組織(1973年アメリカ)

The Outfit

これはよくDVD化されたなぁ〜(笑)。

ずっと観たかった、『悪党パーカー/人狩り』で知られるリチャード・スターク脚本の映画なのですが、
矛盾した言い方ではありますが、お世辞にも出来の良い映画とは言い難かったが、とても良かった(笑)。

いや、この映画はこのハードボイルドな雰囲気が素晴らしい。
名バイプレイヤー、ロバート・デュバルが主演という時点で随分と思い切った企画なのですが(笑)、
その期待に見事に応える、映画に合った空気感で本作の企画の意味を、とてもよく理解できている。
これほどまでに映画のコンセプトを的確に表現できたシナリオ、演出は無いと思いますね。

最近の映画界の何が不満かって、やっぱりこういうハードボイルドな映画を撮れる映像作家が
ホントにいなくなってしまったということで、本作なんかはお手本と言ってもいい内容である。

名カメラマン、ブルース・サーティースのカメラが光るものの、
さすがにフィルムの保存状態が良くなく、DVDのメディアとなっても、とても観づらいというのが本音ですが、
こういう映画は今となってはホントに貴重なので、末永く鑑賞できるように環境を整えて欲しいですね。

さすがはブルース・サーティースのカメラだなぁと感心させるのは、
やはり主人公が序盤で、自分のところに殺し屋を送られ、恋人の腕を傷つけられたことに激怒し、
ポーカーに興じる富豪がいるホテルに殴り込みをかけにいくシーンで、用心棒をホテルの屋外階段に連れ出し、
背後から銃を突き付けて脅すシーンを、階段の下から撮るなんて、如何にも彼らしいカッコいいカメラだ。

邦題にもなっている、“組織”も実体があるんだか、ないんだか、よく分からないし、
劇中でも、銀行をやっているのは分かるのですが、どんな悪事を日常的に働いているのか、
あまり詳細に描こうとはしません。つまり、映画の本編とは、あまり大きく関係しないのですよね。

そのせいか、マフィアと考えるには、あまりに組織が弱過ぎる気がするし、
簡単にボスの邸宅に侵入されるなど、現代の感覚ではお世辞にも、倒しがいのある悪とは言えない(笑)。

いざ、銃撃戦になっても簡単にやられちゃうし、
悪党が主人公を罠にハメても、いとも簡単に罠にハマる主人公のどうかと思うけど、
せっかく閉じ込めた主人公たちを、あまりにズボラな手下のおかげで、簡単に逃がしてしまう。

でも、この映画の魅力とは、そんな粗もほとんど関係ないかなぁ。
ジョン・フリンが映画の序盤から執拗に作り続けてきた、ハードボイルドな空気をひたすら楽しむのがメインですね。

カレン・ブラック演じるヒロインにハゲ呼わばりされた、
主演のロバート・デュバルも、この頃はそこまで知名度が高くはなかった役者さんなだけに、
ここまで映画の全編、出ずっぱりで活躍している姿は、貴重としか言いようがありません。
数少ないとは思いますが(笑)、ロバート・デュバルの熱心なファンには是非ともオススメした作品ですから。

そんな一見すると冴えない中年オッサンにしか見えないロバート・デュバルですが、
この映画で彼が演じた主人公の考えも、常人ではなかなか考えつかないところも見どころですね(笑)。

だって、組織がどんな内容なのか映画の本編には関係ないとは言え、
主人公は巨大な組織に勇猛果敢に闘いを挑み、兄貴を殺された復讐とは言え、
マフィアっぽい組織のボスに堂々と、慰謝料として25万ドルを要求するという発想が、また凄いですね。
なかなか普通に考えても、思いつかない発想で主人公の破天荒さを象徴していて、面白いですね。

この映画が製作された時代は、アメリカン・ニューシネマ全盛期でありましたが、
この映画はそういったニューシネマの潮流はあまり影響を受けていないようで、
当時の映画界の潮流を一切無視して、ハードボイルドさを貫いたストイックさは称賛に値する。

言うなれば、同じ年に作られたロバート・アルトマンの傑作『ロング・グッドバイ』以上に、
ニューシネマ・ムーブメントの影響を受けずに、硬派な独自路線を歩んだ作品と言えるでしょう。

この映画はある意味で、「男の映画」だ。
あまりこういう言い方は好きではないのですが、主人公の自分勝手な部分を故意にカッコ良く描いている。
お世辞にも屈強な主人公とは言えませんが、どことなくスマートでいながら、性格的には昔気質。
愛する恋人には暴力を振るうし、理想的な男性とは言い難いが、どこか彼をカッコ良く描くのです。

この辺はおそらくジョン・フリンの嗜好が象徴されているのでしょうが、
こういうテイストはむしろ日本映画の方が、よくあったような気がしますね。
そういう意味では、ある意味で日本人ウケするタイプの映画なのかもしれません。

ちなみに本作で高く評価されたジョン・フリンは、77年にポール・シュレイダーが脚本を執筆した、
『ローリング・サンダー』を撮り、更に評価を上げたのですが、何故か80年代以降は生き残れませんでした。
勿論、スタローン主演で89年に『ロックアップ』を撮ったり、何本か映画を撮影してはいるのですが、
それら発表作品は全くと言っていいほど評価されず、残念ながら07年に他界してしまいました。

でも、少なくとも70年代は、本作を観る限り、ジョン・フリンの手腕は確かなものだと思うんですよね。

この時代ならば、ウォーレン・オーツやウォルター・マッソーあたりが
本作の主人公にキャストされていてもおかしくはないと思うのですが、本作でのロバート・デュバルも実に絶妙。
彼のような決してイケメンではない俳優を敢えて主役にして、カッコ良く描くツボをしっかり押さえている。
これこそハードボイルド映画のセオリーを、ジョン・フリンはしっかり押さえているんですよねぇ。

いかんせん、目立たない映画ではありますが、
ハリウッド映画としては珍しいぐらいにストイックな復讐劇として、今一度、再評価の価値ある一本です。

ストーリーそのものよりも、映画の雰囲気を十分に味わって欲しい。
そういう意味で、ハードボイルドな映画が好きな人には是非ともオススメしたい一作。

(上映時間102分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

監督 ジョン・フリン
製作 カーター・デ・ヘイヴン
原作 リチャード・スターク
脚本 リチャード・スターク
撮影 ブルース・サーティース
音楽 ジェリー・フィールディング
出演 ロバート・デュバル
    カレン・ブラック
    ジョー・ドン・ベイカー
    ロバート・ライアン
    リチャード・ジャッケル
    シェリー・ノース
    ジョアンナ・キャシディ