オーメン(1976年アメリカ)

The Omen

これは70年代に流行したホラー映画の中でも金字塔的作品と言っていいでしょうね。

後にアクション映画を中心に活躍することになるリチャード・ドナーの出世作でもあって、
いわゆる“悪魔の子ダミアン”というキャラクターを超有名にした「666(悪魔の番号)」によって呪われた、
アメリカ人のイギリス大使の悲劇を描いたホラー映画。これは映画史に残る傑作と言ってもいい作品だと思います。

そりゃ、世間は73年の『エクソシスト』にビックリさせられたわけですけど、本作は一つの完成形だろう。
まぁ・・・例によって本作の後に何本か続編が作られたのですが、それは僕はまた別物と考えていて・・・(笑)、
これは単独の映画として考えたい(...都合いいけどね)。ラストシーンのダミアンの表情で、映画は一旦完結です。

宗教的にはタブーに迫った部分もあったのだろうとは思いますが、正直あまり詳しいことは分からないので、
それでもダミアンの出生に関わる野犬から生まれたという驚愕の事実から、不穏で気味の悪い話しではありますが、
映像表現としても夜になって墓場を訪れたら、野犬に囲まれて襲われて噛まれまくったり、首チョンパがあったり、
残酷描写も工夫を凝らして数多く見せているおかげもあって、とにかくショッキングな映画と言っていいでしょう。

それらを装飾するかのように、ジェリー・ゴールドスミスが作曲した音楽の数々も不気味さMAXで映画を盛り上げる。

どうでもいい話しではありますが...さすがにあれだけの野犬に囲まれたら恐怖でしかないと思いますが、
噛まれまくって命からがら、なんとか墓地の敷地外に逃げ出しますが、血だらけになりながら生きていたこと自体、
奇跡的としか言いようがないと思います。それにしても、あんだけ噛まれたら狂犬病が心配になりますよね・・・。
現代でも海外で野犬に噛まれるとヤバい、と言われていますから。狂犬病ウイルスは、最強なウイルスに感じます。

グレゴリー・ペック、実は本作の後に出演した78年の『ブラジルから来た少年』でも、
犬に食い殺されるという悲惨な最期を演じていて、何気に犬に酷い目に遭わされるのが目立ちますね(苦笑)。

おそらく本作は結構な低予算映画だったのではないかと思いますが、作り手もできる限りの工夫をしている。
本作はそういった功績が大きかったのではないかと思います。いや、これはリチャード・ドナーはたいしたものですよ。

焦点となるダミアン自身はあまり多く直接的に何かをやるというわけではない。ただ、時折、不気味にニヤけます。
強いて言えば、母親の転落事故に直接関与した描写はありますけど、それ以外は何か支配者のように“操作”する。
それは利用できるものは利用する、という感じではありますが、超常現象まで味方につけるのですから万能な存在だ。

子役のハーベイ・スティーブンスがどこまで計算された芝居をしたのかは分からないけど、
可愛らしい幼児のあどけなさを見せながらも、時に大人に対しても牙を向けるかのような邪悪な微笑みにすら感じる。
この作品での彼の表現は奇跡的でもあって、本作の恐怖を増長させるのにベスト・マッチングだったと思いますね。
実際、僕も本作は何度観てもどこか居心地の悪さがあるというか、シンプルに怖いですもん。映画の雰囲気自体が。

でも、その全編を支配する雰囲気は誰が作っているのかと言うと、やっぱりダミアンだと思うんですよね。
これは成長するダミアンを描いた続編からは、徐々に恐怖が薄らいでいってしまうので、本作が秀でていたと思う。

デビッド・ワーナー演じる記者が撮影した写真に、被写体の人物の未来を予知するような像が映っていて、
神父にしても記者自身にしても、首を貫くような線が入っていて、それを気味悪がって記者がダミアンの謎について
しつこく取材してくるのですが、これが見事に伏線になっている。この展開はベタですけど、なかなか面白かった。
ナンダカンダ言って、この映画最大のハイライトは前述した首チョンパだと思ってるので、ここは大事なところでした。

そこまで莫大な予算があったわけではなく、時代性を考えてもショッキングな演出をするにも限界があったと
思いますけど、撮り方とタイミングの上手さでショック描写を最大限のインパクトになるように工夫しているのが分かる。
この辺はリチャード・ドナーの力量を象徴していたと思っていて、個人的には本作はスゴく勉強になるなぁと感心した。
これはリー・レミックが転落するシーンにもよく表れていて、本作はありとあらゆる工夫の塊とも言えるお手本ですね。

映画はいきなりグレゴリー・ペック演じる外交官が病院で死産を告げられるシーンから始まって、
少々分かりづらい出だしではあるのですが、いくら死産した事実が悲しいからと言って、それが数人の話し合いで
勝手に隠ぺいされて、実子ではない子をあたかも実子であるように対面させられるという始まりが結構なホラーだ。

これには主人公も承知しているという設定ですが、さすがにこれは親として受け入れ難いとは思うけど、
待望の子どもだったということと、死産したということでショックを受けるのが明白だったので決断したのでしょう。
それでも...やっぱりこれは父親という立場であっても、こんな決断をできるのかな?とは疑問には思ったけど、
それがある種の“罪”であったのか、結果的に悪魔の子ダミアンが家にやって来るという、なんとも残酷な始まりだ。

