ピンクパンサー(2006年アメリカ)

The Pink Panther

名優ピーター・セラーズが構築したクルーゾー警部でお馴染みの、
往年の名作『ピンクパンサー』シリーズの再映画化で、随分と豪華なキャストを集めた作品だ。

かつてピーター・セラーズが演じたクルーゾーには、
スティーブ・マーティンが配役されているのですが、これがチョットばかりやり過ぎかなぁ(苦笑)。

いや、決して出来の悪いリメークだとは言わないし、
別につまらない内容でもないのだけれども、スティーブ・マーティンは完全にピーター・セラーズの幻影に
押し潰されてしまったかのようで、元々、ドジな人間をスラップスティックに演じること自体は、
自身の持ち味であったにも関わらず、僕には彼が頑張れば頑張るほど、イタイタしくて仕方がなかった。

まぁ小さなギャグをオリジナル以上に組み込んでるイメージではあるのですが、
そもそもピーター・セラーズのギャグも、根気強く続けることで観ているこっちが根負けして、
思わず笑ってしまうような、ブレーク・エドワーズの執拗な頑張りがあったからだったと僕は思っているので、
本作にしても根気強くシリーズ化して、スティーブ・マーティンに頑張ってもらえば、変わるかもしれません(笑)。

ただ、問題はそこまでスティーブ・マーティンの孤軍奮闘に耐えられるかが大きな問題で(笑)、
やはりピーター・セラーズの完全な二番煎じになってしまっているせいか、どうも冷めた目で観てしまうかも。

やはり彼は自由に、コメディ映画で思う存分、くっだらないギャグをやってくれれば良いと思うのですが、
本作はやはりオリジナルのイメージを尊重しながら描いたせいか、スティーブ・マーティンにとっては、
かなり厳しい制約がある中で、一つ一つのギャグを繰り出さなければならなかったのでしょうね。
この制約はやはりスティーブ・マーティンの良さというものを、消してしまったような気がしてなりません。

スティーブ・マーティンはどうしても本作をリメークしたかったらしく、
本作では脚本の執筆も行っておりますから、おそらく情熱はそうとうに高かったのでしょうが、
オリジナル・シリーズに対する彼の思い入れが強過ぎたのかもしれませんね。
悲しいかな、これはクルーゾーを違う役者に演じさせることを、検討しても良かったかもしれません。

劇中、彼が独り芝居で見せる“アメとムチ作戦”は面白かったのですが、
これに続く独り芝居は皆無で、もっと全体的に流れのあるギャグを考えて欲しかったですね。

むしろコメディ演技としてはジャン・レノやエミリー・モーティマーの方が良かったのではないでしょうか?

特にニコルを演じたエミリー・モーティマーという女優さんは、
僕は本作以前では『ケミカル51』ぐらいでしか観たことがありませんでしたが、
どこかタドタドしい喋り方と、ドジな性格がある意味で、世の男性の心をクスぐる存在だったのではないでしょうか。
(まぁ・・・やや狙い過ぎな傾向もあるにはありましたが、本作ではビヨンセ・ノウルズより良かったかも)

映画の冒頭にある、スティーブ・マーティンにまたがりながら勘違いされるシーンや、
ゆで卵を食べたら喉に詰まって、スティーブ・マーティンに背後から抱きかかえられて、
ゆで卵を吐き出すシーンなど、女優魂全開での大熱演で、これからも期待したい女優さんの一人です。

まぁ映画はフランス代表のサッカー・チームの監督が婚約者も観戦しに来た、
大事な試合で延長戦の末、勝利を収めた際に殺害され、彼が指にはめていた“ピンクパンサー”と
呼ばれる巨大リングをも強奪されたことから、パリ市警のドレフュスが自分の名前を上げるチャンスとばかりに、
フランス有数のドジ警官であるクルーゾーに敢えて指揮を任せて、自分が秘密裏に捜査を進めて、
オイシい手柄を立てて、フランスの英雄になろうとするして、ドレフュスの期待通り、クルーゾーの捜査は
迷走するものの、クルーゾーが一発逆転の捜査に出る姿をスラップスティックに描いています。

映画の基本スタンスはオリジナルと変わっていないのですが、
今回のショーン・レヴィの仕事っぷりは、そんなに悪くないとは思いますね。
個人的にはオリジナル・シリーズのブレーク・エドワーズの仕事って、素晴らしい演出というほどではないと
僕は感じているせいか、むしろ演出家の仕事としては本作のショーン・レヴィの方が良いような気すらします。

オリジナル・シリーズでは結構、尺も長い傾向にあって、平気で2時間を超える内容だったのですが、
本作ではアッサリと92分という経済的な時間にまとめられており、テンポ良く観れるのは確かだ。

但し、一つだけ注文を付けさせてもらうと、
オリジナル・シリーズではもっと強盗団との攻防もしっかりと描くことに時間を割いていたのですが、
クルーゾー以外のところ、つまり発生する犯罪そのものをほとんど描いていないのは残念ですね。
例えば63年の『ピンクの豹』なんかはデビッド・ニーブン演じるファントムが重要なキャラクターだったのに、
本作での犯人が映画の最後で少しだけクローズアップされてる程度で、「いつ犯罪を起こすのか?」ではなく、
いつの間にか犯人捜しをする映画に変わってしまいましたね。これは個人的には残念でなりませんね。

ビヨンセ・ノウルズは相変わらずゴージャスですが、
もっとクルーゾーと絡んで欲しかったですね。クルーゾーを誘惑するぐらいの位置づけでも良かったと思います。
というか、ブレーク・エドワーズだったら、ほぼ間違いなくクルーゾーを誘惑させていたことでしょう(笑)。

それにしても、「ハンバーガー」と発音できないクルーゾーがアメリカへ行き、
フランスへ帰国しようとニューヨークの空港で手荷物検査所を通過するときにバッグをすり替えられ、
保安員に疑われ、麻薬探知犬にクルーゾーが襲われるシーンがあるのですが、
犬はクルーゾーに噛み付くものの、麻薬ではなく隠し持っていたハンバーガーに反応していたというのが面白い。

まぁ比較的、安心して観られるリメークだとは思いますが、
どうせならピーター・セラーズの幻影を深追いせず、スティーブ・マーティンなりのオリジナリティ溢れる、
適度にイメージを活かしながら、新たなクルーゾー像を作り上げ、ある程度の独自性を持って欲しかったですね。

そりゃ真っ当にオリジナルと闘ってしまったら、並みにリメークには勝ち目は無いっすよ。。。

(上映時間92分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

監督 ショーン・レヴィ
製作 ロバート・シモンズ
原案 レン・ブラム
    マイケル・サルツマン
脚本 レン・ブラム
    スティーブ・マーティン
撮影 ジョナサン・ブラウン
編集 ジョージ・フォルシーJr
    ブラッド・E・ウィルハイト
音楽 クリストフ・ベック
出演 スティーブ・マーティン
    ケビン・クライン
    ジャン・レノ
    ビヨンセ・ノウルズ
    クリスティン・チェノウェス
    エミリー・モーティマー
    ヘンリー・ツァーニー
    クライブ・オーウェン
    ジェイソン・ステイサム