ザ・パッケージ/暴かれた陰謀(1989年アメリカ)

The Package

これは・・・如何にも80年代だなぁ、って雰囲気丸出しのサスペンス映画ですね(笑)。

劇中、語られていますが、米ソ首脳をはじめとした世界各国の核保有国の首脳が集まって、
世界中の核兵器を放棄して世界平和を実現しようなんてことが描かれていますが、本作から約35年経っても尚、
どの国も核兵器を放棄することなく、それどころか核の脅威をチラつかせて国際関係を保つ、ということが起こっている。

これはとても根深い問題であり、どこかの国、1ヵ国が頑張って核放棄を主張しても、
なかなか解決できる問題ではないですね。こういう世の中が実現すれば、ホントに大きな一歩になるのですが・・・。

80年代終盤の映画であって、丁度、ベルリンの壁崩壊や米ソ冷戦時代の終了など、
時代が大きく変動しつつある時期であり、日本でもバブル経済を崩壊するなど、大きな分岐点を迎えていました。
だからこそ、こういう核廃絶への希望をメッセージに込めた映画というのも、当時の世相を反映していると感じます。

また、ジーン・ハックマンとトミー・リー・ジョーンズが対決するなんて、シブい良いじゃないですか!(笑)

監督のアンドリュー・デービスはアクション映画を中心に活動していましたが、
06年の『守護神』を最後に映画を撮っていません。何と言っても、アンドリュー・デービスの代表作と言えば、
93年の『逃亡者』でしょうね。トミー・リー・ジョーンズも『逃亡者』でブレイクしたので、本作は言わば序章です。

映画は米ソ冷戦を終結させるべく、お互いの核兵器を放棄する平和条約を結ぶべく、
米ソの首脳が会談する西ベルリンにて、会場の警備を担当していたギャラガー曹長の目の前に不審者が現れ、
現地の警察官たちに身柄を渡したのだが、その直後にアメリカ政府高官がこの不審者によって殺害される。

結局、ギャラガーは部隊から離れ、西ベルリンからワシントンへ囚人を護送する任を受け、
ギャラガーが自ら護送したものの、ワシントンの空港のトイレで何者かの襲撃を受け、囚人は脱走する。
ギャラガーは軍関係者である元妻の協力を得て、“逃亡者”の行方を単独で探すものの、任務自体に疑問を持つ。
ドイツ人だと聞いていたはずの“逃亡者”は実はトーマスという男だと知り、大きな秘密があることを知ります。

ここから始まるギャラガーの捜査と、ギャラガーと彼の協力者によって真相に迫ることを
妨害しようとする軍高官との攻防がメインとなるわけですが、終盤はそこそこ緊張感があって引き込まれる。
ただ、ネックは前半から中盤のどこかモッタリした展開で、冒頭のアクション・シーン以外はあんまり流れが良くない。

個人的にはトミー・リー・ジョーンズが“逃亡者”となって、彼の行方を追っていく展開は面白いし、
トミー・リー・ジョーンズ演じるトーマスも、自身の政治信条など関係なしに、依頼された仕事をこなすことに徹し、
その準備を淡々と行っていく、殺しのプロフェッショナルのような仕事ぶりが面白く、魅力的な悪役だったと思う。
それを追う、頑固オヤジの典型みたいなジーン・ハックマンも、相変わらず軍服姿がよく似合っていて悪くない。

そんなジーン・ハックマン、冬の寒いシカゴの市街地で自らハンドルを握るボロボロの自家用車を
猛スピードで走らせてトーマスの潜伏場所へと急ぎ、鉄道の駅近くを走り回って、潜伏場所を暴きだして、
銃をブッ放すあたりは、どことなく『フレンチ・コネクション』の“ポパイ”を思い起こさせるようなシチュエーションで、
思わず胸を熱くしたジーン・ハックマンのファンや、オールドな映画ファンも数多くいるだろうなぁと思わせられる(笑)。

なので、所々かもしれませんが...本作は見どころがしっかりと収められている映画ではあると思います。
ただ、まだトミー・リー・ジョーンズもマイナーな役者だったせいか、あまりに映画が地味過ぎたというのが難点でして。

あくまで本作は、クライマックスのスリリングなトーマスの殺しの瞬間が近づくまでの攻防が見せ場です。
が、残念なことに本作はそこに至るまでが長い。所々にカー・チェイスっぽいのがあったり、見せ場は作るのですが、
一つ一つが上手くつながっていない印象で、どうにも全体の流れが悪く感じられてしまうのが、本作の大きな弱点だ。
この辺は後年のアンドリュー・デービスの監督作品と観ると、まだ熟練していなかった部分なのかな、と思えてしまう。

デニス・フランツ演じるシカゴの刑事が主人公に協力してくれて、良い存在感を示してはいるのですが、
彼が表立って登場してくる中盤は、特に間延びした構成になってしまっていて、明らかにダレてしまうのが勿体ない。
アンドリュー・デービスはメリハリの利いたアクション映画が撮れるはずなのですが、本作では上手くいっていない。
この中盤さえ何とかなっていれば、この映画に対する評価は変わっていたでしょう。それくらい、流れが悪い中盤だ。

