ポセイドン・アドベンチャー(1972年アメリカ)
The Poseidon Adventure
70年代のハリウッドと言えば、個人的にはアメリカン・ニューシネマが吹き荒れたという印象で、
数多くの傑作が生まれた時期で、映画ファンとしてはこの時代に生きたかったという想いもあるのですが、
並行するようにして、オールドな映画人たちはどちらかと言えば、大作志向になっていって特撮映画も流行りました。
その一環が本作という印象があって、アメリカン・ニューシネマの潮流とは正反対なのですが、
おそらく大掛かりなオールスター・キャストで描いたパニック映画としては、本作は初期の頃の作品の一つであり、
本作での成功がある種、ハリウッドで人の手本となり、74年の『タワーリング・インフェルノ』のようなヒット作も生まれ、
70年代のハリウッドを象徴する一派として記憶に残されています。まぁ、アーウィン・アレンが火付け役なのですが、
本作はセット撮影という限られる制約厳しいの中で、とにかくスケールを大きく見せることに見事に成功している。
映画は超豪華な巨大客船が、老朽化のためにギリシアで解体することになり、
船のオーナーが目的地へと急がせる操舵室での船長とのやり取りから始まります。何故に急がせるかと言うと、
解体工たちを拘束してしまうから。要するに、解体するにもそれだけ費用がかかるということになります。
この手の映画って、こういう人間のエゴが災いとなるシークエンスを構成することが多いせいか、
僕はまたてっきり、この船のオーナーと船長のやり取りが映画の後半への伏線となっていて、どこかでそれらを
回収するのかと思いきや、せいぜい船長がスピードを上げたことぐらいで、津波をまともに喰らって転覆したこととは
あまり関係ないというのも意外で、しかも転覆後はオーナーや船長が一切登場してこないというのも予想外(笑)。
(しかも、この船長を演じているのが『裸の銃を持つ男』シリーズのレスリー・ニールセンというのも・・・)
航行途中に付近の海域で発生した巨大地震によって起こる巨大津波。
残念ながら大型客船とは言えど、この巨大津波をまともに喰らっては船が転覆してしまう大ピンチ
そのピンチを回避する間もなく、残念ながら船は見事に津波を喰らって、180°の大転覆。ここから、映画が始まります。
絶望的な状況で海底に最も近いところにいると思われる、船内パーティーに出席していた客たちは
絶望的な状況でありながらも、誰かの助けが来るのを逆さまになった会場で待とうという意見が出たり、
各々に正確な情報を飲み込めず、その中で一人の牧師は「自分で困難を乗り越えよう!」という号令を出し続けます。
映画はこの牧師を演じるジーン・ハックマンを主人公にして、進んでいくわけですが、
この牧師は神頼みで生き残ろうとするわけではなく、自分たちでなんとかしない限り生き残れないと主張し、
お年寄りも含めて牧師に付いて来た人々を、必死に鼓舞しながら180°転覆した状態で船底を目指します。
しかし、行く手を阻むのはメチャクチャになった船内の荒れ具合と、次々と浸水が進んでいき
尚且つあらゆる場所で爆発が発生するというトンデモない状況の中、なかなか上手く避難ができません。
そんな彼らの困難を約1時間30分強にわたって描くという、作り手の力の入れようで常時、緊迫感がある。
これは劇場公開当時、かなり衝撃的な内容だったでしょうし、50年経った今でも尚、その輝きは失われていない。
現実主義で脅迫的に避難を押し進める牧師を演じるジーン・ハックマンと、妻を引き連れながら避難をする、
元警察官を演じるアーネスト・ボーグナインがお互いに反目し合いながらも、協力する姿がなんとも迫真に迫っている。
それゆえ、映画のクライマックスに牧師が「任せたぞ!」とメッセージを送る姿が感動的ですらある。
例えば、97年の『タイタニック』であれば沈没しつつある豪華客船から、どう脱出するかがポイントであるという点は
本作と共通しているけれども、そんな悲劇の裏側にあったドラマやロマンスにスポットライトを当てた作品であって、
映画の中には、ある種の悲壮感すら漂う雰囲気だったのですが、本作では一切そんな余地を与えない緊迫感。
主人公の牧師が「これはヤバい!」と瞬時に察知したように、周囲の人々に避難を呼びかけ、
状況的に船長らの誘導はもう難しいと判断し、180°引っくり返った状態を察し、すぐに船底を目指すよう呼びかける。
そこには一瞬の迷いも許さないような、ひっ迫して一分の猶予すらないという、リミット感がひたすら強く出ている。
それゆえか、映画のクライマックスにも爽快さや感動といった、余韻に浸る間もないくらい余裕なく、映画が終わる。
でも、これこそが真に迫った描写だと思う。要するに、こういう危機的状況では往々にして咄嗟に行動した、
若しくは本能的に反応したということが、被災者の生死を分けるポイントであったりするからだ。これが現実だと思う。
プロデューサーであるアーウィン・アレンは、本作のようなパニック映画のブームの火付け役となった人ですが、
プロデューサーから転身して70年代後半に自ら監督を務めることで、パニック映画のブームを延ばそうと必死でした。
『スウォーム』や本作の続編の『ポセイドン・アドベンチャー2』なんかは、完全に調子に乗ってしまったと思うのですが、
そのほとんどがヒットせずに終わってしまい、80年の『世界崩壊の序曲』での大失敗が最後にダメを押してしまいました。
