郵便配達は二度ベルを鳴らす(1981年アメリカ)

The Postman Always Rings Twice

劇場公開当時、かなり大胆で露骨な性描写が話題を呼び、成人指定のレイティングを受けたみたいですけど、
確かに映画の序盤にあるフランクとコーラの衝動的なセックスシーンはインパクトが凄く強いのは事実。

でも、このシーンにはそれなりに深遠な意味合いが込められていると思う。
まるで野獣のようにコーラの若い肉体を力づくで求めるフランクの姿は、言わば強姦だ。
しかし一方で年老いた飲んだくれのニックとカフェを経営するコーラにとって、目の前の日常とはとても退屈なもの。
そこに突如として現れた流れ者のフランク、風貌は汚らしいが何か惹かれるものはある。

当然、フランクがコーラに襲い掛かるまで、コーラはフランクを受け入れる気など、毛頭なかったでしょう。
しかし、意地でもコーラをレイプしようとするフランクの性衝動を体感してか、突如として彼女の気は変わります。

ここから2人のセックスは和姦に変わってしまうのです。
この映画はそんな2人の情欲を、3分ほどの性描写で描くことに目的があったと言っても過言ではありません。
ですから、極端な言い方をしてしまえば、一連の性描写ばかりが先行して話題になってしまうことに、
映画の作り手たちも半分、期待していたのではないだろうか(...あくまで推測ですが...)。

厳しい言い方ではありますが、ボブ・ラフェルソンが冴えていたのも本作までですね。
残念ながら本作以降は、まるでダメです。『ファイブ・イージー・ピーセス』と本作で全てを出し尽くしたんでしょう。

本編はあまりに過激な性描写があったため、日本はノーカットで公開となりましたが、
アメリカでは約30分ほど短いヴァージョンで公開されたらしく、内容的にはかなり分かりにくくなっていたはずです。
そういう意味では不遇な作品なんですよね。映画のセールスポイントが規制対象となってしまったわけですから。

コーラを演じたジェシカ・ラングが抜群に素晴らしいのは事実です。
従来なら、ただの悪女(ファム・ファタール)として描かれがちな人物像だったのですが、
彼女の時にデカタンで、時に繊細な感情表現を要求される難しい役どころを実に巧みに演じている。
彼女の好演のおかげで、コーラがただの悪女ではなく、一人の女性としてキャラクターが確立されましたね。

対するフランクを演じたジャック・ニコルソンも納得の芝居。
決してイージーな役ではなく、他人の女房を奪うことは躊躇しないが、殺人ともなると二の足を踏む。
長い時間、同じ場所に定住することを嫌い、風来坊的な生き方を好む中年男を、説得力ある芝居で表現。

正直、本作は主演2人の芝居合戦に支えられている側面がひじょうに強いです。
これはキャスティングが見事に結実した結果であり、プロダクションの勝利とも言えるでしょう。

元々はジェームズ・M・ケインの犯罪小説が原作で、かなりセンセーショナルな題材であるがゆえ、
発刊と同時に大きな話題となったそうなのですが、今回の映画化においては、犯罪映画という枠組みを脱却し、
フランクとコーラの情欲に忠実な運命を描き、ドラマ性を加味することによって、オリジナリティを持っています。

過去に複数回、映画化されておりますが、
間違いなく本作が初めてかなり踏み込んだ性描写を成し遂げた作品であり、インパクトがもの凄く強い。

フランクとコーラは肉体的にも精神的にも結ばれた後、
邪魔者となったニックを日常から排除しようと、とある夜に彼を殺そうとします。
映画の中盤以降は、裁判シーンやコーラが家を留守にするエピソードなどで時間を割かれますが、
色々と心の揺れ動きがあったコーラもフランクと結婚する決心をし、小悪党だったフランクも改心し始めます。

2人の結び付きは、欲望から始まったものであることは否定できませんが、
フランクが改心する兆候を見せ始めたあたりから、2人の間に純粋な恋愛が見え隠れし始めます。

しかし、映画の終焉は突然、やって来ます。2人の運命は、やはり皮肉なものだったのです。

この映画のアプローチで思わず感心させられたのは、
散々、過激な描写などの大胆なアプローチで観客を煽動的に引っ張りながらも、
まるでそれまで強く惹き付けていた観客を急激に突き放すかのようなラストで、一気に映画を収束させます。

この終わり方は『ファイブ・イージー・ピーセス』の印象的なラストより、更に良い終わり方かもしれません。
少なくとも、こういう終わり方はニューシネマ期によくあった終わり方なんですよね。

ちなみに本作は人気劇作家デビッド・マメットの映画デビュー作。
有名な原作を部分的に新しいセオリーを吹き込み、見事に一本の映画にフィクスするシナリオです。

もし、本作が下世話なイメージだけで敬遠されている傾向があるならば、それは実に勿体ないことです。
一連の過激な性描写も前述した通り、僕は意味があっての描写だと思います。
本作のような挑戦意識の高い作品に対しては、我々は吟味して鑑賞する必要があると思います。
惜しまれるのは、裁判シーンが中途半端な出来になってしまっていることなのですが、
それでも致命的な出来の悪さとは言えず、コーラが自白するシーンなんかは悪くないと思う。

特にそれまで“キング・コングの恋人”と揶揄的なパーティー・ジョークのネタにされていたという、
ジェシカ・ラングを見事に演技派女優として開眼させるキッカケとなった一本としても価値があると思いますね。

まぁ何度観ても原題の意味を上手く説明できないのは気になりますが(笑)、
センセーショナルな原作の流れを上手に汲み取った映画化の例として、ひじょうに意義深いですね。

(上映時間121分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 ボブ・ラフェルソン
製作 チャールズ・マルヴェヒル
    ボブ・ラフェルソン
    アンドリュー・ブラウンズバーグ
    ジャック・シュワルツマン
原作 ジェームズ・M・ケイン
脚本 デビッド・マメット
撮影 スヴェン・ニクビスト
音楽 マイケル・スモール
出演 ジャック・ニコルソン
    ジェシカ・ラング
    ジョン・コリコス
    アンジェリカ・ヒューストン
    マイケル・ラーナー
    クリストファー・ロイド
    ブライオン・ジェームズ