ザ・インターネット(1995年アメリカ)

The Net

内容的には、そりゃ古びてしまってはいますけどね...映画としては、そこそこの出来かとは思う。

95年と言えば、マイクロソフト社から“Windows95”なるOSがリリースされた時期で、
日本でも空前のパソコン・ブームが訪れ、オフィスや学校で一気にデジタル化が進展していた時期で、
この頃に一気にワープロなどのロートルなデジタル機器が駆逐されてしまい、デジタル化の波が一気に押し寄せました。

それから約30年経った昨今となっては、パソコンよりもスマホの時代になりましたけど、
今から30年後の世界は、何が主役の時代となっているのか、こういう映画を観ると気になって仕方がないですね。

さすがはアメリカ、本作で登場するパソコンの画面を観るとWindowsじゃなくって、
グラフィックスなどで定評のあるMacの画面で、これもまた懐かしいですね。今、日本ではグラフィックデザインや
学術の分野やゲームやる人ではMac使ってる人いますけど、オフィスでMac使ってる人って、まずいないですからね。

最近でもDX化とか、強く言われていますけど、未だ非デジタルな部分も残っています。
僕はアナログにはアナログの良さもあると思いますけど、やっぱり人手を必要とする作業も多いですからね。
先進国では大なり小なり、少子高齢化が進んでいますからね。DX推進の流れはずっと変わらないでしょうね。

諸般の事情で、まだ使っている人も僅かにいますけど、フロッピーディスクとか懐かしいですね。
ワープロ時代から重要なメディアとして使われていましたけど、21世紀に入ってからパソコンを使い始めた人には
馴染みのないものや、画面構成が出てくるので、この辺は時代によって隔絶された感覚があるのかもしれません。
ただ、描かれている技術水準で映画の価値を決めてしまうと、映画を純粋に評価してることにならないと思うので、
その辺は除いて考えると、昔からある“巻き込まれ型サスペンス”の典型として十分に楽しめる作品だと思います。

監督のアーウィン・ウィンクラーはアメリカン・ニューシネマ期からプロデューサーとして
活動してきたベテランで監督作品も数本ありましたけど、何故にこのような題材の作品を撮ろうとしたのは謎(苦笑)。

ただ、しつこいくらいサスペンス演出を繰り返すあたりは流石の構成力で、
常に監視されたり盗聴されたりしているかもしれない、という緊張感に満ち溢れている感じで悪くない。
現実的には悪党の工作活動がここまで上手く出来るのか、という疑問がなくはないけど、まぁ・・・許容範囲でしょう。

そういう意味では、デジタル・セキュリティのソフトを開発する企業が、
国家機密情報をも操作しようと画策して、万能な情報操作ソフトを開発するという話しは、現実に起こりそうですね。
ナンダカンダで個人情報は既に情報管理されていますし、社会インフラもデジタル依存が進んでいますからね。
その恩恵として、私たちの便利さは向上してますし、情報管理の精度も上がったのでしょうけど、弊害もありますからね。

アーウィン・ウィンクラーもこの辺の危うさに目を付けたのかもしれませんね。当時としては鋭い観点でした。
なので、現代の感覚で観ても、技術的には見劣りする部分があったとしても、テーマとしては共通したものですね。

デジタル技術があらゆる分野で浸透し、もう既に無くてはならない存在になっています。
それゆえ、既に私たちの生活ではデジタル依存が進み、如何に使いこなすかがポイントになりつつあり、
逆に言えば、無くなると大変なことになってしまいます。そうなだけに、ハッキング対策はとても重要になってきます。

興味深いのは、トロイの木馬について語られていることで、30年前には猛威を振るっていたのですね。
僕もそんなに詳しいことは分かりませんが、トロイの木馬はコンピューター・ウイルスとは違って、
いわゆるマルウェアとして、安全なソフトウェアを装って侵入し、勝手に増殖したりはせずに悪さをするようだ。

ヒロインのアンジェラもウイルス・スキャンをして、送られてくるフロッピーに入ったゲームに仕込まれた、
様々なウイルスをチェックしているようですが、90年代半ばにはこういうチェックが当たり前になっていたようです。
なんせ、最初にコンピュータ・ウイルスの存在を確認したのは1971年であり、ウイルス感染しにくいとされていた
Macで発見したのは1982年とのことですので、コンピューターに於けるウイルス対策の歴史は深いのですよね。

最初のウイルスはコンピューターを遠隔で操作したい、という目的で開発され仕込まれたようで、
結局はこの遠隔で操作するとか、遠隔で監視するという役割は現代のウイルスも変わっていないですね。

実際問題としてアンジェラのように、個人情報を次々と書き換えられて、自分に不利な状況に追い込まれ、
更に自分の命を狙われるなんて、絶体絶命な状況に陥ったら、一体どうすればいいのだろうかと考えさせられた。
現代社会は情報が管理されている時代だし、どの業界でも情報がオンラインですぐに拡散できる時代です。
勝手に前科者に書き換えられてしまえば、警察から手配される身になってしまうし、カードも使えなくなって、
現代で言えば、電子決済だって不可能になってしまうことが想定される。やっぱり、情報セキュリティは大事ですね。