まぁ、やはり一過性のブームであった感は否めないことと、次第に映画のスケール感に依存してしまい、
本作の頃にあったような創意工夫がほとんど無くなってしまったことで、映画の魅力が無かったのでしょうね。
どうしても、そのほとんどが二番煎じになってしまうので、全体にもっと工夫していれば、潮流は変わったかもしれません。
創意工夫という観点では、少々ありきたりな部分ではありますが、
避難するためにと、それなりの時間の潜水をしなければならず、ロープを頼りに浸水した部屋を泳いでいくシーンなど
何度観ても思わずドキドキさせられるシーンが続く。その節々で、ジーン・ハックマンとアーネスト・ボーグナインが
お互いに対立して口論になりつつも最後はアーネスト・ボーグナインが“折れる”というやり取りが少々ウザいが(笑)、
それでも、結局は牧師の凄まじいまでのリーダーシップにみんな付いて行くし、自らの体型を気にしてばかりいる、
大柄な婦人を演じたシェリー・ウィンタースの描き方などは、ベタだけどやっぱり良いなぁ〜と唸らされてしまう。
ずっと自分の体型や年齢のことばかりを気にしていて、思わず「大丈夫かよ!?」と疑問に思えちゃうけど、
それでも最後はキッチリと彼女の役割を明確にして、見せ場を作ってくれていて、気が利く部分もあるのですよね。
それも含めて、僕は本作のことを文句なしの傑作だと思っています。
70年代に製作されたパニック映画の中でも有数の出来の良さです。そして、この手の映画のパイオニアです。
だからこそ、なんでこの偉大な第1作の続編を作ろうとしたのか、理由を知りたいけど...まぁ仕方ないですよね。
本作製作当時はまだSFXもVFXも映画界では使われていない映像表現の手法であって、
この手作り感丸出しなところが僕は大好きで、それでも決して雑な仕上がりではないのが面白いですね。
そういう意味では、実はアーウィン・アレンよりも現場監督を任されたロナルド・ニームがよく頑張ったのでしょう。
まるでゲーム感覚で船底へ近づいていく発想も、当時としては斬新なスタイルの作品だったと思います。
こういった撮り方は当時としてはとても珍しい。ハリウッドのプロダクションの底力をこういう部分に感じさせますね。
そんな素晴らしい傑作と思いつつも、それでも本作にも妙な違和感があるシーンが無くもない。
そもそもが、いくら船底の金属に肉厚が薄いとは言え、あんなに簡単に救助隊が救い出せるものなのだろうか?
それから、ヘリコプターが着地しているわけでそれもトンデモない過重だと思うのですが、あんな薄い肉厚素材で
堂々とヘリを着地させて救助活動を展開するなんて、どだい無理な設定であったのではないかと思えるのです。
それだけでなく、映画の序盤にあった厨房出口から巨大“クリスマス・ツリー”を使って、
多くの被災者を厨房の方へと案内しようとするシーンにしても、現実的にはどこか違和感があるようにも見える。
しかし、まぁ・・・個人的にはそこはどうでもいいのです。ナンダカンダでしっかり楽しませてくれて作品なわけですから。
正直言って、もうこのジャンルで本作の新鮮味を超えるのは、極めて難しいと思います。
それくらい本作は工夫が凝らされた、実に素晴らしい傑作です。70年の『大空港』と比較しても、スゴい進歩です。
本作はアメリカン・ニューシネマと対極する路線でありつつも、新しさをそれなりには持った作品だと思います。
映画の中では老朽化しているという設定でしたが、映画の冒頭で描かれる船内の様子は全く古びていない。
僕は船酔いしそうし、そこまでの富裕層ではないので(笑)、豪華客船での旅なんて縁遠いですけど、
普通に考えて、何日も過ごせるように船内でのエンターテイメントが充実しているなんて、スゴいことだと思います。
そんな夢のような空間が一瞬にしてパニックに陥った時こそ、どんな行動をとれるかで人間の価値は決まるかも。
確かに主人公の牧師はあまりに強引で自信過剰なところがあって、実際に近くにいたらイヤかもしれないけど、
人々を“希望”の方向に導くことができているあたりは、やはり人々に道理を諭すだけのことはあるキャラクターだ。
(上映時間117分)
私の採点★★★★★★★★★★〜10点
監督 ロナルド・ニーム
製作 アーウィン・アレン
原作 ポール・ギャリコ
脚本 スターリング・シリファント
ウェンデル・メイズ
撮影 ハロルド・E・スタイン
特撮 L・B・アボット
編集 ハロルド・E・クレス
音楽 ジョン・ウィリアムズ
出演 ジーン・ハックマン
アーネスト・ボーグナイン
レッド・バトンズ
キャロル・リンレー
ロディ・マクドウォール
シェリー・ウィンタース
パメラ・スー・マーティン
ジャック・アルバートソン
レスリー・ニールセン
1972年度アカデミー助演女優賞(シェリー・ウィンタース) ノミネート
1972年度アカデミー撮影賞(ハロルド・E・スタイン) ノミネート
1972年度アカデミー作曲賞(ジョン・ウィリアムズ) ノミネート
1972年度アカデミー歌曲賞 受賞
1972年度アカデミー美術監督・装置賞 ノミネート
1972年度アカデミー衣装デザイン賞 ノミネート
1972年度アカデミー特別業績賞(視覚効果)(L・B・アボット) 受賞
1972年度アカデミー音響賞 ノミネート
1972年度アカデミー編集賞(ハロルド・E・クレス) ノミネート
1972年度イギリス・アカデミー賞主演男優賞(ジーン・ハックマン) 受賞
1972年度ゴールデン・グローブ賞助演女優賞(シェリー・ウィンタース) 受賞