、あんなことやってたら、
アッという間に友達がいなくなって、誰一人、信用できなくなるでしょうね。。。

まぁただ・・・CIAみたいな組織は情報漏洩は怖いだろうから、
例え、厳しい尋問や拷問があったとしても、そう簡単に口を“割られて”も困るだろうけど。

個人的にはもっと細かい情報戦を描いて欲しかったなぁ。
せっかく映画の序盤でクレイトンがシステム・エンジニアリングの能力が高いことを語っていますので、
このセオリーはもっと活かして映画を進めても良かったと思いますね。
結局、スパイ活動させるだけなら、MITの学生という設定は必要ないわけですね。

もっと演出面では、サスペンス映画の王道的手法で押して欲しかったなぁ。
残念ながら、同じロジャー・ドナルドソンの映画でも『追いつめられて』ほどサスペンスが持続しない。
もっと観客に息をもつかせぬスリルの連続という感じで、構成していかないと映画が盛り上がらないですね。

ただ、これだけ注文付けといてこう言うのもナンですが(笑)、無難に楽しめる範囲ではある。
この辺がハリウッドの底力って感じで、CIAという組織のミステリーを上手く利用し、
常に観客に不可解さを印象として与えながら、上手く映画の緊張感を持続させています。
(欲を言えば、CIAの組織的な暗部も利用して欲しかったのだが...)

本作でコリン・ファレル演じるクレイトンは、アル・パチーノ演じる教官ウォルターの指令に混乱させられ、
次第に何が真実で何がウソなのか、全く見抜けなくなっていきますが、現実にもCIAってそんな感じなのかな?
よくよく考えたら、二重スパイの存在の問題など、いつの世にも内部情報をリークされる懸念はあるわけで、
おそらくCIAみたいな組織は常に内務調査には目を光らせているのではないかと思います。
そう考えれば、本作で描かれたような状況があながち現実離れした状況とは言えないわけで、
油断も隙もない、何もかもが信用できない組織になってしまっているのではないでしょうか。
(まぁ・・・良く言えばセキュリティがしっかりした職場環境と言えるのかもしれないけど...)

僕だったら、イヤだなぁ〜。常に同僚を疑わなきゃならない職場なんて(笑)。

そもそもこの映画で語られている“NOC”という工作員の扱いも不可解ですね。
ある少数の関係者にしか、その素性が分からない存在で、“NOC”の隊員が関わる仕事に関して、
誰も責任を負わず、隊員は保護を受けることさえできない。いくら優秀な人材しか選ばれないとは言え、
一体、誰がこんな悪条件かつ危険な任務しかこない隊員に、選ばれたがるのだろうか?(笑)

この“NOC”の凄さというのは、もっと映画の中で強調して描いても良かったと思いますね。
クレイトンも何故、そんなリスクを冒してても“NOC”の話しを受けたのか、彼の決断に納得性が出たと思います。

(上映時間114分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

監督 ロジャー・ドナルドソン
製作 ジェフ・アップル
    ゲイリー・バーバー
    ロジャー・バーンバウム
脚本 ロジャー・タウン
    カール・ウィマー
    ミッチ・グレイザー
撮影 デビッド・ローゼンブルーム
音楽 クラウス・バデルト
出演 アル・パチーノ
    コリン・ファレル
    ブリジット・モイナハン
    ガブリエル・マクト
    ユージン・リピンスキ
    ケン・ミッチェル