ナッティ・プロフェッサー/クランプ教授の場合(1996年アメリカ)

The Nutty Professor

エディ・マーフィがひたすら一人芝居に徹して、
リック・ベイカーによる特殊メイクを駆使して、派手な映像効果も用いて話題となったSFコメディ。

まぁ日本でも、そこそこヒットしたように記憶しているのですが、
正直言って、こういうギャグの連続は観る人を映画から選んでしまうタイプでしょうね。

監督のトム・シャドヤックは後に『ライアー ライアー』などを撮って、
ハリウッドでヒットメーカーの一人として活躍しますが、94年の『エース・ベンチュラ』のヒットを受けて、
本作のような莫大な予算を投じた企画を任せられていますから、本作での成功はとても大きかったですね。
おそらく本作でメガホンを取るにあたって、大きなプレッシャーだったであろうと思うのですが、
エディ・マーフィの独壇場とも言えるギャグの連続に助けられて、猛烈な勢いのある作品に仕上がっています。

元々、本作は62年に製作されたジェリー・ルイス主演の『底抜け大学教授』のリメークなのですが、
中身的にはもはや“底抜けシリーズ”の雰囲気はなく、ほぼ新たな映画に生まれ変わっています。

相変わらず、“あれもこれもエディ・マーフィ”状態で、
主人公のクランプ教授の家族を、大半がエディ・マーフィ一人で演じており、
アカデミー賞を受賞したリック・ベイカーの特殊メイクの貢献もかなりデカかった作品ですね。

このクランプ教授の家族で晩餐を行うシーンが2回ほどあるのですが、
これがまたオナラでやたらと遊んだりするものだから、エディ・マーフィの悪ふざけが大暴走。
おそらく、ただオナラをするだけで笑えるかどうかが、このギャグに理解できるかが決まってしまい、
この手のギャグが横行する映画なだけに、これが本作を楽しめるか否かを決めてしまいますね。

映画は、とある大学で遺伝子工学を研究しているクランプ教授が、
ラットを使った動物実験で、肥満を司る遺伝子に何らかの影響を与える新薬を開発し、
自分自身が肥満であることがコンプレックスに抱いていたクランプ教授自ら実験台となり、
新薬のヒト介入試験を敢行するも、過剰なまでの男性ホルモンが分泌される影響で、
クランプ教授とは全く別人格で、痩せた体型のイケメン、バディ・ラヴに変身して好き放題やられ、
クランプ教授が恋した同僚の教員である女性までもが、バディ・ラヴに奪われようとする姿を描きます。

まぁ・・・ひたすら下品なギャグが連続するだけでなく、
特殊メイクを施していないエディ・マーフィが演じる、イケメンのバディ・ラヴという新しい人格の男が、
誰もが羨むイケメンと思えるかどうも、この映画の印象を決定づける要素の一つであり、
彼が行くところ、やたらと美女がついて回るという設定が、チョット嘘クサく見えるかも(笑)。

実際、この映画に於けるギャグの見せ方があまりに工夫が無いためか、
一回ポッキリの鑑賞なら楽しめるかもしれませんが、複数回の鑑賞に堪えるものかは疑問ですね。
そういう意味では、エディ・マーフィの独演とリック・ベイカーの特殊メイクへの依存が強い映画です。

とは言え、とてつもなく、どうしようも映画ではありますが(笑)、
個人的にはクランプ教授が夢の中で、体がやたらと巨大化してしまい、
街を破壊しながら歩いていき、オナラをぶっ放して、タバコを吸おうとしていた老人を
派手なアクション映画の1シーンばりに、警察官が「やめろォー!!」と叫ぶシーンには笑わせてもらった。
スローモーションで映像加工して、無駄に派手に見せようということ自体がギャグみたいなもんで、
この辺は『エース・ベンチュラ』を撮ったトム・シャドヤックらしいと言えば、彼らしい演出だ。

トム・シャドヤックは彼なりに頑張った部分はあるとは思う。
但し、とても残念なのはエディ・マーフィに頼り過ぎている点で、絶妙なキャスティングがあったとしても、
何かしらトム・シャドヤックの演出の個性を、もっと強調する仕上がりになっていた方が良かったと思う。
そういう意味では、反省点の多い作品であり、おそらくトム・シャドヤックにとっても良い経験になったことでしょう。
(繰り返しになるが、本作以降のトム・シャドヤックはそこそこ頑張っているとは思うから・・・)

まぁ現実的には既に生まれてしまった人が、遺伝子工学の技術を使って、
自分の細胞が持った運命を変えるなんてことは現実化が不可能に近いだろうと思うけど、
それに近い技術開発は今後行われる可能性があり、肥満もひょっとしたら医療技術の進歩により、
飛躍的な進化を遂げ、今日よりも大きく改善が進む可能性は秘めていると思いますね。

ただ、この映画で描かれた問題として、
体型にしても人それぞれだとは思うのですが、健康を害するレベルの肥満は問題とは言え、
極度に肥満を卑下するような風潮を助長して欲しくはないですね。本作のような発想が出るのは、
如何にも肥満が社会問題の一つとして取り扱われるアメリカらしいなぁ〜と、しみじみと思ってしまいます。

エディ・マーフィの悪ふざけをメインとしたコメディ映画も、
かつて日本でもヒットするなど、彼のネームバリューも凄かったもんですが、
不思議と21世紀に入ると淘汰されたかのように、彼の出演作に対する注目度は下がってしまい、
ヒット作にも恵まれなくなってしまいます。06年の『ドリームガールズ』で少しだけ注目されますが、
最近は再び低迷期に入ってしまったようで、すっかり“過去の人”みたいな扱いになってしまいましたね。

そういう意味では、本作はエディ・マーフィのコメディアンとしての勢いを象徴する作品と言っていいでしょうね。

まぁ・・・逆に言えば、本作を観る限り、
エディ・マーフィは時代の変化や、自身のギャグ・スタイルのマンネリ化に対応できなかったように思いますね。
もっと早い段階から、『ドリームガールズ』のような路線も見せておけば、彼の役者としての地位は向上したはず。

そう思って観れば、この映画は21世紀に入ってからのエディ・マーフィの低迷を
示唆していたと言っても過言ではないような気がしますね。間違いなく、その兆候は出ていたと思います。

最後に、この映画で僅かながらも在りし日のジェームズ・コバーンが拝めます。
研究に対して、莫大な投資を行う実業家の役柄で、ハッキリ言って、彼でなくともいいような役柄なのですが、
90年代はジェームズ・コバーンが元気そうに映画に出演していたことが少なかったため、これは貴重な姿です。

(上映時間96分)

私の採点★★★★★☆☆☆☆☆〜5点

監督 トム・シャドヤック
製作 ブライアン・グレイザー
    ラッセル・シモンズ
原案 ジェリー・ルイス
    ビル・リッチモンド
脚本 デビッド・シェフィールド
    バリー・W・ブラウスタイン
    トム・シャドヤック
    スティーブ・オーデカーク
撮影 ジュリオ・マカット
音楽 デビッド・ニューマン
出演 エディ・マーフィ
    ジェイダ・ピンケット=スミス
    ジェームズ・コバーン
    ラリー・ミラー
    デイブ・チャペル
    ジョン・アレス

1996年度アカデミーメイクアップ賞 受賞
1996年度イギリス・アカデミー賞メイクアップ&ヘアー賞 受賞
1996年度全米映画批評家協会賞主演男優賞(エディ・マーフィ) 受賞