ポセイドン・アドベンチャー(1972年アメリカ)

The Poseidon Adventure

70年代に入ると、ハリウッドではヨーロッパのニューシネマ・ムーブメントの潮流を
引き継いだアメリカン・ニューシネマか、50年代以前のオールスター・キャストを投じたり、
莫大な製作費をかけた大作志向のパニック映画の両極化していきます。本作はそれを象徴する一本です。

監督はロナルド・ニーム。晩年は創作活動から離れていたようで、
2010年に他界されましたが、ロナルド・ニームといったら長いキャリアの中でも、
本作か74年の『オデッサ・ファイル』かというくらい、渾身の代表作の一つとなりました。

僕も本作は忘れ難い映画の一つで、確かに『タイタニック』はそのスケールの大きさに
映画館で圧倒され、リアルタイムに世界的大ヒットを体感した世代ではありますが、
とは言え、当時からどこか『タイタニック』に既視感を感じていたのは、本作があったからでしょうね。

72年当時は、CGなどの視覚効果技術はまるで発達していなかったものですから、
本作自体は特撮技術を駆使して、当時の撮影スタッフのアイデアが結集した内容と言えます。

おそらくスタッフはじめ、キャストたちも凄まじく大変な撮影現場だったでしょうけど、
その甲斐あってか、素晴らしく迫力満点、手に汗握る緊張感漲る作品に仕上がっています。
ホントに本作でのロナルド・ニームも、よくまとめたというくらい、内容自体もコンパクトで感心させられる。

オールスター・キャストの映画が数多く作られるキッカケとなったのは、
70年の『大空港』のヒットでしょうし、本作自体のヒットがそれを後押しして、
ある意味で集大成的作品である74年の『タワーリング・インフェルノ』で、続くように次々と映画が作られましたが、
それは若者たちが中心となって作り上げられたニューシネマ・ムーブメントに対抗することも目的だったけど、
やっぱり50年代に“赤狩り”を経験したハリウッドとして、それまでの栄華を極めたハリウッドを過ごしたスターたちも
それまでの路線を、ただ踏襲し続けるばかりでは生き残っていけないという、危機感の表れだった気がします。

映画のストーリー自体は極めて単純明快。
1400名もの乗客を乗せてニューヨークを出航し、アテネへ向かっていた巨大豪華客船が、
新年を祝っていた大晦日の夜に、目的地のアテネが近づいて、至近で発生した巨大海底地震の影響を受け、
発生した巨大津波に気付くのが遅れ、あえなく転覆してしまう。完全に引っくり返った状態となった船の中で、
「動かなければ生き残れない!」と強く主張する牧師が先導して、パーティー会場から船底にある機関室を
目指す数名に訪れる、幾多の困難を描いています。69年に発刊された、ポール・ギャリコの小説が原作です。

元スポーツ選手であり、弱者を救済するというよりも、
弱者も強くなれと言わんばかりの、牧師とは思えない主張を強く繰り返す主人公に、
『フレンチ・コネクション』でタフに麻薬組織と対峙する刑事を演じたジーン・ハックマンですから、
ある意味で本作自体の映画のカラーがある程度分かると思うのですが(笑)、まぁ・・・ピッタリなキャラクターです。

そこに強引に先導して、他の主張を一切聞き入れない牧師にことある毎に反発して、
牧師と対立する刑事を演じたのが、個性派俳優アーネスト・ボーグナインというのも、映画ファンを唸らせる(笑)。

こういった映画のカラーを確立した上で、ご自慢の特撮技術も当時できる限りのことをやった感じで、
見応えたっぷりだ。映画のクライマックスであると言える、機関室へ向かう長い潜水シーンにしても、
まるで登場人物と同じように息を止めてしまうくらいの緊迫感があって、実に映画が生き生きとしている証拠だ。

こういったスタイルはプロデューサーとして、当時からTVシリーズなど、
数多くのパニックドラマを手掛けて、ある程度のノウハウを持っていたアーウィン・アレンの存在が大きかっただろう。

結局、80年に『世界崩壊の序曲』で大失敗こいてしまったために、
結果としてアーウィン・アレン自身も映画製作から撤退せざるをえなくなってしまいます。
(なんせ、製作費2000万ドル超えたのに、興行収入が170万ドルでしたから・・・)