事実を知っている主人公にはそれなりの後ろめたさがあったのでしょうけど、妻からしてもストレスがあるのか、
徐々に妻のフラストレーションは明確なものになっていき、精神を病んでしまったと自覚するようにまでなってしまう。
この頃にはダミアンも幼児期に差し掛かり、徐々に邪悪な表情を見せ始めるという展開から、ダミアンは牙を剥きます。

本作は『エクソシスト』のように超常現象をドラスティックに描くタイプの映画というわけではありませんが、
それでも冷静に考えると、荒唐無稽な物語であるにも関わらず、映画全体を徹底した統一感で覆いつくした結果、
強い一貫性のある目に見えない魔力が支配するような映画に仕上げることに成功し、映画史に残る作品にまでなった。

後年のリチャード・ドナーはエンターテイメント性高いアクションを中心に活躍していたので、
本作のような異様な雰囲気の映画には少々違和感あるかもしれませんが、本作はホントに良く出来ていると思います。

最初にダミアンが牙を剥く、ダミアンの家政婦がホーム・パーティーで衝動的にやらかすシーンにしても、
今見るとベタな手法ではありますけど、出来る限りの工夫を凝らして最上のショックを与えられるようにしていますね。
とは言え、本作のリチャード・ドナーはアップカットやカット割りを多用せずに、実に上手い具合に描いています。
やっぱり、『エクソシスト』も似たものがありましたが、制約ある中で最大限の効果を得るために工夫しているのが良い。

そういう意味では、編集がスゴく良いと思うのですが本作の時点でスチュアート・ベアードが加わっていたのですね。
『リーサル・ウェポン』などの編集も担当していて、90年代まではリチャード・ドナーの作品の編集は担当してました。
ただ、96年に『エグゼクティブ・デシジョン』で監督にチャレンジしたあたりから、起用されなくなりましたが・・・。

なんとも酷な展開になるのは、主人公がダミアンの正体を悟り、嫌がるダミアンを力づくで教会に連れていき、
ダミアンを押さえつけて刃物で刺そうとする、あまりに残酷なことをすると決意したクライマックスですね。
主人公は外交官であり、極めて常識的な人間である。ダミアンを可愛がり愛していたが、色々な事実を重ねることで
ダミアンの暴かれた正体を悟り、これ以上の惨劇を呼びこまないためにと、“ブーゲンハイゲン”から教えてもらった
殺害方法でダミアンの息の根を止めようとするのです。でも、何を言われても、躊躇するなってのも無理ですよね・・・。

それが、ダミアンを刺そうとする主人公の姿が常軌を逸しているように見えてしまう皮肉。
この辺のなんともやるせない...それでいてハラハラ・ドキドキさせられる構図を作り出したのも素晴らしいですね。

まぁ、可愛らしいダミアンの笑みも十分に怖いですけど、ダミアンの乳母を名乗り出てくる女性がホラー過ぎる(笑)。
事前通告なしに一方的にやって来た乳母を受け入れる主人公夫妻にも問題がなくはないけど、あれだけ強引に来て、
実はダミアンを見守る役割なんて怖すぎる。しかも、自己主張強めな感じで“押し”も強い。主人公夫婦も負けてしまう。

如何にも怪しげな雰囲気バリバリなんで、「なんで、こんなのを家に入れちゃうんだろ?」と簡単に思っちゃいますが、
それくらい思いっ切りなキャラクターがいた方が映画は盛り上がりますからね。まぁ、もっと暴れて欲しかったけど。。。

いずれにしても、70年代のオカルトなホラー映画ブームの決定版と言ってもいい名作だと思います。
続編は続編で好きな人もいるでしょうが、仮に続編が作られていなくとも本作は十分に傑作と言っていいと思う。
『エクソシスト』のように神父がメインで出てくるような感じではないけど、これはこれで宗教色は強い内容ですね。
キリスト教徒の方々からすると、更に得体の知れない恐怖という感じで、異様に映るのかもしれないですね。

しっかし、仮にダミアンが可哀想な境遇で生まれたと知っていて、病院で聞いたダミアンの実の母親の墓地へ行き、
実際に墓の中の棺を開ける勇気もスゴいが、棺の中を知った時の愕然とする感覚はあまりに強烈でスゴいですね。
自分が主人公の立場なら、あの瞬間にブチ切れてしまって何もかもがどうでもよくなってしまうかもしれないです・・・。

(上映時間111分)

私の採点★★★★★★★★★★〜10点

監督 リチャード・ドナー
製作 ハーベイ・バーンハード
脚本 デビッド・セルツァー
撮影 ギルバート・テイラー
美術 カーメン・ディロン
編集 スチュアート・ベアード
音楽 ジェリー・ゴールドスミス
出演 グレゴリー・ペック
   リー・レミック
   デビッド・ワーナー
   ハーベイ・スティーブンス
   ビリー・ホワイトロー
   ホリー・パランス
   レオ・マッカーン

1976年度アカデミー作曲賞(ジェリー・ゴールドスミス) 受賞
1976年度アカデミー歌曲賞(ジェリー・ゴールドスミス) ノミネート