観ていて気になったのは、ジーン・ハックマンの元妻役で事実上で彼より上の役職にあたる女性役で
ジョアンナ・キャシディが出演しているのだけれども、僕にはどうして彼女を無理に描く理由が分からなかった。
主人公と行動を共にするからこそ重要登場人物なはずなのですが、今一つ彼女の存在意義が分からないのはツラい。
だったら、もっとアクションでもバリバリ活躍する存在にしても面白いかったと思うし、それにはかなり物足りない。

映画の中盤の出来に関しては、彼女の描かれ方がもう少しマシになっているだけで、大きく変わったと思う。

何気にソ連の首相と思われる人物が、ゴルバチョフ大統領に似ているように見えるところは面白い。
このストーリー自体が現実世界を反映しているかと言われると、それは疑問ですが...人間描写は面白い。
ほぼほぼ暴走するかのように裏で作戦を指揮する軍人を演じたジョン・ハードも、ふてぶてしい雰囲気で悪くない。

だからこそ、80年代の映画によくあった、悪い意味での軽いシーン処理などが無ければ、
この映画はもっと重厚感が出て、日本でももっと注目を浴びた作品になったと思う。この出来では、これは仕方ない。

そもそもの疑問なのですが...映画としては非核条約を結びましょうということになって、
反共思想にまみれた米軍の一部の軍人たちが暴走して、シカゴにやって来た旧ソ連の首脳を暗殺しようと、
民間人を巻き込んでまで準備をして、実行に移すわけですが、これが実現してアメリカにどういう利益があるのだろう?

冷静に考えると、複雑にやろうとし過ぎていて、自らボロを出してしまうという典型例ですね。
そう考えると、これはジーン・ハックマン演じる頑固オヤジの軍人は“巻き込まれた”気の毒な人というわけですね。

クライマックスの攻防も、ジーン・ハックマンの熱演のおかげで映画がグッと面白くなったと思う。
前述したように、中盤の描写が今一つ頑張り切れなかっただけに、このラスト・シークエンスに至る流れは良かった。
確かに多くの指摘を受けている通り、『ジャッカルの日』を彷彿とさせるラストですが、なかなか良い緊張感だと思う。
このラストがここまで上手く描けていなかったら、本作はもっと見せ場の無い映画になってしまったような気がします。

決してつまらない映画だとは思わないけど、サスペンス描写にもっと長けたディレクターが撮っていれば、
映画はグッと変わっていたと思う。80年代後半は似た映画が多かったので、本作も埋もれてしまったのが残念ですね。

本作で描かれるのは、言わば軍の一部の勢力の暴走なわけですが、
大統領などの要人警護に関係する軍人が暴走する勢力になるというのは、ホントに恐ろしい話しですね。
正しく「外にも中にも敵がいる」という状況ですが、タカ派な軍人からすると、実際に核兵器が無くなるというのは
脅威であって、世界から一斉に核兵器が無くなるとしても、思想的にも許容できないのでしょう。確かに“核の傘”という
考え方はあって、全面核戦争の脅威を回避するために核保有ということがあるのかもしれませんが、本作のように
各国が核兵器を放棄するとなっても納得できないというのは、アメリカ第一主義というか常に優越したいのですかね。
(強いて言えば、これがアメリカにとっての利益ということなのだろうか・・・?)

ルックス的には、ジーン・ハックマンこそがそんなタカ派な軍人っぽく見えなくもないのですが(苦笑)、
むしろそういった陰謀をほぼ単身で防ごうとする軍人を演じるというのは興味深く、ドシッとしていて頼もしく見えますね。

どうでもいい話しなのですが...
正直言って、ソ連の首脳を暗殺するにしても、あんな込み入った場所で無理にスナイパーを使わなくても、
いくらでももっと確実に暗殺できそうな状況がありそうな感じですが、妙に複雑な計画を立てているのが、なんとも謎。

ましてやトミー・リー・ジョーンズ演じるトーマスは政治思想関係なく、
報酬さえ出れば何でもやるという、ある意味ではプロな殺し屋だったようなのですが、随分と時間をかけて気が長い。
そうなだけに映画の中盤はもっとシンプルに描いて、サスペンスに徹した方が映画は良くなったと思えるだけに残念。

(上映時間108分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

監督 アンドリュー・デービス
製作 ビバリー・J・キャメイ
   トビー・ハガティ
脚本 ジョン・ビショップ
撮影 フランク・タイディ
編集 ビリー・ウェバー
   ドン・ジマーマン
音楽 ジェームズ・ニュートン・ハワード
出演 ジーン・ハックマン
   トミー・リー・ジョーンズ
   ジョアンナ・キャシディ
   ジョン・ハード
   デニス・フランツ
   レニ・サントーニ
   パム・グリアー