愛を読むひと(2008年アメリカ・ドイツ合作)

The Reader

これは公開当時、ひじょうに評価の高かったセンセーショナルな内容の作品でしたが、
個人的にはそこまで良い出来、或いは魅力的なストーリー性を持った映画だとは思わなかった。

02年に『めぐりあう時間たち』で高く評価されたスティーブン・ダルドリーの監督作なのですが、
映画の雰囲気は全体的に暗く、重たい感じなのですが、実質的にヘヴィな映画というわけではない。

いや、僕は本来、この作品はヘヴィな映画にならなければならなかったと思っている。
何故なら、そもそもがナチの看守経験がある人々を告発する内容であり、それをドキュメントする。
そして傍聴席では、その被告人の苦境を痛いほどよく理解した人間がいるといシチュエーションなわけで、
ハッキリ言って、この設定なのに映画が最終的にズシッと重たい手応えがないなんて、それだけでマイナスだ。

当然、この映画、良い部分もある。
だけど・・・この最終的なズシッとくる重たい手応えみたいなものが希薄で、
アッサリ観れてしまうあたり、どこかに手落ちな部分があったとしか思えない節(ふし)を感じさせるのです。

まず、良い部分を挙げれば、
少年時代のマイケルが謎めいた年上女性ハンナに夢中になり、
本を読んだら肉体関係を結ぶという繰り返しを執拗に描けたのは良かったと思う。
この2人の、いわばルーチンワークをキチッと描かなければ、後年の描写に悪く響きましたね。

それと、映画の後半で予想だにしないハンナの裁判を傍聴する立場になったマイケルが
久しぶりにハンナとの逢瀬の日々を思い出すものの、ツラい現実を直視しないためにと、
ゼミ仲間の女性と恋人関係になったり、とにかくハンナを忘れようと必死になる姿を描けたのも良い。
これは更に後年のマイケルの行動を考えれば、意味のある“回り道”として必要な描写でしたね。

あとは、現代の映画ですから、これぐらいは朝飯前でしょうが、
50年前のドイツから、10年前のドイツの街並みまで再現したロケーションも素晴らしいですね。
特に50年前の街並みは、どこか緊張感のある空気を漂い、独特な雰囲気がよく出ていると思います。

とまぁ・・・良いところはあるんです、この映画。
それもキチッと丁寧に描けた部分が多くあって、作り手の姿勢に好感が持てると思います。

が、対照的にあまり感心できなかったのは...
まず一点目、マイケルとハンナが最初に肉体関係を結ぶまでに至った過程が不明瞭だったことですね。
これは映画が始まって10分程度のところで、いきなり登場してくるのですが、ここはもっと繊細に描いて欲しい。
あまりに唐突過ぎて、何故、ハンナが突然、全裸でバスタオルを持ってくるのか、理解に苦しみます。

何故、こんなことを言うかって、ハンナが最初っから好色な女性だというのなら、それでいいんです。
でも、映画の終盤で明らかになりますが、様々な証言を得るに、その類いの女性ではないんですよね。

それと、時制がいきなり“飛んで”しまうため不明瞭なのですが、
ハンナが何故、逮捕拘束されるような事態に陥ったのか、その過程も少しでいいから語るべきでしたね。
何の説明もなしに、ナチの裁判の被告人席にいるものですから、これは明らかな説明不足だと思います。

併せて言うなら、ハンナは文盲であることを恥じ続けているという設定なのですが、
何故、そこまでして恥じているのか、そのバックグラウンドをまるで放棄してしまうというのも納得できない。
ましてや彼女は裁判を通して、彼女の中で大きな決断を下しているわけで、この決断を描くには、
キチッとした彼女の信念、そして理由を描くべきだったと思うのです。そうすれば、もっと説得力が増したはずだ。

まぁあまりに過剰に描き過ぎると、映画が説明的になり過ぎてダメになってしまうのですが、
本作の場合は必要最小限な説明をも放棄してしまった感が否めず、映画に説得力がありません。

