幸せのちから(2006年アメリカ)

The Pursuit Of Happyness

将来性があると見込んで、財産をはたいて西海岸ベイエリアでの
骨密度スキャナーの販売権利を買い取った主人公が、全く骨密度スキャナーが売れず、
妻子との家庭生活も困窮し、安定した生活を目指して株式のブローカーを養成する
プログラムに申し込み、数多くの困難を経験しながらも再起をかける姿を描いたヒューマン・ドラマ。

どうなのかな。ひょっとしたら以前なら、この映画を肯定的に観ていたかもしれないけど、
どうも僕にはこの映画を美談として扱うには抵抗を感じざるをえない作品でしたね。

昨今は日本でも東日本大震災は勿論のこと、
それ以前から製造業での派遣切り問題や若者で広がったニートの問題、
もう少し古くはリストラや相次ぐ中小企業の倒産などで、定職を失う、或いは定職に就けない人が増え、
定職に就いていたとしても、理想と現実のギャップを埋められず、もがいている人が多い状況です。

新規採用の求人が増えても、悪条件な求人が多く、
今尚、不況な日本経済に於いては就職や転職が容易な環境であるとは言えないと思います。

まぁ僕は仮に主人公が独身で、扶養者がいないのであれば好きにすればいいと思う。
満足いくまで精進すべきだし、無駄に妥協せず追い求めることは大切だと思う。
だけど、家族がいる以上、間違っても「好きにすればいい」だなんて言えませんね。

主人公もそうであったように、家族を養うという責務に於いて、
家族を路頭に迷わすわけにもいかず、息子を引き取ると主張したのは主人公本人なのです。
ブローカー養成コースに申し込み、安定した収入を夢見るためには、僕は大きな決断をすべきだったと思う。

そこを主人公は息子を離したくないという気持ちの強さから、
無計画にも両方を取ろうとします。妻はニューヨークに移って、収入のアテがあるに関わらずです。
この時に子供の将来のためには、ホントにどうすることがベストだったのか、考えることができず、
今、彼がどうしたいのかという気持ちばかりを優先してしまったことまで、美談にするのは抵抗がありますね。

結果、彼は大きな困難を経験し、息子にも苦しい想いをさせてしまいます。
例え幸せな結果が待っていたとしても、先のことを考えた決断ができないというのは、
子供を育てる親として、ホントにあるべき姿なのか、僕にはどうしても理解できないんですよね。

元々、主人公は上昇志向が強く、先行投資にも積極的だったのでしょう。
妻には「オレを信じろ!」と強く説得してきますが、先を考えない彼の行動にそれらの説得力は
弱体化する一方で、結局、妻は彼との別離を選択するわけで、この選択は必然と言えるでしょう。
やはりこうなってしまった原因は、僕は主人公にあるとしか思えないんですよね。

映画は冒頭から、こういった主人公の一連のエピソードを美談として扱うのですが、
僕にはどうしてもこの映画に入り込めない“何か”を感じさせられていて、それが主人公の行動に
どうしても納得性が持てず、それが結果として映画の胡散クサさにつながっているように思えるからなんですね。

まぁ個人的な感情だけで本作を論じれば、こんな感じになってしまうのですが、
正直言って映画の出来も及第点レヴェルかな。特段、素晴らしい点はなかなか見当たりません。

確かに体裁としては、キチッとした映画で大きな破綻はありませんが、
やはり何処か説得力に欠けるせいか、クライマックスでも訴求するものが無かったですね。
この辺は作り手の弱さというか、作り込みの甘さだったと思うんですよね。
どの道、フィクションを織り交ぜたストーリーなわけですから、もっと脚色しても良かったと思うんですよね。

実際、この映画の主人公クリス・ガードナーは実在の人物であり、
事業を失敗してホームレスにまでなってしまい、映画で描かれた通り、並々ならぬ努力を重ねた結果、
株のブローカーとして活躍した後、独立起業し、今やアメリカ有数の大企業のCEOであり、
著名な慈善活動家として知られるようになったわけで、2人の子供も立派に育てたようです。

実際はディーン社のプログラムを受講したときクリスは、
息子を交際相手に奪われていたために、完全に一人暮らしだったわけで、
ディーン社での研修に昼夜問わず、打ち込んでいたようで、ここが映画と大きく異なります。

数ヶ月後に息子を連れて出て行ったはずの恋人が戻ってきて、
息子を家に置いていったそうで、そこでクリスはシングルファザーの道を選んだわけです。

どんな形であれ、クリスは息子を愛していたでしょうが、
クリスはディーン社で認められるために、本作で描かれた以上に努力したことは明白であり、
僕は無理をして、本作でクリスがシングルファザーになることに固執する設定にする必要は無かったと思う。
こういう良いところばかりを欲張って取った結果、残念ながら映画が胡散クサく見えてしまったんですよね。

実在のクリスも映画のクライマックスで通行人としてカメオ出演しているのですが、
よくもまぁ・・・本人がこの内容に反対しなかったなぁと感心してしまうぐらいです。

やはりこの手の映画は観客からの共感が得られないとなると、キビしいでしょうね。
ウィル・スミス主演作というだけで、ある程度のヒットは見込めるとは思いますが、
こういう厳しい社会情勢だからこそ、この内容では共感を得づらいのではないかと思いますね。
それはやはり主人公の描き方に問題があったからとしか、言わざるをえないんですよね。

ちなみに主人公の息子を演じたジェイデン・クリストファー・サイア・スミスは、
ウィル・スミスの実の息子であり、どうやら本格的に子役としてデビューしたようですね。
ひょっとすると、将来的にはウィル・スミス並みに稼ぐスターになるかもしれませんね。

いずれにしても、もっと上手く作ることはできたであろうと思えるだけに残念ですね。
奇跡的な物語の映画化なだけに、難しい企画だったのでしょうけど、ひじょうに勿体ない映画です。

(上映時間117分)

私の採点★★★★★★☆☆☆☆〜6点

監督 ガブリエレ・ムッチーノ
製作 ドット・ブラック
    ジェイソン・ブルメンタル
    スティーブ・ティッシュ
    ジェームズ・ラシター
    ウィル・スミス
脚本 スティーブン・コンラッド
撮影 フェドン・パパマイケル
編集 ヒューズ・ウィンボーン
音楽 アンドレア・グエラ
出演 ウィル・スミス
    ジェイデン・クリストファー・サイア・スミス
    タンディ・ニュートン
    ブライアン・ホウ
    ジェームズ・カレン

2006年度アカデミー主演男優賞(ウィル・スミス) ノミネート