ペリカン文書(1993年アメリカ)

The Pellcan Brief

ジョン・グリシャム原作の同名小説を映画化したリーガル・サスペンス。
監督は『大統領の陰謀』で評価されたアラン・J・パクラで、本作は『大統領の陰謀』を彷彿させる作品だ。

とは言え、僕はそこまでこの映画は楽しめなかったかなぁ。思ったほど、盛り上がらなかった。
ハッキリ言って、この映画の魅力のほとんどは主演のジュリア・ロバーツとデンゼル・ワシントンくらい。

90年代はジョン・グリシャムの原作本がハリウッドでも大人気で、何本も映画化されましたが、
悪い意味で、どこか淡々としていて映画にメリハリが無い。アラン・J・パクラもこういう映画は得意だと思いますが、
サスペンス描写にしても、映画の終盤に少しだけあるアクションにしても、ほぼほぼ盛り上がらずに終わってしまう。

映画は一夜にして最高裁判事が2人も殺害された事件を知って、
ショックを受けていた判事の友人でもあった大学教授キャラハンが、報道を見て事件について
仮説を立てて真犯人像を推理した論文を彼の恋人である検査官を目指す教え子のダービーから受け取り、
それをFBIの法律顧問である友人に渡したことからダービーが、謎の連中から命を狙われることになり、
次々と関係者が謎の死を遂げ、ダービーはヘラルド紙の新聞記者グランサムに助けを求める姿を描いています。

後にジュリア・ロバーツが、「なんで、あの映画のあの内容でデンゼルとのキスシーンがなかったのだろ!?」と
当の本人が堂々と言っていて驚きましたが、確かに本作の内容的には2人が恋に落ちても不思議ではないのだが、
映画の冒頭でキャラハンと恋人関係であるように描かれているし、短時間で起こった中で気持ちが変わるのを
描くというには、あまりに強引な力技にしかならないので、僕は結果的に2人のロマンスを描かなくて良かったと思う。

2人のロマンスを匂わせるには、あまりに時間が短過ぎるかな。
そんな刹那的に2人が求め合うみたいな姿を描いても、本編にはあまり関係のないエピソードになってしまうし、
あまりに唐突なものに見えて、それを最後まで必然性あるエピソードとして扱うことはできなかったと思う。

それから、こういうことはあんまり言いたくはないが、本作製作当時はまだ黒人男性と白人女性のロマンスを
当たり前のようにメジャー映画の中で描けるほど、ハリウッドのプロダクションもボーダーレスではなかったと思う。
それこそ、今であれば作り手も躊躇なく描いていたかもしれませんが、当時はそういう空気ではなかったと思います。

だからこそ、サスペンス劇についてはもっと頑張って欲しかったなぁ。ハッキリ言って、かなり物足りない。

アラン・J・パクラはもっと出来るディレクターだったと思うし、何か徹底したものを表現できる、
芯のある映像作家だったと思うのですが、本作には強い芯が無い。前半で関係者が次々と不審死を遂げていくが、
これらも良く言えば、ダービーが自身の命の危険を察知したと言えばそうかもしれないが、その割りにスリルが希薄だ。
なんか淡々としていて、悪い意味で緊張感がない。どこか表層的なものに感じられてしまい、ここは全く良くない。

終盤は一転して、軽いアクションもあるのですが、それも表層的だ。全然、盛り上がらず、全くハラハラさせられない。
映画の中盤にあるダービーに接近するスタンリー・トゥッチ演じる雇われた殺し屋にしても、あの結末は意味不明。
あれだけ危険な状況にダービーを晒しておきながら、「実は見ていましたよ」と言われても、全く説得力が無い。

しかも、終盤の駐車場でのクラッシュ・シーンも今一つ迫力に欠ける。
これなら描かない方が良かったのではないかとすら思えてしまう。観客にそう思わせてしまってはダメですね。

あと、個人的な意見ですが...大学生や大学院生の論文として、
ロースクールであったとしても、実際に起こった事件の推理を論文化するというのは、どこか違う気がするのですが、
それはさておき、仮にダービーの推理が的を得ていたものであったとするなら、彼女が実際にそれくらい鋭く、
深い洞察力を持っているという彼女の知性を、しっかり描いて欲しかったかな。本作で描かれた限りだと、
ホントに彼女がそれくらい推理展開を論理的に行う能力があるのか、何とも言えず、説得力が弱いと感じました。

しかも、彼女が論文を書くにあたって、いろいろと情報収集したのだろうけど、
そういった推理を展開するシーンは全く無いために、ダービーが書きながら何を考えたいたのかも分からない。
『大統領の陰謀』では、あれだけしつこいくらいタイプライターの音と原稿を考えるシーンは強調していた
アラン・J・パクラですから、ダービーが論文を書くシーンは全て割愛してしまったのは、とっても残念でしたね。