当初、本作はニコール・キッドマンが主演にキャスティングされてスタートしましたが、
彼女が妊娠したことにより降板した挙句、当初、撮影監督として参加が予定されていた
ロジャー・ディーキンスは『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』の契約があったため、やっぱり降板。
加えて、プロデューサーとして名を連ねていたアンソニー・ミンゲラとシドニー・ポラックが相次いで他界するなど、
とにかくトラブル続きの撮影だったことにダメを押すかのように、ホントはメインのプロデューサーだった
スコット・ルーディンが映画の公開時期をめぐって会社と対立して完成後に降板と、散々たる裏舞台でした。

様々な紆余曲折を経て劇場公開されたことは良かったのですが、
もう少し映画の出来が良ければ・・・といったところですかね。全体的に物足りない部分が多かったですね。

ちなみに公開当時から、よく話題になっておりましたが、
ドイツを舞台にしたドイツ人の物語なのに、全編英語であることの矛盾がありますが、
僕はそこまで気にならなかったかな。この辺は作り手もよく分かっていることだろうし、それなりにケアしている。

但し、後付けの意見でたいへん申し訳ないのですが、
どうしてもベルンハルト・シュリンクの『朗読者』を映画化したいということであれば、
大幅な脚色を加えて、物語の舞台をアメリカに置き換えてしまうというのも“アリ”だったかなとは思います。
この場合、映画の後半のストーリー展開がかなり難しくなるのですが、使用言語をケアするのであれば、
撮影前にシナリオの部分で改変してしまうというのは、決して悪くない発想だとは思うのですがねぇ。

何はともあれ、少年時代のマイケルを演じたデビッド・クロスは凄いなぁ。
彼が18歳になるのを待って撮影を開始したらしいのですが、これは勇気ある芝居だったはず。

(上映時間123分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

日本公開時[PG−12]

監督 スティーブン・ダルドリー
製作 アンソニー・ミンゲラ
    シドニー・ポラック
    ドナ・ジグリオッティ
    レッドモンド・モリス
原作 ベルンハルト・シュリンク
脚本 デビッド・ヘア
撮影 クリス・メンゲス
    ロジャー・ディーキンス
編集 クレア・シンプソン
音楽 ニコ・ムーリー
出演 ケイト・ウィンスレット
    レイフ・ファインズ
    デビッド・クロス
    レナ・オリン
    アレクサンドル・マリア・ララ
    ブルーノ・ガンツ

2008年度アカデミー作品賞 ノミネート
2008年度アカデミー主演女優賞(ケイト・ウィンスレット) 受賞
2008年度アカデミー監督賞(スティーブン・ダルドリー) ノミネート
2008年度アカデミー脚色賞(デビッド・ヘア) ノミネート
2008年度アカデミー撮影賞(クリス・メンゲス、ロジャー・ディーキンス) ノミネート
2008年度全米俳優組合賞助演女優賞(ケイト・ウィンスレット) 受賞
2008年度イギリス・アカデミー賞主演女優賞(ケイト・ウィンスレット) 受賞
2008年度シカゴ映画批評家協会賞助演女優賞(ケイト・ウィンスレット) 受賞
2008年度ラスベガス映画批評家協会賞主演女優賞(ケイト・ウィンスレット) 受賞
2008年度サンディエゴ映画批評家協会賞主演女優賞(ケイト・ウィンスレット) 受賞
2008年度バンクーバー映画批評家協会賞主演女優賞(ケイト・ウィンスレット) 受賞
2008年度ロンドン映画批評家協会賞主演女優賞(ケイト・ウィンスレット) 受賞
2008年度ヨーロッパ映画賞主演女優賞(ケイト・ウィンスレット) 受賞
2008年度ゴールデン・グローブ賞助演女優賞(ケイト・ウィンスレット) 受賞