地球最後の男 オメガマン(1971年アメリカ)

The Omega Man

07年に『アイ・アム・レジェンド』でリメークされた、
リチャード・マシスン原作の近未来SF小説の2度目の映画化で、これはかなりカルトな一本だ。

68年に『猿の惑星』がヒットしたことに味をしめてか、
当時のチャールトン・ヘストンは本作をはじめとして、何本かのカルトSF映画に必死になって出演している。
その中でも本作は彼が映画会社に2度目の映画化を直訴したらしく、かなりの熱の入れようだったそうだ。

『アイ・アム・レジェンド』も劇場公開当時、かなり賛否両論でしたが、
そもそも映画化するほどの価値のある作品かという点で、僕は甚だ疑問でした。
だって、本作の時点で大きくリメークに失敗しているから、3度目も火を見るより明らかだったからです。

いくら今から40年近く前の映画とは言え、
幾多のSF小説が映画化されていた時代であり、ハリウッドのプロダクションにもそれなりの資金力がありました。
そうであるにも関わらず、このあまりに度を越したチープ過ぎる映画の出来には開いた口が塞がらない。。。

良い点を挙げれば、確かに映画の冒頭約15分にわたって映し出される、
無人のニューヨーク市街地を再現した屋外撮影は素晴らしいスケールで、驚かされることは間違いない。

しかし、謎の伝染病がまん延し、ゾンビ化した人々が唯一、
開発中のワクチンを注射してウィルス感染を防いだ主人公のネビルに襲いかかり始めると、
映画はアッという間にガタガタと音を立てて崩れて始めてしまう。それも一気に映画が安っぽくなるから驚きだ。

それなりに資金を投入して製作された映画でしょうから、そんなことはないと思いますが...
僕にはどうしても映画の作り手が、本作をマジメに撮ったのか、それともふざけて撮ったのか、よく分かりません。

映画の冒頭で無人のニューヨーク市街地を車で走るネビルは雑居ビルのフロアーをうろつく、
ゾンビの影が見えたのでビルの窓を銃撃するシーンで、何故か早送りの編集が使われる。
いくらスピーディな映像で見せたかったからとは言え、いくらなんでもこの適当な編集はないだろう(笑)。

それだけではなく、帰宅したネビルを待ち構える“黒装束”のゾンビたちの芝居は
まるで学芸会の「その他大勢」のような動きしかしないし、ネビルが襲われているというのに、
何故か映像のバックではヒーロー戦隊もので流れそうな派手な音楽が使われ、雰囲気をブチ壊す。
更にマンションの部屋にいるネビルを襲うため、ゾンビたちは“火の玉”を打ち込むのですが、
あまりに無力な攻撃のため、マネキンとチェスしながら晩酌をするネビルは暇を見て、
銃撃で応戦する程度の反撃。僕はこんな緊張感のない映画を、初めて観ましたね(苦笑)。

そして何故、ゾンビたちが無力な攻撃をしないかって、
銃のような文明の利器を否定したいがために、そのポリシーを守ってネビルを駆逐しようという主張。

まぁ小説としてなら分かりますがねぇ。
そういった哲学的なセオリーは明らかに映画の構成上、映画の面白さを引き出すことを阻害している。
こういうのを観ちゃうと、僕にはどうしても本作が真剣に撮られたものとは思えない。。。

それと回想シーンもなんだかウザったいのですが、
いくらなんでもネビルが乗っていたヘリコプターが思いっきり平地に墜落しているのですが、
その墜落現場で血だらけになりながら、アタッシュ・ケースに入っていたワクチンを注射したという設定は、
いくらなんでも無理があるだろう(笑)。オマケにワクチンが注射しながら注射箇所から漏れてるし(笑)。

適当なカット、無理な設定、陳腐な台詞と...チョットこの辺は良いところが見当たらない苦しさ。

そして映画の中盤で出会った、感染を免れた黒人女性リサとのロマンスにも
まるで説得力がなく、何故、2人が恋に落ちるのかが、まるでよく分からない。
これはチャールトン・ヘストンが「どうしても演じたい!」と懇願したに違いない!(←これは根拠ありません)

おそらく今まで観た映画の中で、僕の中では本作が一番、チープという感覚を適確に表現していると思う。
ですから、70年代に大流行したカルトSF映画マニアは絶対、外せない一本であることは間違いないでしょう。

但し、強いて言えばクライマックスに何もかも開き直ったかのようなカタルシスを感じさせる爽快感は良い。
マサイアスとかいう“黒装束”集団のボスがどうなったのかも曖昧なまま映画は終わりますが、
なんせ映画の作り手がまるで「終わり良ければ、全て良し!」と言い切るかのように
スパッと思い切って映画を終わらせますから、これはこれで作り手の開き直りが気持ち良いぐらいだ。

原作ではどうなっているのかは知りませんが、
まるで全てを放棄したかのようなこのエンディングは、映画がハッピーエンドなのかそうではないのか、
判断に困る終わり方なんですよね。まぁ基本的には血清が救われたから、ハッピーエンドなのだろうけど。。。

チャールトン・ヘストンがやたらと上半身、裸になりますので、画面いっぱいが随分と男臭いです(笑)。
一体、彼はこの映画を通して何を主張したかったのか、僕にはよく分かりませんが、これも大きな特徴です。

まぁ『アイ・アム・レジェンド』を観て、気に入った人は観てみてもいいかもしれませんね。
(後悔しても僕は責任を持てませんが・・・)

(上映時間97分)

私の採点★★★☆☆☆☆☆☆☆〜3点

監督 ボリス・セイガル
製作 ウォルター・セルツァー
原作 リチャード・マシスン
脚本 ラッセル・メティ
音楽 ロン・グレイナー
出演 チャールトン・ヘストン
    ロザリンド・キャッシュ
    アンソニー・ザーブ
    ポール・コスロ
    リンカーン・キルパトリック
    エリック・ラニューヴィル
    ジル・ジラルディ