バイオレント・サタデー(1983年アメリカ)

The Osterman Weekend

正直、僕にはサム・ペキンパーがどれくらい本気でこの映画を撮ったのかよく分からないのですが、
元々のシナリオにも問題があって、そのまま撮っても変な映画になる、とは自覚していたのではないだろうか?

まぁ、一方的には嫌いになれない映画なのですが、これがサム・ペキンパーの遺作になってしまったのは残念。
もっと華々しく最期は飾って欲しかった。悪い意味で、本作は中途半端な出来で何とも変な仕上がりなのだ。

原作は名スパイ小説家ロバート・ラドラム原作の『オスターマンの週末』。
サム・ペキンパーの監督作品なので、さぞかし激しいバイオレンス映画なのかと勝手に想像していたのですが、
肝心かなめの本編はどこか間延びしたような内容で、所々にガン・アクションはあるものの、どこか物足りない。

サム・ペキンパーお得意のスローモーションを駆使したカー・チェイスやアクション・シーンがありますが、
本作ではそこまで効果的な編集とも思えず、さすがにサム・ペキンパーもマンネリが隠せなかったのかもしれない。

映画は、ルトガー・ハウアー演じる報道番組のキャスターを務めるタナーを主人公として、
タナーの友人であり、CIAからソ連のスパイとして疑われているタナーの友人で放送作家のオスターマンを中心に、
医師のリチャード、サラリーマンのジョセフと彼らの妻を自宅に招き、週末を過ごすことに目を付けた、
CIA捜査官のファセットがタナーに接触し、オスターマンらを徹底して監視し、スパイである容疑を確定させることに
協力させられるのですが、実はファセットには恋人を殺された過去があり、復讐を計画していた・・・という物語。

今は亡きルトガー・ハウアーが珍しく家族を守る好漢を演じているのですが、
彼の実質的相手役となるCIA捜査官のファセットを演じたジョン・ハートが、映画の冒頭からあまりに怪しい(笑)。

ファセット率いる特別チームは、徹底してOA機器を使いこなして、タナーの家に監視カメラを設置し、
自分は家の近くに止めた車の中で、遠隔操作するようにタナーに次から次へと指示を出して操ろうとします。
このファセットが仕掛けた監視カメラに映る、個々それぞれの映像がひたすら痴話ゲンカを映しているような感じで、
いつものサム・ペキンパーの監督作品の調子とは、大きく異なるのが特徴ですが、なんかシックリ来ないですね。

また、「そんなにタイミング良く、切り替えられるのかよ!」とツッコミの一つでも入れたくなるくらい、
ファセットが縦横無尽に監視カメラを駆使してタナーを支配して、自分の思いの通りに動かそうとするのが妙で、
情報システムが発達した現代でも、なかなかこうは上手くいかないというこもやってのけるので、違和感があったなぁ。

ロバート・ラドラムの原作は読んでいないので、実際のところはどうなのか分かりませんが、
確かに煽って、煽ってお互いに裏切りを疑わざるをえない状況に追い込んで、仲間割れを誘発するという
発想自体は面白んだけど、スリラーとしては今一つゾクゾクするようなものが無いような気がして、どうも気になる。

そう、オスターマンはじめとしてタナーの仲間たちは、お互いに疑念の目を向けざるをえなくなって、
勝手に混乱して自滅していくのですが、その中でもオスターマンがやたらと強いのも、なんだか観ていて違和感。
色々な人物背景があるのだろうけど、何故か武道の達人でほとんどプロの殺し屋のレヴェルで強過ぎる(笑)。
思わず、「こんな放送作家いるわけないだろ!」と、またまたツッコミの一つでも入れたくなるような違和感だ。

劇中、“オメガ”という謎の組織が登場してくるのですが、
これはファセットが妻の暗殺に際して調べていたら、行き当たった謎の組織という設定なのですが、
これがまるで実態のよく分からない組織なので、詳しいことは全く描かれないのですが、タナーの家に招かれた
連中にとっては触れられたくないキーワードだったらしく、彼らが遊んでいた過去のビデオを観ていたところ、
映像の最後に“オメガ”というロゴを登場させるという瞬間に、オスターマンらは大きく動揺するのは、完全にコメディ。
オスターマンにいたっては真面目な顔で、「この映像を誰が作成したんだ?」とタナーを問い詰めたら、
ロゴが突然登場することを予想していなかったタナーは「外部の現像所に作らせたんだ」と咄嗟に言い訳する。

この一連のシーンにいたっては、もはやコメディで作り手がどこまで真面目なのか、よく分からない。
この不自然な演出を観ていると、サム・ペキンパーはホントにコメディ映画を作りたかったのではないかと、
僕は勝手な心配をしてしまうのですが、映画もすぐに終盤に入って、一気にアクション映画に転じてしまいます。

