アザーズ(2001年アメリカ・スペイン・フランス合作)

The Others

やるでねぇーか、この監督。
と思いきや、これは『オープン・ユア・アイズ』のアレハンドロ・アメナバールが撮った映画だったのか。

いや、初っ端から品のない感想で始まりましたが、
思わずそんな言葉を漏らしてしまうぐらい、これは力を感じさせる映画だ。
亜流のホラー映画と一緒にされちゃ困るし、「あの映画のパクり」とか「あの映画のリメーク」と云々することも、
僕の中では全くの無意味。ハッキリ言って、この映画はそんな次元を完全に超越していると思う。

『オープン・ユア・アイズ』にすっかり惚れ込んだトム・クルーズが、
アレハンドロ・アメナバールをハリウッドに招致して、本作のメガホンを取らせた上に、
映画の主演には、当時の彼の実生活での妻ニコール・キッドマンを出演させるという荒業(笑)。

自分はチャッカリ、『オープン・ユア・アイズ』のハリウッドでのリメーク権を取って、
01年に『バニラ・スカイ』を製作して、オマケにニコール・キッドマンと離婚して、
『オープン・ユア・アイズ』に出演していたペネロペ・クルスを『バニラ・スカイ』でもヒロインに抜擢して、
結局、トム・クルーズ自身、ペネロペ・クルスと恋人関係になるという事態になりました。

まぁゴシップはさておき...
確かに『オープン・ユア・アイズ』は力のある映画だったし、
トム・クルーズが多額の投資をしてまで、彼をハリウッドに呼びたくなる映画ではありました。

しかし、僕の中ではまだ懐疑的な部分があって、
本作も最初に観た時はかなり批判的に観ようとしていたのですが、アッという間に魅了されてしまいました(笑)。
いやいや、これはホントに久しぶりに高い演出力をビンビン感じさせる、素晴らしい出来の作品ですよ。

言ってしまえば、これは雰囲気で魅せる映画なのです。

でも、その雰囲気を演出でありとあらゆる工夫を凝らし、実にスマートに見せている。
前半からキチッと計画的に構成されているし、映画の流れそのものに違和感を感じさせません。
映画のクライマックスにあるドンデン返しも、結末そのもので観客をビックリさせようとするわけではなく、
実に堅実にラストを描くことによって、映画がより説得力あるものに仕上がっています。

お世辞ではなく、これは間違いなく力のある映像作家でなければ成し得ない仕事だ。
ゴシック・ホラーという観点に於いても、久しぶりに傑作との評に相応しい出来と言ってもいい。

僕はてっきり、本作をキッカケにアレハンドロ・アメナバールは
ハリウッドを中心に活動していくもんだと思っていたのですが、これ一本だけでしたね。
本作を観る限り、才気あるディレクターであることは明白なのですから、勿体ない気がしますね。
別にハリウッドでなくともいいとは思うのですが、創作ペースが落ちてきているので、少し心配ですね。

映画の雰囲気作りとしては定石なのですが、
物が全てに於いてシンプルな配置になっていることに一貫性があって、
深い霧の描き方も悪くない。画面の色合いという意味でも、基本は白か黒で統一されています。
それだけでなく効果音の使い方、光の使い方、美術品など、全てがお手本のようです。
往年のゴシック・ホラーの名作の良い部分を、よく研究した痕跡がうかがえますね。

こういう演出上の一貫性があるからこそ、アレハンドロ・アメナバールって凄いと思えるのです。
こういった主義主張の一貫性というのは、多くの映像作家が欠如していると思いますね。
だからこそ、ストーリー上でこねくり回して、映画の本質を見失っていることが多いのです。

こういう一貫した雰囲気作りがあったからこそ、
本作の企画にしたって、映像化した意味があると自信を持って言えるはずなのです。
何度でも言いますが、「これはシナリオを読んだ方が面白いのでは?」と観客に悟らせてはダメなのです。
本作は最終的にそういった類いの結果にはなっていませんから、価値があったと判断できます。

公開当時はよく99年の『シックス・センス』と比較されていましたけど、
それはあまりに安直な比較だと思う。そもそも映画の志向が異なるし、観点も大きく異なる。

おそらくキャスティングにはそこまで予算をかけた作品ではありませんが、
主演のニコール・キッドマンの美貌が、より映画の世界観の中で映えますね。
おそらくトム・クルーズが製作総指揮を担当しなければ、彼女の出演はあり得なかったと思いますが、
ホントに彼女が出演したことで、最終的に映画の雰囲気が確定したような感じがしますね。

「映画の価値は脚本だけでは決まらない」ということを如実に証明した作品であり、
アレハンドロ・アメナバールの映像作家としての手腕の高さを見事に証明した一本ですね。
残念ながら今となっては、若干、忘れられてしまった作品ではありますが、
その価値を再考を促したい、久しぶりに誕生した正統派なゴシック・ホラーと言えます。
幾多の映像作家も、できることなら本作を大いに参考にするべきだと思います。

それにしてもこの頃のニコール・キッドマンって、
映画女優としてのピークを迎えていたことは間違いないですね。
本作の直前は『アイズ・ワイド・シャット』だし、本作の後も『ムーラン・ルージュ』、『めぐりあう時間たち』と
立て続けに話題作に出演して、『めぐりあう時間たち』でオスカーも獲得しています。

本作での彼女の芝居なども、個人的にはもっと賞賛されてもおかしくないと思えるレヴェルなんですがねぇ。

(上映時間104分)

私の採点★★★★★★★★★★〜10点

監督 アレハンドロ・アメナバール
製作 フェルナンド・ボバイラ
    ホセ・ルイス・クエルダ
    パーク・サンミン
脚本 アレハンドロ・アメナバール
撮影 ハビエル・アギーレサロベ
編集 ナチョ・ルイス・カピヤス
音楽 アレハンドロ・アメナバール
出演 ニコール・キッドマン
    フィオヌラ・フラナガン
    クリストファー・エクルストン
    エレイン・キャシディ
    エリック・サイクス
    アラキーナ・マン
    ジェームズ・ベントレー