クイック&デッド(1995年アメリカ・日本合作)

The Quick And The Dead

ホラー映画という印象が強かったサム・ライミが撮った西部劇。

珍しくもシャロン・ストーンがヒロインを務める西部劇でもあって、劇場公開当時、話題となった作品でした。
今思えば、ジーン・ハックマンにラッセル・クロウ、レオナルド・ディカプリオって、スゲー豪華なキャストですね(笑)。

サム・ライミっぽいなと思いましたけど、さり気なく銃弾で打ち抜かれた身体の部分が穴開いたり、
どこか劇画チックで日本文化の影響を強く感じさせる部分があったりして、普通の西部劇というわけではない。
おそらくマカロニ・ウエスタンへのリスペクトはあるのだろうけど、どこか異彩を放つ作りにはなっている。
まぁ・・・正直言って、ただただ1対1の早撃ち対決を淡々と描いているだけなので、エキサイティングな内容かと
聞かれると、それはチョット微妙な内容。どちらかと言えば、この劇画チックな雰囲気を楽しむべき映画なのでしょうね。

ジーン・ハックマン演じるヘロッドが凄腕の早撃ちであるという設定も、あんまり説得力がないんだけど、
小さな宿場町のような集落を、一方的かつ強権的に町を牛耳るという役柄には、ピッタリのキャスティングですね。

本作の頃のシャロン・ストーンも、女性的なカッコ良さを感じさせるガンマンではありますけど、
またメチャクチャ綺麗ですね。スタイルも良いけど、大人のお姉さまという雰囲気をプンプンと漂わせ、
セクシーさも持ち合わせていて、酔った勢いでレオナルド・ディカプリオ演じる若者と一夜を共にした、
なんてエピソードを匂わせていますが、ディカプリオから見れば年上のお姉さまにお相手してもらったくらいの感じだ。

終始、強気な女性ガンマンを演じるのかと思いきや、本作のヒロインはヘロッドへの強い復讐心を燃やしつつも、
どことなく自信なさげで、常に動揺しているかのような繊細さを感じさせる表情があるのが実に興味深いところ。
それはヒロインの少女時代のトラウマに起因するものではあるのですが、根本的に早撃ちガンマン気質ではない。
幾度となくヘロッドへ復讐を果たすチャンスがありながらも、なかなか踏ん切りがつかない様子が物語っている。

この辺は劇場公開当時、あまり褒められていた記憶はないのですが、
主演のシャロン・ストーンがそれなりに頑張っている証拠かな。まぁ、劇画チックな世界観の中では
ただ一人シリアスに演じようとしているけど、それはそれで有り。これがあるからこそ、彼女が撃つ一発は重たい。

クールに振る舞っているように見せてはいるけど、実際は心の中で常に揺れ動いているような状態。
元来の女性ガンマンというよりも、ヒロインはあくまで父を失った復讐心から立ち上がっているわけですね。
それゆえ、僕は本作のシャロン・ストーンの役どころは、結構難しかったのではないかと思うんですよねぇ・・・。

まぁ、シャロン・ストーン自ら製作総指揮を務めているくらいの意欲作だったので、
それまでのセクシーさを“売り”にした役からは脱却して、次のステップを歩もうと模索していた時期でもありました。

何気にヒロインの父親で、ヘロッドから“処刑”されたような死を遂げる保安官役としてゲーリー・シニーズが、
ヘロッドからデタラメな過去を暴かれる、ハッタリをかましていたガンマンのエースとしてランス・ヘンリクセン、
雇われた殺し屋を演じたキース・デビッドなど、地味に脇役キャラクターでキャラが立っている個性派が多く登場する。

そういう意味では、本作の魅力はサム・ライミの独特な演出というだけではなく、
豪華なキャストを起用して、それぞれインパクトが強く、濃いキャラクターが物語を彩っているところでもありますね。

この頃からサム・ライミも普通な映画を撮るようになったけど、正直、ここまで丁寧にキャラクターを
描き込むタイプの映画監督であるとは思っていなかったので、本作の人物描写の丁寧さには驚かされました。
ヘロッドの描き方などは少々類型的ではあるけど、サム・ライミなりに往年の西部劇へのリスペクトが感じられるし。

欲を言えば、ヒロインの復讐心がメインの映画なので、幼少期のエピソードはもう少し掘り下げて欲しかったなぁ。

このままでは、ヒロインの父親が一体何をして、ヘロッドに目を付けられたのかも分からないし、
ヒロインにとってのトラウマと、愛する父を失ったことでヘロッドへの恨みを増長したのだろうが、
もっと掘り下げて復讐心を高揚させて、ヒロインがヘロッドとの対決に臨む姿を描いた方が、映画は盛り上がった。
と言うのも、どこかゲーム感覚で映画が進むせいか、ヘロッドとの対決が悪い意味で軽いのが僕は気になりましたね。

もっと厳かな雰囲気ある決闘の方が、映画はグッと盛り上がっただろうし、
サム・ライミが敬愛するであろう往年のウエスタンに対する強いリスペクトが、もっと的確に表現できたと思う。

