レインメーカー(1997年アメリカ)

The Rainmaker

5000万ドルもの賠償金を保険会社から勝ち取った若手弁護士の成功を描いた法廷サスペンス。

コッポラ監督作に対する世間の評価は、次第に厳しさを増しておりますが、
僕は96年の『ジャック』と本作に関しては、どうしても軽視できない。
それはコッポラのあまりに強い私的な感情が、映画にダイレクトに乗り移っているからである。

確かに個人的に私情を創作活動に挟むことは支持していない。
ただ、『ジャック』と本作に対するコッポラの想いの強さというのは、並々ならぬものである。

チョット本作の話しから逸脱しますが、コッポラ本人は芸術家肌の嫌味なとこが感じられて、
どんなに間違っても実現することは僕には不可能だとは思うけど、
プライベートでコッポラと会話するのは、お世辞にも気が進むとは言えない。

とは言え、彼も生身の人間である。
ハッキリ言って、映画監督としての手腕は『ゴッドファーザー』の頃の域は到底出ない。
かなり厳しい言い方をすれば、彼の手腕は劣化していることは素人目にも明らかだ。
80年代以降の彼の監督作は秀作には仕立てるも、傑作とは呼べない作品が続いている。
彼の映画に本来的に存在していた主義主張の一貫性というものが、感じられなくなってきているのである。

但し、彼は実生活で実の息子を不治の病により若くして失っております。
この映画でも僕には白血病に侵された20歳そこそこの青年が、
コッポラの息子に置き換えて描かれているように感じられて仕方がなかった。
確かにジョン・グリシャムの原作ではありますが、彼のカラーとは言えない法廷サスペンスを撮る気になったのも、
あまりに彼の息子の境遇とリンクする登場人物があったからと解釈することもできると思いますね。

それは実を言うと、96年の『ジャック』も同様なのです。

それ以上にツラいのは、『ジャック』では登場人物の死を描くことはできませんでしたが、
本作ではアッサリとではありますが、前述の青年の死を描きました。

しかし、それもドキュメント風に追えなかったのは、まだ追う勇気を持てなかったのでしょう。
僕はそんなコッポラの強い感情を察するに、この映画をどうしても軽視することができないのです。

正直言って、映画の出来としては平凡なものです。
ただ経験豊かなコッポラだけあって、実に手堅く作られている。これはホントに力のある人の仕事だ。
どういう縁なのかは知りませんが、マイケル・ダグラスらもプロデュースに参加しており、
製作資金的にも恵まれた環境が整っており、キャスティングにもたいへん恵まれています。

特に主人公が働く弁護士事務所のオーナー、ストーンを演じたミッキー・ロークが良い。
彼がスターダムを駆け上がるのを支援したコッポラだけあって、彼の魅力を上手く惹き出している。
もう決して若くはないミッキー・ロークの新たな境地が、本作で示されたと言っても過言ではありません。

この映画を観ていてビックリしたのは、
映画の中盤で主人公が助ける人妻の家に行って、彼女の暴力夫に襲撃されるシーンで、
比較的穏やかな調子で進む本作の中で、このシーンだけが異様な緊張感に満ちており、
かなり激しいアクション・シーンになっていて、ここだけ随分とカラーの異なる演出で浮いている。

確かにそれゆえ、より2人のロマンスが盛り上がるというセオリーはありますが、
この映画にはこれだけでなく、突如として浮き足立つようなシーン演出があって、ビックリさせられますね。

この辺の時折、映画のバランスを欠く部分があるのは、近年のコッポラの特徴かなぁ。

そもそも僕はサイド・ストーリーは必要だとは思うけど、
家庭内暴力という深刻な問題を抱えた人妻という設定がホントに必要だったかは疑問だなぁ。
本作も実際に陥ってしまっている問題だと思うのですが、映画の本筋がブレますね。
この人妻の離婚調停、或いは暴力夫と彼の家族との争いだけで、一本の映画が完成しますからね。

ハッキリ言って、欲張りすぎなのです。

だから人妻のエピソードはアッサリ終了させ、保険会社との訴訟に帰ってきます。
それゆえ、この映画を観終わって率直に思うのは、人妻のエピソードの訴求の弱さなのです。
こんなに中途半端なら、いっそのこと、描かなかった方が賢明だったような気がしますねぇ。。。

とは言え、やっぱり良く出来た作品です。
2時間を余裕で超えてしまう長編であるにも関わらず、実に簡単に見せてくれます。
ダレた部分を作らなかったせいか、上映時間の長さを感じさせられることはありませんでしたね。
こういう仕事をいとも簡単にやってのけられるのですから、まだハリウッドも腐ってないのかもしれません。

どうでもいい話しだけど、クレア・デーンズ。この頃は凄いカワイイなぁ〜(笑)。
10代でDVに悩まされる人妻役を演じられるのも凄いけど、彼女のファニー・フェイスもある意味で凄い(笑)。

(上映時間135分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 フランシス・フォード・コッポラ
製作 マイケル・ダグラス
    スティーブン・ルーサー
    フレッド・フックス
原作 ジョン・グリシャム
脚本 フランシス・フォード・コッポラ
撮影 ジョン・トール
音楽 エルマー・バーンスタイン
出演 マット・デイモン
    クレア・デーンズ
    ジョン・ボイト
    ダニー・デビート
    メアリー・ケイ・ブレース
    ミッキー・ローク
    ダニー・グローバー
    ロイ・シャイダー
    バージニア・マドセン
    テレサ・ライト