ジョン・グリシャムの原作では、この辺がどう描かれていたのかは分かりませんが、
僕にはあんまりジョン・グリシャム原作の映画化って良い印象がないんだよなぁ〜。何故か人気があるんだけど・・・。

僕はこの映画こそ、プロセスが大事というか、結果に至る過程を楽しむ映画だと思うんですよね。
ミステリーを扱っているわけですから、推理にしても、殺し屋の追跡をかわして逃げ切るという結果にしても、
その結果に至るまでをどう描けるかで映画の価値が決まる。その点、本作は弱いんだよなぁ。プロセスがおざなり。

その割りに上映時間が2時間を大きく超えるヴォリューム感なのも、なんだかチグハグだ。
必要以上に長く感じたわけではないのですが、ジョン・グリシャムの原作が映画製作の前年に発売されたので、
あまり原作を精査する余裕が無かったのかもしれませんが、それにしても内容の割りに尺が長過ぎますね。

この映画の大きなセールス・ポイントと言えば、前述したように主演のジュリア・ロバーツとデンゼル・ワシントンだ。
特にダービーを演じたジュリア・ロバーツは全面的に出演していて、『プリティ・ウーマン』でトップ女優になって、
日本でも数多くのヒット作に出演していた頃の一本なだけに、本作での彼女も良いですね。フレッシュな魅力がある。
相手役のデンゼル・ワシントンは「年とらないなぁ」とずっと思っていたが、本作を観ると、やっぱ若いですね(笑)。
分かりにくいだけで、本作を観ると、「やっぱ...年はとるんだね」と至極当たり前のことを思ってしまいました。

さすがにこれを観て、サム・シェパードとジュリア・ロバーツが恋人関係というのは、
映画的にもさすがに無理があるだろう・・・とツッコミの一つでも入れたくなったのは、おそらく僕だけじゃないだろう(笑)。
それくらい本作でのジュリア・ロバーツは若々しく、それでいて酸いも甘いも知った女性という感じにも見えない。

結局、こういうのを観ると、映画にとって如何にキャスティングが重要であるかを、あらためて悟りますね〜。

もう一つ気になったのは、映画の原題になっている“ペリカン文書”の関係性が分かりにくいこと。
ペリカンの休息地を守る保護活動に対して、その地で油田開発を行いたい実業家が裁判を有利に進めたいと目論見、
起こした事件であるということと、劇中に語られている“ペリカン文書”の意味合いが、素人にはとっても分かりにくい。
まぁ、その実業家が合衆国大統領を含めて政治の世界に内通していて、政治家もダンマリというのは、よくあることだ。

しかし、本作で描かれた実業家は仲間の弁護士事務所を総動員するように大掛かりな工作活動にでる。
自身が首謀者として逮捕されるリスクを差し置いて、行動に出るほど、この油田開発には勝算があったのでしょう。
この辺の前後関係については、もっと丁寧に描いて欲しかったし、もっと整頓した形で物語を語って欲しい。

ましてやダービーの命を狙うにしても、ここまで大掛かりな作戦とあっては大きなリスクを伴うはず。
このリスクとベネフィットを天秤にかけると、ベネフィットが上回るからこそ行動に出ていたはずで、
そのベネフィットであるはずの油田開発が具体的にどれくらい利益を生むのか、そこはもっと言及しても良かったかな。

これは社会派映画としての側面があるからこそ、もっとしっかりと背景を描いて欲しかったところ。
だって、この“ペリカン文書”をキッカケとして事件が大きく動いているのだから、ここは大事なところだったはず。

僕は本作に過度な期待を寄せない方が、楽しめるのではないかと思います。
結局、ジュリア・ロバーツとデンゼル・ワシントンの共演を中心に観る映画となってしまっているからです。
アラン・J・パクラなら、もっと上手く撮れた題材の作品だと思えるだけに、この出来はなんだか残念ですね。。。

(上映時間141分)

私の採点★★★★★★☆☆☆☆〜6点

監督 アラン・J・パクラ
製作 アラン・J・パクラ
原作 ジョン・グリシャム
脚本 アラン・J・パクラ
撮影 スティーブン・ゴールドブラット
音楽 ジェームズ・ホーナー
出演 ジュリア・ロバーツ
   デンゼル・ワシントン
   サム・シェパード
   ジョン・ハード
   トニー・ゴールドウィン
   ジェームズ・B・シッキング
   ウィリアム・アザートン
   ジョン・リスゴー
   ロバート・カルプ
   スタンリー・トゥッチ
   ヒューム・クローニン
   アンソニー・ヒールド