でも、本作が目を付けたのは、個人レヴェルの情報セキュリティにも現代があって、
劇中で描かれたように、セキュリティ・ソフトを開発し提供する組織が暴走すれば、何でも可能だということ。
国家レベルでやれば、究極の情報統制が可能になるわけで、某国はこんな状況なのではないかと噂されている。

そりゃ、こうやって包囲網を張り巡らされたら、個人レヴェルでの対処は不可能だし無力ですよね。
90年代半ばという時代性を考慮すると、本作は今になって思えば、かなり先進的なテーマを掲げたと言えると思う。
アーウィン・ウィンクラーは社会派映画も撮る人なので、ひょっとしたら本作もその一環だったのかもしれませんがね。

まぁ、アンジェラがあまりに簡単に素性の分からない男と恋に落ちてしまうのは気になるのですが、
そこから急転直下でドンドン、ドンドンとアンジェラが窮地に追いやられていくサスペンスは悪くない展開ですね。

特にDOSモードからパソコンに慣れ親しんだ人とか、早くからアップルコンピューターを買って
家でいそいそと初期のパソコンに興じていた人とか、OA機器に詳しい人なら、色々と矛盾を感じる内容でしょう。
なかなか難しいかもしれませんが、そこはあくまで映画だから・・・と割り切って観ないと、チョット難しい出来かと。
ただ、この映画に価値があると感じるのは、ファイヤーウォールやウイルスなどのセキュリティを脅かす、
プログラム上の脅威について、映画の中で大々的に取り上げた先見性で、社会派映画としての価値はあると思う。

そのようなテーマの中で、そこそこ緊張感のあるサスペンスを展開しているのだから、
映画の出来としては及第点レヴェル以上と言っていいと思う。ヒロインの売り出し中だったサンドラ・ブロックも悪くない。
ただ、欲を言えば...彼女以外のキャストが全員イマイチな感じで、完全に彼女に負けてしまっているのが残念。

アンジェラが恋する謎の男ジャックを演じたジェレミー・ノーザムなんかは、
結構大事なキャストなんだけど、自分自身でイケメンだみたいなこと言っちゃうけど、少々首を傾げてしまう・・・。

何人かアンジェラに絡んでくるキャラクターはいるのですが、特にこのジャックの描き方はイマイチかな。
しつこいくらい、何度も何度もアンジェラを追ってくる、観客にストレスを与える悪役なのに強そうには見えない。
次々と手を回してアンジェラを社会的に追い込んでいくわけですが、サイレンサーの銃を使って人を殺す残虐さなのに、
いざアンジェラと直接対峙すると、アンジェラが強過ぎるのかジャックが必ず後手に回って、なんだか弱そうに見える。

まぁ、ストーリー上は仕方がない部分もあるとは思うけど、もう少し手強く描いた方が良かったのではないかと思う。
そうじゃないと、せっかく見せ方は悪くないのに、ピンチに陥った時のスリルが今一つ盛り上がらないですよね。
これではあまりに映画として勿体ない。ジャックは知能犯にも見えないし、スゴい組織力ある感じでもないですしね。

個人情報がオンラインで管理される社会を予見し、それが生み出す脅威をサスペンスに転化させた、
作り手の発想は素晴らしく、サスペンス描写も及第点レヴェル以上のものがあるとなれば、もう少し評価されても
良かったと思うし、サンドラ・ブロックを映しただけの映画というわけではなく、中身はしっかりした作品だと思います。

アンジェラのような技術のある人が、ゲームのバグチェックをするということは
90年代にはノーマルなことだったとは思いますが、自宅にそれなりに投資したように見える設備があって、
企業からのバグチェックの仕事を請けていたわけですから、現代のテレワークの先駆者のように見えますね(笑)。

そもそもが在宅勤務自体はアメリカでは、かなり早い段階から実践されていたことのようで、
日本ではコロナ禍で急速に普及しましたが、「業務はほとんどパソコンで完結する」とい働き方をしている人が
現実には多くなっているので、尚更のこと、テレワークでも成り立つのではないかと企業側も判断するに至りました。

まぁ、弊害も無くはないのでしょうが、これからもテレワーカーは増える傾向にあるのでしょうね。

(上映時間114分)

私の採点★★★★★★★★☆☆☆〜7点

監督 アーウィン・ウィンクラー
製作 アーウィン・ウィンクラー
   ロブ・コーワン
脚本 ジョン・ブランカトー
   マイケル・フェリス
撮影 ジャック・N・グリーン
音楽 マーク・アイシャム
出演 サンドラ・ブロック
   ジェレミー・ノーザム
   デニス・ミラー
   ダイアン・ベイカー
   ウェンディ・ガゼル
   ケン・ハワード
   レイ・マッキノン