プレッジ(2001年アメリカ)

The Pledge

引退を迎えた刑事が、退職日に発生した子供を対象にした猟奇殺人の捜査過程で、
被害者の両親に犯人特定を約束したことをキッカケに、真犯人を単独で追っていく姿を描いたサスペンス。

95年の『クロッシング・ガード』に続いて、ジャック・ニコルソンを起用した、
人気実力派俳優ショーン・ペンの第3回監督作品で、今回も実に堅実な作りで感心させられる。

日本で本作が劇場公開されたときもミニシアター系を中心に上映されており、
決して規模の大きな作品であったとは言い難いのですが、これは実に勿体ない扱いです。
相変わらずショーン・ペンは丁寧に映画を作り込もうとする意図がよく伝わる画面にしているし、
これだけの豪華キャストが脇を固めて、皆、ショーン・ペンの映画に出演したがる理由がよく分かる。

確かに凄い傑作というほどではない。そこまでの風格は感じられません。
しかしながら、本作の場合は特に終盤の展開の鋭さは特筆に値する秀逸さで、それでいながら実に繊細。
トンデモない発想で執念を燃やしていたことが明白になって、観方を変えると精神のバランスを崩して、
彼の執念が“暴走”していく様子を、克明に描いており、そんな役柄にジャック・ニコルソンはまたピッタリだ(笑)。

まぁ・・・ショーン・ペンの監督作品ですから、どこか特徴的な作品だとは思ってましたが、
本作はまるでジャック・ニコルソンのためにあるようなシナリオで、ラストシーンの芝居は彼の真骨頂だろう。

今回、ジャック・ニコルソンが演じる退職間近の刑事は決して狂気に満ちた男ではない。

この道、40年かと思わせるベテラン刑事で、おそらく勤務態度は真面目。
仲間や上司からの信頼は厚く、大々的な退職記念パーティーまで開いてもらって、
趣味が釣りであることが有名なのか、退職記念にカジキマグロを釣るための旅券をプレゼントされたほどで、
ここまでやってもらえる刑事はそうそういるもんじゃないことを考えると、彼はいたって優秀な刑事なのだろう。

離婚2回を経験し、今は独り暮らしのようだが、
結果的に家庭生活に問題があったから離婚に至ったのだろう。彼の普段の姿からは、
家庭での素行が悪くて離婚というよりも、仕事に全精力を注ぎ過ぎて、家庭を顧みなかったタイプだろう。

そんなベテラン刑事が自身の退職記念パーティーの最中に知った、
猟奇的な少女殺害事件の捜査。本来的には首を突っ込む必要はなかったのだが、
刑事としての本能なのか、性分なのか...彼は「あと6時間あるから」と言い、事件現場へ向かう。

別に意識が強くあったわけではないだろうが、
被害者の両親への事件の説明を担当することになった主人公は、泣き崩れる被害者の母親の懇願に
彼は強い“運命”を感じたようで、それを契機に彼は事件の捜査から離れられなくなってしまいます。

目撃者の証言に基づき、逮捕した前科ある男の取り調べを見ていても、
どこか彼は「違うかなぁ・・・」という目で見ている。そんな彼の直感も、合っているか間違っているのかは、
誰にも分からないのですが、彼はそれまでの長く積み重ねた経験から、直感に基づき行動するようになります。

チョット極端な言い方かもしれないけど、
映画にとっては、主人公の直感が合っているとか、間違っているとか、それはあまり大きな問題ではない。

そんな直感に従って、忠実に行動する主人公を映していきながら、
徐々に正常な判断を逸脱していき、結果として常軌を逸した発想に至る姿を描いているのですが、
おそらく本作を通してショーン・ペンが描きたかったのは、被害者の母親の懇願が常に冷静沈着であったはずの
ベテラン刑事の判断をも狂わせてしまう様子で、退職日ということも相まって、一つの“運命”がもたらす、
主人公にとっては悲劇的な結末を招く過程を、実に淡々と積み重ねていくアプローチは妙味と言ってもいい。

引退してしまうことの恐ろしさというか、残酷さも描いていることも印象深い。
退職日に被害者の母親と話し、容疑者とされる男を吟味する姿には刑事としての目線を感じたものの、
翌日になると、どこか顔つきが違って見えてしまい、そこから一般人になってしまうと、そんな目線が失われてしまう。

そしてSWATを呼んでまで、捜査も佳境を迎えたところ、
周囲も半信半疑で緊張の糸が切れた頃に、「アイツは退職してから酒に溺れて、ダメになった」と言われる始末。
それが事実だろうが間違いだろうが、もう関係がない。そう言われても仕方がない“隙間”に、
まるで自分で自分を追い込んでいるかのような構図になっているのが、なんとも複雑な感情を抱かせる。

そんな残酷さは、主人公の判断を狂わせる追い風となってしまうんですよね。

劇場公開当時、あまり高い評価も得られなかったようですが、
確かに『クロッシング・ガード』ほどではないにしろ、決して悪い出来ではないと思います。
ただ、内容的に拡大公開してヒットさせるほどの“売り方”をすることは難しかったと思いますがねぇ・・・。

ショーン・ペンの監督作品という野心こそが、本作の大きな話題だったはずなのですが、
この作品にもプンプンと匂いが残る、このインディーズっぽさが映画を売りづらくしてしまったのかもしれませんね。

ヘレン・ミレン、サム・シェパード、ヴァネッサ・レッドグレーブ、ミッキー・ロークなど、
相変わらずショーン・ペンの人脈は豊富で、おそらく彼の監督作品だから揃ったメンツでしょうね。

理屈ではなく、あくまで直感に頼った映画。これは当初からの狙いだろう。
被害者の母親の懇願に突き動かされたかのように、通常では考えられない行動に出る。
仲間からもらった旅券をフイにし、給油所と売店を兼ねた店舗を買い取って、移住するなんて、
いくら仕事人間であっても、引退後の生活としてなかなかできることではありません。

でも、そこまでする理由はどこにも見当たらないし、映画の中でも明確に描かれていません。
ややもすると、これはディレクターの手抜かりと解釈されかねない難点になってしまうのですが、
本作のショーン・ペンの演出はホントに紙一重のところで、上手く映画を救えていると思います。
これは底知れぬパワーやエネルギーをどこかに秘めていると、観客に感じさせることができているからだろう。

どうでもいいけど...小さな娘にベッドで絵本を読むジャック・ニコルソンは貴重な姿ですね(笑)。

(上映時間123分)

私の採点★★★★★★★★★☆〜9点

監督 ショーン・ペン
製作 マイケル・フィッツジェラルド
    ショーン・ペン
    エリー・サマハ
原作 フリードリッヒ・デュレンマット
脚本 ジャージー・クロモロウスキ
    メアリー・オルソン
撮影 クリス・メンゲス
音楽 ハンス・ジマー
    クラウス・バデルト
出演 ジャック・ニコルソン
    ロビン・ライト・ペン
    アーロン・エッカート
    デイル・ディッキー
    コスタス・マンディロア
    ヘレン・ミレン
    トム・ヌーナン
    マイケル・オキーフ
    サム・シェパード
    ヴァネッサ・レッドグレーブ
    ミッキー・ローク
    ハリー・ディーン・スタントン
    ベニチオ・デル・トロ
    パトリシア・クラークソン