2番目に幸せなこと(2000年アメリカ)

The Next Best Thing

『真夜中のカーボーイ』、『イナゴの日』、『マラソン マン』と
立て続けにアメリカン・ニューシネマを象徴するセンセーショナルな作品を世に送り出し続けた、
名匠ジョン・シュレシンジャーの監督作品ですが、奇しくも本作が遺作となってしまいました。

本作のヒロインはマドンナが抜擢されており、
一見すると感動作みたいな扱いを受けておりますが、これは実に複雑なテーマを内包した作品で、
劇場公開当時、全米でもそこそこヒットしていたように記憶しているのですが、
未だになんでマドンナが本作に出演して、商業的にそれなりにヒットしていたのか、よく分からない(苦笑)。
(でも、マドンナの出演料が高騰していたためか、結果的には赤字となってしまいましたが・・・)

まぁラジー賞に大量ノミネートされたり、マドンナ出演作ということもあってか、
酷評されやすい対象になってしまいましたが、さすがにジョン・シュレシンジャーの映画は個性的ですね。

マドンナが何故に本作への出演を決断したのか、前述したようによく分からないのですが、
これはとてもシリアスなテーマに言及しており、結論を出しにくい方向へ行ってしまった感があります。

映画としては、マドンナ演じるヒロインがあまりに自分勝手なキャラクターに
映ってしまったこと自体、この映画の作り手の大きな落ち度であると言わざるをえない。
この映画の、ある意味で不毛な争いの背景として、こういう自分勝手な部分は悪印象でしかなく、
特に本作の場合は、ヒロインとルパート・エベレット演じる父親を対等に描くべきなのに、
観ていても観客が感情的な部分で、どうしてもヒロインに同情し難い“壁”を作っているのが残念でなりません。

多様な現代社会であるがゆえ、現実に本作で描かれた問題が発生しそうなだけに、
本作の着眼点は僕はとても良いものだと思っているのですが、そうなだけに実に勿体ない。

映画は40歳を目前にしたヒロインが、いつも恋人と上手くいかず、
結婚を前にして破局を迎えてしまうことに悩み、親友であるゲイのロバートに色々と相談していたところ、
酔った勢いでロバートと一夜を共にした後に、ヒロインであるアビーの妊娠が発覚。
アビーがロバートが父親であると告げると、ロバートも彼女の産みたいという熱意に押され認知。

順調に出産を迎え、サムと名付けられた息子との共同生活を送るも、
アビーとロバートは婚姻関係を結ばず、お互いの恋愛関係にも干渉しない関係を貫いていた。

ところが、アビーが理想的な男性と出会い、その男性が事業拡大でニューヨークへ転居せねばならず、
アビーがサムを連れて彼に付いていく希望を伝えると、それまで完璧な父親を務めてきたロバートは
勝手に息子を連れて家を出たアビーの態度に激怒し、共同親権を求めて裁判に出ます・・・。

この映画は感動作としての触れ込みが強かったように思いますが、
僕の中では感動作というより、一つの問題提起がある社会性の強い映画というイメージですね。
さすがに裁判の過程でロバートがとる行動なんかを観ていると、いろいろと考えさせられます。

この映画の致命的なミステイクと思われる箇所は、ラストシーンのあり方ですね。

見方によれば、これで良かったとも解釈できるのですが、
やはりジックリ考えれば考えるほど、この中途半端なラストは映画の価値を損ねている。
個人的には、「よりによって、こんな終わり方はないだろ...」とジョン・シュレシンジャーに言いたくなった(笑)。

結局、この映画は誰が正しくて、誰が間違っているとかは、どうでもいい映画だ。
おそらくジョン・シュレシンジャーも、映画の中で敢えて結論を出さずに、観客に考えさせる目的があったのだろう。
しかし、それにしてもえらく中途半端な映画だ。アビーとロバートとサムの親子間では、もっとハッキリして欲しい。
さすがにこれでは、何もかもがとっ散らかったままで終わってしまう印象で、何一つ解決できていない。

この映画の大きな役目として、アビーとロバートのような共同生活に於ける、
親権とはどうあるべきかを、もう少し明確に示唆する内容であって欲しかったですね。

この辺はジョン・シュレシンジャーの判断があったはずなのですが、キッチリやって欲しかったなぁ。
ロバートを演じたルパート・エベレットがベスト・キャストだっただけに、こういう結果になってしまうのは勿体ない。
果敢にヒロインに挑戦した、マドンナの芝居自体もそこまで悪くなく、映画の序盤で歌姫であるはずの彼女が、
加齢現象を象徴させるような表情を見せ、高齢出産を意識させる役柄を演じたこと自体、奇跡的だと思う。
(ちなみにルパート・エベレットは、実生活でもゲイであることを、既にカミングアウトしている)

しかし、この映画で描かれたことはホントに大きな問題だと思う。
あくまでカリフォルニア州の法律に則れば、映画で描かれた通りなのだろうけど、
息子が6歳になるまで、母親から実の父親だと言われて、6年間養ってきて、諸事情から親権が無いと通告され、
愛する息子が近くからいなくなってしまうというのは、心情的にはなかなか納得できない部分があるなぁ。

だからと言って、手段を選ばないロバートの行動も賛否両論でしょうが、
多くの観客はロバートの置かれた複雑な状況に、かなり同情的に観てしまうでしょうね。

この映画はもっとアビーとロバートを対等に描けていたら、
映画が本来、訴求しなければならなかった社会的なテーマに肉薄できたであろうし、
この内容であれば、新たな家族形態が生む社会の問題点として、訴求する内容であるべきだったと思う。

ゲイであることを含め、ロバートが実の父親として、とても厳しい状況にあることを
強いメッセージとして描きたいのであれば、いっそのこと中途半端なラストシーンは必要なかった。
この辺がジョン・シュレシンジャーの感覚が、微妙に狂っていたことを象徴していると思うんですよね。

おそらくジョン・シュレシンジャーは、かねてよりゲイの日常をテーマに
創作活動を続けてきた映像作家なだけに、彼は現代社会に於いて新たに発生しうる、
ゲイの抱える社会問題、そして法律の盲点を静かに訴えたかったのだろうと思うのですが、
これではさすがに、本作を通して、何を描きたかったのか、よく分からないと言われても仕方ないですね。

ロバートが誘拐でもするのではないかと、あらぬ心配がどうしても拭えない・・・。

(上映時間107分)

私の採点★★★★★☆☆☆☆☆〜5点

監督 ジョン・シュレシンジャー
製作 トム・ローゼンバーグ
    レスリー・ディクソン
    リン・ラドミン
脚本 トーマス・ロペールスキー
撮影 エリオット・デイヴィス
音楽 ガブリエル・ヤーレ
出演 マドンナ
    ルパート・エベレット
    ベンジャミン・ブラッド
    マルコム・スタンプ
    イリアナ・ダグラス
    ニール・パトリック・ハリス
    ジョセフ・ソマー
    リン・レッドグレープ
    ミシェル・ヴァルタン

2000年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト作品賞 ノミネート
2000年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト主演女優賞(マドンナ) 受賞
2000年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト監督賞(ジョン・シュレシンジャー) ノミネート
2000年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト脚本賞(トーマス・ロペールスキー) ノミネート
2000年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト・スクリーン・カップル賞(マドンナ、ルパート・エベレット) ノミネート