正直言って、色々と破綻している映画なので、細かなところは辻褄が合っていない気もするし、
オスターマンはじめキャラクター設定や描き方に問題がある気もするのですが、色々と迷いがあったのかもしれない。

この映画を観ていて思い出したのは、76年にシドニー・ルメットが撮った『ネットワーク』。
映画の切り口は全く異なるし、ショーアップ化されたメディアをシニカルに描いた『ネットワーク』とはまるで違うけど、
本作でやたらと監視カメラやテレビを意識的に描くのは、サム・ペキンパーなりに当時のテレビが持つ力が
更に強くなっていくことを見据えて、このような内容の映画を撮りたかったのではないかと邪推してしまうところはある。

テレビに映ってタナーに指示するファセットが、オスターマンらに気付かれそうになり、
アドリブでテレビキャスターに成り済まして、どうでもいいような細かい気象情報をクドクドとナレーションするのも
ほとんどギャグなんだけど、僕には敢えてこういうカメラが絡む変なシーンを撮ったように見えてならなかった。
それらが意図するものは、サム・ペキンパーなりにテレビの影響力をスリラーに反映したかったのではないだろうか。

悪どい合衆国政府の長官を演じた名優バート・ランカスターは、登場時間が短く、正直あまり目立たない。
この辺もロバート・ラドラムの原作ではどうだったのかが、気になるところで、僕はもっと描いて欲しかったなぁ。
結局、タナーにしてもファセットにしても、この長官の存在が彼らの行動の起点になっているわけですからね。

クライマックスに待ち構える、タナーが当初、ファセットに要求していた長官のテレビ出演もほとんどギャグ。
あんなに分かり易く自白して開き直るCIA長官がいるという時点で変だけど、あまりの呆気なさが逆に印象的だ。

妙に80年代の空気感を出したような、アダルト・オリエンテッドなラロ・シフリンの音楽も妙に都会的。
確かにこの曲はテレビ局を舞台にした物語を飾るのに相応しい雰囲気ですが、そこにサム・ペキンパーお得意の
バイオレンスが絡んでくるので、なんだかチグハグな感じで映画全体として上手く絡み合っていないような印象だ。

ただ...ここからは完全に個人的な嗜好というだけですが・・・
それでも僕はサム・ペキンパーの映画は好きなものもあるし、70年代後半から急激に衰えたという印象の中で
彼が本作で描きたかったことの真の部分が捉え切れず、なんだか悔しい。出来もそこまで良いとは思えないし、
そんなこんなで印象も良くない作品ではあるのですが、全否定はしたくない、なんだか気になる映画ではあるのです。

この随所に出てくる、トンチンカンな演出をワザとやっていたのであれば、それはそれでスゴいと思う。

そもそもサム・ペキンパーって、スパイを描いた映画って珍しいし、
中年を迎えつつあるオッサンをカッコ良く撮った映画という感じでもない。つまり、新たなアプローチを見せたのである。
当時は既にサム・パキンパーはアルコールと薬物にまみれた状態で健康状態はかなり悪かったらしいですが、
遺作にして、この旺盛なチャレンジ精神はスゴいし、軌道修正できる環境さえあれば、もっと映画は良くなっただろう。

どちらかと言えば、サイコ・サスペンスに近いジャンルの映画に該当すると思うのですが、
タナーの邸宅を舞台にして、ファセットが率いるチームが襲撃してくるシーンは突然、話しが大きくなります。
あんな派手に行動したら、さすがに証拠残りまくりでファセットが用意周到に準備してきた意味がないと思いますが、
タナーの妻もボーガンで応戦するなど、ただ逃げ回るだけでなく、何故か闘いに加わるのが結構なギャグですね。

しかも、最終的にはファセットがタナーの妻子を人質にとって、
タナーに長官へのインタビューを放送させようとしますが、「それなら最初っから、こうすればいいのに・・・」と思える。

そういうツッコミどころ満載ではあるのですが、サム・ペキンパー好きなら観ておきたい遺作だ。
逆に言えば、こういう仰々しい表現を好きになれない人には向かない作品なので、賛否が大きく分かれるだろう。

(上映時間102分)

私の採点★★★★★☆☆☆☆☆〜5点

監督 サム・ペキンパー
製作 ピーター・S・デービス
   ウィリアム・N・パンザー
原作 ロバート・ラドラム
脚本 アラン・シャープ
   イアン・マスターズ
撮影 ジョン・コキロン
美術 ロブ・ウィルソン・キング
編集 エドワード・M・エイブロムス
   デビッド・ローリンズ
音楽 ラロ・シフリン
出演 ルトガー・ハウアー
   ジョン・ハート
   デニス・ホッパー
   クレイグ・T・ネルソン
   バート・ランカスター
   メグ・フォスター
   クリス・サランドン
   キャシー・イエーツ
   ヘレン・シェイバー
   サンディ・マクピーク
   クリストファー・スター
   シェリル・カーター