それから、レオナルド・ディカプリオ演じる早撃ちの若者って、敢えて描いた意義がよく分からなかった。
ましてやヘロッドが父親であるかのようなニュアンスで描いていますが、それも映画の後半で利いてくるのかと
思いきや、「息子かどうかも分からん」とヘロッドが呟く程度であまり映画の中で大きな意味を持たないのも残念。
そうであるならば、ヒロインと同じくヘロッドに個人的な恨みを持つ設定とかでも良かったような気がするし、
当時、若手俳優のホープだったレオナルド・ディカプリオを引っ張り出したかっただけのように見えてしまっている。

サム・ライミなりに真剣に撮った作品であることは間違いないし、
ゲーム感覚でガン・アクションが構成される発想自体は悪くはないので、もう少しキチッと作り込んで欲しかった。
キャスティングは最高のものなので、良い“土台”は揃った作品。そうなだけに、彼の描き方は勿体なかったと思う。

どこかB級テイストが漂っている作品なので、このままでは少々安っぽい映画と見られしまう向きもある。

サム・ライミも、おそらくセルジオ・レオーネらのマカロニ・ウエスタンへの敬愛があるからこそ、
本作で往年の名作へのリスペクトを込めたオマージュでもあったのだろうけど、元来のサム・ライミのファンに対して
向けた内容の映画になってしまっているような気がして、普通の西部劇ではないところが、また賛否分かれるところだ。
しかも、それをこのとてつもなく贅沢なキャスティングでやってのけてしまうのだから、余計に色々言われてしまう。

とは言え、それなりに楽しませてくれる作品ではあるので、ホラー映画の枠組みから出てきて、
新たなジャンルの映画に挑戦したサム・ライミの映像作家としての野心は、もっと褒められても良かったでしょうね。
後々、『スパイダーマン』シリーズを撮ったり、野球映画を撮ったりしたことを考えると、本作は大きな契機でしたね。
後にアメコミの映画化を手掛けていることを思えば、本作の時点でコミックな世界観は炸裂してますからね。

そういえば、ヘロッドとかつて行動を共にしていて、改心したと自称する凄腕ガンマンとして、
ラッセル・クロウが出演してますが、当時はハリウッドで仕事し始めて間もない頃でしたから、ほぼ無名俳優でした。
本作もオーストラリアの映画界では有名という鳴り物入りでハリウッドに渡ってきても、どこか中途半端な扱いだ。

と言うのも、よくよく思い返してみれば、ラッセル・クロウ演じる牧師コートは改心したということで、
一人も人間を殺めないと誓ったばかりに、ヘロッドが主催する早撃ちトーナメントに出演できないとされる中で、
自分を裏切ったコートを許せなかったのか、ヘロッドはコートの意に沿わないことを知りつつ、強引に出場させます。

しかし、コートのガン・アクションはほとんど描かれなかったのですが、ここはしっかり見せて欲しかったなぁ。
やっぱり、ヘロッドも一緒なのですが、彼らがどれだけの凄腕ガンマンなのかを実際の映像として見せて欲しかった。
その方が映画にずっと説得力が生まれたのですが、劇画調の演出で誤魔化されてしまった感じがしましたね。

結局、ラッセル・クロウ自身は97年の『L.A.コンフィデンシャル』でブレイクするまで、もう少し時間が必要でした。

個人的にはズームを多用し過ぎるカメラも気になったなぁ。これはこれで劇画っぽく作る意味で、必要なのだろうけど。
少々、大袈裟なカメラワークも含めて、全体的にやり過ぎな気がした。これはサム・ライミの趣味だったのだろうか?

本作を観る限り、もっとドシッと構えて撮った方が面白い映画に仕上がったと思うんだよなぁ。
早撃ちトーナメントだけに執着してしまっていて、馬上のアクションが無いのも、西部劇としては寂しい気がするし。
トーナメントが幾つかのパートに分かれていて単発的になってしまったので、映画の流れがあまり良かった。

どうでもいい話しではありますが・・・
いくら金が貴重な時代だからとは言え(...って今も高価ですが...)、早撃ちトーナメントで負けて、
死んだ中年の汚らしいオッサンの金歯を取ろうとするなんて、なんだかイヤだなぁ。あんなの欲しくないよ(笑)。
熱で溶かして棒状に固める原料にするのかもしれないけど、知らずに買った人がなんだか可哀想だ・・・と思っちゃう。

(上映時間105分)

私の採点★★★★★★☆☆☆☆〜6点

監督 サム・ライミ
製作 ジョシュア・ドーネン
   アレン・シャピロ
   パトリック・マーキー
脚本 サイモン・ムーア
撮影 ダンテ・スピノッティ
音楽 アラン・シルベストリ
出演 シャロン・ストーン
   ジーン・ハックマン
   ラッセル・クロウ
   レオナルド・ディカプリオ
   トビン・ベル
   ロバート・ブロッサム
   ランス・ヘンリクセン
   キース・デビッド
   パット・ヒングル
   ゲーリー・シニーズ
   ケビン・コンウェイ