なんでもかんでも上手くいき過ぎている感もありますが、
「動かなければ助からない」と、「動かずにいた方が助かる」とのいつの世にもある主張の違いが面白い。
これは性格的なものが出ていますが、僕はここに答えはないと思うし、状況に拠ると思うんですよね。
でも、その状況を把握するのには時間がなさ過ぎる、情報(材料)を取りに行くことが困難な場合、
一体どうしたらいいんだ?と言うと、「動かいて後悔することが嫌」なのか「動かずに後悔することが嫌」なのかの違い。

やはりここにも答えはないと思いますが、映画も敢えてそこには触れていません。

ただ、僅かに残された可能性を目指して、「誰かが助けてくれる」と淡い期待を抱くよりも、
助けてもらえるために、如何に最善を尽くすのかということで、牧師の性格もあってか、
神頼みしたって助かるわけがないということを、この映画の原動力としているように見えます。

映画のクライマックスは、予想外なほどにアッサリしたもので、チョット拍子抜けだ。
予定調和な部分はあるが、思いのほかドラマを掘り下げるかの如く、観客の感動を煽るわけでもなく、
大々的にレスキュー隊が到着するわけでもなく、映画が描きたいところだけ描いて、アッサリ終わってしまう。
思わず「あれ?」と声を上げたくなってしまうアッサリ感で、この続きは実は79年に製作された続編で描かれます。

ちなみに船長を演じたのは、後に『裸の銃を持つ男』シリーズで有名になった、
レスリー・ニールセンで映画の冒頭で、副船主と航行に対する考え方の違いで対立していて、
「既に3日も遅れているんだから、全速力で進みなさい」と命令する副船主に対して、
「こんなオンボロ船なんだから、ゆっくりやらせてくれ」と船長は主張します。よくありがちな攻防ですが、
不思議なことに本作の中では、この対立がほぼ意味のないやり取りに終わってしまうのです。

この辺が少々物足りない部分ではありますが、
個人的には映画の出来としては申し分ないと思いますが、未だに楽しめる要素は十分にあると思います。

やっぱり作り手の努力が見える映画は見応えがありますね。
映画が古びないのは、映画の中に本物の緊迫感がしっかりと吹き込まれているからでしょう。
これを見事にやり切ったロナルド・ニームの功績はデカいですね。莫大な製作費にならなかったことも凄い。

ジーン・ハックマンにアーネスト・ボーグナインが何度も怒鳴り合う映画なんて、
男臭くて、暑苦しい映画だなぁと思いがちですが、大晦日の深夜に転覆する豪華客船の物語で、
オマケにギリシア付近を航行中なのですから、当然、身も凍るような寒さの中での避難劇なはずです。
あくまで現実と照らし合わせて考えると、そこは寒さとの闘いが描かれないのは、チョット非現実かもしれませんが、
やはりジーン・ハックマンとアーネスト・ボーグナインの男臭さに免じて、許してあげたくなるほどの力作だ。

(上映時間117分)

私の採点★★★★★★★★★★〜10点

監督 ロナルド・ニーム
製作 アーウィン・アレン
原作 ポール・ギャリコ
脚本 スターリング・シリファント
   ウェンデル・メイズ
撮影 ハロルド・E・スタイン
特撮 L・B・アボット
編集 ハロルド・E・クレス
音楽 ジョン・ウィリアムズ
出演 ジーン・ハックマン
   アーネスト・ボーグナイン
   レッド・バトンズ
   キャロル・リンレー
   ロディ・マクドウォール
   シェリー・ウィンタース
   パメラ・スー・マーティン
   ジャック・アルバートソン
   レスリー・ニールセン

1972年度アカデミー助演女優賞(シェリー・ウィンタース) ノミネート
1972年度アカデミー撮影賞(ハロルド・E・スタイン) ノミネート
1972年度アカデミー作曲賞(ジョン・ウィリアムズ) ノミネート
1972年度アカデミー歌曲賞 受賞
1972年度アカデミー美術監督・装置賞 ノミネート
1972年度アカデミー衣装デザイン賞 ノミネート
1972年度アカデミー特別業績賞(視覚効果)(L・B・アボット) 受賞
1972年度アカデミー音響賞 ノミネート
1972年度アカデミー編集賞(ハロルド・E・クレス) ノミネート
1972年度イギリス・アカデミー賞主演男優賞(ジーン・ハックマン) 受賞
1972年度ゴールデン・グローブ賞助演女優賞(シェリー・ウィンタース) 受賞